<少年ガンガン20年史(9)2007年以降のガンガン>

2010・7・3

 前章で述べたとおり、、2004年〜2006年のガンガンは、「鋼の錬金術師」やスクエニゲームの情報をコンテンツとして載せる戦略に大きくシフトし、一時期誌面の様子が変わってしまっていました。しかし、これは2006年後期以降急速にまた変化し、再び元の状態に戻っていきます。スクエニゲームの情報ページは大きく減少し、以前と変わらない程度のページ数に戻りました。さらには、「鋼の錬金術師」の情報ページも、TVアニメの終了から時が過ぎるごとに次第に減っていき、2006年ごろにはさすがに目立たなくなりました。そして、肝心の連載マンガは、この時期に一気に新連載が増え、連載本数も20本以上まで回復します。2006年後期の半年間で、ほぼ元のガンガンの姿に戻ったと見てよいでしょう。

 なぜ、ここにきて元に戻ったのか、その理由は定かではありません。ただ、推測できることはいくつかあります。まず、やはり、このような情報コンテンツに偏った雑誌作りを、編集部自身も不信感を抱いていた可能性があります。スクエニ本社の経営陣の意向が多分に入った方針でしたが、当の編集部自身は、「マンガ雑誌としてこのままではまずい」と感じていたとしてもおかしくはありません。
 また、スクエニの経営陣の側としても、これ以上のコンテンツの推進をあきらめた可能性があります。2004年に打ち出した「ポリモーフィック・コンテンツ」という戦略、その結果はさっぱりで、特にオリジナルの企画だった「コード・エイジ」が大きな失敗に終わったことで、以後この名前を聞くこともほとんどなくなります。既存の作品をベースにした企画では、「FF7 アドベントチルドレン」こそ大ヒットしたものの、それ以降はこれ以上大きな成果は見込めないと判断し、ガンガンでの情報コンテンツの推進もあきらめたのではないか。いずれにせよ、これ以降ガンガンへのスクエニ上層部の介入が大きく後退したことは間違いないところで、これによって幸運にもガンガンは独立性を回復し、元のマンガ雑誌としての姿を取り戻すことになりました。

 この2006年に始まった新連載は、「ひぐらしのなく頃に 暇潰し編」(竜騎士07・外海良基)「はじめての甲子園」(火村正紀)「スパイラル・アライヴ」(城平京・水野英多)、「キングダムハーツII」(天野シロ)、「衛星ウサギテレビ」(衛藤ヒロユキ)、「ブレイド三国志」(真壁太陽・壱河柳乃助)、「新体操舞技 -TUMBLING BOYS-」(宍戸道子)など。全体的に玉石混交といった感じで、面白いマンガは面白いのですが、逆にいまいち成功できなかった作品も多く、質としては安定していません。

 成功作としては、まず「ひぐらしのなく頃に 暇潰し編」。スクエニの他誌ではすでに連載され好評を博していた「ひぐらしのなく頃に」のコミカライズ作品の一角で、ガンガンでは遅れて登場することになりました。このシリーズ、全体的にコミカライズの質が非常に高く、スクエニの原作ものコミックの中でも最大の成功作となっています。この「暇潰し編」は、他の編よりはやや劣る評価も聞かれますが、それでも優れた作品のひとつであったことは間違いないでしょう。
 「スパイラル・アライヴ」は、「スパイラル」の外伝作品。元はずっと以前にWINGの方で連載されていたのですが、本編との同時連載が厳しく、中断されたままになっていました。それが、2006年に本編が終了したことで、このガンガンで再開されたのです。本編も見事な作品でしたが、外伝のこちらのクオリティも申し分なく、2008年の連載終了まで楽しませてくれることになりました。「はじめての甲子園」は、ガンガンでは例外的にかなり人気を博したスポーツものでした。スポーツマンガといってもギャグ中心で、初期の頃はそのギャグで楽しませてくれました。作者は、ガンガンの新人4コマ競作企画「2Pギャグ」の出身者でした。この「2Pギャグ」、お家騒動以後早い時期からずっと続いているのですが、決して成果は芳しくないコーナーとなっており、そんな中で数少ない成功者となりました。

