<少年ガンガン20年史(5)エニックスマンガの完成>

2010・6・11

 こうして、月刊へと戻った少年ガンガンですが、月刊に戻った直後から、非常な厚さを持つ雑誌となり、以後この厚さで有名になることになります。これまでは、毎号大体500〜600ページ程度のページ数だったのが、この時期に800ページ程度にまで一気に厚くなり、その後時代を下るとさらに厚くなり、近年(2000年代後半以降)は、1000ページを超えるまでにさらに厚くなります。最近では、このように厚さを売りにするマンガ雑誌は他社でも珍しくなくなりましたが、少年誌においてそのような特徴を全面に出す先鞭となったのは、ひとつにはこのガンガンだったのではないでしょうか。

 この時期にこれほどまでにガンガンが厚くなった理由は、今まで月2回刊行の雑誌だったものを、月刊にして毎月1冊にまとめたことによると思われます。これまでは月2回の刊行で、合計では毎月1000ページ以上のペースで刊行していたわけですが、月刊に戻るにあたって、それをそのまま半分にすることはよしとしなかったのでしょう。月刊になって刊行ペースが落ちる代わりに、1冊ごとのページ数を大幅に増やし、読者に対する読み応えを維持しようとした。そういうことではないかと思われます。
 そのため、月刊になった直後、その大幅に厚くなったページ数を埋めるために、いくつもの新連載が開始されています。月刊に戻ることで、これまでの連載も、ほとんどが1回の掲載ページ数が増える形になりましたが(月2回刊時に毎号20ページの掲載だったのが、月刊になって30ページになるなど)、それでも大幅に増えたページ数を埋めるには足りず、新連載で補う形となりました。また、この再月刊化に前後して、いくつかの作品が連載を終了しており、それを補う目的もありました。

 この時期に終了した連載は、低年齢向けのゲームコミックや4コマ、あるいは逆に青年誌出身作家の作品などいくつかありますが、中でもドラゴンクエスト4コママンガ劇場の終了は、ひとつのエポックメイキングな出来事として言及しなければならないでしょう。エニックス出版草創期からの人気マンガで、ガンガンを創刊するひとつの母体ともなり、ガンガン創刊後も雑誌を支える人気連載としてここまで続いてきた「ドラクエ4コマ」が、この再月刊化の際に、ついに終了してしまったのです。
 このドラクエ4コマ、ガンガンでも長く人気を維持してきましたが、月2回刊時代には、明らかに以前に比べて勢いが衰えていました。これには様々な理由が考えられますが、ひとつには、95年までにガンガンでドラクエ4コマを担当していた人気作家たちが、96年の月2回刊行時に一斉に入れ替わっていなくなってしまったことが大きい。また、原作ゲームであるドラクエの持つ力も、時が経つに連れて次第に衰えていったこともあります。始まった頃に持っていたドラクエ4コマの新鮮さが、この頃にはもうなくなっていたのではないか。このドラクエ4コマの終了後、入れ替わりで「ガンガンゲーム4コママンガ劇場」という新連載が始まり、毎回いろいろなゲームの4コマを掲載することになりますが、これはさほど奮わず、すぐに連載は終了します。また、99年からは、これもドラクエ4コマの一種とも言える「ドラゴンクエストモンスターズ4コママンガ劇場」も始まりますが、これもじきに終了。これ以降も、読者投稿の場である「4コマクラブ」は細々と続きますが、本家のドラクエ4コマの単行本の発売も終了したこともあり、こちらもやがて終了します。これ以後のドラクエ4コマは、たまに一時的に復活することもありますが、大勢としてはほぼ終わったと見てよいでしょう。この再月刊化時代のドラクエ4コマの終了が、ひとつの時代の終わりだったと思います。

