<少年ガンガンの歴史(4)月2回刊時代の動向>

2004・11・16

 さて、こうして勢いに乗った形で、96年3月をもって月2回刊ペースへと突入していくわけですが、この勢いは月2回刊時代にさらに加速します。

 まず、95年時代以上の個性的な新連載の数々。それこそ毎号のように新連載攻勢が続く勢いで、誌面は一気に賑やかになります。
 その中でも成功して大人気を獲得したのが「まもって守護月天!」(桜野みねね)、「刻の大地(夜麻みゆき)」、そして「GOGO!ぷりん帝国」(くぼたまこと)の三本。前者ふたつは、前述の「浪漫倶楽部」や「CHOCOビースト!!」の流れを受け継ぐ、中性的な「エニックスマンガ」で、その後のガンガンを長く支える大人気マンガとなります。そして後者は、もともとは青年誌で活躍していた作者による異色の「庶民派ギャグマンガ」で、方向性は違えどこれまた大人気を獲得。面白いマンガならなんでも受け入れるガンガンの自由度が表れた、実に優秀な新連載群でした。
 そして、それほどの人気までは得られませんでしたが、脇を固めるに十分な秀作陣として「幻想世界魔法列伝WIZバスター」(岡田芽武+てんま乱丸)、「機動少年XX」(立木大和)、 「幕末風来伝 斬郎汰」(喜名朝飛)、「護衛神エイト」(吉崎観音)、「椎名くんのリーズニングファイル」(あさみさとる)などのラインナップがあり、新鮮な新連載陣のおかげで誌面は非常に充実していました。
 さらには、この当時のガンガンは、とにかく読みきりが多かった。その読みきり一本一本の内容や雰囲気も多岐にわたり、これまた誌面の充実に貢献していました。


 そして、この時期(96年)のガンガンは、マンガの内容だけでなく、様々な状況や企画が一度に重なり、非常に活気があったことを記憶しています。

 まず、月2回刊による連載ペースの高速化。これにより、ストーリーがテンポよく進むようになり、多くの連載マンガがその勢いを増していきました。
 中でも凄まじかったのが「ハーメルンのバイオリン弾き」。月2回刊開始時は1回30ページのペースだったのですが、「30ページでは描きたいことが描ききれない」という作者・渡辺道明氏のたっての願いで、なんと1回45ページにペースアップ。1回45ページで月2回刊ですから、なんと月産90ページという、週刊連載を超える凄まじいハイペース。当時の「ハーメルン」は毎月のように単行本が出る有様で、もともと月刊誌だったガンガンでは信じられないほどの連載ペースに発展します。
 「ハーメルン」ほどではないが「ロトの紋章」も凄かった。このマンガは96年にクライマックスを迎えて大いに盛り上がるのですが、これまた盛り上がりに合わせる形で連載がペースアップ。しかもペースアップしても作画のレベルが落ちるどころか、逆にレベルが上がる有様で(当時の藤原カムイ氏は神が降臨していたと思われます)、最終回に向けて最高潮に盛り上がりました。
 このふたつ以外の連載マンガも、月2回刊の恩恵を受けて連載がペースアップ、単行本が3〜4カ月に1巻の割合で出るペースで、非常に活気がありました。読者にとっても、自分の好きなマンガが月2回読めて、さらには速いペースで単行本が買えるという、幸運な時代であったと言えるでしょう。

 そして、月2回刊開始直後に封切られたガンガンマンガの映画化。具体的には「ロトの紋章」「ハーメルン」「魔法陣グルグル」の3本立ての映画でした。これは、映画の内容よりも、むしろ「マイナーなガンガンのマンガが映画化された」という企画自体が大きい衝撃で、月2回刊の衝撃と合わせて「あのガンガンもついにここまで来たか」という感慨があったものでした。ちなみに、肝心の映画の内容では、特に「ハーメルン」の面白さが際立っていました。原作序盤にあったギャグがふんだんに活きた、最高に笑える短編映画でした。

