<Doubt(ダウト)>

2007・1・16

 「Doubt(ダウト)」は、少年ガンガンで2007年8月号から始まった連載で、ガンガンでは比較的珍しい、殺人ゲームによる駆け引きや推理を扱った作品です。どこか見知らぬ場所に閉じ込められた6人の男女が、その中に潜む殺人鬼を探して推理と駆け引きを繰り広げるもので、いかにもゲームをするための舞台と設定をこしらえたような、この手のジャンルでは典型的なモチーフの作品となっています。

 これまでも、城平京作品(「スパイラル」「ヴァンパイア十字界」)では、このようなゲーム的駆け引きの要素が見られましたが、それ以外ではあまり見られなかったと思います。2007年のガンガンは、それなりの本数の新連載が見られましたが、中にはメディアミックス系の作品も多く、このようなオリジナルの連載で、かつ今までにあまり見られないタイプの作品を採用したという点では、それなりに貴重かもしれません。
 あるいは、最近では、このようなゲームを題材にした作品が各所で色々と見られるようになっていますが、ガンガンもその影響を受けて企画されたのかもしれません。作者は、元はスクウェア・エニックスマンガ大賞の大賞受賞作家で、のちに「ひぐらしのなく頃に 暇潰し編」の連載を受け持つことになる外海良基で、今回がオリジナルでは初の連載となりました。

 これまでの外海さんは、ゲームコミックである「ひぐらしのなく頃に 暇潰し編」の連載は別にして、バトル系のスタンダードな少年マンガを手がけていたため、今回のようなゲームを題材にした推理物での連載は、少々意外でありました。もしかすると、編集部主導での企画ものなのかもしれません。前述のように、最近は本当に頻繁にこのような作品が見られ、中には非常な人気を得た作品も少なくないため、それらに影響されて「ガンガンでもひとつやってみよう」と考えて企画を立てたという推測は、十分にありうると考えています。

 基本となる作品の設定にも、過去の人気作品からそのまま採り入れたのではと思えるような箇所が散見され、その点では既視感が強く、やや新鮮味には欠けるところがあります。内容的にはそれなりに無難に展開しているように思えますが、反面ストーリーの進みが遅く、派手なアクションや駆け引きの描写に欠けているところもあるため、今ひとつ面白さは鈍いと思えます。既存の作品と比べても、これがそれらの作品と並ぶほどのマンガになっているかは難しいところです。


・非常に目立つ殺人ゲームを題材にした作品。
 ここ最近の流行なのかもしれませんが、様々なジャンルで(特にマンガにおいて)、このような「駆け引きや推理を駆使した殺人ゲーム」を題材とした作品が、色々と目立ちます。中には、非常に高い人気を得た作品も少なくありません。
 このような作品の源流を辿れば、かつて非常に高い人気を得た問題作「バトル・ロワイヤル」に行き着くのかもしれませんが、特にこの数年でそのような作品の数が増えているところを見ると、必ずしもこの作品の影響だけではないような気がします。

 わたし個人が、この手の作品で最初に見たのは、筒井哲也のウェブコミックである「ダズハント」です。コミックスで一巻で終わる中編でありながら、非常に洗練された面白さを持つ、完成度の高い作品でした。ネット上のゲーム勧誘サイト「ダズハント」にアクセスした見知らぬ者同士が、路上で互いの携帯電話を奪い合って殺し合いのゲームを行うという趣旨の話で、このジャンルの基本的な設定はすべてこの作品が満たしています。中でも、ネットや携帯電話を絡めた設定が特徴的で、その後の作品でも同じような設定が見られることから、最近の流行の先鞭を切った感があります。