 逆に、これはどうかと思ったのが「ブレイド三国志」です。三国志のキャラクターが未来世界に転生したという不可解な設定で、誇大妄想的な設定と説明過多な内容、凝り過ぎて見づらい絵柄と、あまりにも異様さばかりが目に付く作品でした。この時点では短期連載で、連載の評判がよければ本連載化という触れ込みだったのですが、実際には最初から本連載は決まっていたようで、そのひどい内容で長く連載されることになってしまいました。
 衛藤ヒロユキの久々のオリジナル「衛星ウサギテレビ」も、内容はまったく奮わず、短期間の連載で打ち切りになります。このように、この年の連載は明暗を分ける形になりましたが、それでも新連載が極端に少なかった時代に比べれば、まとまった数の新連載がまず登場し、その中から複数の成果が出た分よかったと言えるでしょう。

 2007年以降も、基本的な誌面の方針は変わっていません。やはり少年マンガ路線の作品を中心に新連載を打ち出してきますが、以前に比べるとある程度柔軟にもなったようで、それからはやや外れた作品も目立つようになりました。ただ、完全に成功したと言える作品は少数派で、一部の看板作品(「鋼の錬金術師」や「ソウルイーター」など)が特に目立ち、それ以外があまりぱっとしない状態は変わっていません。これは、お家騒動以後のガンガンでは一貫して該当する特徴で、中堅以下の作品の(特に雑誌外への)知名度・浸透度が低い状態が続いています。

 ここからは、年ごとに注目すべき作品を挙げていきましょう。まず。2007年では、電撃文庫のライトノベルのコミカライズ「とある魔術の禁書目録」(原作・鎌池和馬、作画・近木野中哉)が白眉です。元々原作からして非常に人気の高い作品でしたが、ガンガンでのコミカライズのレベルも高く、こちらも大きな成功を収めます。また、同時期にメディアワークスの電撃大王で始まった外伝コミック「とある科学の超電磁砲」との同時コミック連載でも話題を呼びました。原作は、少年マンガ要素の強い作品で、ガンガン編集部としてもそんな作品を求めての招聘だったようですが、それも見事に成功し、ガンガンの中でも屈指の少年マンガ作品となったようです。その後、「鋼の錬金術師」「ソウルイーター」に次ぐガンガンの看板作品となりました。当初は、他社(メディアワークス)の作品をスクエニがコミック化することに違和感を覚える向きもあったようですが、今ではこのように他社のライトノベルをコミック化する企画は、どこでも当たり前に行われるようになりました。スクエニでも、ガンガン以外の雑誌で「文学少女」シリーズや「デュラララ!!」のコミカライズも行っており、いずれも成功して人気シリーズとなっているのが現状です。
 もうひとつ成功してスマッシュヒットとなった作品として、「Doubt」(外海良基)があります。閉ざされた建物内での殺人ゲームを扱った作品で、最近では流行のサバイバルゲームものをガンガンが取り入れた形となりました。そして、これが流行もあってかガンガンでも成功し、同時期のガンガンのオリジナル作品では、コミックスの売り上げが突出した成果を上げ、のちに2010年、続編とも言える同コンセプトの作品「JUDGE」の連載も開始されることになります。
 それ以外の良作としては、まず「紅心王子」(桑原草太)。この時期のガンガンでは非常に珍しい中性的、もしくは少女マンガ的な作品で、大きなヒットにはならなかったものの、そのやわらかな作風と切ないストーリーで評価される連載となりました。また、藤原カムイによる児童文学のコミック化「精霊の守り人」も、地味な作風でやはり大ヒットとまではいきませんでしたが、硬派な内容を丁寧にコミック化した仕事には高い評価が与えられるでしょう。ギャグマンガ「閉ざされたネルガル」(あるまるみ)も、この時期のギャグマンガではかなりの人気を集めました。

