<ドラゴンクエスト エデンの戦士たち>

2001・11・8
全面的に改訂・画像追加2006・11・25

 「ドラゴンクエスト エデンの戦士たち」は、(タイトルに「7」こそついていませんが)同名のゲームである「ドラゴンクエスト7 エデンの戦士たち」のコミック化作品であり、かの「ドラゴンクエスト列伝 ロトの紋章」を描いた藤原カムイによる、もうひとつの”ドラクエマンガ”でもあります。

 連載開始は少年ガンガン2001年2月号。これは、あの「エニックスお家騒動」の直前にあたる時期で、当時のガンガンは、それまでの路線を変更し、「王道少年マンガの復活」「初期ガンガン的な作風の復活」の路線を打ち出しており、このマンガも、その路線を代表するものとして企画されたと思われます。作者の藤原カムイは、まさに初期ガンガンを代表する作家であり、かつ「ドラクエ」という原作ゲームも、元は王道・バトル的な要素が強い作風とも言えるゲームで、まさに編集部が求める路線にふさわしいものと判断されたのでしょう。

 そしてもうひとつ、このマンガの連載直前に、「ドラゴンクエスト 幻の大地」(神崎まさおみ)という、それまで長く続いていたドラクエマンガが終了し、その後を継ぐ目的で企画された側面もあります。この「幻の大地」、ドラクエ6のコミック化作品なのですが、全体的な評価は今ひとつで、かつての「ロトの紋章」と比較して劣ると見られることが多い作品でした。そのため、連載終了後に「ロトの紋章」の作者・藤原カムイを復活させ、新たなドラクエマンガで再びかつての「ロトの紋章」のような優れた作品を載せようとしたのではと考えられます。そして、実際に読者の方でも、この「エデンの戦士たち」は、「幻の大地」よりも評判は良く、「やはりガンガンでドラクエは藤原カムイに限る」という声が各所で聞かれました。


・少年の成長を丹念に描く。
 上記のように、このマンガは、王道少年マンガであることを求められての連載決定だったわけですが、実際の内容も、極めて忠実にそれを踏襲しています。さすがに生真面目なベテラン作家である藤原カムイだけあって、それを忠実にこなしています。
 とにかく、主人公たち少年少女の成長を丹念に描いている印象があります。物語の序盤においては特に顕著で、ゲーム同様、最初のうちは決して強くない主人公たちが、冒険を通じて地道に強くなろうと努力する様が毎回のように描かれます。バトルの内容も決して派手なものではなく、極めて現実的なリアリティを重視したもので、主人公たちが粗末な武器・防具を使って懸命に闘う描写は、序盤から派手なバトル描写が多い少年マンガばかりの中、むしろ新鮮なものがあります。さらには、強くなろうと元冒険者の大人のもとで修行するシーンでも、基本的な体さばきや剣術の基礎から丹念に修得する内容で、ここでも極めて堅実に子供たちの成長を描いています。

 そんな描写の中でも、特に目立つのが、バトルシーンにおける「汚れ(よごれ)」の描写です。最初のうちは決して強くない主人公たちですから、バトルでもちょっと強い敵には苦戦の連続で、敵の攻撃で地面に叩きつけられ、顔や体を泥で汚しながらも、なお懸命に這い上がって立ち向かっていきます。この時の、泥による汚れの描写が非常に印象深い。決してかっこよくはなく、地面に倒され泥で汚れながらも、しかし懸命に目の前の敵に立ち向かっていく。地味ながらも非常に堅実かつ骨太な描写だと思います。

 この「エデンの戦士たち」の連載開始前後に、同じく王道少年マンガを志向した、初期ガンガンからの復活組の連載が何本か組まれましたが、その中でも、やはりこの「エデン」が、最も忠実に少年マンガ路線を貫いています。このあたり、作者の藤原カムイのまじめな作品の制作姿勢が窺えます。


