<少年ガンガンの歴史(5)エニックスマンガの完成>

2004・11・22

 さて、月2回刊時代後半の不振を受けて、ガンガンは月刊に戻らざるを得なくなったわけですが、それによりガンガンの勢いは一時的に後退します。しかし、早いうちに再び雑誌は活性化し、さらに安定した人気を得るようになります。月2回刊時代ほどの連載ペースはもはや維持できなくなりましたが、その分1回1回の連載の質が向上し、そんな良質の連載マンガの本数も増え、ガンガンはかつてないほどに安定した充実期を迎えます。しかも、この時期において、「浪漫倶楽部」や「CHOCO・ビースト!」から始まった独自路線のマンガがさらに発展し、この手の「エニックスマンガ」が最盛期を迎えます。良質で、しかも独創性の高い多数の連載陣に恵まれたこの時代こそが、まさにガンガンの全盛期と見てもよいでしょう。


・再月刊化直後の状況。
 ガンガンが再び月刊誌として登場するのは98年の3月ですが、この時からガンガンは異常な厚さで発行されるようになり、その外観で大いに人目を引くようになります。少年誌の中では突出した厚さで、外観だけでなく、もちろん内容も大幅にボリュームアップ、これこそが以後のガンガンの最大の特徴となります。
 なぜ、ここまで厚くなったのか? 理由は簡単で、「月2回出る雑誌を、月刊によりひとつに統合したから」です。最近になってガンガンを読み始めた人から、「ガンガンってなんでこんなに厚いの?」という質問がよく聞かれますが、それは「月2回刊行の雑誌を月刊誌に戻して、本来の2冊分の雑誌を1冊にまとめたから」というのが真相です(真相というか、ガンガンの古参読者なら誰でも知っています)。
 以後、この厚さのおかげで、ガンガンは、常に20前後のたくさんの連載マンガが読める雑誌へと、安定した誌面のスタイルを確立していくのです。

 さらに、月刊化直後のガンガンは、しばらくの間、単発の読みきりや半年程度で終わる短期連載をいくつか載せるようになります。この中で、月2回刊時代に「浪漫倶楽部」を完結させた天野こずえさんの読みきりシリーズや、かじばあたる・喜名朝飛・東まゆみ・たかなし霧香等、エニックスでも中堅クラスのマンガ家による短期連載が多数掲載されます(このうち、たかなし霧香のギャグ4コマ「ワルサースルー」は、安定した人気を得て長期連載となります)。これは、急な再月刊化を受けて、一気に増ページとなった誌面を補い、さらには編集者自身が月刊ペースの雑誌運営に慣れるために、彼等を試験的に採用して誌面の調整を行なったものだと思われます。
 この時期のマンガで特筆すべきは、前述の「ワルサースルー」の他に、個性派のドラクエ4コマ作家だった魔神ぐり子の描く「わくわくマンガ家への道」というギャグマンガです。これは、一応は「マンガ家を目指す人にマンガを描くテクニックを教える」という企画だったのですが、当初から内容は暴走気味で、連載終了後にも「コインランドリー」とタイトルを変更して実質的に連載が継続され、作者自身がガンガンの編集者とバカ騒ぎを繰り広げるという異色のギャグマンガとなり、コアなガンガン読者の間で大いに受けました(笑)。


・ガンガン史上最高の新連載陣。
 そして、月刊化されて半年が経ち、98年の末期以降、99年にかけて、いよいよ本格的な新連載攻勢に着手します。そして、ここで始まった新連載陣こそが、ガンガン始まって以来最大のヒットと言える、非常に良質かつ独創的な作品群でした。
 具体的には、「スターオーシャンセカンドストーリー」(東まゆみ)、「魔探偵ロキ」(木下さくら)、「新撰組異聞PEACEMAKER」(黒乃奈々絵) 、そして「スパイラル〜推理の絆〜」(城平京+水野英多)と、この後にガンガンの中心となる連載陣であり、それがこの98年末〜99年の時期に一斉に登場します。これらの連載陣のうち、ゲームコミックである「スターオーシャン」以外の3作品は、今までのガンガン作品と比べてもさらに異色の印象を持っており、当初はあまりの異色さに不安視すらされたのですが、いざ連載が始まってみればどれも非常に面白く、あっという間に読者に受け入れられました。

 実は、これらの新連載が入ってくる以前から、ガンガンの連載陣はすでに充実しきっており、これ以上急速なてこ入れは必要ない状態でした。そんな時にこれら異色の新連載陣が登場したため、最初のうちは一部読者の間でかなりの抵抗があったようです。しかし、実際にはこれらの作品は、今までのガンガン連載陣以上の面白さがあることが認められ、これらが連載陣に加わることで、ガンガンは驚くほど充実した雑誌となりました。

