<もし、今ガンガンから『鋼の錬金術師』が無くなったらどうなるのか真剣に考える>

2004・9・23

 今、少年ガンガン誌上では『鋼の錬金術師』(以下「鋼」)が大人気で、特にアニメ化で大ヒットして以降、編集部による強烈な「鋼」攻勢が続いています。毎号のように付録や全員サービスをつけまくり、カラーページでは「鋼」関連の特集を何ページもやっています。果ては、「鋼」とは直接関係のないガンガンの姉妹誌にまで、「鋼」関連の記事を載せる有り様です。

 そして、このような状況の中で、今のガンガンは「鋼」への偏重が進み、「鋼」以外のマンガの存在感が極端に薄くなってしまった印象があります。もし、これで今、「鋼」がガンガンの誌面から消えたら、一体ガンガンはどうなってしまうのか。このページでは、あえてその状況をシミュレートしてみました。


・ガンガンの現状の分析。
 まず、今のガンガンで「鋼」以外で人気のあるマンガがどれくらいあるのか考えてみます。「鋼」のみが盛んに取り上げられる中で、それでも人気を維持しているマンガはあるのか。実は、これが非常に厳しいのです。
 今、ガンガンである程度まとまった人気があるマンガとなると、城平京原作の個性派ミステリー「スパイラル」、柴田亜美のかつてのヒット作の続編「PAPUWA」、美少女マニアに人気の「ながされて藍蘭島」、新連載以来コンスタントに人気を得ている「ソウルイーター」くらいでしょう。それ以外にはこれといった人気作が見当たりません。(個人的には「エデンの戦士たち」や「マジック・マスター」あたりが好きなんですが、残念ながら大した人気は得られていない状況です。)

 ところで、皆さんは、「泡沫政党」という言葉を御存知でしょうか? まあ、常識として当然知っているとは思いますが、念のために説明すると、「獲得議席数が極端に少なく、議会において大勢に影響を与えない弱小政党」のことです。今の日本では、共産党や社民党の勢力が落ち、泡沫政党と化しています。逆に、今の日本でまとまった勢力を持つ政党は、自民党と民主党、そして自民党を背後であやつる公明党くらいのもので、後のすべての政党は、極端に勢力の低い「泡沫政党」です。
 そして、実は今のガンガンも、これとほとんど変わらない状況なのです。人気のあるのは「鋼」「スパイラル」「PAPUWA」「藍蘭島」「ソウルイーター」程度のごく一部のマンガのみで、それ以外はほとんど人気の無い泡沫マンガと化しているのです。
 そして、このような泡沫マンガがいくら集まったところで、ガンガンを支えることなど出来ません。これら泡沫マンガのすべての売り上げを足したところで、「鋼」ひとつの売り上げにはかなわない。これが今のガンガンの現状なのです。

 一昔前のガンガンなら、連載マンガのほとんどすべてが満遍なく人気があったため、ひとつやふたつ人気マンガが終了したところで、大勢に影響はありませんでした。実際、当時の看板作品のひとつであった「守護月天」が中断した後でも、それほど売り上げが落ちることはなかった。しかし、今のガンガンは当時とは状況が違います。「鋼」のみに極端に人気が偏重している今、もし「鋼」が何らかの原因で消えるようなことがあれば、もはや致命的な影響は避けられないでしょう。


・「鋼」が終わるとどうなるか。
 では、具体的に、その「致命的な影響」とはどんなものか?
 あるデータによれば、「鋼」がアニメ化して大ブレイクして以来、ガンガンの発行部数が16万部から40万部へと大幅に増加したそうです。もし、このデータが本当だとすると、これは中々すごい数字だと言えます。ちなみに、増えた読者のうち20万人は女性読者だそうで、「鋼」に対する女性読者の熱狂的な人気を実感できます。
 しかし、今、もし「鋼」が消えた場合、今度は逆に40万部から16万部に減ることは大いに予想できます。増えた読者の多くは女性ですが、女性は雑誌に対して執着が薄く、読みたいマンガが無くなればもう雑誌を買わない人が多いですから、もはや読みたいマンガ(「鋼」)が無くなれば、ガンガンの発行部数は大いに減り、そっくり元に戻る可能性が高いです。

 いや、それだけではありません。「鋼」アニメ化以前の発行部数である16万部を保てるのかも疑問です。
 そもそも、「鋼」はアニメ化以前から絶対的な人気がありました。ガンガンで連載が始まって以来、アンケートではずっと一位を維持し続けており、ガンガン読者の間では不動の評価を得ていました。
 もちろん、その読者の中には、「『鋼』のためにガンガンを買っている」という人もかなり多く存在するはずですし、もし、今「鋼」が消えることがあれば、彼らアニメ化以前からの読者も離れる可能性が非常に高い。個人的には、今ガンガンから「鋼」が消えれば、ガンガンの発行部数は10万部以下に落ち込むと予測します。
 ところで、ガンガンの姉妹誌である「Gファンタジー」の今の発行部数が、約8万部です。ガンガンから比べればはるかにマイナーなわけですが、今ガンガンから「鋼」が消えれば、もはやガンガンは姉妹誌と同等のマイナー雑誌に落ち込むことが予想できるのです。


