<少年ガンガン20年史(7)お家騒動とその後のガンガン>

2010・6・24

 こうして路線変更に反発する形で、一部の編集者たちがガンガン・エニックスを離反、お家騒動にまで発展するわけですが、ではこの「一部の編集者」とは具体的に誰を指すのでしょうか? それは、ずばり、ガンガンの初代編集長であった保坂嘉弘を中心とするグループです。
 保坂さんは、ガンガン創刊のずっと以前からエニックスに勤めており、当初はゲームプロデューサーだったようです。ガンガン創刊当初から編集長に抜擢され、最初の頃は少年マンガ中心の誌面作りを始めたものの、次第に独自性を発揮し始め、新しいタイプの連載を取り入れるのにもあまり抵抗がなかったようです。最終的に、エニックス系と呼ばれる中性的な作品がガンガンの中心となるのですが、これも最初の頃からかなり期待していたようで、1997年当時の対談記事で、当時はまだ連載開始してまもなかった「まもって守護月天!」「刻の大地」「PON!とキマイラ」などを、これから期待する作品として挙げていました。始まったばかりでまだ無名に近かった作品を、そこまで推していたところを見ると、相当に期するものがあったのでしょう。ガンガンの変化に富んだ誌面作りは、この保坂編集長の柔軟な思考によるところが大きいと思われます。

 その後、98年に月刊に戻った時を契機に、編集長は飯田義弘へと変わりますが、飯田さんもまた保坂さんの路線をそのまま継承し、基本的なガンガンの方針に変化はありませんでした。この「保坂−飯田体制」とも言える誌面の体制が、路線変更前まで一貫して続いてきたのです。

 しかし、その後、おそらくは松崎さんを中心とする一部編集者が、この体制をよしとせずに、少年マンガ中心の誌面へと路線変更を図ります。これに対して、保坂さん側に相当な反発があったのではないかと想定されます。明らかに性急で強引過ぎる方針で連載マンガの質は大きく揺らいだことは明白だった上に、自分が期待を込めていた「刻の大地」のような作品まで、他の雑誌へと移籍させてしまったわけですから、これにはもうついていけないとまで感じてしまったとしてもおかしくはありません。そして、ついにはガンガンからの離脱という思い切った決定にまで至ってしまったのではないかと推察できます。のちに新雑誌を立ち上げる時に保坂さんが発した「これからは、少年向け・少女向けにこだわらない、新しいマンガつくりを進めていく」というコメントが、この時の心境をよく表していると思います。

 さて、そのお家騒動ですが、2001年の後期になって、雑誌の連載作品が次々に終了を迎え、その多くが中途での打ち切り的な終了となり、しかもその作家たちがすべてエニックスから離脱する動きを見せることで、一気に表面化していきます。通常の最終回を迎えた作品もいくつかありましたが、その作家もやはり直後に離脱する形となり、やはり離脱を前提とした終了ではなかったかと思わせるものありました。そして、これはガンガンのみならず、エニックスの雑誌すべてに拡大していき、極めて大規模な騒動へと発展してしまいます。
 最も被害が大きかったのが、ガンガンに最も近い立場の姉妹誌だったガンガンWINGで、主要な連載陣がことごとく抜け、雑誌の存続をも危ぶまれる危機的な状況にまで追い詰められてしまいます。当時のガンガンWINGは、ガンガン本誌よりもよりコア向けの連載が多く、しかも連載作家のほとんどが中性的なマンガを描く執筆陣となっていました。元々、ガンガンやGファンタジーから実力・人気のある作家を集めて98年に新装刊された経緯があり、そのために当時人気だった中性的な作家が集まっていたのです。そのため、そのすべてがこのお家騒動の時にエニックスを離脱してしまい、致命的な影響を受けることになってしまったのです。
 WINGほどではないが、それでも大きな影響を受けたのが、少女誌であったステンシルです。こちらは、WINGのように多くの作家が抜けるような事態にはなりませんでしたが、しかし人気のある作家だけがピンポイントで抜ける形となり、雑誌の人気は一気に落ち込むことになります。そして、結局最後まで雑誌の趨勢を取り戻すことは出来ず、数年後の休刊へと辿り着くきっかけとなってしまいます。
 唯一、まったく影響がなかったのがGファンタジーです。しかし、こちらは、保坂元編集長らとは別の編集者グループが新たに別会社に離脱してしまい(当時のGファンタジーの編集長だった杉野庸介を中心とする一派)、ここでもまたお家騒動の展開が拡大することになってしまいます。

