<ブレイド三国志(本連載版)>

2007・11・23

 「ブレイド三国志」は、かつて少年ガンガン2006年7月号〜10月号に短期連載された作品で、その連載が好評を得て(?)、約1年の時を経て本連載化、2007年8月号から改めて開始されました。ストーリーは短期連載時からそのままつながっています。短期連載から本連載までが非常に長いのですが、その期間に、ガンガン系の他の姉妹誌に外伝が幾度となく掲載され、本連載までのつなぎの役割を果たしました。作者は短期連載時代からもちろん変わっておらず、原作者が真壁太陽、作画を壱河柳乃助が担当しています。

 しかし、このマンガ、短期連載時から到底面白いとは言えないような連載で、「まさかこのマンガが本連載化されるはずがない」と思ってしまうような作品でした。読者アンケートの結果も、まず良かったとは思えません。しかし、このところのガンガン編集部は、「自分たちの企画を強引に押し通す」ことが多く、このマンガも、短期連載終了後にしつこく外伝の掲載を何度も続けたことから、「もしかしてこのマンガも本気で連載化するつもりなのか」と危惧を持って経緯を見守っていました。そして、その危惧はやはり現実のものとなり、ついに本連載化してしまいます。これには、幾多の読者の間からも疑問の声が挙がり、「やはりガンガンの編集部はやってしまったか」と諦めの感を持たざるを得ませんでした。

 そして肝心の本連載化の内容も、短期連載時以上に破天荒ですさまじいものとなっており、到底許容できるものではありませんでした。なぜ明らかにつまらない、ここまで破綻した作品を本連載化してしまうのか。このところのガンガンは、明らかにつまらない作品が評価を受ける事態が頻発しており、編集部のマンガ編集能力にはかなりの疑問を持っていたのですが、ついにこのマンガにおいて、その疑問は頂点に達した感があります。


・高度一万メートルの上空で飛行機の窓を破壊したらどうなるか真剣に考える。
 まず、本連載化の始まりは、主人公にして孫策のブレイド(三国志の英雄が転生した姿)の轟蘭士郎が、短期連載版の舞台だった日本から、ブレイドの仲間を求めて上海へと旅立ち、上海の「ラ・マルセイエーズ」なる巨大学園に転入しようというところから始まります。なぜ巨大学園に入学することになったのか、そのあたりの理由・いきさつからしてほとんど語られておらず、連載開始時点ですでに意味不明な展開なのですが、このマンガでは「まったく説明なしに意味不明な展開に突入する」ことは日常茶飯事なので、あまり気にしてはいけません。

 そして、主人公の弟でパートナーである写世が、なぜかまず先に学園に到着しており(このあたりの経緯も不明)、兄の蘭士郎は遅れて搭乗した飛行機でハイジャックに遭い、しかもそれが敵の陰謀であり、乗り合わせた敵ブレイドの手で飛行機中に爆弾を仕掛けられ、しかも自分がテロリストの汚名を着せられ、片翼が爆発炎上し墜落する飛行機の中に取り残されることになります。そもそも、この時点で一介の暴走族のリーダーにすぎなかった主人公が、なぜテロリストの汚名を着せられる陰謀に巻き込まれるのか、それもまたよく分かりません。まあ、敵のリーダーが、「これも計画のうち」といっているので、何か深い理由があるのだと思われます。

 しかし、それにしてもこの原作者は、リアリティや細部の詳細無視で適当にストーリーを作っているとしか思えません。何か、「こういうシーンを見せたい」「こういう設定を作りたい」という意図ばかりが見えており、一方で、それをきっちりと組み上げてストーリーを構築しようとする意思がまるで感じられません。つまり、この作者は、「巨大学園という設定を出したい」「主人公一人をハイジャックに遭わせたい」「主人公をテロリスト扱いして展開を盛り上げたい」などと思うばかりで、それ以上のストーリーの構築は完全に放棄しているかのようです。その結果として、「リアリティや細部の詳細はまるで無視」という結果になっているのではないでしょうか。

