<HEROMAN>

2009・10・24

 「HEROMAN」は、少年ガンガンで2009年9月号から開始された連載で、同誌がこのところ長い間力を入れている、スタンダードな少年マンガ作品となっています。しかも、開始当初からアニメ化企画も進行しているようで、今のスクエニでは極めて顕著な、アニメ化前提、徹底したメディアミックス展開を指向したマンガ作品となっています。現

 さらには、原作をアメコミのマンガ原作者として著名なスタン・リーが手がけているようで、そのことが最大の売りとして、連載開始当初から全面に打ち出されています。さらには、アニメ化企画を手がける制作に、スクエニ関連では「鋼の錬金術師」や「ソウルイーター」のアニメ化を手がけたボンズの名が挙がっており、こちらの方も大きく扱われています。「スタン・リー」+「ボンズ」という、実力のある大物スタッフの力が全面的に推し出された、典型的なメディアミックス作品と言えるでしょう。
 一方で、作画担当には太田多門の名が挙がっていますが、こちらはほとんど聞いたことのない名前で、スクエニの新人作家のひとりであると思われます。そこそこの作画レベルには達しているものの、今のところさほど目立つところは感じられず、まずまず新人としては標準レベルの作画かなという気がします。

 内容的には、スタン・リーが原作を手がけているからか、少年マンガというよりは典型的なアメコミのヒーローものとなっていて、それも主人公が所有するおもちゃのロボットが巨大化して悪のロボットと戦う、ロボットバトルものの要素が非常に強い作品ともなっています。物語の舞台もアメリカでキャラクターもすべてアメリカ人と、これまでのガンガンの少年マンガと比較してもあまり例がなく、ガンガンの連載としては違和感を覚える作品とも言えます。

 その上で、今のところあまりにもありきたりで平凡な設定とストーリー、あまり高くない作画レベルと、決していい作品にはなっていないようです。むしろ、これまでのガンガンの同系マンガの中でも、ひどく劣った作品になっているように思います。原作自体がそもそもひどく平凡な上に、アメコミ調の設定でガンガン読者には馴染みが薄く関心が持ちづらい上に、何よりも新人作家による作画レベルがあまりにいまいちで、「スタン・リー」「ボンズ」という大きなスタッフとの企画の一員としては、実力的にはまだまだ足りないのではないかと思ってしまいました。


・スタン・リーにボンズとは・・・。
 それにしても、このところのスクエニのアニメ化戦略は、あまりにも顕著なところがありますが、しかもこれは連載マンガが人気を得てアニメ化する、という従来型のアニメではなく、 最初からアニメ化・メディアミックス戦略を打ち出した作品として、さらに露骨なものがあります。今のスクエニには、アニメ化企画が大きく分けて3つの種類があり、

  1. 通常の連載マンガが人気を得てアニメ化するもの。
  2. 他社のアニメ化作品に連動して、自分の雑誌でコミック化を進めるもの。
  3. 最初からメディアミックス前提で、コミック化とアニメ化の企画を同時並行的に進めるもの(「HEROMAN」はこれに該当)。
とこのようになっています。ただ、通常の連載マンガのアニメ化においても、最初からアニメ化することを視野に入れて連載させることが非常に多いらしく、今のスクエニの基本戦略ともなっています。
 さらに、この「HEROMAN」のように、最初からメディアミックス前提の企画も過去に見られ、現在同じガンガン誌上で連載中の「獣神演武」が非常に近いものがあります。しかし、この「獣神演武」、コミックもアニメも出来は芳しくなく、完全な不成功に終わりました。この「HEROMAN」は、その後を受けて始まった同種の企画ですが、こちらの方は成功できるのかと言うと、後述するようにかなり難しいのではないかと考えています。

