<少年ガンガン20年史(3)1993〜95年の動向>

2010・5・27

 こうして、最初の2年で次々とヒット作に恵まれ、順調なスタートを切ったガンガンですが、その次の3年間ほども、基本的にその路線を踏襲することになります。誌面の方向性には大きな変化がなく、「ロトの紋章」を始めとする人気作品を雑誌の中心に据え、引き続き少年マンガの新作を投入し続けることになります。

 しかし、最初の2年に続いて、この時期でも少年マンガジャンルでの成功作はあまり多くありませんでした。93年の新連載としては、スポーツ(ゴルフ)マンガの「アゲンスト凪平」(剣名舞・星野ちあき)、子供向けホビーもの「FM戦士SUMOキッズ」(牛次郎・神矢みのる)、武道バトルもの「武天のカイト」(鈴木俊介・蜂文太)などがありますが、いずれも短期間の連載で終了しています。また、この時期以降しばらく、ガンガンはジャンプ出身の作家の登用をいくつか行っており、その最初の例として「ライオンハート」(ゆでたまご)の連載が93年に始まっています。あの「キン肉マン」の作家の新作ということで、開始当初は相当押されていましたが、実際の人気は泣かず飛ばず。また、これはかつてのアニメの名作のリバイバル的な作品として、あの「妖怪人間ベム」の連載を開始、「妖怪人間ベム リターンズ」(剣名舞・津島直人)として、これも相当に押されたようですが、これも成功しなかったようです。当時の読者の話題でも、このゆでたまごの連載や妖怪人間ベムの連載の話がのぼることは少なく、あまり読者の印象には残らなかったのではないかと思われます。

 しかし、初期の頃からの人気連載は、この時期もまだ健在でした。連載開始当時ほどの勢いはやや衰えた感もあり、例えばシリアスな路線に移行した「南国少年パプワくん」や、初めの頃の爆笑ギャグ色が薄れた「ハーメルンのバイオリン弾き」などは、かつてほどの爆発的な人気はやや影を潜めますが、それでも総じて根強い人気を維持し続け、ガンガンの安定した誌面に貢献することになりました。
 逆に、この時期になって人気が絶頂に達したのが、アニメ化を達成した「魔法陣グルグル」です。テレビアニメが爆発的にヒットし、おそらくはエニックスのアニメ化作品でも最初期における最大の成功となりました。最初にアニメ化を達成した「南国少年パプワくん」も十分な人気を獲得しましたが、「魔法陣グルグル」のヒットはそれ以上となり、この「グルグル」が、この時期のガンガンを代表するイメージともなったと思います。

 一方で、この時期からの新作となると、本当にこれといったものは少なかったようです。まず、93〜94年の2年間は、新連載自体が極端に少なく、誌面に大きな動きがありませんでした。特に94年は、ページ数の少ない4コママンガの新連載2本をのぞけば、それ以外の新連載は3本しかありませんでした。初期の頃からの人気作品に、かなりの部分で頼っていた誌面でもありましたが、それでもこの当時のガンガンは人気が高く、「安定して面白かった」と読者の評価も高いものが目に付きます。

 ただ唯一、この時期の数少ない新連載の良作としては、94年に始まった「夢幻街」(水沢勇介)を挙げたいと思います。これは、現代日本を舞台にした伝奇ホラーアクションといった作品で、その落ち着いた雰囲気と大人向けのストーリーから、当時のガンガンでは異色の高年齢向け・青年誌的な作品となっていました。いや、これ以前から、青年誌系・劇画系の作家の登用を頻繁に行っていたことは書きましたが、純粋に大人向けの作品として成功したのはこのマンガくらいでしょう。作画は劇画調ではなく、中性的で整った作風でしたが、それもガンガン読者の好みには合っていたように思います。

 また、ガンガン自体は動きの少ない時期でしたが、エニックス出版全体を見るとそうでもありません。この時期、93年には「ガンガンファンタジー」(のちに「Gファンタジー」と誌名変更)、94年には「ギャグ王」と、新しくマンガ雑誌を2つも創刊し、そちらの方では序盤から多数の新連載を次々に投入し、精力的な活動が見られるようになります。この当時のエニックスは、ガンガンよりもむしろ新しい雑誌の方に力を取られていたのかもしれません。そして、この新しい雑誌の登場を契機に、ガンガンを含む雑誌間で連載作家が行き来したり、複数の雑誌で同時に連載したりする作家が出てくるようになります。例えば、「パッパラ隊」の松沢夏樹は、この2誌でも創刊時から連載を始め、当時は3誌で同時に連載しています。逆に、ギャグ王やGファンタジーからガンガンへとやってくる作家も、これ以降次第に現れるようになります。この時期以降のガンガンは、このようなエニックスの姉妹誌から受ける影響を抜きにしては語れません。


 話を元に戻します。このように、93・94の2年間は大きな動きに乏しかったガンガンですが、これが95年になると一転してにわかに活気付いてきます。前年とは打って変わって多数の新連載を積極的に投入し、しかもそれらがいろいろなタイプの多彩な作品群で、新しい風が入って一気に賑やかな誌面となります。

