<ブラッディ・クロス>

2009・7・8

 「ブラッディ・クロス」は、少年ガンガンで2009年3月号より開始された連載で、同誌ではやや異色とも言える、耽美的なイメージも感じられるバトルファンタジー作品となっています。ここ最近数年のガンガンは、以前にも増して連載ラインナップに統一感がなく、様々な読者を対象にした連載が乱立するような状態になっていますが、このマンガもその一角に挙げられるかもしれません。
 元々は同名の読み切り作品として2007年7月号にガンガンに掲載され、それが一年半のブランクを経てそのまま連載化されました。元々連載化を前提にした内容になっていたようで、読み切り版がそのまま連載版に続くストーリーとなっており、コミックスでも最初に掲載されています。

 作者は米山シヲ。聞きなれない名前ですが、実は以前ガンガンでも「スターオーシャン ブルースフィア」のコミック化作品を連載した水城葵であり、この作品の執筆以後ペンネームを改めたようです。なぜ改めたのか理由は定かではありませんが、個人的には以前の名前の方がよかったかな・・・とも思います。
 「スターオーシャン ブルースフィア」の連載時代(02年〜05年頃)は、まだ初めての連載を受け持った新人作家であり、内容には絵的にも構成的にもまだ未熟な点がいろいろと見られました。しかし、連載の後半では、作画面を中心に随分と力のレベルアップを感じさせ、今後に期待を持たせる内容になっていたと思います。しかし、連載終了後は長らく次回作が見られず、数年の時を経て今になってガンガンで連載に復帰することになりました。

 そして、長いブランクがありながらも、今回は最初から明らかな力の向上が感じられ、作画はさらに安定感を増し、キャラクターの造形やアクションで見せる作品へと進化しています。また、以前よりもキャラクターの頭身が伸びて肉感的となり、男女共に耽美的、もしくはエロ的なイメージを感じさせる絵柄となっています。これは決して悪いことではないのですが、しかし、肝心のストーリーにおいてこれといって特筆すべきものが少なく、天使や悪魔が力を秘めたアイテムを求めてバトルを繰り返す、ごく普通のファンタジー作品にとどまっているようです。今回は作者の実力が安定しているだけに、ストーリー面で何か突き抜けるものがあればと思われます。


・「ブルースフィア」時代の水城葵。
 かつて、「スターオーシャン ブルースフィア」の連載を始めたばかりの頃、水城さんの絵柄は、随分とかわいらしいもので、今よりもキャラクターの頭身は低く、かつ体のラインが細くあまり肉感的なものを感じさせない作画でした。デフォルメされた作画シーンも多く、全体を通してかわいいイメージが全面に出ていました。これは、この連載の前に「スターオーシャン セカンドストーリー」の連載を手がけていた東まゆみと比べると、少々劣る感は否めず、東さんの絵がかわいらしいながらも肉感的でな微妙なエロを感じる作画であったのに対して(笑)、この水城さんの絵は、キャラクターの造形にいまいち力が感じられず、あるいは作画レベル自体も安定しないこともあって、あまりいい支持を集めることができなかったようです。このかわいい絵柄も、それ自体は決して悪くはなかったのですが、作画レベルの点で物足りないものがあったのも事実でした。

 しかし、その後連載の後半には、大きく作画の方向を変え、特にキャラクターの描き方が随分と変わりました。頭身が明らかに高くなり、体の描き方に肉感的なものが加わり、一部に微妙にエロを感じさせるものまで見られるようになりました。作画レベル自体も大きく向上し、背景も含めて描き方が達者になり、アクションシーンもよく描けるようになったのです。この変化は非常に大きなもので、同じ作品なのに見違えるほど印象が変わったことをよく覚えています。特に、初期のかわいらしかった絵の頃に比べると、ひどく描き方がシャープになり、全体的に描線に尖った部分が目立つようになりました。

 このように、明らかに作画の努力の跡が感じられ、作者のコミックスでのコメントでもそのことを示唆する発言が見られたことで、作品自体の評価もこの時期は大きく上がりました。今でも、全体的な評価はやはりいまひとつなのですが、この後半部分での質の向上は大きく評価できたので、これならば次回の作品はかなり期待できるのではないか・・・とおも思っていました。しかし、肝心のその次回作が長いことお目見えすることがなく、長いブランクの時間が流れていくことになります。


