<少年ガンガン20年史(4)月2回刊時代の動向>

2010・6・5

 さて、こうして1995年の好調を受ける形で、ガンガンは1996年3月から月2回刊体制へと移行することになります。のちのヤングガンガンと同じペースでの刊行形態ですが、今まで月刊誌だった少年誌がこのような形へと移行するのは珍しく、今に至るまで評価は分かれています。なぜ、ガンガンの編集部は、このような思い切った変更を行ったのか。これにはいくつかの理由が考えられます。

 ひとつには、たった今述べたように、1995年のガンガンが非常に好調だったこと。それも、91年の創刊以来、ほぼ順調にここまで発展してきて、この時点で最大で50万部近い売り上げを達成しています(公式のデータによると、95年のガンガンの平均発行部数は41万部。瞬間的な最大値はこれよりも大きいと思われます)。ここで、さらに雑誌を発展させ、思い切って月2回刊でも行けると考えたのではないでしょうか。
 そしてもうひとつ、95年5月に予定されていたガンガンの3大マンガによる劇場映画化の影響もありそうです。3大マンガとは、「ロトの紋章」「ハーメルンのバイオリン弾き」「魔法陣グルグル」の3つの人気連載で、この時期に3つ連動で映画化されることになったのです。ここまで「南国少年パプワくん」「魔法陣グルグル」の2つのTVアニメが大きな成功を収め、さらに今度は劇場映画化まで達成したということで、編集部内でのガンガンの上昇機運は、想像以上に高いものがあったのではないか。この勢いに乗る形で月2回刊まで行ってしまおうと考えたのではないでしょうか。
 なお、この月2回刊化の決定は、相当に急なものだったらしく、その当時連載の予定が決まっていたマンガ家の江川達也さんは、「当初は月刊連載の予定だったのに、急に月2回の連載になって大いに戸惑った」とするコメントを残しています。


 さて、そうして始まったこの月2回刊体制ですが、この時期のガンガンの特徴としては、「混沌とした過渡期」と表現するべきではないかと思います。創刊以来まだ健在だった人気連載陣に加えて、新しい方向性の作品がいくつも登場し、様々なタイプの作品が入り乱れて混沌とした状態がしばらく続きました。最終的に、ひとつの方向性にまとまって、これがのちの再月刊化後のガンガンへとつながるのですが、いきなりそのような誌面になったのではなく、この時期のガンガンの状況次第では、他に色々な雑誌になる可能性があったと思います。初期の少年マンガ中心のガンガンから、エニックス独自の路線が中心となる中期のガンガンへ、その移行期にあたるこの時代の動向は、ここで詳しく見ていく必要があるでしょう。

 まずこの時期、月2回刊直後に始まった連載が、3つほどありました。「HAPPY BOY〜ゲンキくんとゆかいななかまたち〜」(江川達也)、「幻想世界魔法列伝WIZバスター」(岡田芽武・てんま乱丸)、「スターゲイザー〜星に願いを〜」(堤抄子)です。
 このうち、「HAPPY BOY」が、とりわけ大きな別格的な扱いとなっていました。作者の江川達也は、言わずと知れたジャンプ系の人気作家で、その名前を冠する作品は新連載の中で最も強く推され、月2回刊化最大の目玉となっていました。まだ、この月2回刊時代直前のガンガンで、2回に渡って「エビルクラッシャー魔矢」という車田正美の読み切りが掲載され、こちらも非常に大きな扱いとなっていました。この時期のガンガンは、どうやらジャンプ系の人気作家を招聘して看板にしようと試みていたらしく、こうした「ジャンプ大物作家路線」とでもいうべき流れは確かに存在していたと思います。しかし、このふたつは、いずれも成功せず、車田正美の読み切りは、あれだけの大きな扱いで連載も視野に入れたような内容だったにもかかわらず、それっきり再登場はなし。江川達也の「HAPPY BOY」も、そこそこの作品にとどまり、さほど大きな話題にはならずに短めの連載期間で終了しています。