 さて、話を元に戻し、この時期に始まった新連載を見ていきます。再月刊化前後に始まった連載としては、「COLORMAIL」(藤原カムイ)、「裏剣道ZERO」(松山せいじ)、「大正格闘浪漫 疾風の天」(松葉博)、「ネオ・ジャパネスクGENPEI」(近藤竹史)、「スターオーシャン 〜そして時の彼方へ〜」(かぢばあたる)、「GET!」(東まゆみ)などがあります。全体的には少年マンガ作品が多く、この時期まではまだこの手の作品が残っていました。しかし、これらすべては長続きせず、半年〜1年で終わってしまいます。あるいは、最初から半年程度の短期連載を想定していた作品も数多くありました。ゲームコミックの「スターオーシャン 〜そして時の彼方へ〜」はその典型で、最初から半年の連載、コミックス1巻で終わると決まっていたようです。あるいは、東まゆみの「GET!」も、このすぐ後に作者が別の連載(「スターオーシャン セカンドストーリー」)を始めたことから、最初から半年の予定だったのではないかと考えられます。「スターオーシャン」→「スターオーシャン セカンドストーリー」と、最初からゲームコミックの連載予定が決まっていたのでしょう。
 唯一、この時期の新連載で長期連載となったマンガとして、「ワルサースルー」(たかなし霧香)があります。すでにギャグ王で「」ハイパーレストラン」というギャグマンガで人気を得ていた作者による新作で、こちらも笑えるギャグマンガとなっており、ガンガンのギャグマンガのラインナップをさらに充実させることになりました。 それともうひとつ、これもギャグマンガ(?)なのですが、「わくわくマンガ家への道」(魔神ぐり子)という異色の連載もありました。これは、当初はデビューを目指す新人マンガ家にマンガの描き方を教える講座のようなコーナーだったのですが、当初から内容は暴走気味で、作者が編集者と共に悪ノリの限りを尽くす内容にマニアックな人気が集まり、半年の連載終了後も「コインランドリー」とタイトルを変えて実質的に連載が継続、コミックスにはならなかったものの、当時の雑誌読者にはカルト的な人気を得て大評判となります(笑)。

 このように、再月刊直後の新連載のほとんどはすぐに終了してしまいますが、再月刊の約半年後からさらに始まった新連載、こちらは非常な良作が揃っていました。この時期のガンガンは、95年以降に始まった新規連載が雑誌の中心となっており、それらのほとんどが好調で、さらには再月刊前後で奮わない連載の多くが終了したことで、誌面はかなりの充実の度合いを見せていました。月2回刊時代末期に見られた作品のクオリティの低下も、再月刊後にはじきに回復し、前よりもずっと安定した雑誌となっていました。そして、そんな中でここで始まった良質の新連載が加わることで、ガンガンはここでひとつの頂点とも言える完成された誌面を見せることになります。

 さて、これら98年末期から99年にかけて始まった新連載ですが、「スターオーシャンセカンドストーリー」(東まゆみ)「魔探偵ロキ」(木下さくら)「新撰組異聞PEACEMAKER」(黒乃奈々絵)「スパイラル〜推理の絆〜」(城平京・水野英多)の4本が特に優秀でした。この4つをもって、ガンガンのラインナップは最も充実した一瞬を迎えることになりました。
 「スターオーシャンセカンドストーリー」は、同時期に発売されたエニックス、それも人気のある開発会社のトライエースのゲームのコミカライズで、原作ゲームの人気も手伝って、こちらもガンガンを一気に代表するマンガになります。また、同じくトライエースのゲームのコミカライズとして、遅れて2000年に始まった「ヴァルキリープロファイル」(土方悠)も好評でした。当時は、エニックスでもこのトライエースのゲームが絶好調で、その人気がガンガンにも波及する形となったのです。また、この「ヴァルキリープロファイル」と同時期の連載として、こちらはドラクエシリーズが原作の「ドラゴンクエストモンスターズ+」(吉崎観音)もあり、こちらもベテラン作家の実力を感じられる優秀なゲームコミックとなっていました。西川秀明の「アークザラッドII〜炎のエルク〜」といい、この時期はゲームコミックも優れた作品が多かったのです。

 「魔探偵ロキ」は、元は少女誌で活動していた作者の実質的なデビュー作。オカルトと探偵ものを絡めた独特の世界観とキャラクター、切れのあるエピソードで一躍人気に。「新撰組異聞PEACEMAKER」は、独自の視点で描いた新撰組もの。これはこの時期のガンガンでは例外的に高い女性人気を獲得します。そして、「スパイラル〜推理の絆〜」・・・これこそが、ずっと後まで長く連載する最大のヒット作となりました。個性的な原作者の放つストーリーと作画担当によるかわいいキャラクターで大人気となったこの作品の登場をもって、ガンガンの誌面はひとつの完成された形となったと見てよいでしょう。

 この時期の主要な連載をひとつひとつ挙げてみると、初期の頃からの定番人気連載「ハーメルンのバイオリン弾き」「魔法陣グルグル」「突撃!パッパラ隊」「TWIN SIGNAL」、96年以降に登場した人気連載「まもって守護月天!」「刻の大地」「ジャングルはいつもハレのちグゥ」「PON!とキマイラ」「里見☆八犬伝」「東京アンダーグラウンド」「アークザラッドII〜炎のエルク〜」「ドラゴンクエスト 幻の大地」「ワルサースルー」、そしてこの時期に最後に加わった優良連載「スターオーシャンセカンドストーリー」「魔探偵ロキ」「新撰組異聞PEACEMAKER」「スパイラル〜推理の絆〜」「ヴァルキリープロファイル」「ドラゴンクエストモンスターズ+」と、どれ一つとっても劣るもののない優れた連載ばかりで、本当にこの時期のガンガンのラインナップは充実していました。当時は、テレカなどの全員サービスが雑誌のほとんどの連載に渡って行われるなど、雑誌のほとんどの連載に満遍なく読者人気があったことが窺えます(これは、のちの「鋼の錬金術師」などの一部の作品に人気が集中する2000年代のガンガンとは対照的な状態です)。