 そして、2000年に入ってすぐに、今度は「ヴァルキリープロファイル」(土方悠)、「ドラゴンクエストモンスターズプラス」(吉崎観音)のふたつのゲームコミックがスタートします。このふたつの作品は、ゲーム原作でありながらも、十分に作者の個性と実力が発揮された良作で、最後にこのふたつが加わることで、ガンガンの誌面は創刊以来最高のレベルにまで高まります。


 この時期の連載陣を見渡してみると、「ハーメルンのバイオリン弾き」「魔法陣グルグル」などの古参連載陣、「まもって守護月天!」「ツインシグナル」「刻の大地」「スターオーシャンセカンドストーリー」など雑誌の中核となる大人気マンガ、「ジャングルはいつもハレのちグゥ」「PON!とキマイラ」「東京アンダーグラウンド」など脇を固める良質の連載陣、「魔探偵ロキ」「新撰組異聞PEACEMAKER」「スパイラル〜推理の絆〜」などのさらに個性的な新規連載陣と、極めて充実した連載ラインナップで、しかもひとつひとつが個性的で似たようなマンガがないという理想的な状態でした。この当時の主要連載をひとつひとつほぼすべて列挙してみます。

 ・・・と、これが2000年3月の時点におけるガンガンの主要連載です。実に充実したラインナップで、これらすべてが何らかの面白さを持ち、つまらないマンガは極端に少ない状態でした。(一応、この当時にも「モンスターファーム」(幸宮チノ)や「朱玄白龍るびくら」(見田竜介)等、一部のつまらないと思われる連載がありましたが、全体から見れば極めて少数でした。)
 当時は、恐らくこれらの連載すべてに人気があり、すべてのマンガに満遍なくファンがついていました。そして、そんな面白いマンガが多数載っている、ガンガンという雑誌全体を愛読する読者も非常に多かったのです。その愛読者は、ガンガンの主要読者層である中高生を中心に、上は大学生から大人まで幅広い広がりを見せており、個性的な連載陣が幅広い読者層を惹きつけていたことが窺えます。

 また、この時期以降、ガンガンの人気マンガがコンスタントにアニメ化されるようになり、読者に対して常に活気ある話題を提供できるようになりました。上記のマンガのうち、「まもって守護月天!」「突撃!パッパラ隊」「スターオーシャンセカンドストーリー」「ジャングルはいつもハレのちグゥ」「東京アンダーグラウンド」「魔法陣グルグル」(*再アニメ化)「魔探偵ロキ」「新撰組異聞PEACEMAKER」「スパイラル〜推理の絆〜」がアニメ化されています。
 また、アニメ化以外にも、エニックス出版社内での小説化やドラマCD化、画集やガイドブックなどの関連本の発売がコンスタントに行なわれ、しかもそれが一部の人気マンガだけでなく、雑誌全体のマンガに対して等しく行なわれたため、ガンガン全体が満遍なく盛り上がりました。一部の人気マンガだけで雑誌が保たれていたわけではなく、すべての作品で雑誌が盛り上がっていたのです。


・読みきりマンガも充実。
 そして、面白かったのは連載マンガだけではありません。実は、この時期に連載された新人の読みきり作品の中には、実に優れた作品が多く、これまた非常に充実していました。新人離れした完成度を誇る作品もあれば、技術的には拙いものの、新人らしい瑞々しい感性が全面に出ている作品もあり、内容的にも実にバラエティに富んでいました。当時のエニックスに集った新人たちのレベルの高さを存分に感じることができました。

 まず、なんといっても「STRAY DOG」(荒川弘)が素晴らしい読みきりでした。これが、あの「鋼の錬金術師」の作者・荒川さんの大賞受賞作にしてデビュー作ですが、実に重厚で骨太なストーリーで、新人離れしたあまりにも素晴らしい完成度だったため、デビュー作の段階でいきなり熱烈なファンがつく状態になります。荒川さんは、のちに「上海妖魔鬼怪」というもう一本の読み切りを掲載しますが、こちらもかなりの面白さで、読みきりの段階でいきなりその実力を思う存分見せ付けてくれました。
 荒川さん以外でも、個性的な読みきりが多数見られました。「ぼくらのポストマン」(神田晶)、「水辺の物語」「コウノトリの仕事」(MINAMO)、「ワガママ天使の育て方」(黒乃奈々絵)、「徒爾少々」(山祗晶緋呂)、「ドームチルドレン」(山崎風愛)と、どれひとつとっても作者の強い個性が感じられる素晴らしい作品です。彼ら新人たちのうち何人かは、のちにガンガンで連載を持って活躍します。

