<こんな違和感のあるインタビューはあり得ない>

2005・1・7

 先日、毎日新聞・2004年12月24日付東京夕刊において、ガンガン編集長のインタビューが掲載され、それがウェブサイトにも掲載されています(Mainichi-INTERACTIVE 編集長に聞く)。これは、ガンガンの現状と今後の展望について編集長が回答した短いインタビューなのですが、実は、このインタビューの内容に非常に大きな疑問を感じるのです。ガンガンについて何も知らない人が見れば普通のインタビューに見えるかも知れません。しかし、ガンガンを昔から購読してきた読者であるわたしから見れば、このインタビューは、本当のガンガンの姿を表しているとは到底言い難い内容でした。そこでこのページでは、このインタビューにおけるガンガン編集長の回答に対して、徹底的な解析を試みることにします。

 では、まず以下にインタビューの全文を引用してみることにします。


編集長に聞く:
月刊少年ガンガン・松崎武吏さん ファンタジーから料理まで

 −−最初は人気ゲームのマンガ化作品が目玉の雑誌でした。

 編集部は、デジタルコンテンツ事業の会社の出版事業部です。ゲーム「ドラゴンクエスト」を中心にバラエティーに富んだ少年マンガ誌を目指し91年に創刊しました。ゲームを前面に出したマンガ雑誌として注目されました。小学校高学年から中学生向けのニッチ(すき間)な雑誌として成長したといえます。95年ごろから読者の年齢層が上がり、誌面が特定層の好みに傾いてしまった。けれど、この方向では読者の広がりに限界があることは分かっていました。01年、編集部一丸となって方向転換しました。目標はメジャーな少年マンガ雑誌です。

 −−そんなとき登場したのが荒川弘さんの『鋼の錬金術師』。

 01年夏から連載開始です。アニメが放送された効果もありますが、予想できなかった反響の大きさです。今まで超えられなかった壁を超えさせてくれた。読者層が中学生中心に戻り、部数はこの3年で倍以上になり、読者の幅も広がった。コンテンツの力というのは大きいです。

 −−最新号は830ページ。少年誌では1、2位を争うほど厚い。

 01年以降やってきたことは、雑誌として手にとってもらうプレミアをいかに作るかということ。ゲーム、アニメなどの紹介記事、DVDやフィギュアといった付録などを充実させました。最多で1000ページ超えたこともあります。

 −−作品はファンタジーが多い。

 「ドラゴンクエスト」「ファイナルファンタジー」のマンガ化というカラーを守りながら、スポーツや料理など一般的なジャンルを増やそうと模索中です。また、スクウェア・エニックスでしかできない「ポリモーフィック・コンテンツ」という戦略を考えています。普通はマンガがヒットするとゲーム化、アニメ化につながる。それを初期の段階から適切な形で展開しようというものです。

 −−青年誌を今月、創刊した。

 『ヤングガンガン』です。『少年ガンガン』を創刊して13年、読者も成長した。マンガ家に対しても、少年誌にとらわれない表現の場を作りたかったのです。【文・内藤麻里子、写真・手塚耕一郎】

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 ◇月刊少年ガンガン

 スクウェア・エニックス刊。35万部。

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 ■人物略歴

 ◇まつざき・たけし

 1971年生まれ。『月刊少年ガンガン』デスクを経て、01年9月から現職。

毎日新聞 2004年12月24日 東京夕刊


 このインタビューで特に疑問を感じるのは、前半部分のふたつの回答です。ここで編集長は、最近のガンガンの動向について、次のように主張したいのだと思われます。

「01年度から編集部一丸となって雑誌の方向転換をして、その方向転換の奮闘期に『鋼の錬金術師』が登場して大きな成功を収め、部数はこの3年で倍増し、読者の幅も広がった」

 実際、何も知らない人がこのインタビューを読めば、「なるほど、編集部の最近の努力によって、ガンガンは成功したのだな」と思ってしまうかもしれません。しかし、実態は大きく異なります。