 そして、肝心のガンガンなのですが、こちらはWINGほどではないにしても、それでも主要な作家が数多く抜けてしまい、大々的な影響は避けられない事態となります。この時に抜けた作家は「まもって守護月天!」の桜野みねね、「PON!とキマイラ」の浅野りん、「里見☆八犬伝」のよしむらなつき、「スターオーシャンセカンドストーリー」の東まゆみ、「魔探偵ロキ」の木下さくら、「新撰組異聞PEACEMAKER」の黒乃奈々絵。いずれもガンガンでも屈指の人気を誇る作家ばかりでした。一方で、ガンガンに残った作家としては、「ジャングルはいつもハレのちグゥ」の金田一蓮十郎、「東京アンダーグラウンド」の有楽彰展、「スパイラル〜推理の絆〜」の城平京・水野英多など。こちらも離脱組に匹敵する人気作家たちで、離脱した者と残った者とで完全に対応が分かれることになりました。この決定は、各作者にとってひどく苦しい決断であったようで、例えば「東京アンダーグラウンド」の有楽さんなどは、苦渋の上の決断でガンガンに残ることに決めたようです。

 こうして、一部の作家こそ残ったものの、それ以上に多くの作家がガンガンから離脱したことで、読者へ与えた衝撃は凄まじいものがありました。これまでも、路線変更後の誌面の混乱で、多くの読者がガンガンから離れていっていましたが、そんな中でこのお家騒動は致命的でした。ここまでまだかろうじて残っていた読者も、この事態を目の前にしてガンガンへの不信は最大にまで達し、その多くが一斉に購読をやめて離れていってしまうのです。この致命的な出来事によって、ガンガンの歴史は一旦断ち切れてしまったと見てよいでしょう。

 なお、この時に離脱した保坂元編集長を中心とする編集者グループは、のちにマッグガーデンという新会社を立ち上げ、そこで「コミックブレイド」という新雑誌を創刊、引き連れていったエニックスの作家たちの新連載を最大の目玉として、雑誌を運営していくことになります。しかし、その成果は意外に芳しくありませんでした。元エニックス作家たちの連載は、どういうわけかその多くが長期休載となって消えた作家も少なくなく、一方で新たに発掘した新人作品も奮わない状態が続き、必ずしも読者の期待には応えられませんでした。このブレイドの顛末を見ても、このお家騒動によって失われたものは計り知れないものがありました。

 さて、このお家騒動の最中には、一方でガンガンは毎月のように新連載攻勢を行っており、しかもこの混乱の中でのスタートにもかかわらず、奇跡的に良作に恵まれます。そして、この中のいくつかが、のちのガンガンを支えることになるのです。
 また、この新連載陣は、路線変更以後の方針に沿った少年マンガ作品も多かったですが、それと同時に明らかに雰囲気の異なる個性的な作品もいくつも含まれており、なぜこのような作品が今になって登場したのか、よく分からないところもあります。お家騒動でガンガンを離れることになった保坂派編集者の要望だったのか、それとも他に理由があるのか分からないのですが、これによってバラエティに富んだ良作が多数生まれることになったのも事実です。

 まず、少年マンガ作品の中では、なんといっても「鋼の錬金術師」(荒川弘)の登場があまりにも大きなものがありました。新連載攻勢の中でも真っ先に始まったこの連載、作者の荒川さんは、99年のマンガ賞受賞後に何度も読み切りを重ねて実力をさらに向上させ、初連載となるこのマンガも事前から入念な準備を重ねた上で開始しており、最初からその歩調はしっかりとしていました。そのため、当初からその完成度は圧倒的で、瞬く間に読者の支持が集まります。強引な路線変更とお家騒動でガンガンから離れつつあった読者の間でも「『鋼の錬金術師』だけは読む」という人は多く、これだけは例外的な大人気となるのです。のちにTVアニメ化されてさらに爆発的なヒット作となり、ガンガン、スクエニを超えるマンガ界屈指の名作となることは、もはやここで説明するまでもないでしょう。