 そして、この手のマンガでさらなる人気を集めた作品として、少年エース連載の「未来日記」があります。こちらも、見知らぬ若者同士が殺し合いをするゲームや、ネットや携帯電話を絡めた設定で共通するところがあり、かつ超自然的な能力(ファンタジー的な設定)も見られたり、作中のヒロインの異常な性格が注目を集めたりと、比較的社会派の要素が強かった「ダズハント」に比べると、より娯楽要素が強くなっている作品と言えます。そして、この作品は、これまでにない大人気を獲得し、同系のマンガの中でも代表的な作品となりました。
 そして、この「未来日記」の登場とタイミングを同じくして(大体2005年頃か)、ネットや携帯電話を絡めたり、ファンタジー的な能力(魔法や超能力)を駆使して殺し合いゲームを行うような作品が、少年系のマンガやライトノベルで何本も登場しています。どうもこのあたりで、この手のジャンルが定番となったようです。

 また、これらとは別に青年マンガ誌での連載作品として、これはドラマ化もされた「LIAR GAME(ライアーゲーム)」もあります。一億円の現金を巡って虚虚実実の駆け引きを繰り広げるゲームを題材にしたもので、過去の名作である「カイジ」などと共通した面白さがあり、これも大きな人気を獲得します。ドラマの方も評価が高く、そこから一般層にまで人気が浸透した作品として、注目すべき作品であると思われます。
 また、この「LIAR GAME(ライアーゲーム)」に極めて近いニュアンスを持つ作品として、あの「DEATH NOTE(デスノート)」を挙げないわけにはいきません。こちらは、ゲームそのものを題材にしたわけではありませんが、いかにもゲーム的な駆け引きの描写が見られることで大きく人気を集め、空前のヒット作となりました。このジャンルにおいては、このマンガの影響も少なからずあるでしょう。最近では、「バトル・ロワイヤル」よりもこちらの影響の方を重視すべきかもしれません。

 また、マンガではなく映画においても、「SAW(ソウ)」というヒット作シリーズがあります。これは、どこか見知らぬ場所に閉じ込められた登場人物たちが、生き残りをかけてゲームに臨むというもので、この「Doubt(ダウト)」の設定と非常に近いものがあります。この「Doubt(ダウト)」は、この映画から影響を受けて作られた可能性は高いと思われます。
 さらには、テーブルゲームにおいても、「汝は人狼なりや?」というゲームが、海外で大きな評価を受け、最近では国内のネット上でも流行しているようです。この「Doubt(ダウト)」でも、「ラビット・ダウト」なる「人狼」に近いルールを持つ携帯電話でのゲームが、作品内でキーポイントとなっており、ここでこのゲームから直接的な影響を受けている可能性は高いでしょう。


・設定的には非常に興味をそそられるが・・・。
 このマンガの内容は、先にも端的に述べたとおり、「どこか見知らぬ場所に閉じ込められた6人の男女が、その中に潜む殺人鬼を探して推理と駆け引きを繰り広げる」というものです。この設定は、今述べた映画の「SAW(ソウ)」の設定(特に「SAW II」)に酷似したところがあり、オープニングでいきなり死体が目の前に現れるところや、誰かがモニターで参加者を監視している様子など、まさにそのまま映画のような場面も見られました。元ネタとして、直接的な影響を受けていることは間違いないでしょう。

 加えて、携帯電話やネット上での接触が発端となり、そこで知り合ったものたちが一堂に集って殺し合いをする点は、「未来日記」や「ダズハント」など、多くの同系のマンガと共通しています。さらに、その接触の切っ掛けとなった携帯上でのゲーム「ラビット・ダウト」が、「汝は人狼なりや?」というテーブルゲームに非常に近いなど、とにかく既存の映画・マンガ・ゲームなどから直接採用されたと思われる設定が非常に多いのが目立ちます。