 これら新人の読みきりとは別に、「浪漫倶楽部」の天野こずえさんの読みきりが、98年に季刊ペースで4本連載されます。「空の謳」「魔法の郵便屋さん」「ANGEL VOICE」「アース」の4本で、どれも美しい世界観と物語が秀逸です。

 このような読みきりマンガの充実ぶりは、当時のエニックスの新人たちのレベルの高さを示すと共に、ガンガンの誌面の充実ぶりをも示しています。読みきりとはいえ、どれも作者の個性が存分に感じられる独創性に富んだ作品で、当時の充実したガンガンの誌面に、さらに花を添えてくれました。




 ・・・さて、ここまで紹介してきたこの時期のガンガンの作品には、ある共通点があります。それは、これらの作品のほとんどが、エニックス系雑誌にしか見られない独特のマンガであるということ。つまりは「エニックス的なマンガ」・・・より簡略化すれば、「エニックスマンガ」であるということです。


・「エニックスマンガ」とは何か?
 これまでもたびたび登場してきた「エニックスマンガ」という言葉、具体的にどういうマンガを指しているのでしょうか?
 これは、エニックス系作品でよく見られる中性的なマンガのことを指します。これは、この当時の(あるいは今でも)エニックス系雑誌で極めて顕著に見られる作品で、以下のような特徴をもっています。

  1. 中性的な絵柄・雰囲気で、男女共に抵抗なく受け入れられる。
  2. 少年マンガにこだわらない、自由な作品創りが見られる。
  3. キャラクター人気が高い。
 まず、「1.中性的な絵柄・雰囲気」ですが、これこそがエニックスマンガ最大の特徴です。
 とにかく、男女どちらも抵抗なく読めるようなマンガになっており、実際に男女共に人気があります。特に、絵柄に関してはかなり綿密な調整が払われており、男女どちらかが絵で抵抗を感じることのないように、くせの少ない中性的な絵柄で統一しています。
 まず、女性が読むのに抵抗してしまうような、濃い絵柄が少ない。いわゆる「男くささ」を感じてしまうような絵がほとんどない。これは最も顕著な特徴です。
 そして、男性が読むのに抵抗を感じてしまうような、あまりに耽美的な絵柄もない。少女マンガに見られるような、あまりにも線が細くて、瞳がキラキラしているような絵はない。一応、やや女性寄りの絵の作品もありますが、それでもギリギリのところで調整が払われていて、男性が極端に抵抗を感じるマンガは少なくなっています。これは、少女マンガ誌だったステンシルでさえもそうで、他の少女マンガ誌よりもはるかに男性読者の抵抗が少ない作りになっていました。

 絵柄だけではありません。内容的にも、男性女性のどちらかが抵抗して読まなくなってしまうような要素をなくしています。
 例えば、他の少年マンガ誌のラブコメ作品では、パンチラや半裸等の「男性向けのサービスシーン」がよく見られますが、エニックスマンガではそのようなシーンは非常に少ないです。そのため、そのようなエロ要素を嫌ってしまう女性読者でも抵抗なく読めます。
 そして、逆に男性が抵抗してしまうような要素も少ない。例えば、極端にベタベタな恋愛要素とか、あまりにも女性狙いのキャラクターとか、そういったものは少ない。これは、少女マンガ誌だったステンシルでさえもそうで、他の少女マンガ誌に見られるようなベタベタな恋愛マンガはごく少数派でした。

 このように、「エニックスマンガ」は、男女共に抵抗なく読める作品創りを目指しており、実際に男女バランスよく人気がありました。浅野りんのマンガなどはその典型で、その読者層はきれいに男女半々に分かれます。男性女性共に抵抗なく読める作品創りを目指すことで、性別ごとに読者層を絞らずにすみ、結果として大きな人気を得ることができたのです。