 でまあ、そんなことはもうどうでもいいのですが、問題なのは、この主人公の行動です。なぜかいきなり飛行機の窓を破壊し、翼の上に乗り上げて「ぶっとんでるぜエエエ」と言って翼の端につかまります。この行動になんの意味があるのか、それがよく分かりません。というか、この作者は、高度一万メートルの上空で飛行機の窓を破壊したらどうなるか真剣に考えるべきではないでしょうか。ブレイドはなぜかみな平気な様ですが(このあたりの理由も不明。まあ「すごい英雄だから」というような理由でしょう)、乗り合わせた一般乗客はただでは済まないはずです。本来なら、もうこの時点で飛行機の中は気圧の差で大パニックになっているはずですが・・・。

 個人的には、このマンガ、短期連載版からしてあまりにひどかったので、「本連載版では少しは改善されているかもしれない」と思って淡い期待を抱いていたのですが、 それは冒頭の1話目にして脆くも崩れ去りました。もはや、開始からして短期連載版以上に破天荒な展開で、もうこのマンガの行く末は決定してしまった感があります。最後のコマの、主人公がばかげた表情で「ぶっとんでるぜエエエ」というシーンが、まさにこのマンガのバカバカしすぎる本質を見事に体現しています。ぶっとんでるのはこのマンガではないでしょうか。


・「主人公がシャウトして兵士を召喚して飛行機の墜落を止める」という展開はどうなのか真剣に考える。
 そして、翼の上に乗り上げた主人公は、そこでブレイドの能力である「配下の兵士たちの召喚」を行い、それで飛行機の墜落を止めようという驚きの行動に出ます。しかも、主人公きっての趣味である歌を飛行機上でシャウトしまくるという、ビジュアル的にもバカバカしさ極まるシーンとなっています。本来は、ブレイド同士が兵士を召喚し合ってバトルを行うマンガのはずなのですが、まさかいきなりこのような展開になるとは思いもよりませんでした。

 Gファンタジーの連載マンガで「まじかる無双天使 突き刺せ呂布子ちゃん!!」という作品があります。これは三国志をネタにしたギャグマンガなのですが、その中に「配下の兵士を召喚して火事の消化活動を行う」というギャグシーンがあります。このシーンもかなり笑えたのですが、この「ブレイド三国志」の「歌をシャウトして配下の兵士を召喚し、飛行機の墜落を止める」というシーンの破天荒ぶりは、これをもはるかに上回っています。もはやギャグマンガを超えたと言ってもよいのではないでしょうか。

 具体的には、まず主人公は、爆弾で片翼が大破炎上している機体を見て、いきなりもうひとつの翼も破壊し、胴体だけにして機体のバランスを取って立て直すという荒業に出ます。果たしてこの破天荒な行動が、力学的に見て本当に正しい行動なのかどうか、わたしにはよく分からないのですが(飛行機って胴体だけで飛べるの?)、一度専門家に聞いてみたいところです。

 しかし、これからがさらに大問題です。その後、主人公は、飛行機の胴体の上でシャウトを繰り返し、墜落していく飛行機に対して正面から兵士たちで攻撃を与え、機体の墜落速度を落とそうと試みます。そして、最後には、上海の街のリニアトレインの軌道上に着陸させようと試み、そこから飛び出ようとする勢いの機体に対して、最後にさらに攻撃を繰り出し、ギリギリのところで勢いを食い止め、軌道上に静止着陸させることに成功するのです。はっきりいって、わたしは、こんなすさまじいマンガは今まで一度も読んだことがありません。

 はっきりいって、このような展開は、どう考えてもありえないでしょう。「現代に蘇った三国志の英雄が、飛行機の胴体の上でシャウトを繰り返して兵士を召喚し、墜落する飛行機を攻撃して落下を抑え、リニアトレインの軌道上に着陸させる」という展開には、なんのリアリティもありません。こんな展開はもう絶対にない。普通にない。また、仮にすべてのリアリティを完全に無視したとしても、このようなマンガを読者が面白いと思うかどうかは疑問です。「三国志の英雄が、シャウトを繰り返して兵士を召喚して飛行機の落下を止める」というようなマンガを、一体どんな読者が読みたいと思うのか。これが、ギャグマンガならばまだ話は分かります。しかし、これはシリアスな(はずの)ストーリーマンガであり、作者は大真面目に描いているのです。そんなマンガでこの展開は、あまりにもバカバカしすぎると言わざるを得ません。