 そして、さらに面白い企画として、「ラジオ・ガンガン」という、ガンガンを扱ったラジオ番組の存在が挙げられます。最近では「鋼の錬金術師」や「守護月天」「最遊記」等の人気マンガを単品で扱ったラジオ番組は珍しくありませんが、このように雑誌自体をフィーチャーしてラジオ番組を企画したのは、この時くらいでしょう。
 この「ラジオ・ガンガン」の番組企画の中では、毎回ガンガンの連載作家をゲストとして招いてトークを行なったことが印象深いですね。これは、やはり連載作家の生の声を聴けるということで、読者には非常に好評でした。大物作家の藤原カムイ氏を始め、当時のガンガンの連載マンガ家はほとんど出演していました。さらには、頻繁に公開録音を行なったりもしたのですが、これも「ガンガンのマンガ家に直接会える」ということで毎回大盛況でした。
 ちなみに、このゲスト作家の中で、最も読者の人気が高かったのは、間違いなく夜麻みゆきさんです。当時の連載マンガが抜群に面白かったことに加えて、作者本人の容姿や人柄がとてもかわいらしく、ラジオを聴いていた、あるいは公開録音に来ていた読者の間でも、圧倒的な人気でした。
 さらに、このラジオでは「浪漫倶楽部」のラジオドラマがあり、これも人気企画のひとつでした。このラジオドラマは、のちにCD化されて販売されます。

 そして、これ以外にも96年から97年にかけて「ハーメルン」や「忍ペンまん丸」のTVアニメ化や、「ツインシグナル」のOVA化など、アニメ関連の企画も多数見られ、さらには「刻の大地」「ツインシグナル」のノベライズの刊行もこの頃に始まり(ガンガン連載マンガの小説化の端緒)、実に活気に溢れていました。

 今思えば、ここまで多角的に様々な企画が一度に出てきた時期は、ガンガンでもこの当時くらいでしょう。今のガンガンは「鋼の錬金術師」のアニメ化関連で盛り上がっていますが、この当時の活気は今とはまた違ったものがありました。雑誌全体が盛り上がっている印象があったのです。


・97年の動向。
 そんなこんなであわただしく年が明けて97年。まず、あの超大作「ロトの紋章」が華々しくフィナーレを向かえます。もうこの当時のガンガンは、新興の新連載陣が誌面の中心で、既に創刊当時の誌面の雰囲気とは大きく変わっていました。そして、ここに来て、ついにガンガン創刊時からの看板マンガが終了し、ガンガンの一時代も終わった感がありました。これから先、さらに新しい方向性の新連載が続き、いよいよガンガンはエニックス独自の色を強めていきます。

 この年の新連載は粒揃いです。「ジャングルはいつもハレのちグゥ」(金田一蓮十郎)、「アークザラッドII〜炎のエルク〜」(西川秀明)、「PON!とキマイラ」(浅野りん)、「里見☆八犬伝」(よしむらなつき)、「東京アンダーグラウンド」(有楽彰展)と、のちのガンガンを支える長期連載の多くがこの年に出揃います。のちにWINGに移籍してしまいますが、「悪魔狩り」(戸土野正内郎)も一時期連載されました。「ロトの紋章」の後を継いだドラクエマンガ「ドラゴンクエスト 幻の大地」(神崎まさおみ)は、さすがに前任者の藤原カムイ氏には劣るものの、それなりのクオリティを確保し、これも長期連載となります。この年に、のちのガンガン誌面の基礎が完全に固まったと見てよいでしょう。

 具体的には、96年の新連載「守護月天」「刻の大地」に、この年の主要新連載である「ハレグゥ」「アークII」「PONキマ」「里見」「東京UG」、これに長期連載である「ツインシグナル」を加えた「中性的なイメージのエニックスマンガ」が誌面の中心となり、ガンガンの誌面の雰囲気がいよいよ固まってくるのです。


・しかし、ここで思わぬ不振が。
 だが、この年のガンガンは、必ずしもいいことばかりではありませんでした。事実、この年になってガンガンは一気に発行部数を落とすのです。

