<日記>
過去の日記(2017年1月〜4月)
未来の日記(2017年9月〜12月)


<8・30>
・「Why did I enter the Art Course?」
 「ご注文はうさぎですか?」「きんいろモザイク」「ステラのまほう」とヒット作の続くきららMAXから、さらなる注目作品として「どうして私が美術科に!?」(相崎うたう)を紹介したいと思います。まだ1巻が出て間もない今のうちにこそおすすめしておきたい。

 「どうして私が美術科に!?」は、タイトルどおり美術科のある高校が舞台のコメディ4コマ。美術部や美術科を舞台にした作品は、これまでもいくつも出ており、きらら4コマでも「ひだまりスケッチ」「GA 芸術科アートデザインクラス」という初期の頃からの名作はよく知られていると思います。この「どうびじゅ」こと「どうして私が美術科に!?」も、まさにそうした作品のひとつとも言えます。が、ちょっと違うのは、主人公の桃音(ももね)が、手違いから高校の美術科に入ってしまい、当初は美術とはまったく縁のなかった生徒であるということ。

 当初は間違えて美術科に入った自分を恥ずかしがり、美術のことを何も知らないことに不安と怖さでいっぱいだった彼女ですが、課題が出来ずに取り組んでいた居残りの場で個性的な生徒たちと出会い、彼女たちと一緒に課題に取り組むことで少しずつ美術に対して前向きになっていく。美術に対する知識や技術どころか興味もなかった場所からの、いわば「ゼロからの取り組み」の過程が描かれていることが、とても面白いと思いました。

 一方で、個性的過ぎる生徒たちによる、かなりぶっ飛んだネタのコメディがふんだんに描かれているのも楽しい。一見してクールで目つき悪くて怖そうに見えるけど、実は普段はローテンションでしょっちゅう眠っている黄奈子(きなこ)、面白いこと・食べること・動くことが好きなムードメーカー蒼(あおい)、美術には真面目に見えてどこかずれた関西弁少女・紫苑(しおん)、そして美術室のだるまに入って寝泊りしたり妙な口調でしゃべったりと最大の個性派とも言える生徒・翠玉(すいぎょく)と、ひとりひとりとても面白い。課題への取り組みや日常の生活でもどこかずれていたり、そのドタバタ感がとても楽しい。

 それと、主人公の桃音と彼女が最初に出会った黄奈子、このふたりの間に見られるほのかな依存関係にとても惹かれますね。間違えて美術科に入って不安に駆られていた桃音に対して、黄奈子も最初は好きで美術科に入ったわけではないという事情を抱えており、桃音に出会ったことで少しずつ自分も美術に対する向き合い方が変わっていく。桃音の方もそんな黄奈子の思いを知って惹かれていく。そんな微細な関係がとてもいい。

 キャラクターがポップでかわいらしく、カラーイラストも鮮やかに見栄えがするのもいいですね。好調のきららMAXでも「2巻の壁」で早期終了する作品が相次ぐ中、まだ早いうちにこの作品をおすすめしておきたいと思います。すなわちコミックス1巻を買ってくださいお願いします。


<8・27>
・SO2というエニックス全盛期。
 先日、あの「スターオーシャン セカンドストーリー」のとあるキャラクター(というかアシュトン)の名前が、ツイッターのトレンドに上ると言う出来事があり、改めてこのゲームの人気を再確認したのですが、かれこれ20年近く前にこのゲームが発売されたあの時代こそが、エニックスのゲーム部門でも出版部門でも最盛期ではなかったかと少し懐かしく思い出されました。

 「スターオーシャン セカンドストーリー」の発売は1998年7月。前作である「スターオーシャン」からほぼ2年後の発売で、これが制作スタッフのトライエースによる最大のヒット作のひとつになりました。ヒットには様々な理由がありましたが、プレイヤーの工夫次第で一気に攻略が楽になる大胆なゲーム性、徹底的なやりこみ要素、魅力的な数々のキャラクターやSF的な世界観などが挙げられるでしょうか。難易度はかなり高く、「最高レベルでもラスボスが倒せない」というプレイヤーがいる一方で、そんな強敵に挑むプレイヤーたちが攻略談義で盛り上がる。そんなゲームでした。中でも「アイテムクリエイション」(素材から自作のアイテムを作り出すシステム)に代表される奥深いやりこみ要素、キャラクターの個性をさらに演出する「プライベートアクション」(街や村など特定の場所でパーティーメンバーが単独行動するシステム)は、多くのプレイヤーを引きつけるに十分でした。

 そして、ゲームの発売から比較的早い時期に、ガンガンでもこのゲームのコミック連載が始まり、こちらも非常に好評で、ほどなくしてガンガンでも中心的な人気作品になりました。90年代後半においては「まもって守護月天!」や「ツインシグナル」「刻の大地」と並ぶガンガンの看板だったと思います。人気の理由は、なんといってもコミカライズ担当の東まゆみさんによるキャラクターでしょうか。あまりにも人気だったため、原作ゲームの続編である「スターオーシャン ブルースフィア」では、ゲームのキャラクターデザインに抜擢されたほどです。原作のストーリーを随所でアレンジした巧みな再構成や、緻密な作画による魅力的な世界や迫力の戦闘シーンでも光るものがありました。

 そしてこの当時は、このマンガの読者を中心にガンガンを読んでいた読者の間でも、原作のゲームをプレイしてはまっていた人が多かったことも見逃せません。特に、この「スターオーシャン セカンドストーリー」と制作スタッフの次回作である「ヴァルキリープロファイル」は大人気で(こちらもガンガンでコミック連載されました)、マンガとゲーム双方はまっていた読者は、当時本当によく見かけました。あの頃は、ゲームとマンガとその双方において間違いなくエニックスの全盛期だったと思います。

 しかし、長期連載でいまだ好評連載中だった2001年に、あのエニックスお家騒動が巻き起こり、このマンガも中断を余儀なくされます。中断による最終回は、ゲームでもちょうど中盤のクライマックスのイベントとなり、その後のストーリーやキャラクターにはまったく触れずじまいとなっていまいました。お家騒動によって中断されたほかのエニックスの作品は、いくつかが移籍先の雑誌で再開されることがありましたが、この「SO2」に関しては、原作がエニックスのゲームだけあって、最初から再開の可能性はほとんどなく、今に至るまで再開も新展開も何もないのが残念でなりません。中断前は間違いなくガンガンでも1、2を争う人気マンガだったのに、この結末はあまりにも寂しいものがありました。

 今ではエニックス自体もスクウェアと合併して大きく体制が変わり、ガンガンを中心とするマンガ雑誌の体制や作風も大きく変わってしまい、あの頃のことを懐かしく思い出されるばかりです。


<8・23>
・夏コミ同人誌ちょっと紹介。
 ようやく夏コミの戦利品も消化してきた頃なので、そろそろ少しばかりこれはという本をピックアップしてみたいと思います。今回はいろいろと個性的な本がいつも以上にありました。


・「観葉植物になって百合カップルのイチャラブ生活を見守る話」(みかみてれん/てれたにあ)
 創作小説ですが、もう本当に完全にタイトル通りの内容で驚きますよ。死んで妹の部屋の観葉植物となった高校生の姉が、小学生の妹とその友達ふたりの百合関係的な生活を長年にわたって見守っていく話。目の前で紡がれる百合描写が萌えあり感動ありでとにかく面白い。小学生から中学生、高校生と大きく成長していく妹たちとその関係性の変化を描くコンセプトも素晴らしい。あと、観葉植物になるというぶっとんだ設定、その日々の生活のおかしさを描くくだりもいいギャグ(ある意味ホラー)になっていて、随所で笑って読めるのもいいですね。
 作者のみかみてれん先生は、小説家でなろうで活動しつつ商業のライトノベルでもデビューしており、コミックキューンでもマンガ原作を担当するなど(「JK小説家っぽい!」)、多方面での活躍にさらに期待される作家だと思いますよ。

・「MEMOIRES OF EVER17」(滝川悠/Lovepockets)
 今回これを選んだのは完全に自分の趣味ですね。15年前に発売された「Ever17」でキャラクターデザインを担当した滝川悠さんによるかつてを振り返るイラスト集。あの当時から、こうしたジャンルのゲーム(ギャルゲー)で見られるオーソドックスな絵柄からは少しはずれた、線の細いスタイリッシュな絵柄に目を引かれていたのですが、それが15年経った今でもほとんど変わっていないことに安心しました。
 内容について何を言ってもネタバレになってしまうのがもどかしいのですが、ゲームを実際にプレイして進めないとに見られないキャラクター関係性、それを直接描いたイラストが見られたのはうれしかったですね。これを作中の舞台である2017年に見られたことに感動しました。
 そして、この本が見られた今、作品のもうひとつの舞台である17年後、2034年にはどうなっているのか気になります。作中で描かれた未来世界の技術が少しでも実現しているのか。そもそも自分は生きているのか、今と同じ生活をしているのか、まだイベントに通って本を買っているのか。また17年後にもこの本が出て、自分がそれを読んでいることに期待したいと思いますね・・・。

・「TARI TARI 鎌倉・江の島聖地巡礼ガイド」(サークルEMA)
 ここ数年、いわゆる舞台探訪(聖地巡礼)系の同人誌の質の向上がめざましいと思っているのですが、中でもこの江の島・鎌倉を中心に活動するサークル・EMAの出す本のクオリティには驚かされます。今回の新刊は、もう5年前の放送になったアニメ「TARI TARI」の聖地巡礼本。
 基本は1ページで舞台となった場所の写真+テキストとミニマップでの紹介というスタイルで、特に重要な場所では特集ページもあるという構成。しかし、その舞台の位置と周辺情報の記述が非常に詳しく、極めて正確性が高く情報量も多い申し分ない観光ガイドとなっていて驚き。作中で商店街のイベントから泥棒を追いかけるシーンなどは、その詳細な逃走ルートと個々の舞台の場所が逐一紹介される徹底ぶり。これは本当に驚いてしまいました。

もうひとつ、アニメファンの巡礼地となっている店舗に掲示される黒板イラスト、数カ月に1回のペースで更新されるそのイラストの写真を5年分ずっと掲載しているのもすごい。中には1カ月経たずに切り替わったイラストもあり、これを全部収録しているのは驚きとしか言えない。
 中にはこの5年で姿が変わったところもあり、かつて作中でミュージカルが上演された会場は今では更地となっており、ヒーローショーが行われた商店街もアーケードがなくなり衰退、あの有名な鎌倉高校前駅の踏切も、2015年以降工事が始まり景観が変わってしまっているようです。奇しくも5年間の時間の経過を感じる一冊にもなってますね。

・「あいた〜ん1〜4」総集編(ナナセミオリ・コキリン/山猫BOX)
 つい先日商業コミックスを紹介したばかりだけど気にしない。こちらはオリジナルの創作本のシリーズ総集編で、田舎で暮らす素朴な女の子・ひばりと都会から越してきた垢抜けた女の子・大和(やまと)の出会いと日常を描くコメディですね。見た目も行動も純朴そのもののひばりと、垢抜けて押しの強い現代っ子大和のずれた掛け合いが楽しい。大和から見ると、なんとも田舎っぽくて垢抜けないひばりをなんとか今時の女の子に仕立てようとする形に、ひばりから見れば活発で魅力的な大和と彼女が暮らしていた都会(東京)に憧れる形になっていて、その関係性が面白いですね。

 それともうひとつ、この総集編ならではの特典として、作中の舞台となった場所の紹介が写真付きで7ページも掲載されています。これまでの単体の本では、明確な舞台モデルは出てこず(地名も変わっている)、特定の舞台があるとは思っていなかったのですが、まさか北秋田の秋田内陸線沿線だったとは。特に作中で最寄り駅となっている岩野目駅近辺は、本当に田舎で道と森ばかりの場所で驚いてしまいました。バスも1日に上りと下りが1本ずつしかない・・・。これは逆に聖地巡礼に行きたくなってきましたよ。
 最近は舞台探訪の動きも速く、アニメやマンガの舞台がすぐ開拓されることも当たり前になっていますが、これは同人誌だけにさすがにまだ誰も知らないだろうということで、その舞台をいち早く知ってちょっとうれしくなりました。


<8・20>
・冬の「ゆるキャン△」のアニメが最高に楽しみ。
 このところ、「ブレンド・S」「スロウスタート」「こみっくがーるず」「はるかなレシーブ」ときらら系のアニメ化発表が相次いでいて、どれも楽しみで仕方ないのですが、その中でも冬からの放送が告知されている「ゆるキャン△」(あfろ)にはひときわ注目しているところです。原作はフォワードの連載で、タイトルどおりゆるく活動するキャンプの楽しさを描いた作品。それも、キャンプでは通例シーズンオフとされる冬場でのキャンプの楽しさを全面に描いているところが、極めて特徴的な作品となっています。

 舞台となるのは、ごく一般的な設備と環境が整ったキャンプ場がほとんどですが、しかし寒さ厳しい冬場であるため他に利用者はほとんどいない。いるのは人のいい管理人のみで、簡単な注意事項を守ればあとの行動は自由。気の向く場所に自由にテントを張り、ゆったりとあたりを散策して薪なんかを集め、焚き火なんかで火をおこして温かいものをゆっくりと味わって食べる。周囲を見渡せば広々とした素晴らしいパノラマが広がる。そんなまさに肩のこらない本当にゆるいキャンプの姿、しんどい目標や作業などまったく意識しない、ただただ楽しい活動の姿が存分に描かれています。

 中でも特筆すべきは、キャラクターのひとりであるリンちゃん(志摩リン)の活動ぶりです。彼女は、ほとんどの場合ひとりでキャンプに出かけ、直接的に人と会って一緒に活動することがあまりありません。コミックス最新4巻までの範囲内で、メインキャラクターのひとり・なでしことたまたま一緒になったことが1回、そしてようやく4巻になって、彼女を含む3人の野外活動サークルのメンバーと一緒にキャンプをするまで、基本ずっとひとりでの活動なのです。
 ひとりで自由にバイクを飛ばし、行く先々の食堂や温泉なんかにゆっくり立ち寄りながら目標のキャンプ地にたどり着き、そこでもひとりきままにテントを張って、薪を借りて火を起こし、防寒具をしっかりと着込んでテントのそばでゆったりと過ごす。簡単な調理器具で温かいものをひとり堪能し、周囲の景色を味わう。そんな「孤独のキャンプ」とでも言うべき、何も障壁となるものがない単独での活動の魅力が、どこまでもじっくりと描かれているのです。

 個人的に、これはきらら系の作品でもかなり異色のコンセプトではないかと思います。日常ものにしろ部活動ものにしろ、キャラクター同士が直接会って会話する親しい交流の姿を描く。そういう作品はやっぱり多い気がします。そんな中で、この「ゆるキャン△」のように、キャラクターひとりでの活動の描写が延々と続く作品は、本当に貴重ではないかと思うのです。