・ドラクエ7を忠実に再現しつつ、作者オリジナルの追加要素も多い。
 さて、少年マンガとしては非常に忠実な創作をしている「エデン」ですが、ではもうひとつ、「ドラクエマンガ」としてはどうでしょうか。
 実は、こちらの方も原作に極めて忠実で、ゲームのエピソードをひとつひとつ丹念に辿っていくスタイルを堅持しています。原作ゲームは、単発のエピソードが次々と続いていく構成で、コミック化するには単調すぎるのではないかとも思いましたが、それでも全体の流れを崩すことなく、ひとつひとつのエピソードを丁寧に再現していく形式をかたくなに採り続けています。中には、少年マンガにするには少々難があるような(要するに大人向けの)エピソードも原作にはあるのですが、それすらも少年マンガの構成に合わせる形で採り入れたのには恐れいります。
 さらには、「ロトの紋章」を描いた藤原カムイだけあって、絵的にもドラクエの雰囲気をよく表現しており、こちらでもゲームの再現度は極めて高いと言えます。全体的に、原作であるドラクエ7のコミック化としては申し分のない仕事をしていると言えます。

 しかし、そのように原作を忠実に再現する一方で、頻繁に作者オリジナルの要素を採り入れているのも特徴的です。さすがに原作のエピソードを再現するだけでは単調すぎるため、個々のエピソードには必ずなんらかのアレンジがされており、かつエピソード間のつながり、登場順にも工夫が感じられます。また、エピソードそのものの解釈も深くなっており、ゲーム版以上の理解が出来るかもしれません。さらには、作者創作のオリジナルキャラクターが重要な役割として登場したり、作者のかつての連載である「ロトの紋章」とのつながりを感じさせるようなキャラクターやエピソードまで大きく絡んできたりするようになります。このあたりで「藤原カムイ」的なドラクエ世界が見られるのは興味深いところです。

 ただ、これだけオリジナル要素がありつつも、それでもなおドラクエ7に忠実なゲームコミックとして成り立っています。これは、これらのオリジナル要素まですべて、ドラクエ7の主人公たちの丹念な成長に結びついているからに他なりません。中でも、「ロトの紋章」の序盤のエピソードの再現とも言える、賢者の塔での修行シーンは、少年少女の精神的な成長をこれ以上ないほど描ききっています。主人公たちを導くオリジナルの賢者キャラクターであるベゼルも、かつての「ロトの紋章」の賢者の性格を彷彿とさせる、飄々としつつも肝心なところではまじめに主人公たちに接する性格で、このあたりもいかにもカムイ的な要素が感じられました。


・ストーリーは面白いとは言えない。地味すぎて娯楽要素に乏しい。
 しかし、上記のように極めて堅実な創作を行っているにもかかわらず、このマンガは必ずしも手放しでは誉められません。
 とにかく、ストーリー的な面白さに乏しいのが最大の欠点です。元々、原作ゲームのストーリーからして、単発のエピソードの連続で繋がりに欠け、展開的に面白いとは言い難いのですが、それを忠実に再現したこのコミック版も、決して先を読みたくなるようなストーリーの面白さは備えていません。その上、ひとつひとつのエピソードに相当な話数をかけているため、原作以上に展開は遅いものとなっています。
 さらに、この遅いエピソードの合間にオリジナルの要素まで加わるわけですから、ますますもってストーリーは進みません。前述の、賢者の塔での修行エピソードなどは、それ自体は深みのある内容と言えますが、一方でその間はストーリーが停滞し続けている感は否めず、ストーリーの楽しさを求める読者にとってつらいものになっているかもしれません。

 さらには、ストーリーだけでなく、全体的に娯楽要素に乏しい印象も強い。特にバトルシーンでは顕著で、地道に主人公たちの苦闘ぶりを描くのはよいのですが、反面、バトルの爽快感にはひどく乏しい。「ロトの紋章」のような、巨大な敵や無数の敵に迫力の必殺技が飛び交う派手なバトルとは程遠い内容で、そういったエンターテインメント要素を求める人には厳しいのではないか。バトルだけでなく、全体的に地味かつ堅実な演出ばかりで、娯楽作品としては物足りなく感じます。
 また、それとはまったく別の問題点として、「プッチ戦隊」という、ヒーローものを模したモンスター軍団の登場があります。このモンスターたちが登場すると、拍子抜けしたかのようなギャグ全開の展開となり、作品のシリアスな雰囲気を壊してしまっています。基本がまじめで堅実なストーリーなのだから、このような合間で不自然に入るギャグは必要ないと感じました。

 そして、このような娯楽要素に明らかに欠けているためか、この「エデンの戦士たち」は、「ロトの紋章」のような圧倒的な人気は得られていません。むしろ、人気の点では極めて弱いと言ってよい。これはあまりにも残念なところです。