 このように、連載マンガが非常に充実していたガンガンですが、この時期は読み切りのマンガもまたひどく充実していました。新人の発掘には定評のあるエニックスでしたが、この時期は、主要なマンガ賞である「エニックス21世紀マンガ大賞」の受賞作を中心に、新人の読み切りに良作が相次ぎました。98年には水辺の物語(MINAMO)、99年には「STRAYDOG」(荒川弘)「ぼくらのポストマン」(神田晶)「コウノトリの仕事」(MINAMO)「徒爾少々」(山祗晶緋呂)、2000年には「DOME CHILDREN」(山崎風愛)と、新人離れした作画やストーリーの完成度を持つ作品あり、まだ技術的にはさほどでもないけど、新人らしい新鮮でみずみずしい感性を持つ作品ありと、多彩な良作が次々と登場していたのです。この中では、のちに「鋼の錬金術師」を手がけることになる荒川弘が最も有名ですが、それ以外にものちに連載をもって活躍する作家が幾人もいる一方で、残念ながらその場で消えてしまった作家もおり、その顛末がひどく惜しまれます。


 このように、連載も読み切りもそのすべてにおいて充実していたこの99年前後のガンガンですが、ここで掲載されていた作品には、ある一定の雰囲気というか、明らかに共通した特徴を持っていました。また、この時期のエニックスは、ガンガン以外の姉妹誌も、みなガンガンに近い雰囲気の作品が中心となっていました。GファンタジーやガンガンWING、ギャグ王、そして新しく創刊された少女マンガ誌のステンシルでさえ、総じて近いイメージの作品で統一されていたのです。一言で言えば中性的な作品ということになるのですが、これが、のちにガンガン系あるいはエニックス系と呼ばれるようになる、まさにエニックスならではの個性を持つ独特の作品群となっていたのです。この記事では、このような一連の作品を「エニックスマンガ」と呼ぶことにしますが、このエニックスマンガならではの特徴を、わたしは大きく3つに分けて考えています。

(1)「中性的」でくせの少ない絵柄。
 何を持って中性的と言うのか、人によって感覚が分かれそうですが、ここでは「男女共に少ない抵抗で受け入れられる絵」のことを指します。この時期のエニックスは、そういった作画を求めているのではないかと思われるほど、同系のイメージを持つ絵柄の作品が、雑誌の多くを占めていました。

 つまり、この当時のエニックスマンガは、男性読者でも女性読者でも、そこに抵抗を感じない作画を集めることで、男女双方の読者を幅広く集めることに成功していたのです。少年誌や青年誌でよく見られる、骨太で力強さや濃さを全面に出した絵柄では、女性読者は抵抗を感じて避けてしまうかもしれません。逆に、少女誌でよく見られる、耽美的だったり瞳がキラキラするような描き込みの作画では、男性の方が見た目だけで避けてしまう可能性は高いでしょう。この当時のエニックスは、そのような作画を意図的に避けていた節があり、ガンガンやWINGはもちろん、少女誌であるステンシルでさえ、そのどちらの要素も少ない、シンプルでくせの少ない絵柄で統一されていました。

 また、これらの作画の多くを、女性作家が手がけていたのも大きな特徴です。天野こずえや浅野りん、桜野みねね、夜麻みゆきなどの作画がその代表で、のちの中性的な萌え絵と共通したところがあり、それらの先駆けとなったような側面もありました。そして、これが大勢の読者を惹きつけ、雑誌の垣根を越えた「エニックスマンガのファン」を生み出す原動力となりました。

(2)男女が同じ視点で楽しむことの出来る作品内容。
 作画だけではありません。作品の中身、そのストーリーやテーマにおいても、男女が共に抵抗なく楽しめ、あるいは同じ視点で楽しむことが出来る作品が多くを占めていた。これも非常に大きな特徴です。
 実は、中性的な作品でなくとも、男女共に人気を得る作品はあります。ただ、そういった作品の場合、男女が別の視点で作品を見ているケースがままあるのです。例えば、男性の方は美少女キャラクターを見て楽しんでいる。女性の方は、同じく作品に登場する男性の美形キャラクターの方を見て楽しんでいる。これは極端なケースですが、このように読者によって見ている、楽しんでいる部分が異なる場合、同じ視点で作品を楽しんでいるとは言えません。男性読者も女性読者も、作品のストーリーやテーマを、ほぼ同じ視点で楽しんでいて、双方が感想を共有しあえる。同じ視点で語り合うことが出来る。そういう魅力がこの時期のエニックスにはありました。