 さて、それ以外のふたつの新連載ですが、「幻想世界魔法列伝WIZバスター」は、これも他社で活躍していた作家の招聘で、こちらは中々面白いファンタジー作品になっていたと思います。しかし、こちらは連載自体がなぜか移籍してしまい(当時は新人読み切り掲載誌だったガンガンWINGへと移籍)、移籍先でもしばらくして立ち消えになってしまいました。新連載の中では最も期待できると思われた作品だけに、これはかなり残念でした。
 もうひとつ、「スターゲイザー〜星に願いを〜」(堤抄子)ですが、これは同社のGファンタジーで連載していた作家による連載で、Gファンタジーの人気連載「聖戦記エルナサーガ」との同時掛け持ち連載となっていました。読者年齢の高いGファンタジーの作家だけあって、ガンガンの中ではかなり高年齢向けのSF作品となっていました。こちらも中々の良作でしたが、2つの雑誌での同時掲載が作者には厳しかったようで、途中から連載が不定期に。それでも1年半ほと続きましたが、ガンガンに定着するような作品にはなりませんでした。
 これらの3つの新連載は、どれひとつ取っても雰囲気・方向性が大きく異なっていて、この月2回刊時代の雑多な誌面を象徴しています。いずれも悪い連載ではなかったと思いますが、結局成功はせずこの時代の片隅に埋もれてしまい、読者からもあまり語られることはなくなってしまったようです。

 さらに、この時代には、青年誌で活躍していた作家の起用もまだまだ続いていました。まず、上記の月2回刊化第2号から始まった「GOGO!ぷりん帝国」(くぼたまこと)。これは、以前から「仮面レンジャー田中」という、庶民派のヒーローものが登場する庶民派ギャグで評価を得ていた作家の起用で、このぷりん帝国もまた庶民派ギャグの面白さが冴え渡っていました。これはずっと後まで人気を博する長期連載となり、これまではマニアックな評価を得ていた作家が、ガンガンで大きな人気を得る出世作となりました。このくぼたまことを抜擢したガンガン編集部の功績は大きい。
 それともうひとつ、これは劇画系作家の細馬信一を作画に採用した「ZONE」(桶口明雄・細馬信一)という異色のホラー作品もありました。明らかに当時のガンガンの雰囲気からは外れていて、グロテスクな怪奇描写に溢れていたこの作品、さすがに受け入れられなかったのかわずか数回程度で終了しています。このような劇画系作家の採用は、この当時まではまだ見られていましたが、結局のところ成功した作家は多くなく、以後完全に途絶えることになります。

 このように、ジャンプ系の大物作家や青年誌系作家の起用、同社の他誌連載作家の移籍など、様々な作家による雑多な連載がまず打ち出されますが、この中からは、「GOGO!ぷりん帝国」以外には成功作は出ませんでした。しかし、これらの後にさらに続く新連載の中で、ついにその後のガンガンの方向性を決定する、大きな成功作品が登場することになります。