 さらには、今回は、原作者にスタン・リー、アニメ制作にボンズという、アメコミでは大物の原作者と定評のあるアニメスタッフの名前が挙がっています。「獣神演武」では、コミックの作画担当だった荒川弘の名前が大きくクローズアップされ、「鋼の錬金術師」の作者の名前で作品を売ろうという意図が明白でしたが、今回は逆に原作者とアニメ制作スタッフの方を押し出してくる形です。スタン・リーは「X-MEN」や「スパイダーマン」などの非常に有名な作品の原作者、そしてボンズは何といっても「鋼の錬金術師」を手がけた制作会社ということで、読者への売りとするには十分な名前だということでしょう。

 しかし、このスタン・リーなのですが、この方が原作を手がけるマンガ作品が、既に他の有名雑誌で連載されています。それは、あの集英社のジャンプスクエアの連載で、「機巧童子ULTIMO」という作品であり、こちらはジャンプのかつての人気連載「シャーマンキング」で有名な武井宏之が作画を担当しています。今のところ、スタン・リー原作のマンガ作品としては、こちらの方がはるかに知られており、一方でこのガンガンの連載の方は、ジャンプスクエアの連載よりも後発で始まった上に、ガンガン自体がジャンプに比べればマイナーで部数も低いからか、あるいはスクエニの宣伝活動が足りていないのか、あまり話題になっていないように思われます。ボンズによるアニメが始まればまた状況が変わってくるのかもしれませんが、コミック開始時点での話題性では芳しくありません。


・あまりにも平凡で見所に乏しい。アメコミ調の設定もガンガン読者に受け入れられるか疑問。
 そして、話題性だけでなく、肝心のマンガの内容も、決して面白いとは言えないものとなっているようです。いや、今までのガンガンの同系の少年マンガと比較しても、非常に厳しい出来になっていると感じます。

 まず、まったくもってひねりがない勧善懲悪的ヒーローもので、あまりにもありきたりすぎてまったく新鮮さが感じられません。この手のアメコミヒーローもの、あるいはガンガンが求める少年マンガが、王道的な展開を求めることはよく分かります。しかし、いくら王道とは言っても、ここまでひねりがなく平凡な設定、展開を見せられても、引かれる読者は少ないのではないか。低年齢向けの作品だと考えてもいまひとつであり、これではいくら小さな子供でも楽しめないでしょう。まして、ガンガンはそこまで低年齢読者の比率もも多くないようで、むしろ低年齢から高年齢まで幅広く楽しめる作品の方が人気を集めています。「鋼の錬金術師」や「ソウルイーター」がまさにその好例ですし、一方で低年齢読者ですら楽しめそうにない「HEROMAN」には、魅力が感じられません。

 しかも、この作品の場合、アメコミ調の設定で、主人公の持つおもちゃのロボットが巨大化して宇宙からの侵略者と戦うというストーリーで、いわゆるロボットものの要素も持っているのですが、こちらでも似たような既存の作品の存在が顕著であり、新鮮味に乏しい。一見して、最近の実写映画で人気を得た「トランスフォーマー」を思い出してしまうようなところがあり、これではさすがに印象が芳しくありません。
 また、アメコミ調だけに舞台はおそらくアメリカ(あるいはアメリカをモチーフにした世界)で、主人公や周りを固める友人たちもすべてアメリカ人だと思われる点も、あまり魅力的には映らないと思えます。今までのガンガンの少年マンガとは明らかに異なる雰囲気であり、このように現代のアメリカそのままの世界を舞台にされても、多くのガンガンの読者には関心が抱けないのではないか。そう強く感じてしまうのです。


・作画も含めてレベルは高くない。今までのガンガン系少年マンガと比較してもさらに劣る。
 さらには、新人作家だと思われる太田多門による作画レベルも、決して高いものではありません。それでも、肝心のヒーローであるロボットと悪の侵略者とのバトルシーン、そこは中々のキャラクター造型と迫力のエフェクトで、そこそこのレベルには達していると思いますが、全体的な作画は極めて平凡で、まだまだ雑に感じられることも多く、ここ最近のガンガンの少年マンガに特有の、「雑な筆致と見栄えのしないありきたりで平凡な作画」の域を出ていません。いや、このマンガのほうが、他の同じようなマンガの中でも、さらに劣っていると感じてしまいます。カラーページの出来も決していいとは言えず、新連載の最初の回、冒頭のカラーページを見ても、決して高くはない作画レベルを見せられ、いきなりがっかりしてしまいました。