 それ以外の少年マンガ作品としては、「B壱」(大久保篤)のスタートも大きい。作者の奇抜なセンスと毒のあるテーマ・ストーリーが特徴的な個性派作品で、これも相当な良作でした。これは意外に早く短期間で終了してしまいますが、そののちに手がける「ソウルイーター」が、今度こそ長期連載の大ヒット作品となります。
 同じく少年マンガ作品としては「666(サタン)」(岸本聖史)があります。作者は少年ジャンプで「NARUTO」を連載中の岸本斉史の双子の弟で、連載開始に際してそのことも大きく採り上げられ、編集部によってひときわ大きく推されていました。実際の内容は、兄の作品と酷似したところが多く、平凡な内容に終始しましたが、それでもこちらは長期の連載となります。

 逆に、個性派の作品としては、まず「プラネットガーディアン」(高坂りと)。かわいい絵とキャラクターから、以前の中性的なエニックスマンガに近い雰囲気もありましたが、実際の内容はかなりの異色で、魔法少女ものをパロディ化した過激なギャグコメディで一世を風靡することになりました。一時期は大人気だったのですが、意外に早く終了したところを見ると、ガンガンの少年マンガ路線とは合わずやはり浮いてしまっていたからかもしれません。
 同じくガンガンでは異色の雰囲気の作品として、「妖幻の血」(赤美潤一郎)があります。青年誌で活躍していた作家・冬目景の影響を強く受けた絵柄と世界観で、高年齢のコアな読者に好まれるような作品となっていました。このような作品は、ガンガンでは非常に珍しく、とりわけ低年齢化を進めていた当時のガンガンでは極めて異色でした。このマンガもかなりの話題と人気を集めたようでしたが、やはりガンガンの少年マンガ中心の路線とは折り合いが悪かったことは明白で、しばらくして姉妹誌のガンガンパワードへと移籍させられてしまいます。
 同じくこれも高年齢向けとも思える作品として「DOME CHILDREN」(山崎風愛)もありました。同名のマンガ賞受賞作品だった読み切りを連載化したもので、核戦争後の未来のドーム都市で生きる子供たちと大人たちの姿を描く、社会性の強い作品となりました。これも相当な名作でしたが、やはり「妖幻の血」と同じく、のちにガンガンパワードへと飛ばされてしまいます。

 このように、この時期に始まった新連載陣の多くは良作で、路線変更後に登場した作品の中では、久々に粒の揃った、しかも多彩で個性的な作品も多く見られる、優良な連載陣となりました。しかし、その中でも、結局は少年マンガ路線に沿った作品のみが後まで長く残る結果となり、やはりガンガンの少年マンガ中心の路線が変わることはありませんでした。

 その後、お家騒動が終わった2002年になると、今度は完全に少年マンガ路線に沿った作品を次々と打ち出すようになります。爆笑ギャグ「清村くんと杉小路くんと」で一世を風靡した土塚理弘による長編ファンタジー少年マンガ「マテリアル・パズル」。これは10年に及ぶ一大長期連載となります。「ハーメルンのバイオリン弾き」を終了させた作者・渡辺道明による軍事・戦闘機もの「PHANTOM;DEAD OR ALIVE」。「南国少年パプワくん」の作者・柴田亜美による、そのパプワくんの続編マンガ「PAPUWA」。このあたりは、初期ガンガンへの回帰を強く感じさせる新連載陣で、藤原カムイ・増田晴彦に次ぐガンガン初期作家の起用となりました。
 一方で、今まであまりなかったラブコメ系少年マンガにも力を入れるようになり、「悪魔事典」(巣山信也)「ながされて藍蘭島」(藤代健)の2作を立ち上げます。これらは、美少女の萌えを全面に押し出した少年・男性向けの作風となっており、お家騒動以前の中性的なキャラクター人気を集めたマンガとは、一線を画するものがありました。このうち、「ながされて藍蘭島」の方は、アニメ化まで達成する人気を得て、10年に及ぶ長期連載となります。
 また、この時期に投入されたメディアミックス作品「円盤皇女ワるきゅーレ」(介錯)も、このラブコメ作品の中に入れてもよさそうです。TVアニメの企画が最初にあったメディアミックス作品で、そのコミック版の連載先をガンガンが引き受けたようです。ガンガンとしては、少年誌的なラブコメ作品を増やす目的に適った招聘だったのではないでしょうか。
 そのラブコメとバトルと双方を取り入れた意欲作として、「私の救世主さま」もありました。現代の学園から異世界へと物語が発展するファンタジックなストーリーが印象的でしたが、どういうわけか連載途中でガンガンの編集者と問題を起こしてしまったようで、しばらくしてGファンタジーへと移籍させられてしまったのが残念なところです。