 次に「2.少年マンガにこだわらない自由な作品創り」ですが、これはエニックスマンガ全般に言える特徴です。例えば、ガンガンは一応「少年マンガ誌」ですが、実際には少年マンガの枠を超える連載が多く、必ずしも典型的な少年マンガにはなっていません。
 例えば、これまで何回も言及した「浪漫倶楽部」(天野こずえ)。この作品には、少年マンガらしい力強さがなく、どちらかと言えば少女マンガの雰囲気に近いところがあります。一時期の「まもって守護月天!」(桜野みねね)などもそうで、少女マンガ的な雰囲気をもつ作品は珍しくありません。
 一方で「夢幻街」(水沢勇介)のような、明らかに青年マンガにシフトしたマンガもあります。しかもガンガンは、いがらしみきおやジョージ秋山など、青年マンガで活躍している作家を積極的に誌面に呼び入れており、「GOGO!ぷりん帝国」のくぼたまことのように、実際にガンガンで成功した作家もいます(いがらしみきおも「忍ペンまん丸」で成功しました)。このような積極的な青年マンガへのアプローチを見ると、ガンガンの編集部は、少年マンガの枠にはこだわっていないような節があります。
 さらには、既存の枠から全く外れた、異色の作品作りをすることもあります。「スパイラル〜推理の絆〜」(城平京+水野英多)などは、一応推理(ミステリー)を題材にしたマンガですが、他の少年誌の推理マンガとは明らかに異なった異色の作品です。このような思い切った異色の企画は、他の少年誌では中々出来ません。まさにエニックスならではの作品で、実際にガンガン系以外でこれが連載されそうな雑誌は見当たりません。「新撰組異聞PEACEMAKER」なども、一応は新撰組ものですが、既存の新撰組作品とはまるで視点が異なる異色作品で、ここでも既存の枠から外れた、独創性の強い作品創りが顕著です。


 最後に、「3.キャラクター人気」について。これは非常に重要で、エニックスマンガを語る上では欠かせません。
 エニックスのマンガと言えば、なんといっても「萌え」
 どのマンガもキャラクター人気が非常に高く、マンガの人気の中でかなりの部分を占めています。しかも、ここでも男女共に受け入れられるような作りになっており、ひとつのマンガで、男性読者と女性読者が同時に萌えられるマンガ作りこそが、エニックスの真骨頂と言えます。この時期のガンガンでは、桜野みねね・夜麻みゆき・天野こずえ・浅野りん・よしむらなつき・有楽彰展・東まゆみ・木下さくら・水野英多などの作品は、まさに萌えの宝庫であり、キャラクター人気だけでも凄まじいものがありました。
 このように、エニックスマンガを語る上では、「萌え」は絶対に欠かせない要素なのです。


・「エニックスマンガ」の完成。
 さて、このように、この当時のガンガンは、その掲載作品の多くが「エニックスマンガ」であり、この時代において、ついにエニックス独自の方向性を持つマンガ作品が完成された感があります。
 思えば、95年の「浪漫倶楽部」「CHOCO・ビースト!!」から始まり、月2回刊行時代の「まもって守護月天!」「刻の大地」「PON!とキマイラ」「東京アンダーグラウンド」あたりが加わり、そしてこの時代に「スターオーシャンセカンドストーリー」「魔探偵ロキ」「スパイラル」等が最後に追加され、この時に於いて、ついに「エニックスマンガ」だけで構成されたガンガンの連載ラインナップが完成したのです。
 創刊当初のガンガンは、他の少年誌を参考にして作られた節があり、連載ラインナップこそ充実していたものの、雑誌自体のオリジナリティは低く、「低年齢向けのありがちな少年マンガ誌」というイメージしかありませんでした。しかし、何年もマンガ創りを模索していくうちに、ついには他の雑誌の影響から脱して独自性を発揮し始め、そしてついにこの時期にエニックスならではの独創的なマンガ雑誌が完成したと言えるでしょう。

 ちなみに、この当時はガンガンだけでなく、姉妹誌であるWINGやGファンタジー、ステンシルも連載ラインナップが充実しており、エニックスの雑誌全体が実に安定していました。また、どの雑誌も全体的に連載マンガの雰囲気や方向性が似ており、エニックスのマンガ全体でひとつの統一感がありました。そのため、この当時は、ガンガンだけでなく、姉妹誌であるWINGやGファンタジーをも愛読し、果ては少女マンガ誌であるステンシルまで含めて、エニックスの雑誌なら全部読むという熱心な愛読者が大勢いました。一部のマンガのファンだけでなく、雑誌全部、エニックス全部を愛読する読者がたくさんいたのです。ガンガンのみならず、エニックスのマンガ全体にとっても全盛期であったと言えます。


 このように、この時期において、ついにガンガンは独自の路線である「エニックスマンガ」を完成させ、連載作品の質も過去最高のレベルにまで到達します。連載マンガのほぼすべてに人気があり、つまらないマンガが極端に少ないという、まさに理想的な状態となります。
 ・・・しかし、このような幸福な時代は長くは続きませんでした。この時からいくらも経たないうちに、どういうわけかガンガンの編集者自らが、完成されたはずの誌面に対する「改革」を行ない始め、その強引な改革によってガンガンは崩壊していきます。次回は、いかにして完成されたガンガンが崩壊していくのか、その過程を詳細に追っていきます。


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