 思うに、これはやはり編集部主導の企画マンガではないでしょうか。外海さん個人だけで、今まで描いた事のないこのようなジャンルのマンガの設定を、ここまで徹底的に引っ張ってこられるとは思えない。やはり、編集部の方で「既存のこのような作品を題材にしたマンガをやりたい」という意志があり、そこから企画が出発したのではないかと思えるのです。
 そして、ここまで過去の作品を徹底的に調べているだけあって、確かにこの設定にはそそられるものがあります。閉鎖された建物内での行き詰まる駆け引き、先の見えない緊迫したストーリー、登場人物たちの脱出への渇望という要素だけでも面白いものがありますし、それだけである程度読ませるマンガになっていることは確かでしょう。

 しかし、確かにそれなりの読めるところはあるものの、反面それ以上の突出した面白さには乏しく、今ひとつ物足りないとも感じます。ネット上ではこのマンガを評価している人も多いようですが、わたしはあまり評価できませんでした。過去の同ジャンルの作品と比べても、見劣りがする作品にとどまっているように思えます。


・ストーリーの展開の遅さと、なにより派手な動きに乏しいのが厳しい。
 まず、肝心のストーリーの初動が鈍く、その後も見せる展開に乏しく淡々と進んでいる点が、非常に物足りなく感じます。

 そもそも、マンガの連載第一回において、まず基本的な人物紹介と状況の設定説明に終始してしまい、それ以上のストーリーが見られなかったところで、いきなり引っかかりました。大増ページで最初からゲームによる駆け引きと推理の要素が見られると思って期待していたのですが、単なる状況説明だけで終わってしまったことで、初回から肩透かしに終わる結果となりました。
 その後の展開においても、今ひとつすばやい進展というものがなく、淡々とストーリーが進んでいる印象で、とにかく盛り上がりに欠けます。「ダズハント」などは、中編でコンパクトに終わる作品のためか、最初の話からいきなりゲームに入り、その後も次々と新たなゲームにのめりこんでいくスピーディーな展開がよかったのですが、このマンガにはそのようなキレが見られない。ストーリーの素早い進展、起伏というものに乏しいのです。

 ストーリーだけではありません。全体的に派手な動きに乏しい印象で、こちらでも盛り上がりに欠けます。このような作品だと、登場人物同士の駆け引きの面白さや、時に見られる暴力的なアクション、あっと驚くどんでん返しの仕掛けなど、何か派手な動きがあってこそ面白いのですが、そのような要素にも乏しい。登場人物たちがひとつひとつ建物の部屋を丹念に見てまわり、少しずつ状況が判明していく様は良いのですが、それ以上に魅せるアクシデントに欠けているようなのです。特に致命的なのが、誰が真の殺人鬼なのかを見極める推理の要素に乏しいように感じられることです。登場人物が6名で、最初のひとりは第1話であっけなく殺されるため、ほぼ候補は5人の中に絞られます。その上で、これといった推理の材料が少なく、淡々とストーリーが進んでいくような流れのため、読者としてはどうにも犯人探しの面白みに欠けているように感じます。

 前述のように、少しずつ閉じ込められた建物の探索が進み、状況が判明する流れはそれなりに楽しめますが、それ以上の派手なストーリーやアクション、特に推理要素に乏しいのは、ひどく物足りなく感じてしまいました。これでは、先行する人気作品には及ばないでしょう。


・絵的にも見劣りがするのも欠点か。
 また、内容に加えて、外海さんの絵についても、少々物足りないものがあります。
 元々、この作者さんは、マンガ賞で特別大賞を受賞した当時から、さほど絵のレベルが高いとは感じられませんでした。最近のガンガンの少年マンガにありがちな、平凡な作風で仕上がりの汚さが目立つタイプの作画で、絵的に見るべきものがありませんでした。ついでに言えば、内容的にも平凡で、とりたてて特筆すべきものが感じられなかったため、なぜ特別大賞を受賞したのかよく分かりませんでした(笑)。一応、少年マンガ的なアクションシーンに見るべきところがあったとの見方もありますが、個人的にはそれもさほどのものは感じられず、昨今の少年ジャンプなどでよく見られそうなありがちな絵で、かつ雑なレベルにとどまっていると感じてしまいました。
 その後、外海さんは、「ひぐらしのなく頃に 暇潰し編」の連載を受け持つことになりますが、その時にも絵の完成度を大いに危惧しました。しかし、この時はなんとか無難にこなすことができたようです。とはいえ、他のひぐらし作家の絵に比べると劣る点が多く、全体的に固さ・ぎこちなさが残る作画に終始したと思います。

