<ひょっとこスクール>

2008・8・1

 「ひょっとこスクール」は、少年ガンガンで2008年2月号より開始された連載で、ショートコミックのギャグマンガとなっています。ガンガンが2008年に入って始めた新連載攻勢の一角であり、その第一弾として始まりました。

 作者は、武凪知(たけなぎとも)。元々は、ガンガンの読者投稿4コマコーナーである「GGグランプリ」に何度も掲載された「柊一家奮闘記」という作品が元になっており、それを連載用にリメイクしたものとなっています。
 さらに、この武凪知という作者は、かつては天空宇宙流(てんくうそらる)というペンネームで、ドラクエ4コマでも活躍しており、今回もその当時の作風を彷彿とさせるものとなっています。かつてのドラクエ4コマで活躍した作家ということで、ドラクエ4コマの古くからのファンには、親しみを持って見る人も多いようです。

 この作品が元々掲載されていた「GGグランプリ」は、決してレベルが高いとは言えない投稿コーナーで、正直なところ一発ネタ的なつまらないギャグや、粗雑な作画の作品がかなりを占めているのですが、そんな中でこの「柊一家奮闘記」は、やや毒が強い作風ながらもキレのあるギャグや、比較的安定した作画レベルで中々に読める作品になっており、何度も掲載されるのも納得できる作品になっていました。のちにリメイクされて連載が決まった時も、この作品なら妥当かな、と思えるところもありましたし、連載決定自体は悪いことではなかったと思います。

 しかし、実際に始まった連載「ひょっとこスクール」は、今ひとつ物足りない作品に終始しているようで、これからのガンガンを支える新しいギャグマンガとしては、少々力不足のように感じられます。肝心のギャグの出来がやや弱く、キャラクターの女装などのネタにやや頼り気味に思えるのが難点で、GGグランプリ時代から引き続き見られある毒のある作風も、場所によっては少々不快感が強いところもあり、やや抵抗が残る作品になっています。作画的にも今ひとつ人を惹きつける力が弱く、見た目的にも印象が薄い作品に留まっているのも難点かもしれません。


・ギャグのネタがいまいち弱いのが問題。
 まず、とにかく肝心のギャグのネタが微妙で、思いっきり笑えるシーンが少ないのが難点でしょうか。
 その理由を考えるに、とにかくキャラクターをネタにしたギャグが多いからではないかと考えました。つまり、変なキャラクターや情けないキャラクターを出して、そのキャラを「いじる」ことが、大半のギャグの中心になっているのです。その一方で、ギャグの「ネタ」そのもの、面白い掛け合いや言葉遊びなどを駆使して人を笑わせる、真の意味のギャグネタが少ない。これは、最近のガンガン、あるいはガンガンのみならず他の雑誌のギャグ全般に見られる傾向だと思えますが、どうもこのようなギャグのあり方には、少々疑問を呈してしまいます。ガンガンでは、「はじめての甲子園」や「閉ざされたネルガル」などのギャグマンガも、これに近い印象があります。

 中でもこの「ひょっとこスクール」は、GGグランプリ時代の「柊一家奮闘記」から大幅にキャラクターの数が増えており、主人公の男子高校生以外にも、他のキャラクターをメインにした話も頻繁に見られるようになりました。毎回2話ずつ掲載され、それぞれが男性キャラ、女性キャラ中心のストーリーになっているのも、キャラクターの増加を直接的に感じさせる構成となっています。
 そして、それだけ増えたキャラクターを、ひとりひとりいじってギャグにする話が非常に多く、毎回「キャラ中心」のギャグに留まっている印象があるのです。これでは、一個のギャグマンガとしてはいかにも弱い。キャラクターで見せる萌え4コマならば、まだそれでもいいのかもしれませんが、このマンガの場合、より本格的なギャグマンガとしてスタートしたわけで、今のギャグネタのあり方では少々微妙なところです。

 とはいえ、中には面白い回も見られます。連載第10話の「自習ガール」という話は、女の子3人が自習中にさぼって遊ぶ話で、人が言った単語を「漢字」か「絵」に直して書くというゲームをやる話でした。このゲームの内容がやたら面白く、ひたすら難しい漢字の単語を出され(「ばら」「れもん」「ろうそく」など)、漢字を書けずに絵に挑戦するものの、絵も苦手で四苦八苦して微妙な絵を描きまくるキャラクターたちの様子が、やたら面白いギャグになっていました。このゲームのアイデア自体が秀逸だと思われ、自分たちでも1回やってみたい、あるいはテレビの番組でやってほしいくらいだと思いました。こういう面白いギャグの話がたくさん見られればいいのですが・・・。