 しかし、単独で行動しているからといって、キャラクター同士の交流がないわけではありません。そう、離れていながら、スマートフォンやタブレットでの交流の姿が盛んに描かれているのです。離れていても常にそうした手段で人と繋がっている。特にこれはと思ったエピソードは、リンとなでしこが、ずっと離れたキャンプ地にいながら、互いに周囲の素晴らしい景色の画像を送りあうシーンです。自分が感動した素晴らしい景色のパノラマ、それをずっと離れた仲間と共有しあう。このシーンだけはほんとにじんと来てしまいました。
 キャンプ地への進路に迷うリンを、なでしこたち野外活動サークルのメンバーがナビゲートする話もいいですね。カーナビだけでなんとかなると考えるリンでしたが、しかしそれでも離れた場所から寄せられる情報に耳と傾けるだけでも楽しく、さらには時間が押す中で通行止めの道に遭遇してピンチに陥ったときも、なでしこの意外な知識に助けられてキャンプ地へと無事たどり着く。そんな息の合った遠隔交流の姿が描かれる名エピソードになっています。

 わたしは、こうした離れた場所での交流、「こんな場所に行ってるんだ」と知り合い同士がその状況を楽しむような遠隔交流に、ひとつの可能性を見出しています。そんな個人的な期待からも、それがテレビで見られる「ゆるキャン△」のアニメはとても楽しみなのです。


<8・16>
・「ふあふわ白書」
 1カ月以上前の新刊になってしまいましたが、以前より同人活動で注目していたナナセミオリさんの商業初コミックスが、一迅社より出ました。百合姫掲載の読み切り3作に同人誌からの再録2作を加えた読み切り集。一迅社は、以前より有望な同人作家の作品を拾い上げ、それを商業コミックス化するという試みを何度も行っていて、その活動にも注目しているのですが、今回は特に好きな作家さんだっただけに、そのうれしさは大きかったです。

 ナナセミオリさんは、以前より多数の同人誌を出していて、2次創作ではごちうさやラブライブ!・まどマギ、少し前には咲-Saki-やらき☆すたなど様々なジャンルの本を出していました。さらにはオリジナルの創作本も多く、最近では田舎に帰ってきた女の子の日常を描いたシリーズ作(「あいた〜ん」)も手掛けていて、これも注目して追い掛けていました。しかし、ここに来てまさか商業本が出るとは思わなかった。一迅社ほんとグッジョブ!という感謝しかないですね(笑)。

 収録された5本の読み切りは、いずれも中学生の女の子の百合恋愛を扱ったもの。ほのぼのとしつつ初々しい恋愛の姿がよく描かれていてなんとも微笑ましい。それと同時にちょっと深い事情に踏み込んだシリアスな物語もあり、キャラクターのかわいさに惹かれつつもぐっと読ませる話になっています。

 中でもこれはと思ったのが、2番目に掲載されている「DJカレンにおまかせ!」。放送部でDJをしている女の子・カレンの質問コーナーに、「友達の女の子を好きになってしまった」という質問が寄せられてくるエピソードです。それに対するカレンの回答が、思った以上にずっと真面目なもので、「いきなり拒絶しないでほしい」「真剣に向き合ってほしい」とみんなに訴えかけるものでした。これが同性愛など特殊な恋愛に対する優れた回答にもなっているようで、すごく感動してしまったのです。

 それと、やはりナナセさんの絵は素晴らしい。すごく整った綺麗な絵で何よりキャラクターがかわいすぎる。表紙の絵にまず惹かれてしまいましたが、中身もほぼそのままのイメージになっていて、どの話のカップリングも素晴らしいと思いました。これが1冊にまとまって良かったと思います。


<8・9>
・そろそろ90年代ガンガンの名作をアニメ化してみようか。
 ここ最近、「魔法陣グルグル」に「最遊記」の再アニメ化&放送開始に加えて、あの「封神演義」や「カードキャプターさくら」の再アニメ化の発表まで飛び込んできて、かつてのファンを中心に大きな話題となっていますが、これを機にグルグルだけでなく他のガンガンのかつての連載も、改めてアニメ化の可能性を考えてみたいと思うのです。というか、かつて大きな人気を獲得しながら、残念ながらアニメ化されなかった名作はあまりに多い。

 その中でも筆頭は、なんといっても「ロトの紋章」ではないかと思います。ガンガン創刊号からの看板作品で、ドラクエ3のアフターストーリーというゲームプレイヤーを惹きつける設定と、藤原カムイの作画による圧倒的な迫力のバトル、魅力的なキャラクター。雑誌での人気、コミックスの売り上げも申し分なく、全21巻で1800万部に達したという話もあります。しかし、これだけの作品でありながら、最後までテレビアニメの話が聞かれなかったのが、本当に不思議なところでした。
 当時はまだ新興の出版社だったエニックスの力が弱かったのかとも思っていますが、今ならばその心配もないでしょう。かつてのガンガンの大人気作品で、今は続編が連載中という点では、先に再アニメ化を達成した「魔法陣グルグル」とも共通しています。ドラクエの人気はいまだ健在でもありますし、今からアニメ化しても大きな反響が見込めそうです。加えて、アニメの作画が大きく進歩した今だからこそ、あの壮大なスペクタクルバトルをアニメで見てみたいですね。

 90年代を通した長期連載でトップクラスの人気作品だった「TWIN SIGNAL」も、結局アニメ化されなかった名作です。かろうじてOVAにはなったのですが、その内容は初期のエピソードのみで、原作がぐっと面白くなる「アトランダム編」以降の話をアニメでやってほしいと、誰もが思っていたはずです。ロボットと人間の関係を追求した物語は、AIやロボットが進化して話題になる今だからこそ、さらに興味を惹かれる内容でもある思います。

 「刻の大地」もまたテレビアニメ化されなかった最大の名作のひとつ。同じく夜麻みゆき三部作の「レヴァリアース」「幻想大陸」も合わせて、その壮大な物語を最初からアニメで観たいところ。そこに行きたくなるほどの魅力溢れるファンタジー世界を、今のアニメの技術で再現してほしいのです。

 「CHOKO・ビースト!」「PON!とキマイラ」の浅野りん作品も外せないところ。この学園コメディの楽しさは今でも十分すぎるほど通用するでしょう。あの個性の固まりとも言えるキャラクターたちの魅力はすごい。少年サンデー的な作風でもあり、アニメでも幅広い視聴者の支持が期待できると思います。これもかつてアニメ化の話がまるでなかったのが不思議なところです。

 他にも姉妹誌のGファンタジーやWING、ギャグ王でもこれはと思える作品はいくらでもあります(個人的には「まいんどりーむ」「ナイトメア☆チルドレン」の藤野もやむ作品を・・・)。今に至ってもいくらでも夢は尽きませんね。


<8・6>
・上田信舟先生の歩みを振り返る。
 先日、90年代のGファンタジーを振り返る記事を書いたところ、上田信舟先生の「魔神転生」や「女神異聞録ペルソナ」に結構な反応があり、いまだにあの頃の人気を再確認しました。やはりあの当時の女神転生(メガテン)を原作にしたコミックは、今でも強く支持されているのだなとうれしく思いました。一方で、それ以後今現在まで息の長い活動をしている作家でもあり、ここでは今一度その歩みを振り返ってみるべきかなと思います。

 上田先生の商業デビューは、おそらくは92年頃で、この頃にゲームアンソロジーで活動を始めたようです。特にファイアーエムブレムの読み切りがデビュー作だったようです。その時の読み切りは、のちにエニックスから「ファイアーエムブレム 風の魔導士」として一冊にまとまっています。

 その後、94年から、エニックスのGファンタジーで初連載となる「魔神転生」の連載を開始。96年に終了し、同年末から今度は「女神異聞録ペルソナ」の連載を開始。これが2000年まで続く長期連載となります。この2作が、今でも根強い支持を得る最大の人気作となりました。
 このふたつの作品の特徴は、原作ゲームの持つシナリオに積極的に様々な要素を加味し、あるいはキャラクターにも独自の解釈を加え、より深く魅力的なストーリーに仕上げていること。1作目の「魔神転生」などは、主人公にデフォルトネームはなく、会話シーンも少なく非常にシンプルなゲームだったのですが、コミックでは主人公たちに「都心の廃墟で生きる少年たち」という設定を加え、序盤から読ませるエピソードをいきなり見せてくれました。原作の重要キャラクター、エティアンヌと南一佐の出番も大幅に増え、パーティーに同行する形となり、さらにはゲームでは完全に戦闘ユニットに過ぎなかった仲魔たちにも、固有のキャラクター性を追加、魅力あるキャラクターに仕上げています。このマンガで初めてオルトロスのかっこよさに惹かれた読者も少なからずいるはずです。
 「女神異聞録ペルソナ」でも、各キャラクターのエピソードをより深く掘り下げ、主人公にも「藤堂尚也」という固有の名前を追加、双子の兄がいるという設定でそこで非常に深いオリジナルエピソードを見せてくれました。さらには、原作では隠しエピソードに当たる「雪の女王篇」も、本編のストーリーに挿入される形となっており、これはゲームのプレイヤーにも喜ばれました。

 この「ペルソナ」の連載終了後は、あの異様な世界観で話題となったローグライクゲーム「BAROQUE」のコミカライズ「BAROQUE 〜欠落のパラダイム〜」の連載を開始。お家騒動直後の2002年までの比較的短い期間での連載となりましたが、こちらもやはりシンプルなシナリオを巧みに脚色して読ませるコミックに仕上げています。

 そのお家騒動後は、主に一迅社のゼロサムへと活動の舞台を移し、ここからはオリジナルの作品を中心に手掛けるようになります。まず2002年から「DAWN 〜冷たい手」の連載を開始。これは、化け物と化すウイルスに感染した少年が、同じく化け物と闘わされるという、ゾンビものの設定をリメイクしたような現代ものとなっており、やはり暗い世界観が印象的でした。同時に、大きな悩みを抱えることになった少年少女たちの心理描写にも長けていて、これは上田先生の作品の一貫した持ち味になっていると改めて思いました。
 また、同時期にはGファンタジーにも復帰し、「真・女神転生外典 鳩の戦記」という、女神転生のオリジナルコミックの連載も始めます。ロウとカオスの対立という真1に立ち返ったような設定でのストーリーは興味深いと思いましたが、どういうわけか連載途中で休止状態となり、ほぼ未完結で残念ながら終わっています。

 一方で、一迅社のゼロサムでの活動は堅調に続き、2007年に「DAWN 〜冷たい手」の連載終了後も、「彩の神」「華園ファンタジカ」「幕末Rock-howling soul-」「魔術師と私」とコンスタントに連載を続けており、90年代エニックスの作家の中でも息の長い活動を続ける作家のひとりとなっています。

 最近では、白泉社のヤングアニマル嵐で「えびがわ町の妖怪カフェ」という連載を開始。妖怪もの+グルメマンガという最近の流行を取り入れた作風に驚くと同時に、これまでとは違う男性向け雑誌での連載となったのも意外に思いました。しかし、その持ち味は相変わらず健在で、幼い少女と心優しい叔父のふたりが、妖怪たちと打ち解けて料理でもてなすというハートフルストーリーで読ませる1作となっています。新境地でのこの連載にも注目ですね。


<8・2>
・「はやしたてまつり♪」
 1カ月前の作品になってしまいましたが、6月のきらら新刊より「はやしたてまつり」(高坂曇天)を紹介したいと思います。ここ最近、きららではいわゆる日常ものに加えて、女の子たちが何かに取り組んでいく作品を、ひとつのコンセプトにしているような気がしますが、これもその中のひとつだと思いました。この「はやしたてまつり♪」で主人公たちが取り組むのは、祭りのお囃子。中でもその主役となる太鼓です。

 新聞部の女の子2人が、地元のお囃子の演奏家だという人に取材に行ったことをきっかけに、自分もお囃子の演奏に興味を持ち、とりわけ太鼓を叩いた時の心臓に伝わる響きに感動を覚え、少しずつその世界へと入っていくというストーリー。強面の年配の人だと想像していたお囃子の演奏家の人は、実は高校生の女の子でしかも同じ学校の隣のクラスメイトだったという展開で、その取材の成果の新聞記事を書いたところ、役所のふるさと振興課のお姉さんの目に留まり、彼女の誘いで地域新興の活動を始めることになります。彼女の紹介で笛を担当する女の子も加わり、4人で地元のイベントに向けて練習することになる。演奏への取り組みと女の子たちの楽しい日常、その双方がバランスよく描かれたきらら4コマらしい作品になっていると思います。

 中でもこれはいいと思ったシーンは、そのイベントで緊張を乗り越えて初めて演奏を始める場面。4人の音が合わさり、初めはゆっくりと、そして少しずつ駆け足でテンポが上がり、ついにはお祭りの賑やかな音に満たされる。そのお祭りの空気感が画面から伝わってくるようで、心地良くも華やかなシーンになっていると思います。

 高坂さんの絵がいい感じに柔らかで優しい雰囲気を出しているのもいいです。とりわけカラーページは華やかさも加わってとてもいい。太鼓や笛など楽器から出る音が、ぼんやりした光の玉や花びらで表現されている演出もいい。そのあたり一面の空気を響かせる音の広がりをそのまま描いているようで、とても面白い演出だと思います。

 和楽器という点では、きららフォワードに「なでしこドレミソラ」という先行作品があり、こちらとも音の演出という点でちょっとした共通感を覚えます。練習してイベントで成果を発揮する部活動的な取り組みという点では、同じくフォワードの「ハナヤマタ」を思い出すところもあり、あるいは地元新興のための活動という点では「ろこどる」的な要素もある(笑)。それでありながら、お祭りのお囃子、響き渡る太鼓というダイナミックな活動で、こうした先行作品ともまた違った魅力を持つ作品になっていると思いますね。


<7・30>
・90年代ガンガンWINGを振り返る。
 ここまで90年代のGファンタジーを2回に分けて振り返ったので、今度はもうひとつ、ガンガンWINGについても語るべきでしょう。実質的に雑誌として始まったのが98年と遅かったので、お家騒動までほんのわずかの間だったのですが、しかしその間の充実度は計り知れないものがありました。これこそかつてのガンガン系の全盛期を代表する雑誌ではなかったかと思っています。