 これらの新連載攻勢が一段落ついたあと、2000年後期から1年ほど新連載が途絶える空白期間が続きますが、その後2003年中期から始まった再度の新連載攻勢では、今まで以上に少年マンガテイストの強い作品ばかりが次々に投入され、ここにおいて路線変更後の少年マンガ路線は極まった感がありました。この時に始まった新連載は、「ドラゴンリバイブ」(井田ヒロト)「グレペリ」(たくま朋正)「女王騎士物語」(下村トモヒロ)「ヴァンパイア十字界」(城平京・木村有里)など。このうち、原作者の個性が全面に出た「ヴァンパイア十字界」は別として、それ以外は強く少年マンガの王道を意識したものか(「ドラゴンリバイブ」「女王騎士物語」)、極端に低年齢向けを意識したコメディ(「グレペリ」)と、今まで以上に少年マンガ・低年齢向け路線を目指したものばかりで、この時期がガンガン編集部の少年マンガ路線が最も強く感じられる時期だったと思います。この中では、王道少年マンガを行き過ぎるまでに突き詰めた「女王騎士物語」が、最も高い人気を獲得して長期連載となります。

 これらお家騒動渦中の2001年から直後の2002〜2003にかけての新連載は、中には「鋼の錬金術師」や「マテリアル・パズル」「ながされて藍蘭島」「女王騎士物語」のように、ヒットして長期連載につながるものもありますが、その一方で比較的短期間で終わるものも多く、あるいは長く連載が続いても、平凡な内容で必ずしも大きな反響を得られないマンガもいくつもあり、誌面全体の充実度はあまり高くありません。お家騒動以前のガンガンが、全体を通して優良なマンガが揃っていた状態だったのと比較すると、この時期以降のガンガンは「鋼の錬金術師」を始めとする一部の人気マンガに大きく依存した誌面となります。
 また、この時期には、かつての「スターオーシャン セカンドストーリー」や「ヴァルキリープロファイル」らゲームコミックの穴を埋めるためか、「スターオーシャンブルースフィア」(水城葵)、「スターオーシャンTill the End of Time」(神田晶)ら新しいゲームコミックの連載も始まりますが、どちらもいまひとつの結果に終わります。お家騒動以前の、ゲームコミックが充実していたガンガンと比べると、こちらでも見劣りがする誌面となっています。

 これらのいまひとつ奮わない誌面ゆえか、読者の反応も芳しくなく、この時期のガンガンの売り上げはほとんど伸びていません。騒動以前の99年頃は、25〜30万部の安定した部数だったガンガンでしたが、お家騒動による混乱で部数を大きく落とし、2001年には16万部程度にまで減少してしまいます。そして、その後2002年、2003年も、この16万部の部数はほとんど変わっていません。これは、ガンガンの20年に及ぶ歴史の中でも、最も売り上げ部数の低い時代となっています。


 ・・・しかし、この直後の2004年、ガンガンの部数は、一時的にですが一気に40万部を超えるまでに激増します。なぜここまで一気に増えたのか。それは、ずばり「鋼の錬金術師」のTVアニメの成功に他なりません。これによって、ガンガンの体制は一変し、そしてこの時期以降スクウェア・エニックスの本社の方針を強く受けるようになり、さらに大きく変わっていくことになります。連載マンガにおける少年マンガ路線には、おおむね変化はありませんでしたが、それ以上に「雑誌全体」「ガンガンそのもの」の姿が大きく変わってしまうことになるのです。次は、この時期におけるガンガンの激変について詳しく見ていきます。


 少年ガンガン20年史(8)2004年〜2006年のガンガン


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