・「鋼」以外に人気がない理由。
 しかし、なぜ「鋼」ばかりに人気が偏重し、それ以外はまるで人気の無い泡沫マンガばかりが揃ってしまったのでしょうか。
 まず、やはり「ブレイド騒動による移籍組の離脱」の影響が大きいんですが、問題はそれだけではありません。実は、移籍組の離脱以外でも、ガンガンからいい作家がことごとく抜けている現状があるのです。

 今のガンガン編集部は、極端な「少年マンガ路線」を採っており、その路線に合うマンガばかりを連載させています。逆に、その路線に合わない作品は、スクウェア・エニックスの他の雑誌に飛ばされているのです。
 このやり方は、古くは「ツインシグナル」「刻の大地」のGファンタジー移籍に始まります。何の落ち度もない2つの作品を、雑誌側の都合だけで突然移籍させ、当時のガンガン読者を大いに混乱させました。
 そして、その後始まった新連載も、雑誌の路線に合わないとなると移籍を余儀なくされます。「アーティファクトレッド」(木村太彦)のWING移籍、「妖幻の血」(赤美潤一郎)のパワードへの移籍、同じく「ドームチルドレン」(山崎風愛)のパワードへの移籍、そして、「プラネットガーディアン」の高坂りとさんも、ガンガンでの連載終了後にパワードへ移っていきました。ついでに、「私の救世主さま」(水無月すう)もGファンタジーへと移籍。このように、ガンガンから他の雑誌へと移籍を余儀なくされたマンガ家はたくさんいます(逆に、他の雑誌からガンガンへと移ってくるマンガ家はほとんどいません)。

 こんなやり方では、本当に面白いマンガを描く作家が、どんどんガンガンから離れていくのも当然でしょう。そして、残ったのは典型的な少年マンガ路線のありきたりなマンガばかり。その差は歴然としています。考えてみてください。「刻の大地」や「瀬戸の花嫁」「妖幻の血」と、「666(サタン)」や「女王騎士物語」「王様の耳はオコノミミ」と、一体どちらが面白いというのか。もはや比べるまでもないでしょう。


・ところで、なぜ今のガンガンは厚いのか?
 さて、このような強引な編集部のやり方によって、今のガンガンは、ほとんど「鋼」のみで発行部数を保っている、非常に危ない状況になってしまったと言えます。しかし、それにも関わらず、今のガンガンのページ数は非常に多く、雑誌はとんでもなく厚い。これは一体どういうことなのか。
 ここでよくガンガンを分析してみると、雑誌自体は確かに厚いのですが、ひとつひとつのマンガは極めて人気の低い「泡沫マンガ」であり、誌面自体はひどく冷え込んでいることが分かります。つまり、雑誌の規模は肥大化しているのに、その中身は冷えきっているのです。そして、実質「鋼」の人気のみで肥大化した誌面を維持しています。極めて不安定な状況で、健全な誌面ではありません。
 つまり、今のガンガンは、すでに主系列からは外れており、肥大化しているのに中身の温度は低いという、赤色巨星の段階に入っていると言えます。これは、もはや末期状態であって、寿命の終わりも近い。その寿命の最後には、星の規模に応じて、周囲にガスを噴出して惑星状星雲となるか、あるいは派手に超新星爆発を迎えて華々しく終わるか、そのいずれかになるでしょう。


・ガンガンはいつ爆発するのか。
 まあ、個人的な希望としては、最後に終わる時には華々しく凄まじい企画を立てて、派手に超新星爆発を起こして粉々に砕け散ってほしいところですが、では具体的にいつ爆発が起こるのか?

 まず、「鋼」の今後の動向ですが、このところの怒涛の展開から見て、あまり長い連載になるとは思えません。少なくとも、6年も7年も長く連載が続くようには見えません。来年に映画化を控えているため、少なくともそれまでは安泰でしょうが、それ以降となるともう一気にクライマックスを迎える可能性が高い。長く見てもあと3年程度で終わるのではないでしょうか。
 そして、「鋼」に次ぐ人気マンガである「スパイラル」も、もう連載は終盤であり、こちらはさらに早く終わる可能性が高いです。「スパイラル」は「鋼」以前からの連載で、ほぼ唯一人気を保っているマンガですが、これまで終わるとなると、古くからのガンガン読者はさらに離れることが予想されます。

 そして、「鋼」と「スパイラル」が終わるとなると、もはや雑誌を支えていくような連載陣はガンガンにはありません。「PAPUWA」と「藍蘭島」と「ソウルイーター」だけでは力不足でしょうし、それ以外の泡沫マンガがいくら揃ったところで、まったく人気は期待できません。もはや、一気に雑誌が保てなくなる可能性が高い。
 つまり、「鋼」と「スパイラル」が終わった時点で、ガンガンも終わるのではないか。まあ、それまでにいい新連載を揃えて、雑誌を立て直せばなんとかなるかも知れませんが、その可能性も低い。なぜなら、ここまで人気のないマンガが揃ってしまうと、その穴埋めをするために大量の優良新連載を揃える必要がありますが、しかし今の編集部の不自然なまでの少年マンガ路線で、気に入らないマンガ家をことごとく他の雑誌に追いやっているようなやり方では、もう絶対に無理だからです。もはや、「ガンガンは『鋼』が終わったらどうなるのか」という状況ではなく、「『鋼』が終わって、ガンガンも終わるのはいつなのか」を考える状況になっていると思われます。


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