 もともと、この雑誌は、「フレッシュガンガン」という新人読み切り掲載雑誌として、92年というかなり早い時期に刊行が始まっています。のちに96年になってこのガンガンWINGという誌名に変わりますが、まだ中身は読み切り中心のままでした。
 それが、98年になって、大きく誌面をリニューアルし、通常の連載を掲載する雑誌となりました。連載陣は、この時からの新人の他、当時のガンガンやGファンタジーの人気作家の新作を多数立ち上げ、そのため多くの作家がこれらの姉妹誌と共通していました。ゆえに、この当時のガンガンWINGには、これらの人気作家の別の側面を見られるという魅力もあったのです。

 そんな連載の中でも、まず筆頭は「パンゲア」(浅野りん)でしょうか。「CHOKO・ビースト!」「PON!とキマイラ」の浅野りんさんのWINGでの連載は、一転してファンタジーストーリー。親しみやすいキャラクターとコミカルな掛け合いは健在ながら、秘められた謎を追い求めて旅を続けるロードファンタジーの面白さも持ち合わせた、浅野さんらしいバランスの取れた作風だったと思います。学園コメディだけでない浅野さんのもうひとつの側面を見られただけでも、このWINGの価値はあったと言えるでしょう。

 もうひとつ、「常習盗賊改め方 ひなぎく見参!」(桜野みねね)も挙げるべきでしょう。「まもって守護月天!」の桜野さんのもうひとつの連載は和風な世界観を舞台にした時代物でした。端整なキャラクターと作画、繊細な心理描写はこちらも健在でしたが、エニックス時代末期の作者の不調に伴って、こちらも不振に陥ったのが残念なところです。

 さらに見逃せないのが、「ワールドエンド・フェアリーテイル」(箱田真紀)です。Gファンタジーでファイアーエムブレムを長く続けた作者のオリジナル連載は、妖精伝説をベースに学園を舞台にしたファンタジーでした。箱田さんらしい端整な作画と作品に漂う静謐な雰囲気が魅力で、たびたび表紙になり、当時のWINGのイメージを代表していたと思います。今でもこの作品が好きだという人は数多い。

 新人作家の作品としては、「まいんどりーむ」「ナイトメア☆チルドレン」(藤野もやむ)は絶対に外せないところです。かわいいキャラクターと透明感溢れるイラストと、一転してシリアスで切ないストーリー。個人的には、この当時全盛だったガンガン系の中性的な雰囲気を最もよく表した作家だったと思います。お家騒動で移籍後も長く活動を続けますが、このエニックス時代の作品が一番好きという人はいまだ多い。

 最後に「ジンキ」(綱島志朗)も名作中の名作でした。エニックスでは珍しいロボットものでしたが、ジャングルの山奥で人知れず脅威と戦う組織の日常を描いた泥臭い作風が、他にない魅力だったと思います。この連載の前に描かれた読み切りで、重機のようなロボットで日々地雷の除去に取り組む者たちの姿を描いた作品があるのですが、そうした地味で危険な日常の仕事、しかし誰かがやらなければならない仕事を描くコンセプトが、この綱島作品最大の魅力だったと思うのです。

 これ以外の連載からも、Gファンタジーで長く活動を続けた作家による和風ファンタジー「陽炎ノスタルジア」(久保聡美)、独特の存在感を放ったダークファンタジー「悪魔狩り 〜冠翼の聖天使篇〜」(戸土野正内郎)、ガンガン人気連載の外伝「TWINSIGNAL外伝 呪われし電脳神」(大清水さち)・、いずれも秀逸な内容のゲームコミック「ヴァンパイアセイヴァー 魂の迷い子」(東まゆみ)・「ファイアーエムブレム-光をつぐもの-」(冬季ねあ)」・「タクティクスオウガ」(松葉博)など、雑誌を支えた名作は数多い。連載の充実度では、同時期のガンガンやGファンタジーをも凌ぐものがあったと思います。

 最後にあの「まほらば」(小島あきら)が来てラインナップは完成した感がありますが、しばらくのちにあのお家騒動が起きてしまい、ほとんどの作家が移籍して抜け、全連載の実に8割が中断されるという事態に陥り、この全盛期のガンガンWINGは完全に崩壊することになるのです。


<7・26>
・90年代Gファンタジーを振り返る(2)。
 こうして93年の創刊直後から良作に恵まれ、順調に推移してきたGファンタジーですが、96年以降さらにまとまって多数の良作が登場し、さらに誌面は充実することになります。ここがGファンタジーの全盛期であると同時に、エニックス・ガンガン系の全盛期でもありました。

 その中でも真っ先に取り上げるべきは、やはり「最遊記」(峰倉かずや)でしょうか。96年に掲載された読み切りが好評を博し、翌97年初からほぼそのままの形で連載開始。当初から人気でしたが、2000年のテレビアニメ化でさらに爆発的なヒットとなります。内容はもう説明不要かもしれませんが、西遊記に現代的な設定を加えたSFファンタジーで、バトルアクションであり人間ドラマでありまたロードムービーでもある。峰倉さんならではの重厚な作画が、最初の時点でいきなり完成していたのも大きな魅力でした。

 もうひとつ、Gファンタジーの当時の看板作品となったのが、遅れて97年に始まった「E'S」(結賀さとる)でしょう。サイバーパンク的な設定のSFアクションですが、圧倒的な画力と緻密なストーリー構成で高く評価されました。とりわけ作画に関しては、当時のエニックスの作家の中でもトップクラスで、この「E'S」が、長い間Gファンタジーという雑誌のイメージにもなっていたと思います。休載が多く連載ペースが遅いのが難点でしたが、お家騒動後も長く続き完結まで漕ぎ付けたのは幸いでした。

 「クレセントノイズ」(天野こずえ)も絶対外せないところです。のちにARIAが大人気となる天野こずえさんのかつての連載で、一足先にガンガンで始まっていた「浪漫倶楽部」のコンセプトを引き継ぐ学園もの+サイキックアクション。連載途中で「第一部完」として一時中断し、実際に再開する予定だったようですが、そこであのエニックスお家騒動が勃発、天野さんがエニックスを離れたことで再開されなくなってしまいました。おそらくは今後も再開の可能性はほとんどないと思われる上に、コミックスの新装版すら出ていない悲運の作品です。

 もうひとつ、「東京鬼攻兵団TOGS」(斎藤カズサ)も見逃せません。未来のドーム都市を舞台に人間を脅かす化け物と戦うSFアクションですが、こちらも大きな反響がありました。美少女+バトルアクションという設定で男性読者にも人気が高かったのが印象的でした。また、作者の斎藤カズサさんは、天野さんとも親交があったようで、作画にも近いものを感じるところがあるかもしれません(天野さんの作品でメカデザインを担当したこともあります)。
 しかし、この斎藤さんも、お家騒動でエニックスを離れ、しかも移籍先のコミックブレイドで一時期新作を始めたもののすぐに休載となり、以後まったく消息がなくなってしまいました。エニックス時代にあれだけの良作を手掛けた作家のその後としてはあまりに寂しい。

 「女神異聞録ペルソナ」(上田信舟)も雑誌を支えた名作のひとつ。同名ゲームのコミカライズですが、原作ゲームの人気に加えて、上田さんならではの親しみやすいキャラクターと練られたストーリーで、ゲームのプレイヤーにも非常に高く支持されました。今でもペルソナと言えばこの上田信舟のコミックを思い出す人は多いと思います。

 もうひとつ「破天荒遊戯」(遠藤海成)も挙げておきましょう。少女と青年の面白楽しくも時に厳しい旅道中を描くファンタジー。ずっとのちにコミックアライブの「まりあほりっく」の方が人気を得て有名になってしまいましたが、これが遠藤さんの初連載でした。毒舌と皮肉の効いたキャラクターと会話劇はこの頃から健在でしたね。

 これ以外にも、「神さまのつくりかた。」(高田慎一郎)、レガリア「中村幸子・川添真理子」、「魔女っ子戦隊パステリオン」「華の神剣組」(松沢夏樹)、「フランケンシュタインズ・プリンセス」(たつねこ)、「わくわくぷよぷよダンジョン」(魔神ぐり子)、乱世の薬売りシン(佩月なおこ)など、この90年代後半の全盛期を支えた連載は数多い。最後にあの「ぱにぽに」(氷川へきる)が加わってラインナップが完成した感がありますが、まもなくあのお家騒動が起こり、この楽しかった全盛期は終わりを告げることになるのです。


<7・23>
・90年代Gファンタジーを振り返る(1)。
 先日、グルグルの再アニメ化や刻の大地の連載再開に際して、かつてのガンガンの話をしたところ、やはり相当な反応が見られ、改めてかつてのガンガンの人気を実感したところです。やはり90年代のガンガンの作品は、今でも覚えている人がたくさんいるくらい大きな人気がありました。

 しかし、当時のエニックスは、ガンガンだけでなく、その姉妹誌であるGファンタジーやガンガンWING、ギャグ王にも無視できない人気がありました。また、これらの雑誌すべてで共通した雰囲気があり、何よりもエニックス雑誌全部、ガンガン系全部が好きという読者が多数いたのです。
 ただ、さすがに中心雑誌のガンガンに比べれば読者数や知名度で劣るところがあり、今では知る人がさらに少なくなっているのが残念なところ。今こそ、そうした作品にも今一度光を当てる好機だと思いました。中でも、ガンガンの次に93年という早い時期に創刊されたファンタジー誌・Gファンタジーの存在はとりわけ重要です。

 Gファンタジーは、93年に創刊された当時の雑誌名は「ガンガンファンタジー」で、1年後にGファンタジーと改名されました。タイトル通りファンタジーにより特化した雑誌というスタイルで、対象年齢も高めに設定され、あるいは少女マンガ的な作品も多く、やや女性読者向けの雑誌としても位置づけられていたと思います。しかし、一方で男性向けと思われる連載も少なからずあり、あるいはそれ以上に当時のエニックスの雑誌がどれも近い雰囲気を持っていたこともあり、ガンガンの読者とかなりの部分で共通したところもあったと思います。

 創刊当初に雑誌の看板として打ち出されたのが、当時ドラクエの関連小説として刊行されていた「精霊ルビス伝説」のコミカライズでした(原作・久美沙織、作画・阿部ゆたか)。しかし、これはあまり評判はいいとは言えず、ある程度連載は続いたものの最後までぱっとせず終わってしまいます。また、あの高河ゆんの「超獣伝説ゲシュタルト」も創刊号からの看板作品でしたが、こちらも休載が非常に多く最後まで安定しませんでした。

 変わって真っ先に人気を得たのが、「ファイアーエムブレム 暗黒竜と光の剣」(箱田真紀)「聖戦記エルナサーガ」(堤抄子)です。前者は同名ゲームのコミカライズですが、当初から抜群の構成と作画の素晴らしい出来で、箱田さんのFEと言えば今でも名作として思い出す人は多いです。連載後半で調子を崩して中途半端に終了したのが極めて残念。「聖戦記エルナサーガ」は、対してオリジナルのファンタジーで、緻密に練り上げられた世界観とストーリー、社会性を帯びた奥深いテーマで、いまだに名作として語り継がれる屈指の一作。こうした実力のある作品がしっかりと雑誌の中心に存在したことが、最初期から好調を維持した大きな理由と言えそうです。

 創刊から遅れて1年ほど経って始まった「レヴァリアース」(夜麻みゆき)も絶対外せないところ。「幻想大陸」「刻の大地」と続く夜麻みゆき三部作の最初の作品で、魅力的なキャラクターと世界観、楽しいコメディや衝撃のクライマックスで、今でも三部作で一番好きと言う読者は多いです。
 同時期に始まった「魔神転生」(上田信舟)も挙げておきましょう。のちに「女神異聞録ペルソナ」でさらなる人気を獲得する上田さんの最初の連載で、これが上田さん初の女神転生(メガテン)シリーズのコミカライズでした。原作のシンプルなストーリーに様々な要素を追加し、はるかに楽しめる奥深いストーリーに仕上げると同時に、ゲームを知らない読者にも分かりやすく設定を説明する配慮にも行き届いていました。のちの作品に比べると知名度は低いですが、これも見逃せない良作だったと思います。

 これ以外にも、初期のGファンタジーには、「白のテンペスト」(斉藤カズサ)や「サリシオン」(久保聡美)のような本格ファンタジー、「勇者はツライよ」(松沢夏樹)や「スマイルはゼロゴールド」(佐野たかよし)に代表されるギャグ作品、「アクトレイザー」(加藤元浩)や「ゼルダの伝説 神々のトライフォース」(かぢばあたる)などのゲームコミックと、読ませる連載は多かったです。そして、これが96年以降のさらなる盛り上がり、全盛期につながることになります。


<7・19>
・「ドージンワーク」から「アホガール」までヒロユキ作品を振り返る。
 今季も前から期待していた原作付きアニメは多かったのですが、その中でもこのヒロユキさん原作マンガの「アホガール」が、一部で異様な反響を獲得していて驚いています。以前からヒロユキ作品はいろいろ読んでいて、この原作マンガも知ってはいたのですが、まさかアニメでここまで注目されるとは思いませんでした。「アホ」キャラであるヒロイン・よしこを中心に、個性的すぎるキャラクターたちによる強烈なボケとツッコミのテンポが素晴らしく、確かにこれはアニメで一層面白くなったと思いました。

 作者のヒロユキさんを最初に知ったのは、2004年にまんがタイムきららキャラットで始まった「ドージンワーク」ですね。きらら系でも最初期からの人気連載で、当時はかなりの反響があったと記憶しています。今に通じる強烈なキャラクターによるおバカなギャグ・コメディと、そして同人誌の制作や同人誌即売会を描いたことが特に注目されました。当時から「げんしけん」のようないわゆる「オタク」をネタにしたマンガがいろいろ人気を集めていたのですが、その中でも同人活動というコアな趣味を描いたことが特に評判だったと記憶しています。

 2007年にはアニメ化もされ、きらら系では「ひだまりスケッチ」に続くアニメ化だったのですが、なぜかアニメのBパート(後半)が、実写で声優たちが同人誌を作るという謎の企画となっていて、これはかなり微妙でした。アニメ自体の評価にも響いたようで、普通にアニメ化していればよかったと思います。
 また、アニメ化まで行ったとはいえ、その作風はやはりきらら系列の中ではやや異色で、特に強烈すぎる男性キャラクターによる強烈なギャグは、かなり雰囲気を異にしていました。この作風は、やはりのちのきららには受け継がれなかったようで、今となってはちょっと懐かしいなと感じています。

 そのドージンワーク連載中の2007年、スクエニのガンガンで開かれた4コマ競作企画で掲載された読み切り「マンガワーク」が好評を博し、翌2008年より「マンガ家さんとアシスタントさんと」とタイトルを変えてガンガンとヤングガンガンで連載されることになります。最初のタイトルからも分かる通り、ドージンワークをそのままプロのマンガ家にしたような設定でしたが、アホなマンガ家をサポートするアシスタントや編集者の苦労ぶりが面白く、こちらも人気を博することになりました。これものちにアニメ化され、ショートアニメながらその切れのいいギャグで非常に好評でした。最初の連載は2012年に終了するものの、2014年のアニメ化に合わせて「2」のタイトルでしばらく復活連載されました。当時からスクエニが力を入れていた4コママンガの中でも、かなりの長期連載で最大の成功作だったと言えるでしょう。