・むしろ、非常に通好みの作品にとどまっている。
 いや、むしろこのマンガは、「ロトの紋章」のような、広く一般に受ける少年マンガにはなっていないのかもしれません。むしろ、かなり人を選ぶところがあります。
 特に、中盤以降の内容はそれが顕著です。序盤のうちから丹念に少年少女の成長を描いている本作ですが、連載が進むにつれて、さらに本格的にキャラクターたちの奥底の心理を追求するような内容へと深化していき、さらには、キャラクターの生き方を根源まで問うエピソードまで垣間見えるようになりました。前述の賢者の塔での修行シーンは、その最たるものです。それらは、一部では、もはや哲学的な人生論にまで達しており、ここまで思想性に特化した内容は、もはや他の少年マンガには見られない領域まで到達した、非常に深いものがあります。

 しかし、このような内容は、テンポよく進むストーリーや爽快感溢れるバトルシーンなどの、少年マンガ的な娯楽要素を求める多くの読者には、あまりにも魅力に欠けるものでした。むしろ、このような思想的な内容を好む、高年齢のマニア読者の方に評価されていきました。つまり、この「エデンの戦士たち」は、一般層に幅広く読まれるマンガではなくなり、むしろ非常に通好みの作品になったと言えるのです。

 ただ、それだけならば「マニア向けのマンガ」として意味があるのですが、実際には、それ以上に地味すぎて魅力に欠ける点は大きく、特にストーリーの貧弱さは、マニアを含めてほとんどの読者に厳しい評価をされており、決して優秀なマンガとは言い切れない側面が強いのです。遅々として進まないストーリーと、地味な演出に耐えてまで、真剣に読み込まないといけない。大きな人気が出ないのも頷ける内容であり、最後には掲載順がガンガンの最後に固定化され、いわば「カムイ枠」として雑誌内で特別扱いされてしまったのも分かります。ガンガンの中では、「決して人気はないが、高年齢読者の通好みの作品として、特別に雑誌の最後に掲載する」という、極めて特異な扱いに終止することになってしまった。これは、かつての「ロトの紋章」のような、一般読者に幅広く受ける王道少年マンガを求めていた編集部としては、半ば期待はずれとも言える結果ではないでしょうか。


・打ち切りもやむを得ない内容だが、最後はきっちりと終わらせてほしかった。
 そして、このような低空飛行で4年ほど連載してきましたが、最後には「第一部完」という告知と共に休載状態となり、復帰すると公言したもののそれは今だ果たされておらず、そのまま消え去ろうとしています。
 元々、大きな人気が得られなかった上に、5年も連載し、14巻もの単行本を重ねているのに、ストーリーはさほど進んでおらず、原作の半分も消化していない状態です。このままでは完結までに何年かかるかも分からず、しかも、原作ゲームも続編である「8」が出てしまった状態では、これ以上長く続けるメリットはないと判断したのかもしれません。
 その上、作者の藤原カムイも、姉妹誌のヤングガンガンの方で、「ロトの紋章」の続編である「紋章を継ぐ者達へ」の連載を開始しており、こちらの方があの「ロト紋の続編」ということで人気も期待できるため、ますますもって「エデン」の方を続ける意思が弱まったのではないかと推測できます。2006年に一時作者が体調を崩して入院し、この「紋章を継ぐ者達へ」の連載まで中断した時期があったことも、ますます人気の期待できるこちらの作品を優先した要因になったように思えます。
 以上、さまざまな点から見て、「エデンの戦士たち」を積極的に再開させようという意思は感じられず、実質的にこのまま打ち切りになったと見てよいでしょう。

 正直、ここまで悪条件が重なり、肝心の人気も期待できないのでは、打ち切りもやむなしとは思いますが、最後はこのような休載状態からの立ち消えではなく、きっちりと終わらせてほしかったところです。第一部完の時点のストーリーは、原作のストーリーでもキーポイントとなる箇所(キーファ王子の離脱シーン)であり、きっちりと終わらせるには良い場所でした。それならば、そのまま綺麗に終わらせる形にしてよかったのではないか。そうすれば、ひとつの作品として十分な形として残りますし、読者に対しても誠実な対応で終われます。今のように、「第一部完」のままで実質的に打ち切りという、マンガ雑誌でよく見られる、読者に対して極めて不誠実な終わり方では、作品に傷が付くのではないか。それは、ベテラン作家である藤原カムイに対しても、大いに失礼な処遇であると言えるでしょう。


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