<少年ガンガンの歴史(3)停滞期からの復興>

2004・11・15

 さて、このように、新興の雑誌としては極めて幸先のいいスタートを切った「少年ガンガン」ですが、その後も数年の間は、かなり安定した時期に入ります。「南国少年パプワくん」「魔法陣グルグル」の2大アニメ化作品を筆頭に、「ロトの紋章」という力強い看板作品、「ハーメルン」や「Z MAN」「突撃!パッパラ隊」「輝竜戦記ナーガス」等の脇を固める人気マンガもすべて長期連載に入り、およそ人気作のラインナップのみを外から眺めれば、非常に充実した誌面に見えます。

 しかし、その一方で、ガンガンは必ずしも順調に発展していったとはいえない側面もあり、むしろ創刊して数年後には、いわゆる「停滞期」に入ってしまった時期があったと考えます。これは、新創刊した雑誌が、最初の内は勢いがあるが、数年経つ内に次第に当初の勢いがなくなってしまうという、いわば「中だるみ」の状態だと思われますが、どんな雑誌でも多かれ少なかれ陥るであろうこの状態に、ガンガンも入ってしまったわけです。具体的には、創刊されて3〜4年経った、1993〜1994(or1995)年あたりでしょうか。

 まず、前述した創刊以来の人気マンガのいくつかが、創刊当時ほどの勢いがなくなります。
 まず、「南国少年パプワくん」。この作品は、連載の途中で大きく路線が変わり、シリアスなストーリーに移行します。これはこれで面白いには違いないのですが、しかし当初からの爆笑ギャグでハマったファンにはかなり微妙だったようで、創刊当時ほどの圧倒的な人気はなくなります。
 次に、「ハーメルンのバイオリン弾き」。これもまた当初の「ギャグ+シリアス」の路線から外れていき、よりシリアスなストーリー路線が強くなります。そして、こちらは明らかに昔ほどには面白くなくなり、特に連載序盤でクライマックスを迎えた「スフォルツェンド戦」を過ぎた辺りから(単行本で言うなら11巻を過ぎたあたりから)、これまた勢いはなくなります。
 上記の2作品ほどではありませんが、「ロトの紋章」「Z MAN」「ナーガス」等の定番少年マンガも、連載序盤ほどの勢いはなくなります。もっとも、具体的にどこが劣っているかと言われても中々答えるのは難しいのですが・・・とにかく序盤ほどの圧倒的な勢いが若干薄れてきた感は否めません。
 このように、この当時のガンガンは、創刊当時からの人気連載が全体的に勢いを落としてきた時期だったと言えます。もちろん、この当時にアニメ化された「魔法陣グルグル」や、SFシリアス路線に入って本格的な面白さを獲得した「ツインシグナル」のように、この時期に逆に勢いを増した連載もあり、あるいは「突撃!パッパラ隊」のように安定した面白さを維持し続けたマンガもありますが、それでも全体的には創刊当時の熱気が冷めてしまった感は否めなくなります。

 そして、それら人気マンガの後を継ぐべき優秀な新連載が中々現れません。やはり新人による新連載は、どんなマンガ雑誌でも非常に重要です。いくら定番の人気連載があっても、それだけでいつまでも雑誌を保つのは不可能です。その肝心の新連載が見られないということは、やはりこの当時のガンガンは勢いが落ちていたのだと考えられます。
 まず、そもそも新連載の本数自体が少ない。特に94年がひどく、ページ数の少ない2本の4コマ新連載を除けば、まともな新連載がたったの3本しかありません。今のガンガンでは考えられませんね。これでは中々いい新連載は出てこないでしょう。
 そして、数少ない新連載一本一本の内容も、ありきたりな少年マンガか、さして内容のないギャグコメディが大半で、積極的に読みたいと思えるマンガは多くありませんでした。

 ただ、その中で例外的に、唯一面白かった新連載があります。「夢幻街」(水沢勇介)です。
 これは、現代もののホラー+アクションといった感じのマンガで、青年誌に載るような重厚な人間ドラマ、本格的な伝奇ホラーの知識と凝ったアクションシーン、そして退廃的な世界観とそれをあますことなく表現した絵柄と、まさに当時のガンガンでは異色の作品でした。当時のガンガンは今以上に低年齢向けの印象が強く、このマンガを覚えている人もあまりいないと思いますが、ガンガン初期の隠れた大名作であることは間違いありません。

 もっとも、真に面白い新連載がわずかにこの一本だけ、しかも当時の主要読者であった低年齢層には印象が薄いマンガであった感は否めず、これだけで雑誌を変えるには至りませんでした。むしろ、この「夢幻街」は、創刊当初から少年マンガ路線で通してきたガンガンが、初めて打ち出した異色作品という意味の方が大きいのです。この後のガンガンは、次第に誌面が変化していき、当初の王道少年マンガ路線から、より独自性の強い「エニックス的」なマンガへと進化を遂げるのですが、この「夢幻街」こそがその進化の第一歩であったと言えるのではないでしょうか。