 さらにその「マンガ家さんとアシスタントさんと」の連載終了後、2012年より今度は講談社の週刊少年マガジンで、今話題中の「アホガール」の連載を開始。のちに作者の体調不良とスケジュールの調整で別冊少年マガジンへと移籍するものの、連載自体は堅調でこれも長期連載となっています。これで、「ドージンワーク」「マンガ家さんとアシスタントさんと」「アホガール」と、3つの連載作品が全てアニメ化されていることになります。しかも、芳文社・スクエニ・講談社と、それぞれ連載先の出版社が違うのもすごい。いずれもおバカなキャラクターが強烈なギャグを繰り広げるという作風は共通していて、ある意味まったく変わってないな・・・とも毎回思ってしまうのですが、しかしその安定した仕事ぶりはやはり素晴らしく、今回のアニメでそれを再確認することになったと思います。


<7・16>
・「りゅうおうのおしごと!」アニメ化決定!
 先日、あの白鳥士郎さんのライトノベル「りゅうおうのおしごと!」のアニメ化が告知され、ついに来たかと思ってしまいました。順当ならまず確実に次に来るだろうと思っていたのですが、ここ最近藤井四段の活躍や電王戦でのプロ棋士と人工知能の対戦など、将棋の話題が最高に盛り上がっていたところだったので、これこそ告知にはまさに最高のタイミング、というかこの機会に是非やってほしいと思っていました。それが何とか叶ったようで一安心です。

 白鳥士郎さんといえばあの「のうりん」の作者。彼の期待の新作であり、またヤングガンガンでコミカライズも連載中ということで、その点でもかねてより注目していました。「のうりん」も、元々農業とはつながりがなかった作者が、綿密に取材を重ねてあそこまで現実的な要素を取り入れた名作に仕上げていただけあって、将棋をテーマにした今作も、またプロ棋士の世界に深く踏み込んだものとなっています。ヤングガンガンでのコミカライズ展開も「のうりん」から引き続いての企画で、そちらの連載もやはり良作に仕上がっていて毎回見所は多い。

 「のうりん」では、個性的過ぎる農業高校の生徒や先生たちのキャラクターが何よりも魅力的でしたが、この「りゅうおうのおしごと!」でも、将棋の「棋士」たちを描いたキャラクターが何よりも魅力的です。主人公にして16歳で竜王位を獲得した九頭竜八一と、その内弟子となった小学生の女の子・雛鶴あいのふたりを中心に、数多くのプロ棋士・奨励会員・研修会員たちが登場。ひとりひとりが強烈な性格とそれに合わせた将棋の指し方の個性を持っています。

 ルールや具体的な戦法の内容など、将棋の突っ込んだ知識は必要なくとも読める内容になっていますが、ひとりひとりの指し方に対するこだわりと、つらい勝負の中でもそれをなんとしても貫こうとする精神描写は、多くの読者を惹きつける対局での見所となっていると思います。ゲームならではの頭脳面と精神面で求められる要素と、苦闘しながらもそれを見出そうとするキャラクターたちのあくなき精神が見られるのが魅力だと思いますね。

 実際の将棋の世界で起こったことを作中のエピソードに取り入れているこだわりもいいですね。例えば、主人公の九頭竜竜王が、タイトル奪取後に大スランプに陥り3割の勝率しか上げられなくなったエピソードは、森内俊之名人の名人位獲得後の話がモチーフになっていますし、小学生のあいが内弟子として棋士宅に住み込むという設定も、古い話ではありますが林葉直子(と米長邦雄)の関係が下敷きになっています。他にも大小多数の現実のエピソードがモチーフとなっており、こちらは将棋を知っている人ならより楽しめることでしょう。

 イラストレーター・しらびさんの手掛けるキャラクターのビジュアルも素晴らしい。とりわけ小学生ヒロインである雛鶴あいとそのライバルの夜叉神天衣(あい)、このふたりの「あい」ちゃんはとりわけ大人気で、アニメでもその描かれ方が注目されます。さらに、発表されたアニメのスタッフは、監督に柳伸亮・制作にproject No.9の名前が挙がっていて、あの「ロウきゅーぶ!」や現在絶賛放送中の「天使の3P! 」を手掛けていることで大いに注目されます。あの素晴らしいロリ・・・もとい小学生キャラクターたちを手掛けたスタッフなら、この「りゅうおうのおしごと!」も素晴らしい作品に仕上げてくれるに違いない! これは俄然楽しみになってきましたよ。


<7・12>
・90年代エニックス(ガンガン系)の人気の高さを改めて考える。
 少し前に、あの「刻の大地」の連載再開の話を取り上げましたが、その資金確保のためのクラウドファンディング企画に、予想以上に多数の反応があって驚いています。かなり高いと思った目標金額をわずか2日で達成、その後も賛同者が伸び続けていて、今になってまだこれほどの根強いファンがいたのかと改めて驚きました。いや、もちろんかつてのこのマンガの人気のほどは、リアルタイムでもある程度は実感はしていたものの、20年が経ってからのまだこの反響の大きさに、改めてその人気を確認してしまったのです。

 また、偶然にも時期を同じくして、今季からあの「魔法陣グルグル」と「最遊記」のテレビアニメ新シリーズが始まります。魔法陣グルグルは最初のアニメからなんと23年、最遊記も17年になります。特に、グルグルの方は、続編こそ連載中であるもののかつての連載はずっと以前に終了し、その話題も遠くなってきたこの時期になってのまさかのアニメ化とあって、その反響は極めて大きいものがありました。こちらはさらに広範な人たちから反応が見られ、改めてその絶大な人気を実感することになったのです。

 もっとも、アニメ化したグルグルは、まだアニメの視聴率の高さなどで当時から人気を実感することが出来ました。しかし、「刻の大地」のような、テレビアニメ化もされずコアなファン向けだと思われる連載の人気は、それを推測する材料に乏しく、かつてはどれだけ人気があるのかいまひとつ実感できずにいました。自分の周囲に読者が少なかったこと、まだインターネットが普及していない時代で情報や交流に乏しかったこと、そして当時はまだ刊行されていた漫画情報誌でも、マイナーだったエニックスの雑誌のマンガが扱われる機会に乏しく、評論の場でも目立った露出がなかったのがその主な理由です。

 しかし、今になって改めて、こうしたかつての連載への大きな反響から、その人気の高さを確信して心強くなりました。今回はグルグルや刻の大地でしたが、おそらくはかつての他のどの連載においても、いずれ劣らぬ相当な反響があるはずです。ガンガンの91年創刊初期の頃からの名作「ロトの紋章」「南国少年パプワくん」「ハーメルンのバイオリン弾き」「Z MAN」「突撃!パッパラ隊」「TWIN SIGNAL」あたりは、とりわけ知名度が高い。「魔法陣グルグル」もこの時期からの連載です。そして90年代中盤以降、いわゆる独自色が強くなった後からも、「浪漫倶楽部」「CHOKO・ビースト!!」「まもって守護月天!」「ジャングルはいつもハレのちグゥ」「PON!とキマイラ」「東京アンダーグラウンド」「里見☆八犬伝」「スターオーシャンセカンドストーリー」「魔探偵ロキ」「新撰組異聞PEACE MAKER」「スパイラル〜推理の絆〜」と人気作品は数多い。「刻の大地」はこの時期の連載になります。これらの作品のどれひとつを取っても、今そのタイトルが出れば「あああのマンガ好きだったなあ!」と、すぐに反応するほどの読者が、今でも大勢いるはずなのです。

 そして、これはあくまでガンガンの連載のみ。姉妹誌であるGファンタジーやガンガンWING、ギャグ王まで見渡すと、さらにそのラインナップは分厚くなります。その中のひとつが、Gファンタジー連載の「最遊記」だったわけですが、他にも当時の雑誌を支えた名作連載は数多くあり、それぞれに熱心な読者が多数ついていた。おそらくは、新興の出版社として他の大手雑誌にすら引けを取らないほどの人気は確実にあったと思いますし、それが後世の今になって再評価される形になっています。同時に、もしそうした人気と評価が、当時からより表に出る形でしっかりと出ていれば、あのお家騒動で早期に崩れることもなかったかもしれない・・・とちょっと残念にも思ってしまいました。


<7・9>
・「TCGirls」に見る新しいカードゲームマンガの可能性。
 少し前の話になりますが、5月末にまんがタイムきららMAXの連載「TCGirls」(もみのさと)のコミックス1巻が発売されました。かねてよりきらら4コマでトレーディングカードゲーム(TCG)を扱ったオリジナル連載ということで注目していたのですが、コミックスの発売に際しても各所で特典が配布されたり、あるいは最近TCGの記事に力を入れているKAI-YOU.netで特集記事が書かれたりと、かなりの反応が見られました。中でもこのKAI-YOU.netの記事は、作者や編集者へのインタビューも含むかなり興味深い内容となっていて、わたしもいろいろと思うところがありました。

 トレカの魅力は「面倒である」こと? きららMAXの新星『TCGirls』もみのさと先生インタビュー

 記事の冒頭で、「日本においてトレーディングカードゲーム(以下、TCG)は、マンガやアニメとの結びつきが強いものが多い」「一方で、TCGで遊ぶプレイヤーそのものを描いた作品は、想像よりずっと少ない」とあります。これは確かにそうで、カードゲームのプレイヤー、それも現実のゲームとタイアップしないオリジナルのカードゲームを描いた作品となると急に少なくなります。少し前にコミックフラッパーで連載された「Wizard's Soul」(秋★枝)あたりが数少ない例でしょうか。

 これは、やはり実際のカードゲームと直接結び付いた作品の方が、そのゲームのプレイヤーを惹きつけやすいという理由が大きいでしょうし、さらにはこうしたマンガやアニメが、ゲームの対戦(デュエル)の描写もそのまま引き受けていることもあると思います。実在するゲームの対戦を描けているわけだから、わざわざ架空のゲームの対戦を行うマンガやアニメを描かなくていい、そうした需要は少ないと考えるのもやむを得ないでしょう。

 しかし、そんな中で現れたこの「TCGirls」、そうした架空のTCGを描くにしても、ちょっと視点を変えてあるのがまず目を引きました。それは、主人公たちがゲームのプレイヤーであると同時に、作中のカードショップで働く店員、もしくは関係者であること。特に、主人公の女子高生・アンは、カードゲームに以前から親しんでいるマニアプレイヤーで、隙あらばレアカードや対戦に目が向く適当さを持ちながらも、肝心の仕事ではその深すぎる知識を発揮して並々ならぬ仕事ぶりを見せる。そのギャップが非常に面白いのです。MAX連載の最新話では、新発売のパックを剥いてレアリティごとに手際よく仕分けし、シングルカードの陳列と値段付けまで行い、さらには「シングル販売と箱での販売の比率まで、予想されるレアカードの強さによって調整する」という、この手のゲームの仕事を分かっていないと出来ないような仕事ぶりまで見せてくれました。

 つまり、このマンガは、カードゲームで遊ぶ対戦(デュエル)マンガであると同時に、カードショップの店員として働く「お仕事マンガ」でもあるのです。いや、むしろこちらの要素の方が大きいかもしれません。これまでの作品でも、部分的にはそうしたショップでの仕事を描くシーンはあったと思います。しかし、この「TCGirls」は、むしろその仕事の描写の方をメインにして、そのショップの仕事への過剰なまでの事情通ぶりを見せるところが面白い。これは、作者自身の経験も明らかに生かされていると思いますし、これまでのカードゲームマンガやアニメでは、あまり見られなかった新しいコンセプトではないかと思います。

 仕事以外でも、カードゲームに対するマニアックすぎる入れ込みを見せるシーンは多い。レアリティと能力から来るカードの価格付けの実情とか、ゲームで使うスリーブに対するこだわりとか、あるいは大金をはたいてカードを買い続けることでいつか金銭感覚が麻痺するまでの顛末とか(笑)、まさにカードゲームプレイヤーなら「あるある!」と思わず頷いてしまうようなネタが随所に織り込まれているのです。

 一方で、こうしたネタは、カードゲームを知らない読者にはいまいちピンと来ない可能性もあります。しかし、上記の記事によると、今はこうした「マイナーメジャーな趣味モノ」とでも言うべき、特定の人にピンポイントでハマるようなテーマのマンガが、より支持を集めてきていると言います。幅広く多くの人を楽しませる冒険譚だけでなく、「これは自分のためのマンガじゃないか!?」と読者に特別感を持ってもらえる作品。この「TCGirls」は、そうしたコンセプトを目指して見事成功しているのではないでしょうか。今後の発展にも期待したいと思います。


<7・5>
・「異世界食堂」テレビアニメ始まる。
 ヤングガンガンで昨年よりコミカライズも始まっているライトノベル「異世界食堂」、そのテレビアニメがこの7月より始まりました。以前よりかなりいいと思っている作品だったので、このアニメ化をいい機会にその魅力を紹介してみたいと思います。
 「異世界食堂」は、もとは2013年から「小説家になろう」で連載が始まった小説で(現在も継続中)、その後2015年に主婦の友社のヒーロー文庫で商業書籍化され、さらに2016年末からヤングガンガンでコミカライズが始まりました。コミックの連載は始まってまだ日は浅いですが、当初から非常に面白いと思っていました。

 肝心の内容ですが、1週間に一度だけ異世界へと扉がつながる食堂で、訪れる異世界の住人たちに店主が料理をふるまう話となっています。最近人気の異世界ものに食マンガ(小説)を合わせたかのようなコンセプトで、現実にわたしたちが食べる料理をファンタジー世界の住人たちが堪能するという筋立て。基本的には誰かが食堂を訪れて食べるだけのシンプルな1話完結の物語。しかし、これが非常に面白いのです。

 まず注目したのが、出てくる料理がいかにも「食堂」と言った感じの庶民的な料理であること。メンチカツやロースカツやエビフライの定食、ビーフシチュー、オムライス、カレーライス、パンと卵のモーニングセットといったメニューの数々で、そんなありふれた料理を異世界の住人たちが珍しがり、しかしその美味しさに舌鼓を打つ様がとても良い。個人的にもこうしたメニューは、自分が外食でよく食べる親しみやすいものばかりで、その魅力が迫力ある作画で描かれていることに感涙してしまいました。とりわけ飯(ライス)のうまさがよく描かれているのもいいですね。カツやエビフライの定食の最大の魅力は、何といってもライスがおかずに合うことではないでしょうか!