 翌2008年は、全体的に少年マンガ作品の新連載が多くなっています。「トライピース」(丸智之)、「ストレイキーズ」(柚木タロウ)、「東京幻想学園勇者科 月彩のノエル」(介錯)、「メテオエンブレム」(朴晟佑)、「マテリアル・パズル ゼロクロイツ」(土塚理弘・吉岡公威)(*2002年の新連載「マテリアル・パズル」のシリーズ作品)、「RUN day BURST」(長田悠幸)など、ガンガンからの新人と、他雑誌、他出版社からのベテラン作家の招聘を織り交ぜて、様々な少年マンガ作品を打ち出します。この中では、「トライピース」のような長期連載になる作品もいくつかありますが、全体的にはいまひとつ奮わず、ガンガンな中心となるような人気作品はさほど出ていません。「マテリアル・パズル ゼロクロイツ」と「RUN day BURST」は、この時期に創刊されたスクエニのウェブ雑誌「ガンガンONLINE」へと移籍してしまいます。「RUN day BURST」などは、週刊少年マガジンでの連載経験も持つベテラン作家の作品で、かなりの力作だと思ったのですが、人気の上ではまったく奮いませんでした。
 この中の作品では、「メテオエンブレム」(朴晟佑)は、ヤングガンガンで「黒神」という人気作品の作画を手がけた作者のガンガンでの新連載で、ガンガンがヤングガンガンの人気作家を引っ張ってくる形となりました。今ではヤングガンガンの方がガンガンよりレベルが高い状態が続いており、こんな風にヤングガンガン→ガンガンという流れの連載が、この後もいくつか見られるようになりました。この作品は完全な失敗で打ち切りとなってしまいますが、翌2009年の「BAMBOO BLADE B」(土塚理弘&スタジオねこ)は、ヤングガンガンでアニメ化もされた人気作品「BAMBOO BLADE」のスピンオフ作品で、ガンガンでは例外的に成功したスポーツマンガとなりました。直近の2011には、同じくヤングガンガンの人気作品「咲 -saki-」の外伝スピンオフを、「BAMBOO BLADE」の作画担当者・五十嵐あぐりが作画を担当するコラボレーション企画まで登場しています。

 2009年の新連載では、前述の「BAMBOO BLADE B」のほかに、まず「絶園のテンペスト」(原作・城平京、作画・彩崎廉)を挙げるべきでしょう。「スパイラル」シリーズの連載を無事完結させた城平京の新作で、ミステリー+現代ファンタジーといった型破りで独特のテイストの作品となっています。この時期のガンガンでは異色中の異色とも言える作品ですが、しかし「スパイラル」同様にトップクラスの人気作品となり、原作者の個性と力量を示す形となっています。他には、美形キャラクター多数で女性向け?とも言えるファンタジーバトルもの「ブラッディ・クロス」(米山シヲ)、ボンズのアニメの連動コミカライズ「HEROMAN」(原作・スタン・リー、作画・太田多門)などを挙げるべきでしょうか。あるいはまだ新連載自体はかなりありますが、この年もあまり成功したものは多くありません。

 2010年では、この年も少年マンガ作品が多く、「Red Raven」(藤本新太)、「スカイブルー」(小林大樹)、「HELL HELL」(東ジュン)などがあります。 このうち、「スカイブルー」については、ガンガン編集部によってひどく推されているようで、この時期の最も期待される少年マンガ作品となっているようです。また、この時期のガンガンの少年マンガ、明確に女性読者を意識していると思えるのですがどうでしょうか。いずれもかわいい、かっこいい男子が中心で、ちょうどジャンプで女性に人気の出た少年マンガ作品に近いテイストを感じます。「鋼の錬金術師」が女性マニア読者にも大人気だったことを踏まえて、このような作品をガンガンは志向するようになったようです。
 少年マンガ作品以外では、先ほど書いた「Doubt」の続編である「JUDGE」も相当推されているようです。この辺りが、今のガンガンの期待作品と見てよさそうです。

 ただ、これらの2007年以降の作品は、いまひとつ突出した人気を得た作品に乏しく、ガンガン自体も平坦であまり大きな話題のない状態が続いています。唯一の大きな話題としては、2009年の「鋼の錬金術師」の再アニメ化と、2010年の「鋼の錬金術師」の最終回でしょうか。2003年のアニメは空前の大ヒットだったのですが、一方でアニメオリジナルの構成過多で、原作ファンからは不満も聞かれていました。それを、原作に忠実な展開で再アニメ化するという企画が決まったようです。最大の人気作品の再アニメ化ということで、ガンガンは再び大規模な特集を毎回組むことになりますが、しかし今回はもう売り上げが爆発的に伸びることはなかったようで、アニメ放映中も部数はほとんど変化しなかったようです。
 むしろ、一時的に大きく変化したのは、最終回の時です。10年に及ぶ長期連載の名作がついに終了するということで、この時だけはガンガンを購読する読者が殺到し、瞬く間に店頭からガンガンが消えて増刷する事態となり、さらには2カ月後のガンガンで最終回が再掲載されるという異例の事態となりました。

 ちなみに、ガンガンの部数ですが、2004年に「鋼の錬金術師」のアニメ化で平均35万部まで上昇したものの、その次の2005年は28万部、2006年には20万部と漸減を続け、2007年以降は10万部台半ば程度の部数となっているようです。これは、ガンガンの20年の歴史の中でも、お家騒動直後と並んで最も低いレベルの部数となっています。これには、昨今の「雑誌離れ」の影響も大いにあるかもしれませんが、ガンガン自体もあまりヒット作が出ていないことが、やはり一番の理由でしょう。