 このように、このマンガ、全体的にまったく出来は芳しくなく、今までの同系のガンガンの少年マンガと比較しても、さらに劣るのではないかと思われる作品になっています。これまでのお家騒動以後のガンガン少年マンガも、一部の成功作を除いては、全体的な出来は決して芳しくなく、失敗した作品の方がずっと多かったのですが、それらと比較してもさらに劣るような状態です。これならば、「666(サタン)」や「女王騎士物語」の方がはるかに出来はよかった。今のガンガンならば、同じ新連載でも「Run day Burst」の方がずっと面白いでしょう。

 しかも、このマンガの場合、最初からメディアミックス前提でアニメ化が決まっているような作品です。そのような作品が、このように他のどのマンガよりも劣るような出来では、本当に先が思いやられます。今のガンガン(スクエニ)は、このようなアニメ化戦略を中心に据えているようですが、肝心のコミック版がこのような状態とは、一体どういうことなのか。


・この企画が成功するとは思えない。先のアニメ化が本当に不安。
 以上のように、この「HEROMAN」、スタン・リーやボンズという大物の名前が出ている大々的なメディアミックス前提の作品であるにもかかわらず、その出来はまるで正反対の状態であり、ガンガンの最近の新連載の中でも、最も劣る作品に入るのではないかと思われます。いや、ここ最近のガンガンは、以前にも増してあまり有望な連載が出てこない状態なのですが、このマンガはさらによくない。

 そして、コミック版がこの状態ならば、この先登場するであろうアニメ版の完成度まで大きな不安に駆られます。もし、これとさほど変わらない状態でアニメ化されたのなら、アニメの方も到底期待できないでしょう。それとも、実力派スタッフのボンズならば、この原作でもいい作品に仕上げることが出来るのでしょうか。個人的な推測ですが、いくらボンズでも、この原作をコミック版よりもずっとよく仕上げるのは、相当に厳しいのではないかと思います。このままならば、おそらくは不成功に終わった「獣神演武」の二の舞になることは避けられず、あるいは「獣神演武」以下の結果に終わることも十分考えられます。

 加えて、スタン・リー原作のコミックとして、ジャンプスクエアの武井宏之作画による連載「機巧童子ULTIMO」が控えているのも、大きな壁になるのではないかと思います。こちらも同じような王道バトル作品ではあるのですが、今のところこちらの方がずっと話題性は高く、作画も武井宏之だけあってはるかにレベルは高い。一方で、この「HEROMAN」は、まだ実力の足りない新人による拙い作画レベルで、ジャンプ系に比べればマイナーな雑誌の掲載で話題性にも乏しく、このまま同じようなメディアミックス展開をやられたら、到底勝ち目はないような気がします。唯一制作スタッフが「ボンズ」と言うのは強みですが、それだけで多くの視聴者を惹き付けられるとも思えません。

 このところのスクエニは、アニメ化企画最優先で売れ線のジャンル重視の路線が、以前よりもずっと露骨になっており、プロデューサーの発言によれば「萌え」「腐女子」「ギャグ」「少年マンガ」という4つの売れ線ジャンルの作品を集中的に手がける戦略を採っているようです。このマンガも、そんな売れ線のジャンルのひとつ「少年マンガ」に属する作品なのですが、それがこのような出来では到底話になりません。このような売れ線ジャンルに属する今のスクエニ作品が、すべて悪いわけではなく、むしろ良作も数多く生まれています。しかし、このような、ガンガンが主に手がける「少年マンガ」ジャンルの作品だけは、その多くが決して出来がいいとは言えない状態が続いており、これもまたその最たるマンガになってしまったような気がするのです。


「少年ガンガンの作品」にもどります
トップにもどります