 異世界の客人たちが店を訪れるきっかけとなった物語も、ちょっとした人情話になっていることが多く、時にほろっと泣かせるものになっているのもいい。中でもこれはいいと思ったのが、怪物討伐の任務で城に急を告げる行程の途中、疲労と空腹で追い詰められた騎士が、たまたま食堂の扉を見つける話。そこで食べたエビフライ定食の美味さに感涙し、英気を取り戻して城へと帰還、のちにお代として置いていった剣を他の客(伝説の傭兵・タツゴロウ)に渡されたことがきっかけで、再び食堂を訪れて常連客になる。本当にエビフライを食べるだけの話なのですが、空腹で追い詰められた時に食べる飯の美味さにあまりに情感を入れすぎていて、これだけでなんだかもう泣けてしまいました。

 力のこもった作画も魅力で、濃いキャラクターの存在感やなんといっても飯の描写が素晴らしい。原作書籍版のエナミカツミさんの挿絵がまず良いですが、コミカライズでも九月タカアキさんの作画が非常にいい味を出している。太めのしっかりした描線で、出てくる料理の美味しさやそれを食べるキャラクターたちの感動が、あますことなく伝わってきますね。

 始まったばかりのテレビアニメも、まずはいい反応のようでなにより。異世界ものにして食アニメという珍しい取り合わせですが、出てくる料理が庶民的なこともあって、まさに深夜の飯テロ感半端ないアニメとなっているようです。これは楽しみな番組がひとつ増えましたね。


<7・2>
・「きららファンタジア」というパワーワード。
 先日、毎年恒例の芳文社きららのイベント・きららフェスタで様々な情報の発表があり、「ブレンド・S」や「ゆるキャン△」のキャストスタッフ公開、「ご注文はうさぎですか?」新作エピソードの劇場公開日なども発表されたのですが、それと同時に「きららファンタジア」というアプリゲームの企画の話が飛び込んできて、あまりの意外な展開に驚くことになりました。

 きらら連載のマンガのキャラクターを集めたスマートフォンでのRPG。過去の作品からは「ファミコンジャンプ」のようなゲームを想像する人も多かったようですが、確かにそのような企画を彷彿とさせる驚きの企画。きらら系と呼ばれる4コママンガがこのところ安定した人気を得ていることは知りすぎるほど知っていましたが、まさかこんなゲームに発展するとは思いませんでした。

 最初の発表で、リリース時に登場する作品が「ひだまりスケッチ」「Aチャンネル」「ステラのまほう」「がっこうぐらし!」「NEW GAME!」「きんいろモザイク」「うらら迷路帖」「ゆゆ式」の8つだと発表されています。さらに、ここになかった「ご注文はうさぎですか?」や「キルミーベイベー」などを希望する声もありましたが、作品の追加は積極的に進めるようで、こうした人気作品の追加も期待して良さそうです。

 そして、こうした形で作品を集めてみると、きららというコンテンツの層の厚さに改めて驚くことになりました。現在きらら・きららMAX・きららCarat・きららミラク・きららフォワードの5誌が毎月刊行されており、人気作品は数多い。最近アニメ化された主要な作品だけでも、上記の10作品に加えて、あんハピ・三者三葉・ハナヤマタ・桜Trick・幸腹グラフィティ・わかば*ガールなどがあり、これから先もブレンド・S・ゆるキャン△・スロウスタート・こみっくがーるずのアニメ化が予定されています。
 そして、これらはあくまでアニメ化作品だけであり、アニメ化までは達成しなかったものの、過去の定番の名作や最近の新鋭作品などこれはと思える作品は数多い。個人的には、最近の作品から「まちカドまぞく」や「おちこぼれフルーツタルト」などの期待作にも是非参加してほしいと思いました。

 こうしてゲームに参加出来るタイトルが多い上に、全体的に雰囲気やイメージが近いというか、統一感があるのも強みだと思います。他の雑誌や出版社でも同じような企画は可能かも知れませんが、今はきらら系雑誌ほど作風が統一されているところは中々ないでしょうし、今こうしたゲームを出すならきららが一番よくはまっていると思います。

 加えて、こうした作品を出すことで、原作作品にとってもいい効果が期待できると思います。つまり、他の作品から興味を持った新規読者の増加が期待できるわけです。「特定の作品のファンがそれ目当てでゲームをプレイする」→「他の作品のキャラクターに興味を持つ」→「原作やアニメに手を出す」→「きらら全体が人気を得てみんな幸せ」という相乗効果が期待できるのです。これは、こうした企画の最大の長所でもあるのですが、きららは作風がとりわけ近く入りやすいという長所があり、ゲームのイメージも良くてかなり期待できそうです。

 スタッフでコンセプトデザインにきゆづきさとこ、メインシナリオ制作に木緒なち&KOMEGAMESが上がっているのも期待したいポイントです。最近時間の都合でこうしたゲームには手を出さなかったのですが、これは別格。リリースを満を持して待ちたいと思います。

 きららファンタジア


<6・29>
・少年サンデーの反撃はあるのか。
 先日より、少年サンデーの市原武法編集長のインタビュー記事が公開されていて、明確に語られる方針や過去のサンデーのマンガへの思い入れなど、中々面白い内容に感心しつつ読んでしまいました。
 市原編集長と言えば、2年ほど前にサンデーの編集長に就任した際に出された異様な「宣言文」が、大いに話題になったことが記憶に新しいです。「自分がすべてを決定して責任を取る」「新人の作品にも全部自分が目を通す」という、当時その乱れた体制が大いに批判されていた自編集部に対する檄文とも取れるその内容に対しては、賛否両論入り乱れて大いに物議を醸しました。

 それから2年。果たして少年サンデーは変わってきているのか。その結果報告とも取れる今回のインタビューには、大いに注目して読んだわけですが、ただ実際の結果はまだそれほどでもないように思われます。確かにあれから多数の新連載を打ち出し、その中には良質の作品もいくつもあると思います。しかし、サンデー全体のカラー、雰囲気はそれほど変わっていないようにも見えました。あれだけの過激な宣言文を出したくらいだから、それこそ劇的に誌面が変わるのかと期待したわけですが、まだ改革は中途半端なようにも思われます。

 サンデーが他のメジャー少年誌、ジャンプやマガジンにはない魅力となると、それはやはり学園コメディに代表されるサンデーらしい明るい作風にあると思います。つまり、他の泥臭い少年マンガに比べると、明るく楽しい作風で、すなわちずっとオタク向けのマンガに近いとも言えます。しかし、今ではそうした作品は、KADOKAWAやスクエニ、芳文社などの雑誌でずっと顕著に見られるもので、自分のような読者にとっては、まだ少年マンガの枠を抜け切っていないサンデーのマンガは、かなり物足りないわけです。

 もちろん、そこまで振り切って本当にオタク向けにしてしまうと、今度は一般読者が離れてしまうのかもしれない。しかし、では今のサンデーの方向性でいいのかというと、はっきり言えば少年マンガとしてもオタク向けマンガとしても中途半端な状態を抜け出せていないと思うのです。これはずっと前にも指摘した話ですが、今のサンデーが人気を回復するには、ジャンプやマガジンのようなメジャー少年誌だけでなく、KADOKAWAやスクエニのようなコア向け出版社の雑誌もライバルとして戦わないといけない。それが今のサンデーの陥っている極めて難しい状態ではないかと思います。

 肝心の部数も、編集長就任時の2年前の37万部から今年の32万部と減少の傾向は変わっておらず、かつて「あのサンデーが40万部を切った」という衝撃から回復出来ていないように思われます。もちろん、今はもう紙の雑誌が売れるような時代ではないですし、細かい部数にこだわる必要はないかもしれません。しかし、やはりあの80年代の楽しさをいまだ思い出すサンデーがここまで落ち込んだままというのは寂しい。編集長の話では、まだ改革は道半ばと言いますし、粘り強く反撃の時を待ちたいと思います。

 週刊少年サンデー:異例の宣言文 あだち充と高橋留美子は真意を見抜いた 市原武法編集長に聞く・前編
 週刊少年サンデー:改革うまくいけば“反撃”は可能 市原武法編集長に聞く・後編


<6・25>
・時代は今こそクイズ王!「ナナマルサンバツ」
 この夏はいろいろ「観なければならない」アニメが多すぎて今から戦々恐々としているのですが、中でもこの「ナナマルサンバツ」のアニメも、昨年12月にその発表があってからずっと楽しみにしていました。原作はヤングエース連載の杉基イクラさんのコミックですが、以前より「競技クイズ」をテーマにしていることで俄然注目していました。クイズ好きな自分としては最高にツボにはまる作品のひとつなのですが、しかしどうも自分の観測範囲ではあまり原作の感想やアニメ化への反応を見かけず、寂しく思っていたところだったので、アニメ化直前となった今とりわけ強く推しておきたいと思います。

 「ナナマルサンバツ」は、とある埼玉県の高校の「クイズ研究会」を舞台にした作品です。クイズ研究会とはすなわち競技としての本格的なクイズゲーム、すなわち競技クイズに取り組むサークルのこと。では、具体的に競技クイズとはどんなものなのか。普通のクイズとは違うのか。この作品では、冒頭からその魅力を丁寧に分かりやすく伝えています。

 主人公である高校新入生・越山識は、入学直後の登校でいきなりクイズ研究会の勧誘を受け、さらにひょんなきっかけで新入生歓迎会でも早押しクイズ大会に参加することになり、最初は勝手が分からず戸惑っていたものの、クラスメイトでクイズ経験を持つ深見真理の解説とプレイングを見て、その魅力を少しずつ理解していくことになります。

 最初に主人公が目を引かれたのは、比較的簡単な知識を問うクイズの設問がびっしりと書かれたプリントでした。読書好きで知識には自信のあった主人公は、さほど苦労もなくそれらの設問には答えられたのですが、しかし実際にそうしたクイズの問題が出る早押しクイズ大会に出て驚くことになります。
 深見真理を初めとするクイズ経験者たちは、誰もがまるで問題全文を最初から分かっているかのように、みな問題の途中でボタンを押して解答している。そう、早押しクイズにおいては、問題の先を読んで全文を推測し、0.1秒でも早く答えることが基本。そのために、問題が出題されるパターンを見極め、まるで競技かるたの決まり字のように、答えが確定する「ポイント」を見定める必要があるのです。また、中には問題の流れが途中で変わり、それまで想定された答えとは異なる解答が用意された、いわゆる「ひっかけ問題」も出題されるため、この見極めも必要です。競技クイズが認識されてマニアックなプレイヤーが増えるに連れて、そうしたプレイヤーを引っ掛けるひっかけ問題は、よく出題されるひとつの定番の形となりました。

 もちろん、それ以前の備えとして、まずはクイズの答えを出せるだけの知識量、とりわけよく出題される問題の解答を知っていく能力ももちろん必要です。こうしたよく出題される問題は、俗に「ベタ問」などと呼ばれ、時と共に変遷していくこうした問題の傾向を知って覚えておく必要がある。例えば、その時のニュースや時事問題から取られた問題は、常によく出題されることが多いため、「クイズのためにニュースや時事問題をチェックして覚える」のは、クイズプレイヤーにとってはひとつの基本だと言えるでしょう。

 そしてもうひとつ、クイズ番組で必ず見られるあの「早押しボタン」を押すテクニックももちろん必要です。0.1秒でもいかに早く的確なタイミングで押せるか。そのためには練習は欠かせない。プレイヤーによって押しやすい体勢も異なるため、そこに個性が出たりするわけです。

 こうした競技クイズならではの魅力、普通の人では中々知り得ないような奥の深い魅力が、1話からすべて卒なく描かれています。最近では、こうした『マイナーメジャーな趣味』をテーマにする漫画が支持をより集めてきているとの話もあり、すなわち最初から幅広い層をターゲットにしたテーマではなく、「自分にしか面白さが分からない」ようなテーマが、マンガのコンテンツとして通用する時代になっているというのです。この「ナナマルサンバツ」も、まさにそんな作品のひとつだと思いますし、それがアニメになることでどんな効果を生むか、それも注目されます。ずっと以前より競技クイズが好きで追いかけている自分としては、これをきっかけに多くの人がクイズに興味をもってくれたらいいなと期待しています。

 もうひとつ、作者の杉基イクラさんは、ずっと以前は「くおん摩緒」名義でスクエニで活動していて、2000年からGファンタジーで「テイルズオブデスティニー」のコミカライズを連載したことがあり、すなわち元はスクエニでデビューした作家でした。その後2004年頃にKADOKAWA系列の雑誌へと移ってペンネームも今のものへと変わり、そちらで「Variante -ヴァリアンテ-」というオリジナル連載や、「砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない」や「サマーウォーズ」のコミカライズを行ってきました。そしてこの「ナナマルサンバツ」は、これまでの連載の中でも最長の連載となり、ついにアニメ化まで達成。Gファンタジー時代から知っている自分としては、それもまたうれしかったりします。


<6・21>
・「ゆめどころ」(ユメのオワリ/サタケユラ)
 先日6月16日は和菓子の日だったそうで、和菓子関連でいろいろなマンガを思いついてしまったのですが、今回はその中でもこのところずっと注目しているフルカラーコミック「ゆめどころ」を紹介したいと思います。現在、ニコニコ静画で連載されている他、同人誌でもコミティアなどで定期的に刊行されているようです。

 その内容ですが、とある甘味処のお店を舞台に、女の子たちのゆるやか楽しい日常を描くちょっと和風な日常コメディ・・・でしょうか。まさに萌え4コマなどで見られる日常ものの魅力全開で、このままきらら系雑誌に載せてもいいくらいだと思っています。フルカラーコミックで春の桜や秋の紅葉、冬の積雪など、季節ごとの色鮮やかな背景が見られるのも楽しい。

 とにかく出てくる女の子がひとりひとりめちゃかわいいですね。楽しいこと大好きな甘味処店員・杏、行動力と明るさはMAXの元気少女・まつり、いつもふんわりのんびりの和服少女・愛々、面倒みのよい眼鏡少女・小春と、どれもみんな明るい性格で、日々をゆったりまったり存分に楽しんでいる様子が伝わってくるのが良い。個人的に中でも一番好きなのはまつりですね。明るさと元気さはMAXで常に何でも真っ先に楽しもうとする姿が最高にかわいい。

 そしてもうひとつ、最大の見所は何と言っても食べ物の作画ですね。甘味をはじめとして出てくる食べ物がどれもみんなおいしそう。あんみつとかおだんごとかおせんべいとか、秋の落ち葉でふかす焼き芋とか冬のかまくらで食べる豚汁とか春に摘んできたふきのとうのてんぷらとか、フルカラーで描かれた食べ物の質感がひとつひとつ素晴らしい! フルカラー食マンガとしても是非ともおすすめしたいところです。