 むしろ、この時期のスクエニは、ガンガンよりも他の姉妹誌の方がずっと動きが激しく、活発なところを見せています。元はガンガンの新人読み切り掲載誌として始まったガンガンパワードは、2006年に大幅リニューアルし、幾多の意欲作を出す半ば独立した雑誌となりました。2008年には、スクエニ初のウェブ雑誌であるガンガンONLINEがスタート。オンラインの雑誌としては非常に大きな成功を収め、今では膨大な更新量で多数の連載を抱える、スクエニでも最も活気に満ちた場所となっています。
 唯一不振だったガンガンWINGは、2009年に休刊し、ガンガンパワードと合体するような形で、新雑誌ガンガンJOKERが創刊されます。WINGやパワードの実力派作家を集めて作られたため、最初から連載作品のレベルが高く、スクエニの中ではよりコア向け、マニア向けの雑誌として高いクオリティを保っています。今のスクエニでは、好調を続けるヤングガンガンと並んで、最も質の高い雑誌となっていると言えるでしょう。
 なお、この時の雑誌の再編で、パワードからスクエニ他誌へと多くの連載が分散して移籍しましたが、ガンガンには「獣神演武」(黄金周・荒川弘)「仕立屋工房」(日丘円)「勤しめ!仁岡先生」(尾高純一)の3作品が移籍してきています。全体的に少年マンガテイストの作品をガンガンへと移籍した形となっています。このうち、「獣神演武」は、荒川弘を作画・キャラクターデザインに置いたことを全面に出したメディアミックス作品で、アニメ化は最初から決まっていた作品でしたが、その内容は平凡で評価は芳しくありませんでした。

 このように、スクエニ全体を通してみれば、決して悪い結果は残していません。むしろ、非常に好調と言ってもよく、この時期(2009年)のコミックスの売り上げでは、スクエニは全出版社の中で4位を記録しています。上位三社は集英社・講談社・小学館でしょうから、この三大出版社に次ぐ売り上げを達成しているわけです。「チャンピオン」の秋田書店や「花とゆめ」の白泉社よりも、スクエニの方が売り上げで勝っているのです。これは驚くべき成果であり、単純に収益の面では完全に成功していると見てよいでしょう。
 ここまで成功した最大の理由は、作品の積極的なアニメ化による成功にあります。アニメ化を積極的に進めてコミックスの売り上げを伸ばすというビジネススタイルが軌道に乗っている。そして、そのアニメ化で最大の成果を出しているのが、ヤングガンガンなのです。ここからアニメ化された作品は多岐にのぼります。「黒執事」という圧倒的なヒット作を出したGファンタジーも悪くありません。JOKER、ONLINEからもアニメ化が見込める期待作は多く見られます。

 そんな中で、最もぱっとしないのが、実はスクエニの中心雑誌であるガンガンではないかと思います。これまで、2007年以降の主要な作品をいくつも挙げてきましたが、この中で雑誌外の読者までよく知られた人気作品が、果たしてどれくらいあるでしょうか。せいぜい「とある魔術の禁書目録」程度で、あとはかろうじて城平京作品「絶園のテンペスト」が引っ掛かるくらいでしょうか。これらよりもむしろ、以前からの長期連載「鋼の錬金術師」や「ソウルイーター」の方が相変わらずはるかに知名度は高い(「鋼の錬金術師」は終わってしまいましたが)。ガンガンが今最も期待している「スカイブルー」も、果たしてアニメ化まで達成するほどの作品になるかと言われると、かなり厳しいような気がします。
 結局のところ、今のガンガンは、一部の人気作品以外は成功作は多くなく、雑誌自体も決して成功しているとは言えない状態になっています。雑誌の売り上げ部数がおしなべて低いことも、読者の反応がよくないことを表しています。そして、これはお家騒動以後一貫して続いてきた傾向なのです。今では、むしろスクエニの他の姉妹誌の方が、ずっと大きな成果を出しています。結局、お家騒動前後から続いてきた誌面作りは、いまだに成功していないまま、「鋼の錬金術師」を始めとする一部の人気作品の力と、スクエニの中心雑誌という雑誌自体の知名度だけで、ここまで来てしまったのではないでしょうか。


 (少年ガンガン20年史・終わり)


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