<はじめての甲子園>

2006・12・1

 「はじめての甲子園」は、少年ガンガン2006年4月号より開始した「ギャグマンガ」の新連載です。作者は、先のマンガ賞で準大賞を受賞し、ガンガンの読者投稿コーナー「2Pギャグ」の出身者でもある火村正紀。元々は2006年1月号に掲載された読み切りで、このマンガが「読者の大反響」を読んだことで、連載が決まったようです。

 もっとも、ここ最近のガンガンは、「読み切り掲載→しばらくして即連載化」という流れの新連載がかなり頻繁に目立ち、しかもそれが最初から編集部の手で決まっていたような ものばかりなので、この「はじめての甲子園」の連載化についても、「実は最初から決まっていたんじゃないか?」と考えられる節はかなりあります。しかし、連載が始まって以降の、作品の出来については中々のものがあり、しかも連載を重ねるうちにコンスタントに調子を上げていき、今では新鋭のギャグマンガとしてガンガンの中に定着しつつあります。読者の人気もあるようで、少なくとも連載化以降の読者の反響は本当のようです。

 近年のガンガンは、かつてと違いギャグマンガの良作が全くといっていいほど出ておらず、私的に雑誌の企画能力や新人発掘能力を疑いつつある状態だったのですが、そんな中で、この「はじめての甲子園」は、久々に登場したギャグマンガの期待作かもしれません。新人らしくまだまだあらは目立ち、決して全体のレベルは高くないと思いますが、ギャグマンガとして一定のスタイルを確立している点が評価できます。


・キャラクターたちのバカな行動が面白い。
 このマンガは、「はじめての甲子園」というタイトルからも分かるとおり、高校の野球部を舞台にしたマンガなのですが、「部員一名(というか全校生徒一名)のド田舎の高校の野球部」という設定で、ほとんどまともな野球は出来ておらず、野球マンガとしては完全に規格外でしょう。むしろ、「甲子園にとても行けそうにない野球部」ということをネタにしたギャグマンガです。

 ギャグの中身は、とにかくバカなキャラクターたちが揃ってバカな言動をしまくるというもの。当初のキャラクターは、主人公の野球部員(二屋くん)と、野球を全く知らない上にオタク趣味全開の問題顧問・アミ彦、そしてボケの大御所である校長の3人だけだったのですが、さすがに3人では話が続かず、第2話ですぐに野球部に転校生が2名加わります。男勝りで野球バカの女性豪腕投手・一色緑(緑ちゃん)と、喧嘩好きの野球は全く知らない不良・五丈原竜(竜くん)のふたりです。連載が進むと、さらに転校生として新キャラクターが加わっていきます。
 そして、彼らキャラクターのひとりひとりが、揃ってバカな行動をしまくってわいわい賑やかに場が盛り上がる、というのが基本的な作品のスタイルです。基本的に明るいノリが中心で、キャラクターがいじられたりいじめられたりするネタが少ない点が評価できます。


・実は「ギャグマンガ」というより「バカマンガ」なのか?
 というか、このマンガは、捻ったギャグのネタで笑わせるシーンよりも、むしろキャラクターのバカな行動を見て笑うシーンが多いように思えます。「ギャグマンガ」というよりは「バカマンガ」といったほうがよいかもしれません。
 とにかく、キャラクターが揃ってバカな行動を取るため、いわゆる「ツッコミ役」が固定されていない点が特徴です。主要キャラクターのうち、主人公の二屋くんやヤンキーの五丈原竜などは、比較的まじめな方のキャラクターなのですが、彼らですら時にかなりバカな行動をして突っ込まれることもしばしばあります。まして、オタクネタ全開の顧問教諭であるアミ彦などは、その行動がいちいちオタク全開のバカなものばかりで、彼ひとりでギャグマンガ(バカマンガ)として成立するほどです(彼が主人公の外伝読み切りもあります)。

