<ながされて藍蘭島>

2002・12・31
全面的に改訂・画像追加2007・1・25

 「ながされて藍蘭島」は、少年ガンガン2002年6月号より開始した連載で、いわゆる少年マンガ的なラブコメ作品にあたります。作者は藤代健。元々は、少年ガンガン2002年1月号で掲載された読み切りでしたが(この時のタイトルは「ながされて☆藍蘭島」)、これがほどなくして連載化されます。
 この読み切りが掲載された当時のガンガンは、あの「エニックスお家騒動」の直後であり、雑誌が大きく路線変更を図っていた時期でした。そして、この読み切り版「藍蘭島」も含めて、計3つの萌えマンガ系読み切り作品が立て続けに掲載され、しかもその3つがすべてのちに連載化されるという驚きの結果を迎えます。これらの作品は、すべて従来のガンガン連載作品と比べて明らかに異質であり、そんなマンガが次々と連載化された当時は、読者の間で大きな当惑の声が聞かれました。

 その中でも、この「ながされて藍蘭島」は、最もスタンダードでくせのない作風で、最初のうちは当惑が強かったものの、連載が続くにつれて広く人気を獲得しました。ラブコメ作品としては、さほど目立つところのない平均的な作品とは思いますが、それでもコンスタントに毎回気軽に読めるのが特長だと言えます。男性向けのラブコメにしては中性的で親しみやすい絵柄と、意外にも動物キャラがかわいい点も特徴で、これも広く人気を集めた要因でしょう。アニメ化も決定しましたが、これは「お家騒動」以来の作品では、「鋼の錬金術師」に次ぐ2番目のアニメ化作品で、ガンガン連載マンガでは久々のアニメ化と言えます。


・大いに物議を醸した萌えマンガ三連続読み切り。
 前述の通り、この「ながされて藍蘭島」は、元々は3つほど立て続けに掲載された「萌えマンガ系」読み切り作品の一つでした。そして、この3つの「萌えマンガ」な読み切りは、当時のガンガンではあまりにも異質すぎるもので、読者の間では大いに物議を醸しました。
 具体的には、まず2001年12月号に「悪魔事典」、その次の2002年2月号でこの「ながされて☆藍蘭島」、そのさらに次号の2002年2月号で「これが私の御主人様」という、どれもこれも露骨な萌えマンガと言える読み切りが、3号にわたって立て続けに掲載されてしまったのです。

 これらのマンガは、どれも露骨に男性向けの美少女萌えを意識した作品で、その一点において当時の読者に激しい当惑を引き起こしました。萌え系のマンガというものは、それまでのガンガン系作品にもたくさんあり、むしろひとつの定番とも言える存在だったのですが、それらはむしろ中性的で男女問わず萌えられるような作風のマンガが中心でした。
 しかし、この3つの作品は、ほぼ完全に少年の男性読者を想定しており、それまでの中性的で女性でも抵抗なく読めるマンガではなく、むしろエロや露骨な萌えキャラを強調した作風に終始していました。これは、少年マンガ誌によくあるラブコメ系萌えマンガ(今のジャンプならば「To Loveる」や「エムゼロ」、サンデーならば「ハヤテ」や「あいこら」等のマンガ)を作ることを強く意識したもので、お家騒動以前のガンガンでは考えられないようなマンガでした。実は、お家騒動以後のガンガンは、少年マンガ路線を露骨に目指しており、これらのラブコメマンガもその一角だったのです。

 そして、これらのマンガは、当然のごとくそれまでガンガンを呼んでいた読者には非常な不評を呼び、ほとんどの読者が当惑しました。これは、お家騒動以後、ガンガンの路線が完全に様変わりしてしまったことを示す、端的な出来事でした。
 また、前述のように、お家騒動以後のガンガンは少年マンガ路線を露骨に目指しており、これらのラブコメマンガもその一角だったはずですが、しかし、肝心の少年マンガ愛好者には大不評でした。彼らは、熱血・バトルが主流の「熱い」少年マンガを求めているのであって、このような萌え系のラブコメは、むしろ激しく嫌う人が大半なのです。

 このように、従来のガンガン読者にも、少年マンガを求める読者にも不評だったこの3大萌えマンガ、しかしどういうわけか、これがなんとのちに3つとも連載化されてしまうのです。これはまた完全に予想外の事態で、ここでもう一度読み切り掲載時以上に、読者の激しい当惑を呼んでしまいます。


・3大萌えマンガの中では、極めてオーソドックスなハーレム系ラブコメ。
 そして、この3つの萌えマンガ連載は、それぞれ異なる道を歩んでいきます。
 まず、「悪魔事典」ですが、これは3つの中で真っ先に連載化されましたが、内容的には全くもって平凡極まりないラブコメに終始し、絵的にも拙いもので、しかも連載が進むに連れてキャラクターの頭の比率が増大し(笑)、気持ち悪さを感じてしまうような絵に進化(退化)してしまい、萌え系の美少女絵としても論外のマンガとなってしまいます。人気も評価もまったく芳しくなく、この連載が二年半も続いたことが信じられないほどでした。当然、アニメ化などするはずもなく、3つの連載の中では唯一完全な不成功に終わります。

 次に、「これが私の御主人様」ですが、これはイカれた原作者のオタク趣味が暴走したマニアックな内容で、到底ガンガンで掲載することはできず、増刊のガンガンパワードでの連載となります。そして、このオタク趣味に特化した凄まじい内容が、その手の読者にカルト的な人気を得て、ついにはガイナックスの手でアニメ化するに至ります。そして、このアニメ作品もカルト的な人気を得て、一気に知名度が広がります。とにかくマニアックな作風、人気に集約された連載であったと言えます。

