<FULL MOON>

2008・3・22

 「FULL MOON」は、少年ガンガン2007年10月号より開始された連載で、ここ最近のガンガンがこれまで出し続けてきた、典型的な王道系少年マンガとなっています。前年の2006年に2回ほど読み切りが掲載され、それで実力が認められたのか、連載を獲得する運びとなりました。作者は塩沢天人志で、読み切り版「FULL MOON」以前にも、幾度かガンガンや姉妹誌で読み切りを掲載されたことがあり、ガンガン編集部が特に目をかけている新人のひとりのようです。また、この塩沢さんは、あの「ソウルイーター」の作者・大久保篤さんのアシスタントであり、この作品にも彼の影響が顕著に感じられます。

 しかし、「ソウルイーター」が、ガンガンでも看板クラスの人気を誇る実力派連載となっているのに対し、この「FULL MOON」は、総じて平凡な作品にとどまっているようで、ガンガン内でも決して思うような人気は得られていません。新連載当時こそ、大々的な扱いで始まったものの、その後の経過はまるで思わしくなく、現在では掲載順も後へと移動して固定化されてしまったようです。今では、この作品に注目している読者も多くはないのではないでしょうか。

 そして、この「FULL MOON」の出来を見る限り、ここ最近のガンガンの少年マンガは、さらに低レベル化が進んでいるようにも思えます。数年前と比べても、さらに平凡で、絵的にも内容的にもまるで見るところの無い作品ばかりになってきた感があります。その大きな理由として、ここ最近のガンガンの新人レベルの低下が強く感じられます。この「FULL MOON」の作者・塩沢さんも、数年前からガンガンが育ててきた新人にもかかわらず、決して大きな実力が伴っていないように見えます。まさに最近のガンガンの新人の典型的な存在となってしまっているように思えます。今後、この程度のレベルの新人に、編集部が推し進める王道少年マンガを描かせても、決して成功できないのではないかと思えるのです。


・あまりにも平凡すぎる設定・ストーリー。
 まず、このマンガは、典型的な退魔師もののファンタジーストーリーで、その時点でよく見られるタイプの設定だと感じてしまい、初見の印象がよくありません。ガンガンの新人では、マンガ賞の投稿作品においても、特にこの手のマンガがよく見られるのですが、今のマンガ家志望の若者には魅力的に映っているのでしょうか。

 そして、肝心のストーリーやキャラクターも凡庸であり、特にこれといった面白さが感じられません。キャラクターに関しては、主人公の退魔師(魔祓い師)が女の子というのは、ある程度新鮮に映る要素かもしれません(これは読み切り版からの受け継がれた設定です)。しかし、それもさほど効果的なものにはなっておらず、それ以外のキャラクターにも魅力は感じられません。また、キャラクターの造形に、師匠である大久保さんの影響が非常に強く感じられ、この作者ならではの独自性があまり感じられないのです。
 ストーリーの展開も今ひとつです。典型的な魔物退治のストーリーで、そこにキャラクターの重い運命や使命を絡ませて、重厚な物語を作ろうと試みているようですが、それがあまりうまくいっているようには見えません。重そうに見えるストーリーの割には、心に響いてくるものが少なく、むしろストーリーの凡庸さの方が強く感じられます。また、ストーリーの躍動感に乏しいのも難点で、全体的にテンポの良さが感じられないのも大きい。

 そして、このような平凡な内容は、読み切り版においてもさほど変わっていなかったのです。そのため、このマンガの連載化が決まった時にも、果たして面白いものになるのかどうか、非常に不安でした。そして、その不安はまさに現実のものとなり、なぜこのレベルのマンガが連載化してしまうのか、また今のガンガンに対する疑問が生じることになってしまいました。
 最近では、この読み切り版のキャラクターも出てきましたが、これもさほどぱっとせず、あまりテコ入れにはなっていないように思えます。読み切りの1回限りの話ではそれなりに読めましたが、連載化した今ではさほどのものは感じられなくなってしまいました。


・絵に独自性が感じられないのが痛い。
 そして、ストーリー以上に問題なのは絵柄でしょう。この作者の絵柄は、師匠の大久保さんの影響があまりに強すぎて、「ソウルイーター」の作画とひどく似ており、そこにオリジナリティが感じられないのです。

 特にそれが強く感じられるのは、前述のようにキャラクターです。とにかく、「これは『ソウルイーター』に出てきたな、出てきそうだな」と思える造形のキャラクターがやたらと目立ち、一見しただけではもう「ソウルイーター」の類似版としか感じられません。特に、敵キャラクターである魔人たち、彼らのイカれたキャラクター性は、まさに「ソウルイーター」のキャラクターそのままで、多くの読者がそれを感じてしまうと思います。優れたマンガ家の影響を受ける事自体は悪いとは思いませんが、この作者の場合、その影響から脱して独自性を生み出すまでには至っていないようです。