 このように、キャラクターのバカな行動を楽しめるという点では非常に面白いのですが、反面、捻りの効いた凝ったギャグネタには弱い点は否めず、そういった本格的なギャグを求める人には物足りないものがあるかもしれません。今のところ、ギャグよりもむしろキャラクターの方で人気が出ているようで、実はキャラクター中心で楽しむマンガであるとも言えます。


・意外にまじめに野球をやる面もあり。
 しかし、これだけのバカな行動をたくさんとりながら、しばらく連載が進んでいくと、かなりまじめに野球をやるシーンが出てきます。そして、基本はギャグマンガとはいえ、要所要所で甲子園を目指して野球に取り組んでいくというストーリーが見られるようになりました。
 これは、かなり意外な展開であると同時に、かなりの好印象で受け止められました。わたし自身も、連載の最初のうちはバカなギャグの繰り返しで正直このままで続くのか不安だったのですが、意外にまじめなストーリーが進むようになったことで、かなり読めるようになったと見直しました。実際、ギャグマンガでありながらまじめなストーリーも楽しめるというのは、かなりの高ポイントであり、この点を評価する読者は多いようです。

 もっとも、肝心の野球を描写する絵はいまいちな感は否めず、設定的にもまだまだ野球をやる人数にも足りない部員数で、まともな野球の試合にもなっておらず、本格的な野球マンガとして読むにはまだまだ足りません。今後、少しでもそのあたりで改善が見られるようであれば、このマンガは化ける可能性があります。


・反面、バカバカしいオタクネタ、内輪ネタも多い。
 しかし、そのようなまじめな面もある一方で、あまりにもバカまるだしのオタクネタも大量に含まれています。
 それも、ほとんどがあのオタク全開の問題顧問であるアミ彦が中心となるネタで、彼がその非常に困ったオタク趣味を撒き散らすネタが当初から目立ちます。ここまでオタクネタ全開のマンガは、ガンガンでは珍しく、むしろ場違いな印象すらあります。特に萌えやギャルゲーを扱ったネタがやたら多く、その手の悪ノリに満ちたオタクネタマンガが好きな人には惹かれるものがあるかもしれません。
 しかも、それだけではなく、ガンガンのほかの連載マンガをネタにした、いわゆる内輪ネタまで散見され、このあたりでさらに作者の悪ノリが顕著に感じられるものになっています。しかも、こちらでもオタク系のネタ中心で、ガンガンでも萌え系の連載マンガを露骨にネタにしたギャグが目立ちます。

 最近では、このようなオタク系のネタや、同じ雑誌の連載作品のネタを盛んに取り入れたマンガが、メジャーな少年誌でも色々と見られるようですが(あえてタイトルは言いませんが・・・)、そのようなノリのマンガがガンガンでも始まったと見るべきかもしれません。これも時代の流れなのか、それとも作者や編集者が、積極的にそういったマンガを参考にしているのでしょうか?


・というか、アミ彦の存在を許せるかどうかが最大の鍵。
 そして、このオタクネタ、内輪ネタの中心となるのが、前述のオタク顧問であるアミ彦ですが、実はこいつこそが、このマンガで最大の存在感を放つキャラクターであり、このアミ彦のオタクネタ全開の異様な言動を許せるかどうかが、読者がこのマンガを楽しめるかどうかの最大の鍵とも言えます。
 このアミ彦、単にオタクネタを撒き散らすだけでなく、野球部の顧問なのに野球について全く知らず、しかも真剣に勉強しているとも思えないようなふざけた一面を持ち、その点でも読者の不快感を誘う可能性があります。このアミ彦のいいかげんなキャラクター性を、笑って許して、むしろ面白いと思って読むか、あるいは「ふざけんなこのキモオタ絶対に許さん」「なに考えてんだこの教師は」と思って拒絶するか、それこそがこのマンガを受け入れられるかどうかの分かれ目であると言えます。