 この年の新連載で、最も成功したのは「忍ペンまん丸」(いがらしみきお)でしょう。青年誌で活躍していたいがらしみきおを起用、低年齢向けのギャグ・コメディながら大人でも楽しめる優れた内容で、アニメ化まで達成するヒット作となります。創刊時代から青年誌系の作家を盛んに起用していたガンガンでしたが、最も成功したのはこのいがらしみきおでしょう。逆に、同年に連載が始まったこちらも青年誌出身作家・ジョージ秋山の「ドブゲロサマ」は、そのあまりの怪作ぶりでヒットはしませんでしたが、一部のガンガン読者にネタとして語られる作品になります。

 また、ギャグ王連載作家の新作として、「すすめ!!ダイナマン」(池田匠)「けんけん猫間軒」(梶原あや)のふたつの4コママンガの連載もありました。「すすめ!!ダイナマン」は、ギャグ王ですでに連載されて看板クラスの人気を獲得しており、その人気を受けてガンガンでも同時連載となりました。「けんけん猫間軒」の梶原あやも、すでにギャグ王で連載を行っており、こちらは新作でガンガンに登場。かわいらしいキャラクターとバカバカしいギャグで大人気を呼ぶことになります。姉妹誌の中でも比較的ガンガンと雰囲気が違いギャグ王からは、これ以降もよく作家の移籍が見られることになります。

 これ以外では、「輝竜戦鬼ナーガス」の増田晴彦による新作ファンタジー「風の騎士団」、原作史村翔・作画結賀さとるによるSFファンタジー「天空忍伝バトルボイジャー」など、少年マンガ系の新作もあり、この当時はまだこの路線も続いていました。

 しかし、この時期の新連載としては、これら以上に特筆すべき作品がありました。「浪漫倶楽部」(天野こずえ)「CHOKO・ビースト」(浅野りん)です。
 いずれも中性的な絵柄と、日常を舞台にしてちょっとファンタジー要素が入ったストーリーが特徴的で、これまでのガンガンの少年マンガ路線の作品とは一線を画するものがありました。どちらも女性の新人による作品であったことも特徴で、これ以降、このような女性作家を中心とする中性的なイメージの作品が、ガンガン、ひいてはエニックスの中心的な作品となっていきます。そのようなガンガンの変化の端緒として、このふたつのマンガの意義は非常に大きいものがありました。当時はまだ「ロトの紋章」を始めとする創刊時代からの人気作品の影に隠れる形で、雑誌の中堅どころの位置づけにとどまっていましたが、しかしその良作ぶりは雑誌読者を中心に確かな評価を獲得しており、ガンガンの充実した誌面をしっかりと支える存在となっていきました。
 この95年のガンガンは、創刊からの雑誌作りがひとつの完成形を成したところがあり、「この当時のガンガンは本当に面白かった」という声を以前からよく耳にしていましたが、それにはこのように、「ロトの紋章」や「魔法陣グルグル」を始めとする創刊時代からの人気連載と、この時期に登場した充実した新作群と、そのふたつががっちりと組み合わさった上での評価だと思うのです。

 しかし、この時期は、その創刊時代からの連載が次第に終了し、ガンガンの世代交代が始まった時期でもあります。まず、94年に「輝竜戦鬼ナーガス」が終了し、この95年には「南国少年パプワくん」と「Z MAN」が終了。まだこの時期は、「ロトの紋章」や「ハーメルンのバイオリン弾き」「魔法陣グルグル」「突撃!パッパラ隊」などは健在な作品も多いのですが(特に「ハーメルンのバイオリン弾き」「魔法陣グルグル」はずっとのちまで続く長期連載となります)、しかし「パプワくん」のような人気連載がまず終わりを迎えたことで、世代交代の流れは確かに始まっていました。また、この時期を境に、初期の頃は顕著だった少年マンガの比率が次第に小さくなっていきます。「風の騎士団」や「天空忍伝バトルボイジャー」のような新作はまだあるものの、それと並行して「浪漫倶楽部」「CHOKO・ビースト」のような新しいタイプの連載が多数登場するようになり、これ以降ガンガンという雑誌の雰囲気・方向性が、次第に変化していくことになるのです。

 そして、この時期の雑誌の盛り上がりを肌で感じていたであろうガンガンの編集部は、翌96年に入ってすぐにガンガンの月2回刊行化に着手、さらに動きの激しい時代を迎えることになるのです。この95年は、その直前の、比較的雑誌の動きが安定し、かつ新旧の連載作品の多くが揃って充実していた、ガンガンのひとつの(それも最初の)頂点とも言える時期でした。なお、この時代には、ガンガンの部数も最大で50万部を記録していたらしく、いまだにこの部数を超えたガンガンは、今(2011年)に至るまで現れていません。


 少年ガンガン20年史(4)月2回刊時代の動向


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