 加えて、絵のレベルも今ひとつです。「ソウルイーター」に酷似した絵柄にして、絵のレベルは低いため、まさに「ソウルイーター」の劣化版にしか感じられません。キャラクターの造形・描き込みにも劣りますし、背景についてもまったく奮いません。それでも、カラーイラストや一部の力の入った作画シーンには、まだかなりのレベルのものも散見されるのですが、それが本編すべての作画にまで行き届いておらず、安定していないのです。また、「ソウルイーター」の絵柄は、その独特の建造物や各種装飾デザインに、大久保さんならではのイカれた感性を感じられるのですが、この「FULL MOON」には、さすがにそのような魅力は感じられません。
 さらに、最も劣っていると感じるのは、やはりアクションシーンでしょうか。「ソウルイーター」では、キャラクターたちがのびのびと手足を伸ばしてバトルを繰り広げる躍動感溢れるアクションがふんだんに見られます。しかし、この「FULL MOON」では、これもいまいちであり、全体的に動きが緩慢で、バトルのテンポ・躍動感でもひどく劣ってしまうのです。


・最近のガンガン少年マンガの典型的な凡作。
 そして、このような平凡な内容は、最近のガンガン少年マンガにあまりによく見られるものとなりました。
 ここ数年来、ガンガンでは、このような新人による少年マンガの読み切りや連載が、かつてより頻繁に見られるようになりました。しかし、その連載の多くは、ことごとくが平凡で質の低いものになっているようです。

 一例としては、この「FULL MOON」の連載開始と前後して、マンガ賞で特別大賞・準大賞を受賞した「ROLL」と「朱神さまの鬼丹やらい」があります。この2つの受賞作は、どちらも大賞・準大賞とは思えないレベルの作品でした。「ROLL」は、完全にストーリーが破綻した大問題作であり、なぜこれが特別大賞なのか、まったく理解できませんでした。「朱神さまの鬼丹やらい」は、まだそこまでひどい作品ではなかったものの、典型的な和風世界観の「退魔師もの」で、オリジナリティは感じられませんでした。

 そして、連載作品では2008年に入ってからの「トライピース」「ストレイキーズ」という二大新連載が挙げられます。このふたつの作品、開始時点ではどちらもさほどレベルの高い作品ではなく、むしろ平凡でまだまだ高い完成度とは言えないものであり、これが大型新連載として大々的に始まったのは、あまりにも不可解な決定でした。
 さらに、このふたつの作品は、元々は同作者の読み切り作品を連載化したものであり、この点で「FULL MOON」と共通するところがあります。これらの読み切りも決して面白いとは言い切れない作品ばかりであり、その連載化に疑問が及ぶ点も、まさに「FULL MOON」と同じです。なぜ、さほどの完成度でもないと思われる読み切りを、ここまで連載化するのでしょうか?
 これらの作品に共通する欠点は、基本となる設定・ストーリーそのものが平凡な上に、新人らしい未熟さまで目立ち、完成度も決して高くないことです。設定が平凡でありきたりな作品でも、実力派のベテラン作家が描けば面白いものに仕上がるかもしれません。しかし、ガンガン編集部が連載を任せるのは、まだまだ実力が伴っているとは思えない新人ばかり。これでは、到底面白い作品が出来るとは思えないのです。


・一昔前の少年マンガと比べても劣っているのではないか。
 そして、これらの作品は、ガンガンのお家騒動以後、間もなくして始まった少年マンガたちと比較しても、相当に劣っていると思うのです。
 お家騒動前後からの作品としては、あの「鋼の錬金術師」は別格としても、それ以外に「666(サタン)」「マテリアル・パズル」「B壱」などがあり、少し遅れた数年後の作品では、「女王騎士物語」や「ソウルイーター」があります。これに料理マンガである「王様の耳はオコノミミ」も加えてもよいでしょう。また、これらはすべて新人による作品ですが、一方でベテラン作家による少年マンガ系作品として藤原カムイの「ドラゴンクエスト エデンの戦士たち」、増田晴彦の「スサノオ」、渡辺道明の「PHANTOM;DEAD OR ALIVE」などもあります。

 これらの作品の中には、「666(サタン)」のようにいまいち平凡な作品もかなり含まれますが、一方で中々の良作もあると思います。大久保篤2大作品である「B壱」「ソウルイーター」、熱心なファンを抱える土塚理弘の「マテリアル・パズル」、藤原カムイの実直な創作が光る「ドラゴンクエスト エデンの戦士たち」などは、いずれもかなりの良作と言えるでしょう。「女王騎士物語」もかなりの人気がありました。

 しかし、ここ最近の「FULL MOON」に代表されるガンガンの少年マンガ群は、これらと比べても明らかに劣っているように思えるのです。「FULL MOON」にしろ、「トライピース」「ストレイキーズ」にしろ、明らかに新人による未熟な完成度が目立ち、決して優れているとは言えない作品になっています。また、これから連載化に向けて修行中である、新人による読み切り作品やマンガ賞受賞作品にも、いいものが見られなくなっています。つまり、同じ路線変更後のガンガン少年マンガでも、最近のそれは、昔よりもさらに力が劣っていると思えるのです。

 そもそも、お家騒動後のガンガンの、少年マンガを強硬に推し進める政策は、それ自体が大いに間違っているように思えます。しかし、これまでは、お家騒動以前ほどではないものの、それでもそれなりの作品がぽつぽつと出てはいました。しかし、ついにここにきて、そういった良作も影を潜め、さらに低レベルの少年マンガばかりが出てきたように思えるのです。この「FULL MOON」は、そのようなマンガの先駆け的な存在として、今後のガンガンにさらに影を落とす端緒になったのではないでしょうか。


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