 実際にこのアミ彦のマンガ内での活躍(?)はめざましいものがあり、バカな行動を取るキャラクターたちの中でも常に中心となっており、ついには彼が主役の外伝読み切りまで描かれる有り様です。彼こそが「はじめての甲子園」のイメージを代表する、真の主役と言っても過言ではありません。このアミ彦の存在を楽しむことが出来るかどうかが、まさに読者にとっての分かれ目なのです。


・実は腐女子に受けているという状態。
 以上のように、このマンガは、そもそもキャラクターに依存したギャグマンガである上に、異様なオタクネタ・内輪ネタも多く、かなりマニアックなところがあります。それも、このマンガの場合、一部のマニア系女性読者、いわゆる腐女子とか、同人女とか言われる方々に受けている可能性があるのです。

 実は、最初の読み切りの時の読者の大反響からして、その手の女性読者の反響だった可能性が高く、連載化以後についても、同人系とも言えるマニア女性読者中心に受けているように思えるのです。ネット上でこのマンガを検索してみても、なぜか腐女子と言える同人系女性読者のブログにばかり引っかかりますし、実は「鋼の錬金術師」目当てでガンガンを読み始めた同人系女性読者が、「鋼」を読むかたわらでこのマンガに目を付けて読み始めた傾向が顕著に窺えます。
 なぜこのマンガがそういった読者に受けるのか。それは、従来のギャグマンガに比べると、絵柄がかわいく女性受けしやすいもので、その上、ギャグネタで男同士の絡み(?)も多く、ほぼ唯一の女性キャラクターである一色緑(緑ちゃん)でさえ、男勝りの性格で女性受けしやすいキャラクターであると、どうも全体的に腐女子受けしやすい要素を持ち合わせているようなのです。そのためか、実は当初からそういった読者に引っ張られて連載が続いてきた感は否定できません。

 実は、最近のガンガンは、微妙にこのような女性読者に受けやすい連載がちょくちょく見られるような気がするのですが、この「はじめての甲子園」はその最たるものでしょう。これは、かつてのガンガン系の、中性的な作風で女性読者を引きつけた作品とは全く異なります。このマンガの絵柄は、確かにかわいい感じのする絵ではあるものの、エニックス独特の中性的な絵柄とは異なるもので、そういったマンガを好む読者には、このマンガは全く受けていません。あくまで腐女子的な同人系女性読者のみの人気であり、これは少々心配なところです。


・評価していいのかどうか、正直なところ判断に困る作品。
 そして、このようなマンガの特性を考慮すると、正直このマンガを評価するべきか判断に迷うところがあります。
 確かに、キャラクターのバカな行動で賑やかに盛り上げる作風は中々に楽しいものがあり、同時に野球にまじめに取り組んでいくストーリーが見られるのも評価できます。絵的にも、昨今のガンガンの稚拙なギャグ読み切りとは異なる良質の絵柄で、さほど技術的なうまさこそ見られないものの、作者のくだけたセンスと個性はよく感じられるもので、ギャグマンガの絵としては十分に及第点でしょう。
 一方で、キャラクターの行動に依存したネタばかりでギャグネタに強い個性がなく、その上で異様なノリのオタクネタ・内輪ネタも多数見られ、そんなオタク的なキャラクター(アミ彦)がマンガの中心的な人気キャラクターになるなど、人を選ぶところが強いように感じられます。その上で、実は同人系女性に受けやすい作風で、そういった読者にかなり受けている一方で、さほどそれ以外の読者には注目されておらず、特に雑誌外の読者の知名度が低い状態が続いています。単行本も一巻が出ましたが、今のところこれも注目を集めていないように感じられます。ガンガン新連載の初動としては微妙なところでしょう。

 ただ、ガンガンの編集部は、このマンガを当初からかなり強く推進しており、最近では積極的に外伝を姉妹誌で掲載するなど、かなりの期待作として扱っていく考えのようです。外伝の内容も決して悪いものではなく、作者はコンスタントに執筆を続けているように感じますが、果たして読者がこれを受け入れて、今後人気が出るかどうか。今のところは、まだ未知数の連載であるように思えます。


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