 例えば、「CHOKO・ビースト!!」や「PON!とキマイラ」の作者の浅野りんですが、その読者層は綺麗に男女半々に分かれます。男性女性共に気兼ねなく楽しめる日常コメディ、キャラクターや世界観が、浅野さんのマンガにはありました。男性しか楽しめないエピソードとか、女性にしか人気のないキャラクターとか、そういったものがほとんどなく、双方の読者がまったく同一の視点で作品を楽しみ、作品の世界を共有していました。それこそがこの時期のエニックスマンガの最大の魅力だと言えるでしょう。

(3)キャラクター人気が高い。
 マンガにおいてキャラクターが重要なのは言うまでもないのですが、エニックスマンガの場合、このキャラクターの人気が際立っていました。これも、今で言う萌え系の人気とかなり近いものがあり、そのひとつの先駆けとなったと言えるでしょう。

 ただ、今の萌え作品との大きな違いとして、やはり男女の読者問わず、どちらにも偏らないキャラクター人気があったことが挙げられます。例えば、この当時のガンガンの代表作「まもって守護月天!」ですが、これは、一般的には美少女系のラブコメだと見られることの多い作品です。しかし、他のこの系統の作品が、男性読者に人気が偏るものが多いのに対して、この「守護月天」は、女性読者にも非常に幅広い支持がありました。これは特筆すべき特徴と言え、他の男性・少年読者向けのラブコメディとは、大きく一線を画するものがあったのです。
 また、この「守護月天」に限らず、当時のエニックスは女性読者に人気の出る女の子のキャラクターが本当に多く、それがひとつの特長でありました。この点において、この当時のエニックスの作品は、同じ女性読者に人気のある作品でも、いわゆる女性向けの作品、美形男性キャラクターが数多く登場したり、あるいはBL(ボーイズラブ)の要素があったりする作品とは、基本的に異なります。中には「新撰組異聞PEACEMAKER」や、Gファンタジーの「最遊記」のように、そういった作品を好む女性マニア(今でいうところの腐女子)に人気を得たマンガもありましたが、それは全体の中では一部であり、それよりもむしろ中性的な外見のキャラクター、それもかわいい女の子のキャラクターを中心に人気が集まる作品の方が、ずっと多くを占めていました。すなわち、この当時エニックスのマンガを愛読していた女性読者の多くは、今でいう腐女子と呼ばれる層とは根本的に異なっていました。

 そして、これは2000年代のエニックス(スクエニ)のマンガと比較して、最も明確に異なる点となっています。のちのスクエニは、「このマンガは男性向けの萌えキャラクター」「このマンガは女性(腐女子)向けの美形キャラクター」といったように、最初からターゲットの読者を絞る形での作品作りが主流となり、この時期のような中性的な作風で男女の読者を問わない作品作りは、大きく後退してしまったのです。


 以上のように、この99年を中心とした数年間のガンガンは(あるいはガンガンを含むエニックスの姉妹誌全体でも)、エニックスならではの独特の雰囲気を持つ作品で満たされていました。95年の「浪漫倶楽部」「CHOKO・ビースト!!」あたりを発端とする中性的なマンガが、数年のうちに次第に発展し、この時期において隆盛を極めたと見てよいでしょう。思えば、91年にガンガンが創刊した頃は、優秀な作品こそ数多く見られたものの、雑誌の中心は既存のタイプの少年マンガでした。しかし、それから何年も雑誌作り、マンガ作りを続けていくうちに、やがてはエニックス独自の作風を持つ作品が次第に登場し始め、そしてついにはそんなエニックスならではのマンガが中心の雑誌が完成したと言えるのではないでしょうか。ここにおいて、新興の出版社の雑誌の発展が、ひとつの頂点を迎えたと言えるでしょう。

 しかし、このエニックス独自の個性を持つ、無数の優秀な作品群で完成したと思われたガンガンは、この直後に一気に崩れてしまいます。それも、何らかの外部からの要因ではなく、ガンガン内部の編集部自らが、雑誌の体制を崩壊させてしまったとすら言える予想外の事態が起こってしまうのです。そして、これがのちの「エニックスお家騒動」という、編集部と作家の分裂という最悪の事態にまで発展してしまいます。次回では、このガンガンの体制が一気に崩れていく詳細な過程と、その原因について詳しく見ていくことにします。


 少年ガンガン20年史(6)路線変更から混乱、そしてお家騒動へ


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