・なぜこのマンガはここまで設定と説明が多いのか真剣に考える。
 そしてもうひとつ、このマンガは、本連載化しても相変わらず設定と説明が多いのが目立ちます。エピソードによっても多少の差はありますが、全体を通してとにかく多い。短期連載時代は、「まだストーリーが始まったばかりだし、基本設定の説明に忙しいのだろう」と思っていたのですが、これがのちの外伝、そしてこの本連載作品になっても、設定の説明は一向にとどまる気配がありません。どうも、この作者は、設定をひたすら作り、それを読者に向けて披露することに異様な喜びを感じているようです。

 前述の飛行機ハイジャックの回は、主人公の破天荒な行動ばかりでまだ設定の説明は少なめだったのですが、その後になってまたもや作者の設定病が吹き出してきます。主人公が到着した巨大学園にまつわる様々な設定ばかりが打ち出され、それが終わったと思いきや、今度は敵側の組織の設定が次々と登場してきます。
 設定の説明に、元ネタである三国志の英雄の知識が延々と盛り込まれるのも目立ちます。ひたすら武将や軍師の説明でページが費やされる状態が、連載開始以降延々と続いているのです。はっきりいって、この作者は、自らの三国志の知識と、それから生み出した膨大な設定の数々を、読者に対してひけらかしたいだけなのではないでしょうか。

 そして、設定の説明ページばかりでページ数が取られるために、肝心のストーリーの進行が非常に遅いものとなっています。短期連載時には、大増ページで4話にわたって掲載されたのに、設定の説明だけをひたすら連発し、肝心のストーリーは、最初の敵を撃破するだけで終わってしまいました。本連載版も基本的にはそれと同じで、毎回のページ数が多い割にはストーリーが全然進まない。もはや「設定の説明の中にストーリーが埋もれている」ような状態です。これが普通のマンガならば、

 ストーリー ストーリー ストーリー 設定 ストーリー
 ストーリー ストーリー 設定 ストーリー ストーリー
 設定 ストーリー ストーリー ストーリー 設定
 ストーリー ストーリー 設定 ストーリー ストーリー
 ストーリー 設定 ストーリー ストーリー ストーリー

といった適度な配分で構成されていると思いますが、これがこの「ブレイド三国志」の場合、

 設定 設定 設定 ストーリー 設定
 設定 ストーリー 設定 設定 設定
 設定 設定 ストーリー 設定 設定
 設定 設定 設定 設定 ストーリー
 設定 設定 設定 設定 設定

  のような感じで、とにかく設定ばかりの印象があります。そのため、まともにストーリーが進んでいかず、ほとんどの読者には、特にストーリーの面白さを求める読者には、到底楽しめるものではないでしょう。

 また、その設定の内容に、誇大妄想的なまでに巨大な設定が目立つのも特徴です。短期連載版冒頭の、「西暦2190年、中国が世界の中心、人口150億、ネオ北京」というだけで、もう本当にどうかと思ってしまったのですが、その後もとにかく異様にスケールがすさまじい設定が次々に登場します。主人公が通う巨大学園の、在校生5万人・敷地面積3平方キロという設定や、敵会社組織の本社が1000階建てで600階に空中庭園があるとか、そういった誇大設定ばかりが頻発します。このあたり、なにかあの清涼院流水の小説(大説)を思い出してしまうような有り様で、これはもう「流水大説」ならぬ「真壁大説」と名付けるのがふさわしいのではないでしょうか。


・この狙いすぎて引いてしまうキャラクターはどうなのか真剣に考える。
 さらには、登場するキャラクターたちも、ひたすらにアクが強すぎ、あまりに受け入れ難い者ばかりで、あまり魅力を感じることができません。
 このマンガは、短期連載時からどうもマニア系の女性読者(いわゆる腐女子)に一定の支持があったようで、やたら男性の美形のキャラクターが多いのですが、どれも顔や服装の造形がごてごてしい装飾過多な者ばかりで、アクが強すぎてどうにも受け付け難い。全体的に、美形キャラなのに暑苦しさを感じるようなキャラクターばかりで(笑)、どれだけの読者が魅力を感じるのかは疑問です。

