<フレッシュガンガンの新人作品について考える>

2008・3・30

 先日、「フレッシュガンガン」の2008年春号が発売されました。この雑誌は、かつて10年以上前に存在した同名の新人読み切り掲載雑誌の復活として、不定期に発売されています。前回は1年前に発売され、今回が2号になります。
 ここ最近のスクエニは、新人育成の場としてもっぱら「ガンガンパワード」を運営していました。しかし、この雑誌は、2006年に新装リニューアルされて普通の雑誌となり、新人の読み切りが多数掲載されることはなくなってしまいました。そのため、その代わりとなる新人育成雑誌として、かつての雑誌を復活されたのだと思われます。

 内容はほぼ完全に新人読み切りのみであり、巻頭に近日アニメ化される「ソウルイーター」の特集記事とアシスタントによるマンガがある以外は、新人による読み切りマンガだけで占められており、総勢17名の新人作品が読めるということになっています。
 しかし、この17の読み切り作品は、総じて芳しくない出来であり、この中から個性的な作家が出てくるのは難しそうだと感じてしまいました。どれも、似たようなマンガばかりで、一様にぱっとしません。完成度も高いものは多くなく、新人であることを差し引いて考えても、この内容では評価するのは難しいと思います。

 かつての新人育成雑誌「ガンガンパワード」の創刊号では、山崎風愛や赤美潤一郎、高坂りとなどの個性的な新人による作品が並んでおり、それが非常に鮮烈に映りました(彼らは、のちに連載を獲得することになります)。しかし、この「フレッシュガンガン」には、そのような人目を引くような作品がほとんど見られません。ごく平凡なバトルマンガかラブコメマンガが大半を占めており、しかも設定的にも似かよった作品ばかりで、ひどく退屈に映りました。以下、この記事で、この「フレッシュガンガン」2008年春号の新人作品について、具体的に見ていこうと思います。


・とにかくバトルとラブコメばかり。
 まず、17あるマンガをひとつひとつ読んでいくと、とにかく似たようなマンガが多いことに気づきます。具体的には、バトルかラブコメ、あるいはその双方が入った少年マンガ系の作品です。いかにも最近のガンガンが強く求めるようなマンガばかりで、しかもどれも突出した出来でもなく凡庸、そんな作品がいくつも続いて掲載されており、読んでいく内に次第に退屈になり、到底楽しむことは出来ませんでした。

 とりあえず何らかの敵と闘うバトルが中心で、少年が主人公で敵と闘い、少女がヒロイン役として出るケースと、少女の方が闘い、少年がそれに巻き込まれるケースと、大きくそのふたつがありますが、どちらも基本的な流れはほとんど変わりません。設定もとにかく似通っていて、ほとんどの場合舞台は現代の日本で、何か和風ファンタジー的な敵が出てきて(これについては後述します)、それと闘うような話ばかりです。
 加えて多いのは、女の子とのラブコメ的展開ですね。バトル+ラブコメというのがほとんどの作品の基本で、中にはバトル要素のないラブコメのみ中心の話もあります。とにかく「少年マンガだからかわいい女の子を出しておこう」とか、そんな安直な印象を受けます。しかも、そんなマンガが数本程度あるのなら許容範囲でしょうが、17本ある掲載マンガの大半がそんなものばかりでは、読み進めるたびに飽きてしまいます。

 加えて、絵柄の印象も似たようなものばかりです。ごく一部にかなり濃い絵柄の作品もありましたが、それ以外は最近のガンガンでよく見る「仕上がりがあまり綺麗でない平凡な絵柄」が大半を占めます。一応、作者ごとに絵柄の違いはありますが、特別に印象に残るような個性が出た絵柄は見られませんでした。

 かつて「ガンガンパワード」の創刊号で掲載された、山崎風愛や赤美潤一郎、高坂りとらの作品は、どれも見た目の絵柄からして他とは異なる個性を放っていました。特に、あの赤美潤一郎の読み切り「妖幻の血」(のちに連載化)は、その陰鬱で退廃的な絵柄からして、誌面の中でも異彩を放っていました。かつてのエニックスでは、そのような見た目からして個性的な新人は多かったはずです。しかし、この「フレッシュガンガン」では、もうそのような個性的な新人はほとんど見られない。どれも、似たような絵柄で似たようなバトル・ラブコメ系少年マンガばかりなのです。