 この「Doubt(ダウト)」の絵も基本的には同じです。人物の描き方、特に顔の表情に固さ・ぎこちなさが見られ、かつ顔の描き分けも今ひとつで、ともすれば同じような顔に見えてしまいます。そのため、肝心のキャラクターの魅力が今ひとつで、ぎこちない描き方の表情からは、その者の内面がうまく伝わりにくいものがあります。背景の作画については、不気味な建物の内部の描写には一部見るべき効果もありますが、全体的にこちらも淡白で特筆すべきものが感じられません。

 逆に、一枚絵のカラーイラストはかなりのレベルに仕上がっているのは好印象です。なぜか昔から、この作者の一枚絵のカラーイラストは、マンガ本編とは打って変わって非常にレベルが高く、そのことを常に不思議に思っているのですが、今回もその現象が見られます。実際、このマンガのコミックス一巻の表紙、キャラクターたちが不気味な兎の面をかぶっているイラストは、かなりの恐怖が感じられる完成度の高いものとなっています。そのため、コミックスを手に取る分には非常に好印象なのですが、肝心の中身の絵が今ひとつというのは、いかにもがっかりするところで、正直ひどく物足りないところがあります。


・ある程度の作品にはなっているが、面白いとは言い難い。
 以上のように、この「Doubt(ダウト)」、先行する作品の魅力あふれる設定をうまく採り入れ、興味をそそられる舞台設定を用意しているのは好感が持てますが、それ以上の面白さには乏しい印象があります。とりわけ、ストーリー展開が遅く、かつ派手な駆け引きや暴力などのアクション、そして推理要素など作品の肝の部分の描写が乏しく、とにかく物足りない印象が残ります。全体的に淡々と進んでいるような内容で、「とにかく続きが気になる」と思わせるような、激しく惹きつけられるほどの魅力には欠けているように思います。

 もっとも、ネット上でこのマンガのレビューをざっと見渡したところ、評価される方もかなりおられます。実はかなり面白い作品で、わたしがその魅力を見つけられないだけなのかもしれません。しかし、わたしには、どうしてもこのマンガに惹きつけられるほどの面白さを感じられなかったのです。先に採り上げた、先行する人気作品たちと比較しても、このマンガはかなり劣るのではないでしょうか。
 もっとも、このマンガは、ここ最近のガンガンの連載の中では割と新鮮な内容で、過去の類似作品からの影響を感じられるものの、そこからの設定をうまく採り入れたマンガにはなっていると思います。しかし、結局のところ、それ以上の面白さを作り上げることは出来なかった。やはり、結局のところ過去の類似作の模倣を越えることが出来なかったのか。あるいは、外海さんの絵のレベルも、作品の魅力を減じているような気もします。

 そして、今後の展開ですが、元々ある程度の短期連載で終わる予定らしく、最近の展開を見てもそろそろ終盤に差し掛かっているようです。となると、これ以上の盛り上がりは期待できず、後はそのまま終わってしまうように思えます。これでは、今後も成功できる可能性は低いと言えるでしょう。

 かつてのガンガンの人気作品「スパイラル〜推理の絆〜」も、推理やゲーム要素がふんだんに見られる作品でしたが、こちらは非常に大きな成功を収めました。絵についてもかなりの人気を集めました。しかし、この「Doubt(ダウト)」は、明らかに内容でも絵でも見劣りがしてしまいます。今のガンガンで同じような企画の作品を打ち出しても、このあたりのレベルの作品にしかならないのかもしれません。ひょっとすると、これが今のガンガンの限界と言えるのではないでしょうか。


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