・さらに進化した絵の方向性と作画レベル。アクションシーンを中心にこれは評価できる。
 そして、ようやく2007年になって、このマンガの読み切り版「BLOODY CROSS」が登場、さらに一年半後に晴れて連載化されます。そして、久々に登場した彼女の作品は、「ブルースフィア」後期の変化の方向性をさらに押し進めたものとなっており、作画の向上もさらに顕著になり、ビジュアル面での質の高さで大きく評価できるものとなっていました。

 具体的には、かつてよりもさらにキャラクターの頭身が高くなり(ちょっと高すぎるような気も)、かわいらしかった容姿が流麗なものとなり、むしろ「美人」「美形」とも言えるような容姿のキャラクターが中心となりました。そして、これは作品のストーリーからの影響もありそうですが、全体的に耽美的なイメージが感じられるようになり、どちらかと言えば女性読者向けの様相も呈するようになりました。「ブルースフィア」の時代にも、男性キャラクターの描き方に多少そのような女性作家的なものが感じられましたが、今回はそれがはっきりと顕著に表れるようになりました。一方で、女性キャラクターにエロスを感じる描き方も露骨になり、そういった方向でのキャラクターの魅力は確かに向上しています。

 キャラクターだけでなく、全体的な作画も明らかに向上し、ほぼこの作品で絵柄が完成した感すらあります。昔よりスクリーントーンをあまり使わなくなり、白が目立つ背景作画の中に、黒いベタの部分が強く目立つ鮮烈な作画になりました。動きのあるシーン、特にアクションシーンもさらに見られるようになり、躍動感のあるキャラクターの動作、思い切った構図から迫力も感じる優れた作画が見られます。このアクションシーンの完成度については、大きく評価してもいいでしょう。

 そして、全体的な描線の描き方は、さらにシャープに尖ったイメージになりました。この米山シヲ(水城葵)の双子の姉妹のマンガ家で、主にWINGで活躍していた稀捺かのとがいますが、こちらの方の作画が全体的に角のないまるいかわいらしい作画で、どちらかと言えば女の子のかわいらしさが特徴であり、絵柄がある程度変化した最近の作品でもその方向性をよく守っているのとは対照的です。かつてはふたりの作画はかなり近い似たイメージでもあったのですが、今では大きく別の方向へと変化し、はっきりと異なる作画になったと言えます。


・絵柄は評価できるが、肝心のストーリーは今のところ微妙。
 このように、作画で見せる作品になっている点は評価できますが、肝心の内容、ストーリーについては、いまだ評価しづらい作品にとどまっているのが微妙なところです。

 読み切り版では、混血の天使にしてハーフヴァンパイアの主人公・月宮が、自身の血の呪いを解くために、同じく混血の天使の日向(ひなた)という男と共闘し、純魔族と呼ばれる強敵を倒すというストーリーとなっていました。物語の最後では、晴れて純魔族を倒したはいいものの、ふたりで呪いを解く血の奪い合いとなり、中途半端に半分ずつ呪いを共有するようになってしまう、という終わり方でした。これは中々面白い終わり方だったのですが、それが直接連載版へとつながり、今度は呪いを完全に解くために「預言書」なるアイテムを奪い合う展開へと突入していきます。「預言書」を求める純血の天使の男とその従者たちも、ふたりの強敵として次々と登場し、複数勢力による預言書の奪い合い といったストーリーが展開されていきます。

 このようなキャラクター同士によるアイテムの奪い合い、言葉による駆け引きやアクションシーンの面白さなどには、中々に評価できるところもあるのですが、ストーリーそのものは単なるアイテムの奪取戦で、似たような設定の過去の作品も多く、どこでも見られるような新鮮味に欠けるものになっています。そのため、あまりこれといった特筆すべき内容が感じられず、今のところ「この手のマンガでは、作画はきれいな方だし、まあまずまずは読めるかな」という程度の作品にとどまっているようなのです。

 特に気になるのが、キャラクター同士の会話シーンで、ここは預言書を巡る駆け引きが楽しめる重要なシーンでもあるはずですが、どうも必要以上に思わせぶりなセリフが多く、それが随所に見られすぎて、鼻に付くことが多く、あまり印象がよくありません。いわゆる「かっこよさ」を見せるセリフ回しが過度に使われすぎているように感じられ、かっこよさを見せようという試みが表に出すぎて、肝心の内容の深さがいまいち感じられないのです。キャラクターやアクションなどの娯楽要素中心のマンガであり、特にテーマなどに期待するタイプの作品ではないのは分かりますが、それでもあと一歩惹き付ける何かが欲しいところで、どうにも今ひとつ物足りない作品になってしまっているようです。