・なぜここまで和風ファンタジーばかりなのか。
 そしてもうひとつ、単にジャンルがバトル・ラブコメであるというだけでなく、基本設定があまりにも似通ったマンガが多いのが、あまりにも目に付きます。
 具体的には、いわゆる和風ファンタジーというか、伝奇ものというか、そういう話がすごく多い。今回収録されているバトル系マンガの半分以上ががそれに当たるのではないでしょうか。そのほとんどが、現代の日本を舞台にしたもので(一部に昔の和風世界の設定作品も)、そこに日本の伝説や神話などを元ネタにした、伝奇ファンタジーの要素が入ってくるような話で、主人公たちに襲い掛かってくる鬼や邪神などの敵と闘うといったものばかり。スクエニの新人たちは、そこまで鬼退治や神殺しが好きなのでしょうか(笑)。とにかくありえないほど伝奇ものが多い。

 現在、ガンガンで「屍姫」を連載している作者・赤人義一のマンガ賞受賞作に、「MYSTIC CONNECTION」という作品がありました。このマンガ、いわゆるオカルト系バトルファンタジーなのですが、作品の舞台が西洋、具体的には1920年代のアメリカに置かれていたことが、個人的に大いに目を引きました。スクエニでは、このような設定のマンガを描く新人が非常に珍しいからです。この活気に満ちた1920年代(禁酒法時代)のアメリカを舞台にした娯楽作品は多く、他社の作品だと「クロノクルセイド」や「バッカーノ!」あたりが該当すると思われますが、これがスクエニの新人となると、そういう設定のマンガ自体、ほとんど見ることが出来ないのです。
 実際、スクエニの新人作家の投稿や持ち込みには、和風伝奇ファンタジーばかりが非常に多いらしく、大抵の場合みすぼらしい身なりをした悪そうな鬼を退治する話ばかりだと、ガンガンの編集者のコラムにかつてありました。それが、このフレッシュガンガンの掲載陣にも露骨に表れています。

 それにしても、なぜここまでスクエニの新人たちは和風ファンタジーを好むのでしょうか? やはり、現代の日本を舞台にした方が描き易いという点が大きいのではと推測できます。自分たちの親しむ日常の世界、特に魅力的に映る「学校」を舞台にしたマンガを描きたい。そう考えているのではないか。加えて、昨今PCソフトやライトノベルで、大人気を得ている伝奇バトルものから露骨に影響を受けているような気もします。

 しかし、いくらなんでも、ここまで同じような設定のマンガを描く新人ばかりというのも問題です。編集部の方からも、新人に普段とは異なる設定のマンガを描かせたり、あるいは元からそんな設定でないマンガを描く個性的な新人を採用したり、そういった方策が必要なのではないでしょうか。少なくとも、このフレッシュガンガンのように、何の工夫も無く似たようなマンガが並んでいる構成では、到底面白いとは言えません。


・なぜ同じような女性キャラばかりなのか。
 設定上でもうひとつ気になる点として、とにかく女の子のヒロインの存在がやたら目立ちます。それも、どれも似たようなイメージの女の子ばかりなのです。「とりあえず少年マンガだから、こういうヒロインを出しておこう」と安直に考えているようにも思えます。

 まず、とりあえず学生なのか、制服を着た女の子が目立ちます。そして、今時の女子高生だからか、それとも萌えと狙ってか、どれもほぼ超ミニスカート、作品によってはパンチラもありと、そういう特徴のキャラクターばかりなのです。そして、前にも記述したとおり、バトルをこなす主人公にとってのヒロイン役として登場するか、あるいは自分自身が主役としてバトルをこなすか、そういう役割ばかり。これほどまでに似たようなステロタイプのキャラクターばかりでは、雑誌を読みすすめるたびにこれまた飽きてしまいます。

 別に制服やミニスカやパンチラがだめというわけではありません。わたしも制服・ミニスカ・パンチラは大好きです(まて)。しかし、しかしですね、ここまで似たような、没個性のキャラクターに、そこまでありきたりな読者サービスを行われても、そう簡単に萌えることはできません。むしろ、ここまであまりにもありがちなキャラクターには、決して魅力を感じることはできませんでした。

 どうも、このところのガンガンの少年マンガは、このようなキャラクターの造形まで類型的なものとなり、「少年マンガだからこういうキャラクターがいて当然」とでも考えているような節があります。かつて、ここでガンガンのスポーツマンガについて採り上げたこともありましたが、その場合でも似たような主人公・ライバル・ヒロインばかりが目立っていました。このような作品では、決して魅力を得ることはできないでしょう。


・明確に「腐女子」向けのマンガが交じっているのも気になる。
 そして、このような少年系バトルマンガに交じって数点ほど、女性作家による耽美系美形キャラクターを全面に押し出した、いわゆる「腐女子」向けのマンガがラインナップに加わっているのも気になります。