 作者のユメのオワリさんは、これ以前よりニコニコ静画で艦隊これくしょんのマンガ「てーとく やめてー!?」を連載しており、こちらの方が先に人気を博しています。この「ゆめどころ」は、遅れて連載が始まったオリジナルマンガで、今のところストックはこちらの方が少ないのですが、その面白さは引けをとらないですね。
 最近ではこちらの創作ペースも上がっていて、コミティアでも毎回のように新刊が出るようになり、今非常に注目しているところです。先行する艦これの二次創作の影響を受けているのか、なんとなく似た雰囲気のキャラクターがいるのも楽しい(笑)。どちらの作品も非常におすすめであります。

 ゆめどころ / ユメのオワリニコニコ静画
 てーとく やめてー!? / ユメのオワリニコニコ静画


<6・18>
・「刻の大地」を旅物語として振り返る。
 先日、かつてのガンガン・Gファンタジー連載「刻の大地(ときのだいち)」の作者・夜麻みゆきさんから、かつての連載の再開の話があり、まさか今になってこんな展開がと驚いてしまいました。96年にガンガンで始まったこの連載ですが、のちに2000年にGファンタジーへと移籍した頃から調子を崩し、最後はついに連載中断、未完のままとなっていました。作者からも「精神的な問題で続きはもう書けない」という話を耳にしていたので、復帰はまずないものだと思っていました。それがここに来てまさかの再開の話。これにはかつての読者を中心に大きな反響がありました。

 そして、この「刻の大地」もまた、先日取り上げた「ロトの紋章」や「魔法陣グルグル」同様、ガンガン系の原点だと思っているRPG的な旅物語のひとつだと思っています。作者の夜麻さんはドラクエ4コマ投稿者からのデビューで、この作品もドラクエやRPG的ファンタジーの影響をかなり直接的に受けています。しかも、これは96年とガンガンの創刊からかなり経った時代に始まった作品で(先行関連作品の「レヴァリアース」や「幻想大陸」はちょっと早い)、初期の頃からの連載である「ロトの紋章」や「魔法陣グルグル」よりもさらに発展した形になっていると思うのです。

 「刻の大地」で描かれる旅、その最大の特徴は、主人公たち3人がそれぞれ大きく異なる性格を持ち、そして旅の目的までまったく異なることでしょう。具体的には、主人公で迷子の少年・十六夜(いざよい)が、魔物ですら殺せないような優しい心を持っているのに対し、記憶喪失でダークエルフとされる少女・ジェンドは、常に精神的に不安定で、魔物はおろか旅先で出会う人間たちにまでしばしば攻撃的となり、十六夜との間でも言い争いが絶えない。そこで旅のもうひとりの仲間である騎士の青年・カイが、常にふたりの間を取り持つ仲介役となり、最大の常識人かつパーティーのムードメーカーとして、なんとか一行をまとめて旅を続けていくことになります。。一致団結して敵に当たる典型的なRPGパーティーからは少し外れたものとなっていて、目的さえ異なる者同士があえて旅を続ける、不安定ながら奥深い関係性が描かれるようになったのです。

 この3人が続けていく旅は、決して容易いものではなく、とりわけ行く先々でたびたび人間社会との間で軋轢を生む様子がよく描かれています。常に不安定で攻撃的なジェンドがそのきっかけとなることも多いのですが、そもそもよそ者を積極的に受け入れない地域ごとの姿も同時に描かれている。この「刻の大地」のプロトタイプとも言える前連載「幻想大陸」では、キャラクターの設定はほぼ同じながらかなり雰囲気は柔らかく、明るいコメディとして描かれていたのに対して、一転してこちらはシリアスで極めて厳しいとも取れるストーリーとなっていて、最初に読んだ時はひどく驚いた記憶があります。

 しかし、この「刻の大地」の旅は、厳しいと同時にとても楽しいと思える雰囲気もよく描かれていて、むしろ読者である自分までこうした旅を続けたいと思わせるほどの力があります。その最大の理由は、この作品で描かれる世界の美しさでしょう。「オッツ・キイム」と名付けられたこの物語の世界は、一見してオーソドックスな西洋風ファンタジー世界ではありますが、行く先々でそれぞれの地域の自然の美しさ、人間の街や村の魅力的な文化や生活の様子が描かれ、「この世界に行ってみたい」と思わせる魅力に溢れているのです。

 そんな世界を、旅の目的である北へと向けてゆっくりとではあるが旅を続ける3人の道程もいい。丘や川を越えて街や村に至り、海に達すれば船に乗って別の大陸まで漕ぎ出し、その先でまた北へ向かって旅を続ける。コミックスの表紙でもそんな旅の姿が描かれることが多く、世界を巡るロマンに溢れていた。この「そこに行ってみたいとまで思わせるほどの世界そのものの魅力」こそが、「刻の大地」の最大の魅力のひとつではなかったかと思っています。


<6・14>
・「まほらば」特典アイテム「まほタロ」を振り返る。
 このところずっと部屋の整理を継続しているのですが、ついにかつてのコミックスの特典や全員サービスを雑然と保管していた棚を整理することとなり、そこから出てきたかつての宝物の数々を前にして、思わずひとつひとつじっくりと堪能してしまいました。かつて、ガンガン系にはまっていた頃は、今よりもずっとこうしたアイテムを集めるのに熱心だったと改めて確認。

 お家騒動以前の90年代の古い品もありましたが、それ以上に多かったのは2000年代WING関連のアイテムですね。お家騒動でかつて好きだった作品がほとんど崩れ、意気消沈していた自分にとって、WINGはその独自の作風で自分にとって救いとなりました。その中でも中心的な存在だったのが、あの小島あきらさんの「まほらば」ですね。思った以上に多数の特典やグッズが出てきて、一時期ひどくはまっていたことを思い出しました。

 その中でもこれはと思ったのが、当時コミックスや雑誌の付録として何度も出された「まほタロ」というアイテム。まほらばのキャラクターをあしらったタロットカードに他ならないのですが、大アルカナに対応した全22枚のカードの他、のちにEXとして追加された小アルカナに対応した4枚のカード、ギャグっぽい絵柄で描かれた「にせタロ」(偽物カードというコンセプト)、キラ加工されたいわゆるホロカードなどもありました。そして、今回調べてみるとすべてのカードが揃っていることが判明。当時WINGを買っていてよかったと思わせる逸品です。

 このアイテム、基本的にはコミックスかWING本誌の付録、及びコミックス+本誌応募券という形での配布で(ひとつだけドラマCD付録あり)、すなわち当時「まほらば」のコミックス(初版)とWING本誌さえ買っていれば、すべて自然に揃うようになっていました。その意味で非常に良心的な企画だったと思います。
 しかし、連載途中で人気を博したアニメから入ってきたファン、及びコミックス派の読者にとっては、揃えるのがかなり難しいものともなっていて、そのためかオークションなどで割とプレミア価格がついていたこともありました。とりわけアニメからの人気は大きく、以前に出たタロットがほしいという要望に応えて、「量産型」と称して背景違いのカードを雑誌付録にしたこともありました(量産型のカードもすべて持っています)。

 このタロットの最大の魅力は、やはり小島あきらさんの描き下ろしによる遊び心溢れるイラスト。キャラクターのどこか抜けた個性をそのままカードに反映させたようなイラストで、背景含めて思わず笑ってしまうようなイラストも多い。そうしたイラストで、メインキャラクターのみならずサブキャラクターまで満遍なくカード化しているのもうれしい。「まほらば」は他にもコミックス特典のゲームブックやWINGの付録冊子など、遊び心溢れる企画が多かったのですが、このタロットもまた最高のマスターピースではないかと思います。最後に連載終了に際してSPカード「THANK YOU!」が付録となった時はちょっと感動してしまいました。お家騒動後のWING全盛期の懐かしい思い出ですね。


<6・11>
・「きらきら☆スタディー 〜絶対合格宣言〜」
 かつての最初の連載「放課後アトリエといろ」から「コドクの中のワタシ」「クロちゃんちの押入れが使えない理由」と華々つぼみさんの連載を何度も取り上げてきましたが、この『きらきら☆スタディー』はまだ取り上げていなかったので、コミックス2巻が発売された今改めて紹介してみたいと思います。最初の「放課後アトリエといろ」は、かなり人気があったにもかかわらず唐突な打ち切りにあってかなり驚きました。次の連載「コドクの中のワタシ」もコミックス2巻どまり。しかし、このマンガは、これまでの中でも最も期待できる作品で、今度こそ行けるのではないかと思っています。

 「きらきら☆スタディー 〜絶対合格宣言〜」は、まんがタイムきららで2015年6月号から開始された連載で、ひとつ前の連載「コドクの中のワタシ」終了の直後から始まっています。今回のテーマは高校での「受験」。難関の大学を目指す友達の目標を知って、自分もその大学を目指すと決意した主人公が、自分もその大学を目指すために、受験勉強をするための部活を創設して活動を始めるという内容となっています。
 学校を舞台にした作品は無数にありますが、学校での勉強・受験勉強そのものをテーマにした作品は、比較的少なくなると思います。増して、生徒たちが自主的に集まって受験勉強を行う部活というコンセプトとなると、それはかなり珍しいのではないか。そんな「受験部」とでも言える部活での活動ぶりは、和気あいあいとしたコメディが中心とはいえ活動自体はまじめで本気度も高い。

 個々の科目の内容に深く突っ込んだ話こそそれほど多くないですが、受験に向けての計画や勉強に取り組む際の工夫や心構え、そうしたことが要所で語られています。主人公たちも最初から優秀な成績ではないものの、確かに試験に向けて一歩一歩伸びているのだと思わせる達成感がある。
 2巻で特に面白かったのは、幽霊だと噂になっていた数研のOBで卒業生の女の子の話。度重なる不運で何度も受験に失敗して浪人を続けていた彼女ですが、数学研究会に所属していたほど数学が好きで、その面白さを他の部員たちに向けて紹介していく。かつての高校時代、数研の先輩に誘われる形で入った部活の活動で、最初は興味のなかった数学に興味を持ち、やがて数学が好きになったエピソードなどは、すごくいいなと思ってしまいました。

 一方で、きらら4コマらしく学校生活を描いたコメディも楽しい。2巻では部員のひとりの委員長のエピソードが特に面白く、一見して真面目で優秀な生徒に見えて、実は家ではオタク趣味にひたすら傾倒し、あまりにはまりすぎて成績まで下がってしまっていることが判明。一念発起した部員のひとりの同棲宣言によって、他の部員も駆けつけて部屋を一気に片付け、受験に臨む態勢を作り出していく。楽しいコメディと受験に向けてのストーリー、その双方がバランスよく織り込まれた4コマになっていると思います。

 キャラクターの個性もこれまでの作品以上に際立ち、また作画のレベルも相変わらず非常に安定している。これもまたまんがタイムきららの有力候補として、あるいは作者の華々つぼみさんにとっても最大の期待作として注目したいところです。


<6・7>
・「現代魔女の就職事情」
 「やがて君になる」や「新米姉妹のふたりごはん」のような新しいタイプの作品で、改めて電撃大王に注目しているところなのですが、最近では「現代魔女の就職事情」(原作:相沢沙呼、作画:はま)も個人的にかなり好きな作品となってます。最近の電撃系雑誌は、いろいろと自分の好みにすっぽりとはまりつつあってたまらない。

 「現代魔女の就職事情」は、タイトルどおり現代に生きる「魔女」の少女の日常の活動ぶりを描いた作品で、コミカルな雰囲気のガールズコメディとなっています。主人公の玉城禰子(ねこ)は、母親に1年間の魔女の修業を言い渡されて新しい街にやってきた女の子。魔女の能力を使って1年間人々のために仕事をするのがその目的。「就職事情」とありますが、どこか会社や組織に就職するのではなく、どちらかと言えば「仕事探し」のような内容だと思います。

 魔女とはいえ禰子の出来ることは、ほうきに乗って空を飛ぶことと簡単な占いやお祓いのようなまじない程度。空を飛ぶにも制限があり、どれも直接的には仕事に結び付く能力ではなく、かつ普段の生活能力もない禰子は、いきなり旅に放り出されて困っている状態です。しかし、そんな旅先で偶然出会い家に住まわせてくれることになった菊花と喫茶店をやっている彼女の祖父、ライバル(?)ながら何かと気遣ってくれる神社の巫女の弥生、仕事をしている大人の女性として頼りになる陽向さんのアドバイスなどで、一歩一歩自分の今やるべきことを見つめ直して成長していく。時にかなりシリアスな重い話もあり、生き方を考えさせる話にもなっていると思います。

 そんなシリアスなストーリーが根底にあるとはいえ、基本的には明るいコメディとして読めるのも魅力です。主人公の禰子ちゃんが、当初は生活能力もほとんどないほどどこか抜けた少女で、そんな彼女をサポートする菊花や弥生とのやり取りがとても楽しい。「やがて君になる」や「新米姉妹のふたりごはん」のようないわゆる百合マンガ色は薄いと思っていますが(自分は普通のガールズコメディとして読んでます)、そうした女の子たちの日常ものコメディとして読んでも楽しいでしょう。

 そしてもうひとつ、とにかく作画のはまさんの描く絵が最高にかわいい。さらっとした感じのいい絵柄で、禰子ちゃんを初めとする女の子たちが本当にかわいく描かれている。とりわけ繊細なきれいな線で描かれる細っこい足のラインがたまりません(笑)。この作者さん絶対足を描くのが好きなんじゃないかと思います。あと禰子が着ている制服は実は学校の制服ではなく、それっぽい服を仕立てた一種のコスプレ(?)なんですが、この黒ずくめのかわいい制服も大きな魅力なんじゃないかと思います。

 最近の電撃系雑誌は、前述の百合作品の新鋭として注目されている「やがて君になる」や「新米姉妹のふたりごはん」、最近アニメ化された「この美術部には問題がある!」や「ガヴリールドロップアウト」、一方でアニメ化を控える「三ツ星カラーズ」など、これはと思えるオリジナルコミックが多くて、今改めて注目しているところです。そんな中でこの「現代魔女の就職事情」もまた注目の作品で、個人的にはそのかわいさで今どれよりもはまっているくらいです。ほんとこれもアニメ化まで行ってほしいと切に期待しています。

 現代魔女の就職事情月刊コミック『電撃大王』


<6・4>
・「魔法陣グルグル」を旅物語として振り返る。
 少し前に、ガンガンのマンガの原点のひとつはRPG的な旅物語だという話をして、その最初の代表として「ロトの紋章」を取り上げたのですが、そろそろ続きとして、今度はまさかの再アニメ化で今話題が盛り上がっている「魔法陣グルグル」を取り上げたいと思います。