 そして、肝心の「ながされて藍蘭島」。これは、3つの連載の中では最もオーソドックスなラブコメ作品で、一般的な人気ではこれが一番でした。「悪魔事典」ほど完成度の低いマンガではなく、「これが私の御主人様」ほどマニアックなオタク趣味全開のマンガでもなく、ごく素直に少年マンガのハーレム系ラブコメのスタイルを踏襲していました。絵的にもくせの少ない中性的なもので、この点でもオーソドックスだと言えます。そのため、当初から最も安定した人気を得ることに成功し、雑誌の表に出ることこそ少ないものの、中堅どころの人気作品として長期連載化することに成功します。



・ハーレム系でエロ要素もありの定番ラブコメ作品。
 内容的には、「藍蘭島」という女だらけの島に遭難してながされた中学生・行人(東方院行人)が、女の子だらけの島で賑やかな生活を送るという、いわゆる「ハーレム系のラブコメ」のスタイルをそのまま踏襲していることが特徴です。当時のガンガンは、メジャーな少年マンガ誌を目指しており、その一環としてこのような「少年誌では定番のラブコメ」を盛んに採り入れようとしていました。この「藍蘭島」はその最たるもので、編集部の意向を最も強く受け継いだ連載であったと言えます。

 そのため、大枠では決して独創的な作品ではなく、正直なところ非常に平凡な作品と言わざるを得ません。男性キャラクターは主人公の行人ただひとり、そんな彼をメインヒロインのすずをはじめ、ほとんどの女の子が好意を抱いているという、本当にハーレム系ラブコメの設定をそのままなぞっているようなマンガです。作中に軽いエロ要素(パンチラや半裸など)が盛んに挿入されるのも定番と言えば定番で、他誌のマンガで言えば「ラブひな」あたりと作風は近いものがあります。ここまでありがちな設定を踏襲している内容では、平均点以上の評価は中々与えられないでしょう。

 絵的にも、さほど見るべきところがありません。女の子はかわいく描けてはいるのですが、反面いまいち描き分けが出来ていないところも散見され、ビジュアル的に映える部分があまりない。こちらの点でも平凡な作風を感じさせます。マンガを読み慣れたマニア読者にとっては、随分と物足りない作品であることは確かでしょう。


・作者・藤代健の丁寧な仕事ぶりは認めたい。
 ただ、このマンガの場合、基本的な設定自体はオーソドックスで平凡かもしれませんが、内容はいたって丁寧に描かれており、毎回毎回コンスタントに読める作品になっているのは評価すべきでしょう。また、基本が男性向けのエロ要素もありのラブコメとはいえ、意外にもほのぼのとした作風も感じられ、絵的にもくせの少ない中性的な作画も見られるのも特長です。

 作者の藤代健は、このマンガの連載前に、あの「コミックバウンド」で、「トンネル抜けたら三宅坂」という過激エロギャグで一世を風靡し(原作者は別の人ですが)、その後でエロゲーの原画までやっているという不可解な経歴の持ち主ですが(笑)、この「ながされて藍蘭島」に関しては、編集部の意向もあってか、極めて平均的な作風となっており、その分作者の丁寧な仕事ぶりが感じられます。毎回気軽に読めるコメディとして卒なくまとめているところがあり、コンスタントに毎回楽しめる安定感があります。
 また、本編とは別に、ガンガン増刊パワードの方で、毎号のように読み切り外伝が掲載されているのですが、こちらも毎回卒なくまとまった読み切りになっています。毎回気軽に楽しめる話作りを維持している点で、中々に優秀な連載ではないでしょうか。藤代さんは、仕事場もきっちりと整理している几帳面な性格らしいのですが、それが作品にも表れているように感じます。

 また、藤代さんならではのオリジナリティとして、「動物キャラへのこだわり」があります。出てくる動物キャラクターたちが、個性的でとにかくかわいい。女の子だけでなく、この動物キャラのかわいさに魅力を感じる読者も多いようで、作品のほのぼのとした作風に貢献しています。意外にも女性読者が多かったりするのも、中性的な作画に加えて、この動物キャラの力が大きいと思われます。


・強く薦めることは難しい作品だが、ガンガンでは中堅作品として健闘している。
 とはいえ、作品全体を見れば平凡である感は否めず、平均以上の評価は難しい作品であることも確かでしょう。これまでのガンガンの名作・人気作と比べても、やはり一歩劣る作品であることは否めないでしょう。

 しかし、毎回コンスタントに読める話を描くという、丁寧な仕事ぶりには共感するところもあり、気軽に読める連載としては中々に優秀なのではないでしょうか。ガンガンでも中堅どころの作品として、かなり健闘しているように思えます。お家騒動以後のガンガンは、この「藍蘭島」も含めて、メジャーな少年誌を露骨に意識した作品ばかりで、しかもそれらの作品の多くがふるわず、誌面の質が下がった感は否めません。しかし、この「ながされて藍蘭島」に関しては、作者の堅実な仕事ぶりで、なんとか健闘を続ける中堅作品にとどまった印象があります。基本が男性向けの萌え系ラブコメとは言え、作画面では割と親しみやすい中性的な部分もあり、かつ動物キャラに代表されるほのぼのとした作風が、意外にも広い層に人気を集めている大きな理由でしょう。

 昨今では、萌えアニメの流行の影響もあってか、このマンガもめでたくアニメ化が決定しました。個人的には、あまり男性向けのエロ重視の萌えアニメに向かわず、原作のほのぼのとした作風を忠実に再現することを期待したいですね。


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