<「ドラゴンクエスト エデンの戦士たち」を改めて振り返る>

2010・3・13

 先日、3DSの「ドラゴンクエスト7」の発売に合わせて、かつてガンガンで連載されていた「ドラゴンクエスト エデンの戦士たち」(藤原カムイ)の新装版(コンビニ廉価版)が発売されました。以前1年ほど前に「ドラゴンクエストモンスターズ」のリメイク版が発売された時にも、同じくかつてガンガンで連載されていた「ドラゴンクエストモンスターズ+」(吉崎観音)も新装版が出ており、今回の発売もそれを踏襲する形となりました。原作ゲームの発売に合わせて、そのコミック化作品を改めて発売することは、商業的には理に適った戦略と言えます。

 しかし、この「ドラゴンクエスト エデンの戦士たち」に関しては、今になって新装版が発売されたのはかなり意外に思いました。かつて人気も評価も高かった「ドラゴンクエストモンスターズ+」と異なり、この連載は、全体を通して地味な展開に終始し、最後には休載となっていまだに再開されていません。実質的な打ち切りと言ってよく、最後のころは読者の人気も伸び悩んでいたことが窺えました。

 しかし、この「ドラゴンクエスト エデンの戦士たち」、あの大ヒットした「ドラゴンクエスト列伝 ロトの紋章」の藤原カムイを起用し、今回も本格的長期連載を志向した大型連載として、ロトの紋章と同等のヒットを期待された期待作だったはずなのです。しかし、残念ながら、かつてほどの大きな人気は最後まで得られず、ついには連載中断という形となってしまっています。ここでは、なぜこの連載が、あの藤原カムイの手による作品でありながら、しかもあのドラクエ7のコミック化という作品でありながら、どうして成功しなかったのか、その理由を今一度改めて考えてみたいと思います。


<1.最初から最後まで地味な展開に終始した>
 上でも少し触れていますが、この「エデンの戦士たち」、とにかく地味なマンガという印象は否めませんでした。これは連載開始直後からそんな雰囲気で、しかも最後までそれは続いていたように思います。

 「地味」とはどういう意味か。これは、いい意味で少年マンガ的な派手な展開・・・派手なバトルやキャラクターのテンポのいい成長に乏しく、むしろ極めて丹念かつ実直に少年たちの成長を描いていたスタイルにあります。
 最初のころは、主人公の少年少女たちは皆弱く、粗末なひのきの棒やおなべのふたのような装備で戦い、しかもそれほど強いとは言えない雑魚モンスターにさえ苦戦する展開が続きました。敵の攻撃を受けて倒されて泥まみれになってなお立ち上がって戦うようなシーンもありました。さらに、その後戦士に戦いを学ぶ修業のシーンでも、基本的な体さばきや剣の使い方の基礎から学ぶような描写が見られ、まだ未熟な少年たちを基礎からじっくりと鍛えるような展開となっていました。

 これは、一面では藤原カムイの実直な作品作りが十分に窺えるもので、少年の成長をじっくりと丹念に描こうとする真面目な姿勢には、個人的にはひどく好感が持てました。しかし、一方で、少年マンガらしい派手な展開に乏しく、多くの読者にとって地味に感じられ、積極的に読もうとするマンガにはなっていなかったのではないか? そう思うのです。

 また、原作ゲームでは、必ずしも子供向けではなく、むしろ大人向けの複雑なエピソードも散見されるのですが、そうしたエピソードまで省略 することなく、ひとつひとつ丹念にコミック化を重ねていきました。これも、作者の真面目な作品作りが見られた一面ではありますが、しかし少年マンガとしてはいささか地味だった点は否めないと思います。
 連載終盤の頃には、作者オリジナルのエピソードで、賢者の下で修業を行うシーンが長く続いたこともあり(これについては後でまた触れます)、ここにおいてこのあたりではストーリーが遅々として進まなくなり、派手に読者をひきつける展開に乏しかったことは事実でしょう。

 かつての作者の前作「ロトの紋章」では、序盤から強敵とのバトルが相次ぎ、主人公たちがテンポよく成長していく姿が見られました。ビジュアル的にも、巨大な敵や無数の敵と戦う映画のように見栄えのするシーンが盛りだくさんで、そうしたエンターテインメント要素には卓越したものがあったと思います。それと比較すると、この「エデンの戦士たち」が、いかにも地味なのは否めないところでした。これが、「ロトの紋章」のような大きな反響が得られなかった最大の理由ではないでしょうか。


<2.とにかくストーリーの展開が遅かった>
 全体的に地味であることに加えて、ストーリーの展開が異様に遅いことも目立ちました。これにはいくつかの理由があります。

 まず、そもそも原作ゲームからして、ストーリーのテンポがいいとは言えないこと。あの「ドラゴンクエスト7」は、普通にやればプレイ時間100時間以上という、日本のRPGとしては非常に長いゲームとして知られ、かつひとつひとつのエピソードが独立していて連続性がなく、これについては「長すぎる」「展開が単調でつまらない」という批判的なプレイヤーの意見も多かったと記憶しています。
 そして、その原作を忠実にコミック化したこの「エデンの戦士たち」も、まったく同じ道を辿ることになります。原作ゲームのエピソードを一切省略することなく、最初からひとつひとつじっくりと描いていくスタイルを貫いたため、恐ろしくストーリーの消化に時間のかかる連載となってしまったのです。