 この「魔法陣グルグル」、初期の頃からのガンガンの看板作品ではあるのですが、同じく雑誌の看板的存在だった「ロトの紋章」や「ハーメルンのバイオリン弾き」と違い、91年の創刊号からの連載ではありません。創刊から少し遅れて1年半ほど経った92年8月号からの連載でした。そのためか、創刊当初からの連載より、少し発展した形のマンガになっていたのではと思うのです。

 真っ先に注目すべきポイントは、RPG的な物語を思い切りギャグもしくはコメディ化したこと。ギャグが入るという点では「ハーメルンのバイオリン弾き」にもそうしたシーンがありましたが、グルグルの場合、RPGの設定をとことんパロディ化して、笑って楽しめる冒険物語としたことが非常に大きかった。ロト紋にしろハーメルンにしろ、これらの作品における冒険と戦闘の旅は、時に命を脅かされるほど厳しい側面も大きい。しかし、グルグルの冒険の旅は、行く先々で出会う人々はおもしろおかしい人ばかりで、あるいは敵となるモンスターたちまでコミカルで、ダンジョンの仕掛けまで面白かったりして、どこへ行っても楽しさが満ち溢れている。

 こうした作風の原点のひとつとして、作者の衛藤先生がかつて手掛けたドラクエ4コマがあったことは間違いないでしょう。ドラクエの楽しいキャラクターやモンスターをコミカルな4コマにしたコンセプトから、さらにこうしたマンガが生まれることになった。あるいは、元々のドラクエというゲーム自体、鳥山明デザインのモンスターやキャラクターが、これまでのRPGと比較して非常にコミカルで明るいイメージだったこともあります。そうしたイメージからの着想としてまずドラクエ4コマがあり、さらにグルグルのようなマンガが生まれることになったわけです。

 もうひとつ、この魔法陣グルグルには、主人公ニケに対するヒロインククリの恋愛的な関係描写もあり、それが共に旅を続ける楽しさに直接結び付いているところもあります。「勇者様と一緒に旅をしたい」というククリの心が、そのまま作中の旅の楽しさをさらに高めて魅力的なものにしていると思うのです。

 こうした楽しい旅を象徴するエピソードとして、アニメ1期の最後で、勇者がラスボスとの闘いに行かずにやめてしまうくだりが挙げられると思います。これはアニメだけのオリジナル展開で、当時はいろいろと物議を醸したものですが、しかしこれこそがまさに「グルグル」ならではの旅のあり方を象徴していたと思うのです。ただ楽しい旅を続けたい、それならばラスボスを倒す必要もない(笑)。原作がまだ続いているがゆえの苦肉の策のエンディングだったとも思えますが、結果的にこれが最もグルグルらしいエピソードになったのではないかと思っています。


<5・31>
・「わたしと先生の幻獣診療録」(火事屋)
 マッグガーデンの雑誌コミックガーデンで昨年から連載されている「わたしと先生の幻獣診療録」のコミック1巻が、先日5月に発売されました。あの「魔法使いの嫁」と関連させて宣伝もされていたファンタジー作品で、マッグガーデンとしては、このヒット作に続いてこうした近現代を舞台にしたファンタジーを打ち出していこうという姿勢なのかもしれません。

 その内容ですが、ファンタジーではおなじみの幻獣(モンスター)を魔術師と医者が協力して治療するというストーリーで、興味深いコンセプトの一作ではないかと思います。医療ものとファンタジーを組み合わせた作品とも言えますが、いい感じに双方の要素を取り込んであると思います。

 舞台はおそらくは西欧近代。産業が勃興し科学技術が一気に進んでいた時代。一方で旧来の魔術は次第に忘れ去られていく時代に、なおも母から魔術師の技を受け継いだ少女と、彼女を見習いとして雇い医師稼業を続ける青年が、時折遭遇する傷ついた幻獣(モンスター)の治療に取り組みます。魔術の薬を調合して治療を進めようとする少女と、科学的な医療を主軸に据えつつも、オカルトの魔術や幻獣の存在も認め、超自然的な存在である幻獣の診療に当たる青年医師。魔術と科学、そのどちらの方法も認め、互いに協力して幻獣の治療に当たるところに大きな魅力を感じました。

 登場する幻獣たちも、流星の変化した姿であるという翼竜・リントヴルムや、火を食べランプの中で生きる火竜サラマンダー、ウサギに角と翼が生えたかのような獣ヴォルパーティンガー、根っこが人の姿をしていることで有名な植物・アルラウネ(マンドレイク)、水辺に住む馬のような幻獣・ケルピーと、一風変わったものが多い。いずれもどこか愛嬌のあるかわいらしい容姿や不思議な性格をしていて、そうした生き物たちと治療を通じて交流を重ねる優しい物語になっていると感じました。絵柄も柔らかい中性的なもので、こちらからも優しい雰囲気を感じます。

 マッグガーデンは、かつてエニックスお家騒動で多数のエニックス作家を引き連れて創刊された経緯から、いわゆるガンガン系と呼ばれる中性的なファンタジーの作風を、最も直接的に受け継いでいたはずでした。しかし、実際には多くの作品が成功せず、出版社自体も多大な問題を抱え続け、今に至るまで衰退の一途を辿ってしまいました。今ではかつて創刊された雑誌の多くはすでになく、残った作品もほとんどがウェブコミック誌へと移行しています。そんな中で唯一残っている紙雑誌のコミックガーデンで、この「わたしと先生の幻獣診療録」は、かつてのエニックス時代から続く作風もわずかに感じる貴重な新作ではないかと思います。先行するファンタジーのヒット作「魔法使いの嫁」に続いて、こちらも人気が出てほしいと思いました。


<5・28>
・「鳩子のあやかし郵便屋さん」
 少し前の日記で、最近増えている妖怪を扱ったコミックをあれこれ紹介しました。そこではGファンタジーをはじめ主に女性向けというか少女マンガ的な作品を中心に取り上げたので、今回は日常系というか萌え系というか、そういったジャンルの作品まで手を広げてみようと思います。

 中でも最近の注目作は、4月にコミックス1巻が発売されたばかりの「鳩子のあやかし郵便屋さん」(雪子)です。竹書房のまんがくらぶで連載中の4コママンガで、いわゆるワイド4コマと呼ばれる作品です。作者は「ふたりべや」ですでに人気上昇中の雪子さん。百合4コマとしてそちらはすでに評判ですが、コミカルに妖怪たちを描くこちらの作品の楽しさも見逃せません。

 タイトルどおり、あやかし(妖怪)たちの間で郵便屋の仕事をしている人間の女の子・鳩子の日常を描く作品で、現代を舞台にした設定を思い切り生かしているところが目を引きます。そもそも鳩子が妖怪の郵便屋をやっているのも、彼らが人間の通販を頻繁に利用しているため。そう、このマンガの妖怪たちは、人間の現代社会に順応して生きているのです。

 妖怪というと、時には神にも近い存在として、人間とは異なる独自の世界・価値観で生きていて、時に人間にちょっかいを出したり交流が生まれることはあっても、根本では相容れない存在として描かれることも多いかと思います。それゆえに人間に忘れ去られて消えてしまうこともあるわけですが、この「鳩子のあやかし郵便屋さん」の妖怪たちは、逆に人間たちの文化を積極的に取り入れ、モノやサービスを使って人間社会の中でたくましく(?)生きている。その俗っぽさに思わず笑ってしまう一方で、人間たちに合わせる苦労も同時に描かれ、ああ昔は恐れられた妖怪たちも今は大変なんだなとちょっと同情もしてしまう。笑えるけどちょっと切なさも感じる作品になっています。妖怪たちがここまで人間社会に近づいた姿として描かれるのは面白いですね。

 そんな妖怪たちの間で日々郵便の仕事をこなす鳩子と、彼女のパートナーで同居人の妖怪(猫又)・ここねの日々の生活も面白いです。普段はテンション低めで淡々と仕事をこなす鳩子と、基本明るい性格でかつ独占欲も強く鳩子にべったりくっついているここな。このふたりの関係は、なんとなく「ふたりべや」のかすみと桜子を思わせるところもあるような気がします(性格はちょっと違いますが)。また、このふたりが仕事で接触する妖怪たちは、人間社会に溶け込んでいるとはいえ皆ひとくせもふたくせもある存在。時には鳩子が危なっかしい目に遭ったりもしますが、そんな時は強力な力を持つ猫又のここねが鳩子を守ろうとする心強さも見せます。

 さらには、鳩子は一見小さな女の子に見えて実はとんでもなく長く生きているらしく、さらには普通の人間には見えない妖怪を見る力も持っています。また、強力な妖怪である猫又のここねが、人間であるはずの鳩子と共に暮らしているのもひとつの謎となっていて、このあたりの秘密が語られていくストーリーも興味深いところです。「ふたりべや」と並んでこちらの連載も注目して追い掛けたいですね。

 俗っぽくて可愛い妖怪4コマ――雪子『鳩子のあやかし郵便屋さん。』4コママンガのススメWeb


<5・24>
・ポストトゥルース・フェイクニュースの観点から見る「虚構推理」。
 部屋の本の整理をしていて、久しぶりにかつての城平京の名作「虚構推理」を見つけて少し懐かしくなりました。最初に講談社ノベルズで出たのが2011年。のちに2015年に講談社文庫でも出て、さらには同年から『少年マガジンR』でコミカライズも始まり、約2年の連載で先日終了しています。元々斬新すぎるコンセプトのミステリー小説として話題でしたが、このコミック版の出来もよく、いち早く雑誌の看板的な存在となりこちらでも人気が再燃する形となりました。

 「スパイラル」「ヴァンパイア十字界」「絶園のテンペスト」とガンガンでのコミック原作で知られた城平京さんですが、本職(?)の小説であるこの「虚構推理」もまたこの作者らしい人を食ったような設定と展開が目を引きます。舞台は現代日本ではありますが、妖怪や怪異が実際に存在しファンタジー要素が当然のごとく存在する世界。主人公たちの目的は、実在し被害も出ている都市伝説の怪異を消滅させることです。

 噂にとどまらず本当に実在してしまっている都市伝説の怪異を消すにはどうすればいいのか。都市伝説とは、人々の噂話が現実味を帯びて具現化したもの。となれば、その噂を否定し人々が信じないようにすればいい。そうすれば都市伝説は消えてしまうだろうと。
 そのために主人公たちが取った手段。それは、インターネットで噂を否定する説を流し、それを人々に信じ込ませること。説得力のある説明を提示し、人々が食いついたところでさらに別の説で補完する。想定される反論の書き込みに対しても卒なく対応し、さらにその上を行く反論を用意して、二段構え三段構えで次々と説得力のある説を積み重ね、ついにはネットで集まってきた人々全員に「都市伝説など存在しない」と思い込ませることに成功する。そのネットを通じた論戦の描写が非常に面白いのです。

 もう気付いた人もいると思いますが、この作品で主人公たちがやっている行為は、まさに「フェイクニュースを流す」ことに他なりません。SNSでの政治談義が当たり前になった昨今、もはやひとつのトレンドとなってしまった偽ニュース。こうした情報の拡散手段を、ミステリーらしい現実に顔を合わせての会話ではなく、あえてネットを通じた書き込みの応酬としたのも、非常に鋭い視点であったと思います。

 ミステリー小説として見ると、ここ最近のトレンドとなっている「多重解決」の発展形ともなっています。ひとつの事件に対して複数の解決が提示されるタイプの作品で、最近のミステリーのひとつの潮流ともなっているようです。どれが真実なのか最後まで分からないものもあれば、どれがひとつが真相であると確定するものもある。そして、この「虚構推理」は、その真実の方が最初に提示されており、のちにそれを否定する嘘の推理を流すという、まさに逆説的な構成となっています。「推理において重要なのは真実ではなく説得力。聞いているものを説得できればそれでいい」と言っているかのようです。

 そして、こんな風にネットを通じてフェイクな推理を流すような作品が、まだSNSが流行し始めた2011年という早い段階で発売されたのは、今考えると時代を先取りしすぎていた感もあります。さすが城平京と言うべきか、あるいは現実の方が虚構に追いつくほど乱れてきているのか。今なら安価に文庫でも、あるいはコミックでも読むことが出来ますので、是非一度その鋭さを味わってほしいと思います。


<5・21>
・「スラーヴァ!ロシア音楽物語」
 先日のコミティアでは紹介したい本がいろいろあったのですが、その中で留守keyというサークルから出ていた同人誌が、つい最近商業書籍化されたと聞いて、急ぎ購入してさらにレビューまでしようという気になりました。これまでクラシックの作曲家を描いたコミック&解説本を多数出していて、数年前からコミティアではかなり話題になっていたのですが、まさか商業で本が出ていたとは思いませんでした。

 その書籍のタイトルは、「スラーヴァ!ロシア音楽物語」。数ある同人誌の既刊の中でも、とりわけロシアの作曲家を取り上げた本が多数あったのですが、それらを一冊にまとめた本となっています。同人誌で言うところの「総集編」的な存在でしょうか。

 収録されている作曲家は、グリンカ・ムソルグスキー・リムスキー=コルサコフ・ボロディン・ラフマニノフ・ショスタコービッチの6名。いずれもその人となりと作曲へと取り組んだ経緯が、迫力の筆致のコミックで描かれています。いずれのコミックも、15〜20ページ程度の分量で決して長くはないのですが、作曲活動の要所となるシーンはしっかりと描かれ、劇的な作画の迫力もあって実に惹きこまれる出来となっています。また、コミックに加えてテキストによる解説のページが充実しているのも特徴で、年表や相関図なども駆使してしっかりとコミックを補完する形となっています。こちらを読むことでさらに深い知識を得ることが出来るでしょう。また、上記の6名に加えて、チャイコフスキーもテキストの解説のみで取り上げられており、他よりも多いページ数を取ってじっくりと語られています。

 どのコミックと解説も全部面白いのですが、個人的に特に気に入ったのはムソルグスキーとボロディンのストーリーでしょうか。ロシア五人組の中でも最も個性的で熱烈な情熱を持ちながら、それがあだとなって仲間との仲が疎遠となり、最後には極貧のうちに若くして死んだムソルグスキー。そんな彼が晩年になって意気投合した画家・ガルトマンの死に直面して作曲した弔いの曲。その「展覧会の絵」を魂を込めて短期間で作り上げたシーンが鬼気迫る迫力で描かれています。
 対して、同じ五人組のひとりで本職は化学者として大きな業績を上げながら、余暇で作り上げた曲でも数々の名曲を残したボロディン。彼の交響詩「中央アジアの草原にて」のバックストーリーが、自然豊かな草原での民族の融和というイメージで綴られ、さらにはそれが有人宇宙船ソユーズ(ロシア語で「肩組む仲間」)にも繋がるという優しく希望に満ちた1話となっています。