 中には、あまりにも狙いすぎて、思わず引いてしまうようなキャラクターも散見されます。巨大学園の生徒会副会長・月森雫なるキャラクターなどは、上はフォーマルなブレザーなのに下は短パンという意味不明ないでたちで、一体どうしてこのような服装をしているのか本当に不明です。はたしてマニア系女性読者の受けを狙っているのかは分かりませんが、あまりにも異様すぎて完全に浮いてしまっています。

 「狙いすぎ」という点では、女性キャラクターにも言えます。全体的に、露出度が高かったり半裸(全裸)だったりといったシーンばかりで、とにかくお色気路線ばかりが目立ち(萌えというよりエロ・お色気要素が強い)、あまりにも狙いすぎた描写ばかりで、これではむしろ引いてしまいます。いびつなお色気描写ばかりが目立つのみで、まったくと言っていいほど萌えることも出来ません。そんな異様なキャラクターで、ドールやら写真集やらの企画まで組んでいるのだから、編集者の認識も完全にずれてしまっていると言わざるを得ないでしょう。


・このマンガがガンガンに必要なのかどうか真剣に考える。
 いや、もう適当に考えたところで、このマンガをガンガンで連載していいわけがありません。あらゆる点で連載レベルに達していないことは明白であり、破天荒さ、バカバカしさだけが頂点に達したすさまじい怪作と化しています。短期連載版からしてそうだったのですが、本連載化してさらに輪をかけてひどくなっており、そこに改善の兆しはまったく見られません。
 加えて、絵の完成度も相変わらずよくありません。絵のレベルそのものは悪くないはずなのですが、描き込みが過ぎて仕上がりが雑なため、とにかく読みづらい印象ばかりが先に立ってしまいます。キャラクターもごてごてしい造形ばかりで、こちらでも魅力が感じられません。これも短期連載時からまるで改善されていません。作画担当者の壱河さんは、オリジナルの連載ではこれほど悪くはないと思うのですが、この「ブレイド三国志」では欠点ばかりが目立ってしまっています。

 そして、ここまでひどいマンガなのだから、これを本連載化するという決定は、完全に間違いだったことが分かります。これが、単なる普通の連載ならば、まだ許せます。どんな雑誌にも駄作は出てきますし、企画段階、準備段階でいくら練り上げても、連載したらつまらなかったということは往々にしてあります。連載してみなければ、本当の結果は分からないわけです。
 しかし、このマンガは違います。もう既に短期連載を済ませており、その時点で結果は完全に出ているのです。短期連載時からして、読者からはまったく評価されておらず、連載レベルにまるで達しない駄作であったことは明白でした。そんな作品なのだから、もうその時点で消えてもらわざるをえないはずです。それを本連載化するというのは、もう絶対にありえない決定です。

 しかも、このマンガの場合、最初から本連載化は決まっていた節があります。短期連載が終了していきなり、姉妹誌での外伝の掲載が立て続けに決まり、読者の判断をまるで無視しているかのような展開を見せました。そして、外伝の内容も、本編同様にまるで評価できないものだったにもかかわらず、それでも本連載化が決まってしまうのです。もう、最初から読者アンケートでの評判など無視して、編集者による本連載化が決まっていたことは明白でした。最近のガンガンでは、このような「編集者が企画をごり押しする」事態がよく見られますが、このマンガはその最たるものとなってしまった感があります。

 それにしても、このようなマンガを平然とごり押しするガンガン編集部は、一体どうなっているのでしょうか。誰が見ても明らかにおかしいと分かるようなマンガを、徹底的に推進し、よりによって本連載化してしまう。今の編集部のマンガ評価能力、そして雑誌編集能力には、あまりにも疑問が尽きません。他の雑誌ならば、まず最初からこのマンガが載ること自体がないでしょうし、最低でも、短期連載が終わった時点で失敗作として企画終了になるはずです。その意味で、このマンガは、「まさに今のガンガンだからこそ為し得た連載」であり、ガンガン史上でも屈指の迷作・怪作・奇作・珍作として、永く読者の心に残る強烈な作品になると思われます。


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