 不振の第一の原因としては、月2回刊のハイペースによる連載作品のクオリティの低下です。確かにハイペースの連載は作品に勢いをもたらしましたが、同時に作者の酷使につながり、この時期になって連載ペースについていけずにクオリティを落とす作家が出始めたのです。特に「ハーメルン」の渡辺道明と「刻の大地」の夜麻みゆきのふたりが深刻で、作画面を中心に質の低下が目立つようになります。
 第二の原因は、実はその月2回刊というペースです。このペースに一部読者がついていけなくなったのです。確かに速いペースで連載マンガが読めるのは嬉しいのですが、同時に速いペースで出版される雑誌や単行本に読者のカネがついていかなくなり(笑)、購読をやめる読者が急増したのです。

 しかし、真の原因はこんなことではありません。この年のガンガンの不振の最大の原因・・・それは、実は「ロトの紋章」の連載終了です。
 当時のガンガンの連載の中で、「ロトの紋章」だけはまさに別格でした。この作品の、単行本全21巻の累計1800万部の発行部数は今だガンガン系では破格の売り上げで、一巻あたりの発行部数ではあの「鋼の錬金術師」には及ばないものの、それでも極めて高い人気であったことは間違いありません。しかも、「ロトの紋章」の場合、「鋼の錬金術師」と違って、TVアニメ化すら行なわれずにこの発行部数に到達しています。ガンガンのようなマイナー雑誌で、TVアニメ化もなしでこれだけの高い人気はまさに異例であり、いかに「ロトの紋章」がガンガンの連載マンガの中で特別な存在であったかがよく分かります。
 事実、ガンガンを読まない人の間でも、「ロトの紋章」の知名度だけは抜群で、特にこの当時は最終回に向かって最高潮の盛り上がりを見せていたこともあって、普段ガンガンを読まない一般の人までもが「ロトの紋章」のためにガンガンを買っていたのです(これは、ちょうど今の「鋼の錬金術師」の盛り上がりとよく似ています)。そして、「ロトの紋章」のおかげで一時的に増えた読者が、「ロトの紋章」終了と共にガンガンを去ってしまい、そのためにガンガンの発行部数は激減、実に三分の一程度にまで落ち込み、ガンガンは一気に苦境に陥ってしまいます。

 そして、ガンガンの編集部はこの苦境を乗り切るために、月2回刊を中止して月刊に戻さざるを得なくなり、実際に98年の2月をもって月2回刊ペースは終了、月刊に戻ります。こうして、約2年の短い期間で月2回刊行時代は終了するのです。

 次回は、98年以降再び月刊に戻ったガンガンの動向を見ていきます。


(余談)
 個人的な意見ですが、この「ロトの紋章」の終了による発行部数の不振は、熱心な読者であるわたしにとってはひどく不満でした。「ロトの紋章」がなくなったからといって、ガンガンが面白くなくなったわけではないと思ったからです。
 この年の新連載の「ハレグゥ」や「PONキマ」はまぎれもなく名作ですし、前年、前々年からの新興作品である「守護月天」や「刻の大地」そして「浪漫倶楽部」もある。「ハーメルン」や「グルグル」「パッパラ隊」などの古参の連載もこの当時は健在。それなのに「ロトの紋章」がひとつ終わっただけで一気に雑誌が売れなくなってしまう。世間一般のマンガの見方と、自分のマンガの見方とのギャップに唖然としました。

 この出来事から、わたしは、世間一般には「ロトの紋章」のような「王道少年マンガ」だけを強く求める層が実に多く存在することを、初めて知ることになるのです。

 そういえば、この当時、ガンガンを買っていない友人が家に遊びに来た時、ガンガンの話をしたことがあるのですが、その友人は見事に「ロトの紋章」と「ハーメルン」しか知りませんでした。ガンガンを読まない人の、ガンガンマンガの知名度はその程度のものです。
 その時、わたしは「確かに『ロトの紋章』や『ハーメルン』は有名だし面白いが、知られていないだけで『浪漫倶楽部』や『CHOCOビースト!!』はそれ以上に面白いんだ」と必死になって力説した記憶があるのですが、今となってはいい思い出です(笑)。

 ちなみに、今のガンガンでも状況は似たようなもので、一般の人に知られているのは「鋼の錬金術師」だけだと思われます。


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