・今のガンガンの対象読者はどうなっているのか。
 それともうひとつ、このマンガが明らかに耽美的なイメージで、美形の男性キャラクターも強調されるマンガとなっており、全体的に女性読者好みとも思える点も気になります。一方で女性キャラクターの方では明らかにエロい表現も目立ちますが、それを考慮しても明らかに女性読者向けになっていると感じます。もっとも、雑誌全体が女性読者向けになっているGファンタジーの連載と比べると、絵柄のイメージにはまだ違いがあり、このガンガンやJOKERで連載しても悪くない、むしろこちらの雑誌のイメージの方に合っているようなマンガになってはいます。しかし、そのストーリーなど内容について合わせて考えれば、やはり女性読者の方が大きく好むマンガだと思わざるを得ません。これでは、雑誌の一部読者のみにしか好まれない、人を選ぶ作品になっていると強く感じます。

 むしろ、このようなマンガが、今のガンガンで連載が始まったことが少し不思議です。どちらかと言えば、やはり女性読者の多いGファンタジーか、そうでなくともマニア向けのJOKERの方で連載した方がいいようにも思えます。

 それにしても、一体、今のガンガンが目指す対象読者はどうなっているのでしょうか。このような明らかに女性読者志向のマンガがあれば、一方で露骨に萌えとエロ路線の男性向け全開の作品も数多く見られます。雑誌全体で統一感が見られず、ひとつひとつの連載で方向性がバラバラにも見えます。

 思うに、どうも最近のガンガンは、ある特定の読者層を想定して、その読者に向けた連載マンガを揃える、という方針ではなさそうです。むしろ、個々の連載ごとに「このマンガは男性向け、このマンガは女性向け、このマンガは一般向け、このマンガはマニア・オタク向け」というように、ひとつひとつの連載でまったく異なる読者層を当て込んでいるようなのです。はっきりいって、今のガンガンで、すべての読者に向けて連載しているのは「鋼の錬金術師」や「ソウルイーター」など少数の人気作品のみで、あとはすべて一部の読者にピンポイントで向けられているのではないか。どうも、ひとつの雑誌の中で露骨に男性向けと女性向け、一般向けとマニア向けを無節操に採り入れ、いろんな読者層に対する売れ線をひたすら追求した雑誌になっていると思えるのです。


・今のところ内容や対象読者でも微妙な作品。
 このように、この「ブラッディクロス」、久々に登場したかつての連載作家の復帰作にして、作画面を中心に顕著な質の向上、完成ぶりが感じられる作品にはなっているものの、「力を持つアイテムを奪い合うバトルファンタジー」という基本設定にさほど新鮮味がなく、かつ内容面での深みもいまひとつ乏しく、いまいち物足りない作品にとどまっているようなのです。悪い作品とまでは思えないものの、今のままでは評価できるかどうか微妙なところです。単に思わせぶりなセリフの会話シーンとアクションシーンのみでほとんどが構成されているとも 思え、それ以上の内容に乏しい。

 加えて、あまりにも耽美的で女性好みのする作風は、読者によっては抵抗を感じる者も多いと推測できますし、そのため人を選ぶ作品になっていることも懸念されます。逆にエロ的な表現が随所に見られることも、また別に読者を選んでしまっているかもしれません。今のガンガンで、どれくらいの読者がこのマンガを楽しみに読んでいるかというと、あまり多くないのではないでしょうか。(もっとも、これは今のガンガン連載の多くに言えることではありますが・・・。)

 個人的には、かつての水城さんの作品はかなり気に入っていましたし、今回久々に復帰されたことは大変に嬉しくもありました。ただ、肝心の内容は、その方向性が自分の好みからも少々外れるところへ向かっているようで、少し期待から外れているところも多く、やはり微妙に感じてしまいます。ここまで耽美的で女性的なイメージの作品を描くようになるとは、ちょっと想像の範囲を超えていました。自分としては、やはり「ブルースフィア」の時代のかわいらしい部分が残っている絵柄と内容が気に入っていて、後期の頃の絵柄が変化しつつあったころも、うまくバランスが取れていて良かったと思っています。ストーリーもあの作品の方が面白かったと感じています。

 とはいえ、決してこの「ブラッディクロス」が悪い作品とまでは思えませんし、今後のストーリーの展開次第では、まだ大きく印象が変わってくることもあるでしょう。せっかくのガンガン復帰はやはりありがたいことですし、もう少し内容に深みの感じられる展開を迎え、そのまま成功することを切に希望したいと思います。


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