 まず、月2回刊化第4号から始まった「まもって守護月天!」(桜野みねね)。これが連載開始直後から大人気となり、のちにアニメ化もされ、ガンガンでのトップクラスの人気作品となります。一般的にはラブコメ作品と考えられていますが、作者が女性だからか雰囲気が優しいのが特徴、「ハートフルコメディ」とも呼ばれて男女問わず高い人気を獲得します。
 そして、少し遅れて始まった刻の大地(夜麻みゆき)。これはGファンタジー・及びギャグ王で連載していた作家が、ガンガンへと移籍したきたのですが、以前の連載の設定を統合した集大成作品となっていて、元から人気の高かったGファンタジー・ギャグ王での人気を引き継ぐ形で、これも以後のガンガンを代表する大ヒット作となります。
 明けて97年になると、さらに多くの人気作品が登場します。まずは、「ジャングルはいつもハレのちグゥ」(金田一蓮十郎)。シュールなギャグとかわいらしいキャラクターで大人気のギャグ作品。これもアニメ化まで達成する大人気作品に。さらには「PON!とキマイラ」(浅野りん)。「CHOKO・ビースト!!」が比較的早く終了した浅野りんの次回作で、こちらもやはり中性的な日常ファンタジーコメディ作品として、前作以上の大人気となり、この作者の代表作ともなります。「Z MAN」の西川秀明が手がけるゲームコミック「アークザラッドII〜炎のエルク〜」(西川秀明)。この中では少年マンガ色の強い作品ですが、卓越した緻密な作画とキャラクター、力強いストーリーで人気を博する実力派作品に。「里見☆八犬伝」(よしむらなつき)。これはギャグ王からの移籍作家の連載で、かわいらしい絵柄とギャグが特徴の和風コメディ。そして「東京アンダーグラウンド」(有楽彰展)。東京地下を舞台にしたバトルアクション作品で、これも中性的なキャラクターときれいな作画レベルによるアクションで人気を博します。
 これらの作品すべてに共通していることは、中性的なイメージの作品であること。95年の新連載であった「浪漫倶楽部」「CHOKO・ビースト!!」とも共通した特徴で、こうした作品群がこぞって成功を収めたことで、ガンガンの方向性は一気にそちらへとシフトすることになりました。この時期、ジャンプ系の大物作家や青年誌系作家による作品など、これ以外にも多くの方向性の作品が登場してきましたが、その中でこのような「中性的な作品」が最も成功を収めたことで、ガンガンの方向性が決まった感があったのです。

 これ以外の新規連載としては、異色の少年マンガ作品「機動少年XX(ダブルエックス)」(立木大和)、新人による時代ものの力作「幕末風来伝 斬郎汰」(喜名朝飛)、ベテラン作家によるSFファンタジー「護衛神エイト」(吉崎観音)、作者の自作トリックが光った推理もの「椎名くんのリーズニングファイル」(あさみさとる)、かわいらしいキャラクターと独特の野球描写が特徴の異色スポーツマンガ「燃えもえ」(黒木祐里)などがあり、いずれも長い連載にはならなかったものの、いずれもかなりの良作だったと思います。この時期の新規連載の充実ぶりは決して侮れません。

 その一方で、創刊時代から続く定番人気連載陣はどうだったか。この時期は、何と言っても「ロトの紋章」と「ハーメルンのバイオリン弾き」の精力的な活動が目立ちました。「ロトの紋章」は、最終回に向けてのクライマックスの展開に際してページ数が大きく増え、ストーリーも最高の盛り上がりを見せました。それを受けて、96年はコミックスの売り上げも大いに伸ばし、この年出た4冊のコミックスで全マンガ作品の中で3位という売り上げを記録しています。「ハーメルンのバイオリン弾き」の活動はそれ以上で、月産90ページという週刊連載をも超えるハイペースで、一時期は毎月単行本が出る状態でした。それ以外だと「魔法陣グルグル」も、まだまだ好調ぶりは健在で、総じて創刊からの定番連載も安定していました。まだこの時期は、相変わらずこれらの作品がガンガンの看板でした。

 このように、新規の連載も定番の連載も、双方が健闘したこの時期、マンガから派生する企画でも活発な動きがありました。まずは、最初にも書いたとおり「ロトの紋章」「ハーメルンのバイオリン弾き」「魔法陣グルグル」の3大人気連載の劇場映画化。さらには、このうち「ハーメルンのバイオリン弾き」は、TVアニメ化もされています。そして、「TWIN SIGNAL」のOVA化という企画もありました。この「TWIN SIGNAL」、中期以降本格的なSF路線へとシフトしていき、中性的な作画とキャラクターでも大人気を獲得していました。これもまた、初期の頃からの連載でありながら、この時期に登場した中性的な作品と同等の雰囲気があり、これもまた以後のガンガンのトップクラスの人気作品となります。さらには、これら人気連載のドラマCD化、小説化(ノベライズ)も、この時期に始まりました。「まもって守護月天!」「刻の大地」「TWIN SIGNAL」などのノベライズは、いずれも巻を重ねるシリーズ作となります。
 そして、96年には、半年だけですが「ラジオ・ガンガン」という、ガンガンをフィーチャーしたラジオ番組まで放送されました。ガンガン連載の作家を毎回のように多数ゲストに招いて、作家の生の声を聞けるコーナーが好評で、一度は公開録画まで行っています。