 加えて、途中から盛んに挿入されるようになったオリジナルの展開・エピソードが、ストーリーの遅さに拍車をかけることになりました。原作のエピソードの合間にオリジナルの回が多数加わるスタイルとなってから、さらにさらにストーリーの消化が遅れていったのです。
 その最たるものが、上記でも書いた連載終盤の「賢者の塔」での修業シーンでしょう。ここは、キャラクターひとりひとりの修業の内容をじっくりと描いていき、そのすべてが終わるまでに非常に長い時間を要しました。これはこれで内容的には深いエピソードが多く、キャラクターの成長もよく描かれた実のあるものだったかもしれませんが、一方でストーリーが完全に停滞し、ストーリーを追う楽しみがまったくなくなってしまったことも確かでした。このことに難色を示す読者は多かったと思いますし、このあたりで作品の人気もさらに落ち込んでしまったのではないかと推測しています。

 最終的には、連載開始から5年以上が過ぎた段階でも、原作では序盤に当たる「キーファとの離脱」イベントにようやく辿り着いた状態で、そこで連載が中断した形となっています。これについては、連載をさせるガンガンの編集部の側でも、これ以上の連載継続に難色を示す向きはあったと思います。原作ゲームの発売からはるかに時間が過ぎている段階で、それでもまだまったく原作のエピソードを消化しておらず、これから先終わるのに何年かかるのか分からない。これでは、積極的に連載を続けようという編集部の意思も薄かったのではないかと思うのです。


<3.オリジナルの要素に抵抗を示す向きがあった>
 最後に、今書いたばかりのオリジナルの部分、これに抵抗を示す読者も多かったと思います。連載中盤以降、オリジナルのキャラクターやオリジナルの展開が相次ぎ、しかもそれがストーリーに大きくかかわるまでになっていきました。そして、これが、特に原作の忠実なコミック化を望む読者の反発を生むことになったようです。

 また、原作との関係を抜きにしても、このマンガのオリジナル要素は、確かに作者・藤原カムイの色が強く出すぎたところはあったかもしれません。具体的には、カムイ節とも言える独特の作風、とりわけ前作「ロトの紋章」から引っ張ってきたと思える要素が、中盤から終盤にかけて大きくクローズアップされ、ここはあの「ドラクエ7のコミック化」という点では、違和感を持つ読者もいたことは容易に想像できます。わたし自身も、確かにここはちょっとひっかかるところがありました。

 とりわけ、ここまでに何度も書いてきた連載終盤の「賢者の塔」での修業エピソード、これは、「ロトの紋章」の連載序盤でもまったく同じものが見られ、作者自身の作品からの「自己オマージュ」とも言えるエピソードとなっていました。ここの部分において、ドラゴンクエスト7のゲームコミックである本作に、オリジナルのドラクエコミックである「ロトの紋章」の要素が入り込んだとも言える展開となっていたのです。

 ここで登場する「賢者ベゼル」というキャラクターは、飄々とした性格でありながら、修業では少年たちに真剣に接し、彼らを善く導く優れた賢人として描かれていました。これは、かつての作品での「賢者カダル」に相当するキャラクターで、カダルが真面目な性格のキャラクターとして描かれていたのに対して、それと対照的な性格の賢者としてよく描かれていたと思います。
 個人的にこのベゼルというキャラクターは非常に気に入っていますし、彼が少年たちに与える修業も、深い内容のものが多く考えさせるものではありました。しかし、そのエピソードは、ドラゴンクエスト7のゲームコミックという範疇を大きく外れ、他のドラクエシリーズや、あるいは自身のオリジナル作品である「ロトの紋章」から引っ張ってきたもので構成されていた点は否めませんでした。こうした、オリジナル部分が原作ゲームよりもずっとオーバーラップされたスタイルに対して、難色を示す読者がいたのもまた事実だったようです。

 これについては、のちに作者のカムイ氏自身も、「エデンは正直、打ち切られたというより、打ち切った。すでに完成されたものに対してオリジナル要素を加えることに異常な拒否反応を示す向きの方もおられるのも確かで、そうした煩わしさから逃れたい気持ちがあったから」(Wikipediaより転載)というコメントも残しており、またわたしもこの当時作者サイトの掲示板などを見ていたのですが、確かに一部でそうしたいざこざがあったことを確認しています。こうしたオリジナル部分に対する抵抗、賛否両論が、人気の低迷のひとつの理由となったことは間違いないと思います。



 この作品は、現在でも一応は休載という状態で、公式に連載終了が告知されたわけではありませんが、しかし中断からはるかに7年を超える歳月が過ぎ、かつ作者も上記のような(「打ち切った」)コメントを残していることを考えると、連載が再開される可能性は限りなく低いと見ています。原作ゲームのリメイク版の発売という好機を得て、新装版の発売が行われたことはとてもうれしかったのですが、しかしこれが連載再開につながる可能性は多くないでしょう。ただ、この機会に、かつての地味ながらも実直な作品作りが感じられたドラクエコミック「エデンの戦士たち」を目にする人が少しでも増えたのなら、それだけでもよかったと思っています。



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