・方向転換は成功していない。
 まず、最初に指摘するべきは、編集長の言う「01年度からの雑誌の方向転換」は、決して成功していないことです。

 そもそも、01年度以降に登場したガンガン作品の中で、成功したのはほぼ『鋼の錬金術師』のみで、それ以外の作品はほとんど成功していません。これは実際の売り上げデータを見るだけでも明らかで、ここ数年のガンガンコミックス(単行本)の売り上げは、『鋼』を中心とする一部の人気マンガを除いては、極めて低いレベルに留まっています。
 さらには、雑誌の部数に関しても、あくまで『鋼』の圧倒的人気によって大きく増大しただけで、それ以外での部分では伸びた兆しが全く見られません。具体的には、『鋼』アニメ化直前(03年10月時点)でのガンガンの部数は16万部程度で、これは01年度の頃とほとんど変わっていません。03年10月まで部数は全く伸びていなかったのです。それが『鋼』アニメ化による爆発的人気で一気に部数が伸び、一時的に40万部に到達します(現在は35万部)。

 つまり、あくまで『鋼』の爆発的人気のみで部数が一時的に伸びただけであって、インタビュー内の「この3年で部数は倍になった」という表現は、極めて恣意的なものです。あくまで『鋼』の人気のみに頼った一時的な部数増であり、あたかも「この3年でガンガンは順調に成長し、部数が倍になった」と思わせるようなインタビューの内容は、明らかな『ごまかし』です。


・「3年前(01年度)」という時代設定は大いに疑問。
 さらに、「この3年で部数は倍になった」という表現自体が疑問です。「この3年」ということは、つまりは3年前、編集長の言う「01年度からの雑誌の方向転換」の時代から比較して、部数が倍になったと言いたいのでしょうが、この比較の対象となる「3年前(01年度)」という時代設定に、これまた恣意的なものを感じるのです。

 この当時からガンガンを購読している人なら当然知っているでしょうが、この「01年度」というのは、いわばブレイド騒動(エニックスお家騒動)の真っ最中であり、雑誌どころか出版社全体が大混乱に陥り、混乱を見かねた多くの読者がガンガンから離れていき、雑誌の部数が大幅に減少した時期なのです。
 つまり、部数が極端に減っていた時代と比較して「部数は倍増した」と言っているのであって 、これまた極めて意図的な表現です。そして、そのブレイド騒動のきっかけとなったのは、実はインタビュー内で言う「雑誌の方向転換」であって、むしろ方向転換によって大幅に部数が減っていたという事実が存在するのです。


・雑誌の方向転換が始まったのは、3年前ではない!
 そもそも、ガンガンという雑誌の方向転換が始まったのは、正確には3年前(01年度)ではありません。実際には00年度から・・・すなわち4年前から始まっていたのです。

 この当時から、既にガンガンは、雑誌の主だった人気連載を次々とやめさせ、もしくはほかの雑誌に移転させ、その代わりに今までとはまるで方向性の異なる新連載を次々に開始して、雑誌の方向転換を急激に進めていました。このあまりに急激かつ強引な改革は、当時の読者の反発を招き、多くの読者がガンガンから離れていく状態にありました。
 そして、その強引な方向転換の果てに、あの「ブレイド騒動」が起きます。これは、そんな強引な方向転換に反対する一部の編集者たちが離反し、雑誌の主だった作家を多数引き連れて出版社を離れ、新しい会社を興して別の雑誌を立ち上げたという一連の騒動で、これによりガンガンは大混乱に陥ります。
 そして、当時から強引な方向転換に抵抗を感じ、ガンガンから離れ気味だった読者にとって、この騒動はまさに致命的なものとなり、一気に大量の読者がガンガンを見限って離れていき、ガンガンの部数は大幅に減少します。

 つまり、このインタビューで言う「3年前(01年度)」という時期は、既に雑誌は方向転換の真っ最中で、しかもそれが大きな混乱を招いており、むしろ大幅に雑誌の部数を減少させた時期だったのです。

 それを、あたかも01年度に方向転換が始まったかのように回答し、そこから順調に部数が倍増したなどと表現するのは、まさに詐欺的な答弁であり、事実とは全く反します。


・そもそも、方向転換前のガンガンはどうだったのか。
 もし、本当に「部数が倍増した」と主張したいのなら、3年前などという恣意的なタイミングの時期と比較するのではなく、「より正確な、方向転換する以前の時期」と比較するべきであり、すなわち「方向転換が始まった4年前よりさらに前」の時期のガンガンの部数と比較する必要があります。

 では、この時期のガンガンの状況と、そして肝心の部数はどの程度だったのか?
 方向転換以前のガンガンは、混乱続きの方向転換後とは比べ物にならないほど、雑誌の状況は安定していました。『鋼』のような突出した人気作品こそ存在しなかったものの、雑誌の連載作品のほぼすべてに安定した人気があり、雑誌全体で良くまとまった印象がありました。一部の作品にとどまらない、幅広い作品の安定した人気のおかげで、雑誌そのものを愛読する読者層が広く存在していたのです。もちろん、個々の作品のコミックスの人気も高く、今よりもはるかに多彩なコミックスが書店を賑わせていました。