 と、以上のように、良質な新連載を数多く打ち出し、新旧の連載陣の多くが好調で、活発な企画も多数行われたこの月2回刊時代、編集部の活動には確かな勢いを感じました。しかし、意外にもこの月2回刊時代は長続きせず、2年という短い期間で終了、再び月刊へと戻ることになりました。最後の頃は雑誌の売り上げもかなり落ち込んだようで、95年に一時50万部近くあった売り上げが、月2回刊末期には17万部程度まで減少しています。

 なぜ、このように売り上げが落ち込んだのか。売り上げが落ちたということは、読者の反応が芳しくなかったということですが、なぜそうなったのか。これにはいくつかの理由が考えられます。
 まず、一部の連載陣が調子を崩し、作品のクオリティに低下の兆候が見られ始めたこと。この月2回刊行時代、速いペースの連載で掲載量が増え、コミックスの出るペースも速い状態が続きました。これ自体は決して悪くはないはずですが、しかしこのペースに一部の作家がついていけなくなり、連載のクオリティの落ち込みが相次いだのです。特に「ハーメルンのバイオリン弾き」の渡辺道明と「刻の大地」の夜麻みゆきのふたりが深刻で、作画を中心にそのクオリティは破綻状態にまで陥ってしまいます。他の作家も全体的に質の低下が散見され、このような状態では月2回刊行を維持するのは難しいということになったのではないかと思われます。

 そして、更なる問題として、これは読者の側の現象ですが、速いペースの雑誌とコミックスの刊行についていけなくなり、購入をあきらめる読者が増えたことが挙げられます。確かに、この時期のガンガンは、速いペースで連載が読め、コミックスもどんどん発売されると、普通に考えれば勢いが盛んでよい状態のようにも思われました。しかし、速いペースの雑誌とコミックスの刊行に、読者のカネがついていけなくなり(笑)、購入をやめる読者が続出したのです。これは、この当時まで、ガンガンの読者に低年齢の子供の読者も多かったことも関係していると思われます。

 さらに、この二つ以上にもっと大きな原因がありました。それは、他でもない「ロトの紋章」の連載終了です。ガンガン創刊以来の最大の看板作品として、当初から人気の高かった本作でしたが、この月2回刊時代のクライマックスの盛り上がりは圧倒的で、多くの読者がこの「ロト紋」を求めてガンガンを購入している状態でした。そんな看板作品が、97年の前期を持って終了したことで、一気にガンガンの売り上げは落ち込んでしまったのです。この時期、多くの有望な新連載が次々に登場したとはいえ、まだまだガンガンの中心は創刊時代からの定番連載でした。そして、その中でも最大の中心作品だった「ロトの紋章」が終了したことで、一気に大勢の読者が離れてしまったのです。
 なお、この「ロトの紋章」の終了を受けて、しばらくしてガンガンは新しいドラクエマンガである「ドラゴンクエスト 幻の大地」(神崎まさおみ)をスタートさせますが、こちらは人気も評価もそこそこにとどまり(決して悪いマンガではありませんが)、いずれも「ロトの紋章」には遠く及ばなかったところを見ても、このマンガの偉大さがよく分かります。アニメ化もしていないのにコミックス累計1800万部の売り上げは尋常ではなく、このマンガが抜けた穴はそう簡単には埋めることは出来ませんでした。

 こうして、一時は50万部近くあったガンガンの部数は、最終的に17万部程度に低下、実に3分の1近くにまで落ち込んだことになります。これでは、さすがにガンガン編集部も体制の立て直しを余儀なくされ、当面の対策として月刊へと戻らざるを得なかったのではないか。こうして、ガンガンの月2回刊行時代は、98年の3月をもって2年という比較的短い期間で終了、再び月刊へと戻ることになったのです。


 少年ガンガン20年史(5)エニックスマンガの完成


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