 いずれのマンガも、絵柄が女性向けで美形キャラクターを押し出しているばかりでなく、内容的にも男性同士の緊密な関係を描いたもので、ストレートに腐女子好みのマンガとなっています。他のマンガの中でもひどく浮いており、なぜこれがガンガンの新人育成雑誌に載っているのか、場違いな印象もありました。スクエニならば、女性向けの要素が強いGファンタジー向けとも言えますし、あるいはGファンタジーでさえ、ここまで露骨にBL(ボーイズラブ)的な要素を扱ったマンガは見られないでしょう。

 なぜこのようなマンガが新人から出てくるのか。どうも、このところのガンガンは、「鋼の錬金術師」のヒット以降に入ってきた、その手の女性読者に人気を得ている作品がかなりあるようなのです。それも、一見して女性向けとは思えない作品が、意外な人気を得ているようなのです。具体的には「はじめての甲子園」「閉ざされたネルガル」「ブレイド三国志」などで、評判のひどく悪かった「ブレイド三国志」が、見事連載を獲得しているのも、その手の女性読者の人気を見込んでのことだと推測できるところもあります。あるいは、「鋼の錬金術師」や「ソウルイーター」などの少年マンガ系作品も、恒常的に女性人気が高いようですし、ガンガンのその手の女性マニア読者への依存度は、かなりのものになると推測できます。

 そんなガンガンの現状に対応してか、どうもこのところ新人作品でも、このような明確に女性マニア向けの作品が登場しているのが目立ちます。先日ガンガンで掲載されたマンガ賞特別大賞受賞作「ROLL」も、まさにそんなイメージのマンガでした。今いる女性マニア読者をひきとめるために、これからもその手のマンガを量産しようとしているのではないか・・・そう考えられるのです。

 個人的には、このような読者は、かつてのガンガンの読者層とは異なるもので、決してそこまで媚びるべき存在とは思えません。どうも「鋼の錬金術師」のヒット以降、ガンガンはさらに悪い方向へと傾いたような気がするのです。


・これではガンガンの新人にはまったく期待できない。
 以上のように、この「フレッシュガンガン」の新人作品群、どれも似たような設定の少年マンガ作品ばかりで、一部に場違いな腐女子向けの作品も見られるなど、到底楽しむことは出来ませんでした。今後のガンガンを支えるような、個性的な新人はほとんど見られませんでした。少し前に、マンガ賞受賞作がひどく鮮烈だった伊藤絵里さんが、今回はまったくもってありきたりなバトル系マンガを描いているのも、大いに落胆してしまいました。他の新人に至っては、どれも最初から個性がまるで感じられませんでした。

 なぜ、ここまでガンガンの新人が奮わないのか。これには、大きく分けてふたつの理由があると思われます。
 まず、第一の理由は、ガンガンの編集部自身が、このようなマンガを描く新人を意図的に集めているのではと思われること。お家騒動後のガンガンの、メジャー志向の少年マンガ路線は、いまだ明確に続いており、新人もそれに見合う作品を描く者ばかりを集めているようなのです。定期開催される「スクウェア・エニックスマンガ大賞」の上位受賞作も、その手の露骨に少年マンガ的な作品ばかりが占めるようになりました。しかも、それが上位受賞に見合うとは思えないような平凡な作品が多いのです。

 第二に理由は、ガンガンに応募しようとする新人のレベルそのものが低下しているように感じられること。こちらの方はさらに問題です。雑誌に応募してくる新人というのは、その雑誌が多かれ少なかれ気に入っているから応募してくるわけです。今のガンガンの、メジャー路線に傾いた誌面をチェックして、そ子に掲載されたマンガを好むような新人ばかりが集まってくるようになった。
 そして、今のガンガンの作品レベルは、総じて平凡で決して高いとは言えません。そんな雑誌ですから、それ以上に高いレベルを志す新人作家は、まずガンガンは避けてやってこないのではないか。結局のところ「その雑誌に見合うレベルの新人しか集めることはできない」。そう思えてならないのです。

 このところのガンガンは、新人による少年マンガの新連載が、かつてよりも一段と凡庸に感じられる作品が増えたように思います。そして、そんな作品を見てガンガンにやってくる新人も、さらに低レベル化するのではと懸念されますし、それがこのフレッシュガンガンに強く表れているようです。もう、今のガンガンは、雑誌の低レベル化で新人もさらに低レベル化するという、負のスパイラル連鎖に陥ってしまったのではないでしょうか。


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