・95年からの復興。
 と、このように、93〜94年当時のガンガンは、全体的に創刊時からの人気マンガに頼った構成で変化が少なく、しかもその人気マンガもかつての勢いがなく、個人的にもかなり物足りないものでした。実際、この当時のわたしはガンガンを惰性で買っており、むしろエニックスでも新創刊雑誌のGファンタジーやギャグ王の方を愛読していました。
 ところが、これが95年に入るとガンガンの誌面が変わってきます。前年の新連載の少なさとは対照的に、多くの新連載を積極的に打ち出すようになり、しかもその新連載群がどれも意欲的なものでした。

 まず、もっとも有名となった新連載として、青年誌での不条理系4コマで有名だったいがらしみきお「忍ペンまん丸」があります。基本的には低年齢の子供向けのギャグコメディですが、随所にいがらしみきおらしい面白さが溢れており、大人でも十分楽しめるものでした。
 そして、原作に史村翔、作画に結賀さとるを迎えた「天空忍伝バトルボイジャー」。王道少年マンガの要素を基本にしつつも、SF的な壮大な世界観と迫力のアクションが楽しめる意欲作でした。
 脇を固める4コママンガも、「けんけん猫間軒」(梶原あや)が大ヒット。かわいいキャラクターと、それと正反対のシュールなギャグは当時の読者に大いに受けました。

 しかし、これらの連載以上に素晴らしいのは、なんといっても「浪漫倶楽部」(天野こずえ)「CHOCO・ビースト!!」(浅野りん)のふたつの新連載です。
 このふたつのマンガは、従来のガンガンの力強い少年マンガとは雰囲気が異なり、中性的で優しい世界観・絵柄が最大の特徴です。明らかに従来とは異なる方向性のマンガで、これによってガンガンがバリエーション溢れる多彩な誌面となりました。そして、この「中性的な雰囲気」のマンガこそが、この後のガンガン(エニックス)作品の主流となっていくのです。その点で、その後のガンガンの方向性を決める端緒となったこの2作品の連載は、ガンガンの歴史を語る上で非常に重要な意味を持っています。
 つまり、この後のガンガン(エニックス)作品は、女性でも受け入れやすい、中性的で優しいマンガが主流を占めるようになり、実際に女性読者の割合も高くなり、いわゆる「エニックスマンガ」という、独特の雰囲気を持つ作品群が生まれてくるわけですが、この「浪漫倶楽部」と「CHOCO・ビースト!!」こそが、そのエニックスマンガの先駆けとなった可能性が高いのです(*もっとも、エニックスにおける中性的な雰囲気のマンガは、姉妹誌の「Gファンタジー」や「ギャグ王」の方がむしろ盛んで、こちらの方の影響も見逃せません。中でも、「幻想大陸」「レヴァリアース」(夜麻みゆき)の存在は非常に重要です)。

 ちなみに、このふたつのマンガは、テーマやストーリー等の内容面でも大変優れており、個人的には、当時の看板マンガであった「ロトの紋章」や「ハーメルンのバイオリン弾き」よりも面白かったと考えています。しかも、このふたりは「フレッシュガンガン」出身の新人であり、ついにこの時期になってエニックスの新人育成の成果が表れたと言えそうです。

(余談)
 まったくどうでもいい話ですが、わたしは停滞期のガンガンを惰性で読んでいて、当時はもう買うのをやめようかとまで思っていたのですが、その矢先に「浪漫倶楽部」「CHOCO・ビースト」の新連載が始まり、「これは面白い」と思って読み始め、それを契機にガンガン熱が再燃し、その後10年近く今に至るまで、このようなサイトを作るほどにエニックスマンガにはまっているわけです。つまり、「浪漫倶楽部」と「CHOCO・ビースト!!」がなければ、このサイトは存在していないというわけで、このふたつのマンガの存在は極めて重要です(笑)。


 話を元に戻します。このように「忍ペンまん丸」「天空忍伝バトルボイジャー」「けんけん猫間軒」そして「浪漫倶楽部」「CHOCO・ビースト!!」等の意欲的な新連載群により、ガンガンは一気に活気づきます(個人的には、この意欲的な新連載群の中に、あの「夢幻街」を加えたいところです)。そして、これらのマンガは従来のガンガンの王道少年マンガ路線とは異なるもので、ガンガンの誌面は多彩でにぎやかなものになります。
 その一方で、創刊当時からの長期連載の中で、このあたりで終了を迎えていくものが出てきます。94年に「輝竜戦記ナーガス」、95年にはあの「南国少年パプワくん」「Z MAN」が最終回を迎えます。新しい方向性のマンガが出てくる一方で、古参のマンガは次第に終了を迎えていく。この当時のガンガンで、新旧の世代交代の波が訪れ始めていたのです。

 そして、こうして誌面が次第に変化していく中、それでも一気に活気を得たガンガンは、その勢いに乗って最大の企画を打ち立てます。それが、「月2回刊行化」です。そして、96年3月をもって実際に月2回刊行を果たし、これによってガンガンの誌面はさらに大幅に変化していきます。次回は、この月2回刊行当時のガンガンを見ていきます。


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