 また、作曲家ごとの同人誌が1冊にまとまったことで、ロシア音楽の流れがより理解出来るようになったのも大きいですね。ロシア音楽の祖・グリンカに始まり、アマチュアによる市民の音楽を手掛けた偉大なるロシア五人組からプロコフィエフへと繋がり、さらには同時期にモスクワで活動したチャイコフスキーにも言及しつつ、最後にはソビエト時代に政治的圧力と苦闘しつつ自身の音楽をも貫いたショスタコービッチで締める。そのロシア音楽の流れが、年表や相関図で非常に分かりやすく解説されています。この1冊だけで本気で勉強になる本になっていますね。

 元となった同人誌の方も、ずっと大きな版型で迫力のコミックが読めることや、書籍で割愛されたより詳しい解説や作者による対談が読めるというメリットがあります。また、シューベルトやドヴォルザーク、スメタナのようにロシア以外の作曲家の本も出ている。機会があればこちらの方も是非手に取ってほしいと思います。


<5・17>
・irodoriの過去の作品を振り返る。
 先日コミティアであのたつき監督の自主制作アニメサークル「irodori」を訪れたところ、予想以上の盛況で驚いた一幕がありましたが、わたしも長蛇の列に延々と並んでなんとか新刊と既刊を手に入れました。新刊だった「けものフレンズ」設定本以外のアニメDVDは、ニコニコ動画でも無料で公開されて見られるものですが、それでも少しはたつき監督の口座の足しになるだろうと思って買えるものは全部買いました。結構なお金になったけど後悔はしてない。多分。

 そして、ようやく改めてDVDにもなった過去の作品を見たところ、どれも自主制作らしさは残るものの、それ以上に遊び心に満ちたものだったり強烈な完成度だったりで、思った以上の面白さで驚きました。最近になって「けものフレンズ」のヒットでようやくニコニコでの動画再生数も伸びてきているものの、いまだ見ていない、知らない人も大勢いると思われるので、ここで一度自分なりにその魅力を紹介してみたいと思います。

<眼鏡>
 2008年に制作・投稿された最初の作品。全20分。「眼鏡(をかけた女の子)」をこよなく愛する変態青年・めぐむと、とある事情から眼鏡にトラウマを持っている眼鏡屋の娘・さつきを中心としたハートフル(?)・バトルギャグコメディとなっています。DVD付録の冊子では「萌えアニメ作ろうぜ!」と言って始まった企画らしいですが、どうもそれからは大幅にズレてぶっ飛んだ作品となっていました。

 とにかくメガネに対するこだわりを中心に据えて畳み掛けるバトルとギャグの応酬がすごい。眼鏡を嫌うさつきが「暴走」するたびに商店街がシャッターを一斉に閉めて災害モードに移行する展開などは大爆笑。ただの(?)高校生がドラゴンボールばりの壮大なバトルを繰り広げるギャグアニメに仕上がっています。
 そして何と言っても面白いのは、ぎっしりと詰め込まれたネタ・メタネタ・パロディの嵐。作中のポスターや看板にことごとくネタが描かれ、セリフもジョジョやジブリ作品や様々な有名アニメから引用されたパロディの連発。そして唐突に挿入される格闘ゲームやロックマンの画面、果ては東方やゆっくりまで登場するところで腹がよじれるほど爆笑しました。「けものフレンズ」では、「パロディは入れない」というコンセプトで作られていたので目立つパロディはほとんどありませんでしたが、実はもともとの作風はそれとは正反対のパロディ全開だったというのが意外なところでした。

<たれまゆ>
 濃密なギャグコメディだった眼鏡とは正反対に、こちらは心地良い世界観に彩られたサイレントアニメ。2010年制作で4分と短いショートアニメですが雰囲気は抜群でした。ストーリーは「水を操る巫女が水を操るアニメ」としか説明しようがない内容なんですが、初見では深く考えずともゆったりとアニメーションと世界を見て楽しめる作品だと思います。児童向けのジュブナイルファンタジーみたいな雰囲気で個人的には最高でした。

<ケムリクサ>
 2010年から2012年にかけて制作された4作目。全29分。これがまた前作とはまったく違った独特な設定が目を引くハードSFアニメとなっています。その設定が冒頭であまり説明されず、予備知識なしだと少々難解なアニメともなっていますが、その世界設定や映像表現があまりに素晴らしく、誰もが見入ってしまうこと必至でしょう。加えて「けものフレンズ」を彷彿とさせる要素もいろいろと見られ、それに最も近い原点となっていることも間違いない。ダークな世界観はジャパリパークの不穏な一面を彷彿とさせ、また唯一登場する人間キャラクターがあのかばんちゃんの直接のモデルではないかとも思われます(そっくりそのままのセリフも出てくる)。

 また、どうもこの作品がプロデューサーの目に留まって「けものフレンズ」の仕事をするきっかけとなったらしく、その点でも極めて重要な作品です。「けものフレンズ」から遡って一度観ておいて損はないですね。

<駅長さん>
 現時点でのirodori最新作。2016年制作で今回のコミティア新刊のひとつでもあります。2作目「たれまゆ」とほど近いコンセプトのサイレントショートアニメ(5分)で、映像のクオリティが上がっていてさらに心地良いイメージのジュブナイルファンタジーとなっています。どこか空の上で仕事をする「駅長さん」が空中に線路をかけていくというロマン溢れる映像作品で、ゆったりほのぼのしたBGMもあいまってどこまでも心地良い作品となっています。

 この作品以降「けものフレンズ」の仕事が本格的にピークを迎えたからか、少し活動が縮小気味になっていたのですが、放送終了後にあの「12.1話」でまさかの復活。これからもまだまだこうした活動を続けてほしいものです。


<5・14>
・「スロウスタート」がついにアニメ化決定!
 先日は暗い話題の日記となってしまったので、今回は同時に来た明るい話題を。まんがタイムきららの連載「スロウスタート」(篤見唯子)のアニメ化が、ついに今月のきらら最新号で告知されました。以前よりきららでもずっと本命のひとつとして期待していただけに、今回のアニメ化も予想の範囲内でありましたが、それでもひどくうれしいニュースであることに変わりありません。

 「スロウスタート」は、とある事情で高校に1年遅れて入学した女の子・一之瀬花名を中心に、彼女とクラスメイトたちとの日常を描く学園コメディとなっています。作品の雰囲気やストーリーは、他のきらら系4コマと近いものもありますが、特徴的なのは、やはりその花名が一年遅れての高校生となっていること。「スロウスタート」というタイトルもここから来ています。

 そして、その素性を中々周囲に公開する勇気が持てず、長い間隠して学校生活を送っていることで、楽しい学園生活にもどこか一抹の寂しさがつきまとう。自分は果たして他の人たちと釣りあうような高校生としてやっていけるのか・・・。その疑問や不安が主人公の胸に常に存在することが、他の学園コメディにはない独特の雰囲気を生み出していると思います。

 これは、いわゆる本格的な社会派の作品ではないと思います。あくまで基本は学園日常コメディ。しかし、こうした設定を通して、一年を遅れて過ごすことへの肯定感を得ていく効果は確かにあると思うのです。別に他の人より遅れてもいいじゃないか。「スロウスタート」でもいいじゃないかと、そう勇気付けられる作品になっている気がするのです。アニメでこうしたテーマがどう描かれるかにも注目したいところです。

 作者の篤見唯子さんは、かつて2002年よりエンターブレインの「マジキュー!」で連載された読者参加企画「瓶詰妖精」のキャラクターデザインとコミックを担当し、のちにこれはアニメ化されました。古くからのファンではこの作品を覚えている人はいまだ多いはずです。個人的には、同時期に発売されたKIDのアドベンチャーゲーム「Iris 〜イリス〜」のキャラクターデザインを担当したことも印象に残っています。

 しかし、これら商業作品での活動は、もうずっと昔のこととなり、ここ最近は長らく同人活動の方で有名になっていました。それが、2013年になって本当に久々の商業作品としてこの「スロウスタート」の連載を開始。待望の復活ということで、その時以来ひときわ注目して追いかけていましたが、ここに来てついにアニメ化を達成。古くから知るファンとしてこれほどうれしいことはないですね。いまだアニメ化が続くきらら系作品の中でも、特に期待してその放送を待ちたいと思います。


<5・10>
・まさかあの武田日向さんが・・・。
 先日、「GOSICK」の桜庭一樹さんのブログで、あの武田日向さんが今年1月に逝去されていたことが公開され、あまりの話にしばし二の句が告げなくなりました。もう5、6年以上まったく音沙汰がなく、もはや話題にすることもほとんどなくなっていたとはいえ、それにしてもまさか亡くなるとは想像もしていませんでした。かつて最も評価し好きだった作家として、自分にとってひときわ特別な存在であったので、今になってもその衝撃は大きかったです。

 武田さんは、主に角川(富士見書房)のドラゴンエイジで活動していた作家で、最初の連載「やえかのカルテ」が始まったのが2001年でした(当時はまだ前身のコミックドラゴン)。しかし、本格的に人気を得て知られるようになったのは、何と言っても2003年に刊行が始まった「GOSICK」の挿絵の仕事と、遅れて2006年にドラゴンエイジPureで開始された2つ目のコミック連載「異国迷路のクロワーゼ」ではないかと思います。
 「GOSICK」のイラストを最初に見た時には、何と言ってもその繊細極まりない作画の美しさ、緻密さにまず目を惹かれました。「一体どこまで描き込んでいるのか」と思えるくらいの背景の美しさに見入りました。加えて、何と言ってもヒロインのヴィクトリカがかわいすぎましたね(笑)。武田日向さんのイラストがなければあそこまでのキャラクター人気は出なかったと思います。

 その極まった作画力は、マンガ作品の「異国迷路のクロワーゼ」でも発揮されました。舞台となる19世紀フランス・パリの街並み、屋内の家具や調度品の数々が、どこまでも緻密に描かれていたのです。イラストだけならまだしも、通常のマンガのページすべての作画が、それと同等のレベルで完成されていたのです。もうその世界観だけで痺れるほどに圧倒されてしまった。
 作画のみならず、その優しいストーリーにも強く引きこまれました。遠い異国の日本からフランスへと奉公にやってきた少女・湯音と、看板屋の店主である青年クロードとの心温まる交流にどこまでもほだされました。日本文化に理解を持ちふたりの間を受け持つクロードの祖父・オスカーや、ライバル店のオーナーの娘であるアリスらの働きも見逃せません。19世紀というおそらくは今よりも厳しかったと思われる時代に織り成される優しい物語。ある種の異文化交流ものの先駆けにして傑作であったことは間違いないと思います。

 しかし、この連載、2009年にコミックス2巻が出て以降、連載が半ば途絶えて続巻がいつまで経っても刊行されなくなってしまいます。同時期に「GOSICK」の挿絵の仕事もなくなり、一体どうしてしまったのかと長らく心配していたのですが、はるか遠くのこの2017年になってまさかこんな結末を迎えてしまうとは。結局長い長い間待ち続けていた3巻は未完となってしまいました。

 唯一幸いだったことは、2011年にアニメ化されたことでしょう。コミックスわずか2巻のストックでアニメ化を達成出来たことは幸運としか言いようがない。それだけ原作の評価が高かったこともありますが、アニメの方もかなり評価は良かったと聞きました。これでさらに多くの人に知られ、逝去の時にも惜しむ声が多数聞かれたことは、わずかながらの救いだったと思います。


<5・3>
・最近増えてきた(?)妖怪ものを取り上げる。
 ここ最近、以前より日本の「妖怪」を扱った現代もののコミックが、以前よりさらに増えてきたような気がします。女性向けというか特に少女マンガ的な作品においては、以前から定番の伝奇ファンタジーとなりつつあるような気がしますが、最近ではコミックアライブ連載の「あやかしこ」や、まんがくらぶ連載の4コマ「鳩子のあやかし郵便屋さん」など、それに当てはまらない雑誌での連載も出てきているようです。最近の面白い傾向として、以前よりさらに注目しているところです。

 こうした妖怪ものが増えた理由としては、「妖怪ウォッチ」のような広くヒットしたコンテンツの影響や、あるいはコミックにおいても何度もアニメ化されている「夏目友人帳」のようなロングヒット作品の影響もあると思います。もともと現代日本を舞台にした伝奇もの作品は、以前よりファンタジーコミックでは定番でもありますし、その中でも近年特に人気コンテンツとなった「妖怪」に目を向けた作品が増えるのは必然の流れかもしれません。今回は、自身のサイトで取り上げるスクエニ雑誌の中から、そうした妖怪ものと思える作品をいくつか取り上げてみたいと思います。

 まず、Gファンタジーの今の連載からは、「幽落町おばけ駄菓子屋」「妖怪学校の先生はじめました!」「地縛少年花子くん」「妖飼兄さん」「ももも怪レストラン」と、広く妖怪ものだと思われる作品が5つもあります。最近終了した作品やあるいは読み切り作品まで加えると、その数はもっと多くなりそうです。一昔前までのGファンタジーでも、こうした妖怪や伝奇ものは珍しくありませんでしたが、ここまで増えたのは割と最近の傾向だと思います。Gファンタジーのような少女マンガ的なファンタジーコミックでの妖怪ものは、今ではひとつの定番なのかもしれません。

 内容的にもいずれの作品も充実していると思いますが、個人的な好みとしては、あの世とこの世の狭間の町で繰り広げられる優しい物語「幽落町おばけ駄菓子屋」や、対照的に妖怪の使役・対決を描くシビアなダークファンタジー「妖飼兄さん」あたりを特に注目して追いかけています。

 また、こちらはガンガンONLINEの連載ですが、少し前にアニメ化された「不機嫌なモノノケ庵」も、これに近い雰囲気を持つ作品かもしれません。原作のコミックは、ガンガン系らしい中性的な作画が心地良く、アニメより雰囲気が柔らかくて好きですね。アニメで知った方にも是非原作を見てほしい作品です。また、ONLINEには「美味しい妖」という「妖怪を食べる」異色のマンガも最近始まっています。料理屋で本当に妖怪を料理して食べる。妖怪ものと、こちらも今流行のグルメマンガを組み合わせた斬新なコンセプトの作品として注目したいと思います!

 少し前に終了してしまいましたが、ガンガンJOKERの連載だった「繰繰れ!コックリさん」も、このジャンルにほど近い作品ではないかと思います。こちらも少女マンガ的な作画や雰囲気ではありますが、ヒロインのこひなをはじめエキセントリックなキャラクターたちが繰り広げる尖ったギャグマンガとなっていて、もともとの妖怪もの作品がさらに個性的な形に発展したものではないかと思っています。


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