 肝心の雑誌の部数ですが、この時期のガンガンは、どう少なく見ても20万部以上、おそらく25万部程度は売れており、最盛期には30万部程度の部数があったと思われます。少なくとも、16万部ということは絶対にあり得ません。

 そして、この後に来る強引な方向転換の混乱で多くの読者が離れ、16万部程度の部数にまで落ち込み、しかもそれが『鋼』アニメ化直前まで続きました。しかし、その後『鋼』アニメ化による爆発的人気によって、一気に部数が倍増、一時的に40万部(現35万部)まで激増したというのが真相です。
 つまり、方向転換以前の安定期には、実は、ガンガンの部数はかなり多かったのです。そして、方向転換以後のガンガンは、部数が『倍増』したわけではなく、むしろ大幅に減らしており、たまたま『鋼』アニメ化による大ヒットで、ようやくかつての水準以上に回復したに過ぎません。これこそが、今のガンガンの真相なのです。


・それにしても、なぜこんな回答をしたのか?
 しかし、このような意図的なごまかしに満ちたインタビューの回答が、なぜガンガンの編集長の口から出てしまったのか?
 それは、そもそもなぜこのようなインタビューが行なわれたのか、その理由を推測すればおのずと明らかになります。

 このインタビューは、毎日新聞の夕刊に掲載された記事ですが、そもそもガンガンという雑誌は、毎日新聞のような大手全国紙で取り上げられるほどメジャーな雑誌ではありません。むしろマイナーな雑誌に属します。それが、なぜ今取り上げられるようになったかというと、それは『鋼の錬金術師』の大ヒットという理由に尽きます。
 つまり、『鋼』の大ヒットによって、マンガの掲載誌であるガンガンにも世間の注目が集まり、「あの『鋼』を連載している雑誌とは、どんな雑誌なのか」という視点から、このようなインタビューが組まれたと思われるのです。

 そして、そんなインタビューを受けることになったガンガンの編集長としては、これは世間一般に対する雑誌の絶好のアピールの場ですから、やはり精一杯雑誌の優れた点をアピールする必要があります。まさか、「実は、ガンガンで売れているのは『鋼』だけで、それ以外のマンガは全く成功していません」などと真実を話すわけにはいきません(笑)。
 そして、この「インタビューを読むであろう、一般層へのアピール」のために、今のガンガンが方向転換でいい方向に向かっていることをアピールし、順調に部数が伸びていることを強調する必要があったのです。そして、そのために事実を恣意的に捻じ曲げざるを得なかった・・・これがこのインタビューの真相でしょう。


・それにしても、このインタビューはひどい。
 しかし、改めて読んでみても、このインタビューの内容はひどいものがあります。昔の(方向転換以前の)ガンガンを愛読していた読者にとっては、実に耐え難い内容です。
 特に、「95年ごろから読者の年齢層が上がり、誌面が特定層の好みに傾いてしまった。けれど、この方向では読者の広がりに限界があることは分かっていました」という部分を、かつての読者の方々はどう捉えるのでしょうか。「限界があることは分かっていました」などと勝手に決めつけ、かつての読者が望まぬ強引な方向転換を進め、ついにはお家騒動による大混乱を引き起こし、作者や読者を大いに失望させた責任は非常に重いのではないか。
 そして今も尚、その当時の反省もない状態で、さらにスポーツや料理などの一般的なジャンルを増やそうと試みて(別に読者は望んでない)、「メジャーな少年マンガ雑誌」を目指そうというのだからあきれてしまいます。もはや誰も読者はついていかないと思いますが、せいぜい編集部で勝手にメジャーな少年マンガ雑誌を目指していただきたいものであります。


(余談)
 それにしても、このインタビューの「ポリモーフィック・コンテンツ」ってなんなんだろう。 単なるメディアミックスではないのか? 「ポリモーフィック・コンテンツ」を直訳すれば「変身するコンテンツ」? まあ、このようななんだかよく分からない言葉の採用は、何かをごまかそうとしている証でもある。何にせよ、単なるメディアミックスに過ぎない企画を、あたかもさも新しい企画のように表現する行為は極めて姑息な手法であると思うのです。


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