・いじりネタが多すぎて不快に感じられる。
 もうひとつ問題なのは、とにかくそのキャラクターのいじりネタが多く、かつ悪意が感じられるものもかなり見られることです。そのため、少々不快に感じてしまうことが多く、作品を楽しむ上で抵抗を覚えてしまいます。

 最初の話での、主人公の父親がいじられるネタなどは、その代表とも言えるもので、落ち込みぐせのある情けない父親に対して、家族が容赦ない対応を示し、なにげに父親にひどい仕打ちを行います。このようなギャグネタは、読み切り版から何度も見られた、このマンガならではの「毒」と言えるものではあるのですが、この連載化に際して、その毒が許容範囲を超えるほどに強まった感があり、不快感が増してしまったように思えます。

 そして、さらに抵抗を覚えてしまったネタとして、女の子の主要キャラのひとり、五十嵐ゆいの設定があります。このキャラクターは、美人ながら実は腹黒な性格からか、「男の子には徹底的にもてるが、女の子には徹底的に嫌われる」という設定になっており、実際に男子生徒にはファンクラブが作られるほどもてまくり、逆に女子生徒には徹底的に嫌われ嫌がらせも受けるという描写が頻繁に見られます。わたしとしては、こういうキャラクターの設定自体にかなりの抵抗を覚えるのです。

 「女の子に嫌われる女の子」というのは、女性読者にとってはかなり抵抗が強いでしょうし、男性読者としても、同性の女子に嫌がらせを受けるようなネタには、やはり抵抗を覚える人が多いのではないでしょうか。今のガンガンがどうかは難しいですが、本来的にスクエニ(エニックス)のマンガは女性読者でも読める、中性的な作風こそが持ち味だったはずで、そういった作風からは正反対の設定を持ち出すというのは、どうにもありえないような気がします。わたしとしても、この設定だけはどうにも受け入れ難いところがあり、この作品を楽しむ上で大きな影を落としてしまいました。


・絵に引きつけられる力が感じられないのも不満。
 そしてもうひとつ、絵に関しても、いまひとつ魅力に思えないのも難点です。
 決して悪い絵ではなく、ある程度親しみやすい絵柄ではあるのですが、それ以上の印象に乏しいのです。スクエニに特有の、いわゆる中性的な絵柄だと見ることも出来ますし、かつてドラクエ4コマで活躍していたことからも、確かにその傾向はある程度見られますが、しかし、他のスクエニのマンガのような魅力には乏しいように思えます。

 まず、とにかく線に張りがなく、全体的に「ふにゃっ」とした印象の作画で(笑)、これといったインパクトに乏しく、第一印象があまりよくありません。これでは、絵をぱっと見た時に惹きつけられるものがない。中性的な作画だとしても、いい絵ならばもっとはっきりした描線が見られるのですが、このマンガの場合、まずそれが不安定で、あやふやな印象を読者に与えます。

 キャラクターの造形も今一歩といったところで、こちらでもあやふやな印象を与えます。女性キャラなどは、それなりにかわいく描けているところもありますが、それ以上に今ひとつおおざっぱな作画レベルで、細やかな魅力に乏しいように見えます。ギャグマンガなので、これ以上の細かい作画レベルは必要ないと言えるのかもしれませんが、それならば作画の個性においてなにか人をひきつける魅力がほしい。金田一蓮十郎や氷川へきる、くぼたまことなどのギャグマンガ家は、決して細かい絵ではありませんが、それでもその作者ならではの絵の魅力があります。対して武凪知さんの絵柄は、いまだ普通によく見られる作画の域を出ていないようで、それ以上の個性には乏しいように思えます。

 コミックスの表紙を見てもそれは言えており、この表紙を見て手に取ろうとする人はあまりいないのではないか・・・と思える印象の弱さがあります。ドラクエ4コマ時代はそんなに悪い印象ではなかったのですが、オリジナルで単独のギャグマンガ作品の絵としては、まだ物足りなさが残るような気がするのです。


・最近のガンガンの不発新連載のひとつ。
 以上のように、この「ひょっとこスクール」、致命的につまらない作品というわけではありませんが、ギャグネタがキャラクターに偏りすぎでネタそのものに切れがなく、かつキャラクターのいじりが強すぎて不快に感じられるところもあり、絵的にもぱっとしないなど、全体的にいまひとつの作品にとどまっています。ガンガンのお家騒動以後のギャグマンガは、どれもぱっとしないものばかりで成功作はないと思いますが、これもその作品のひとつとなってしまったようです。

 さらに、このマンガは、ガンガンが2008年冒頭に打ち出した新連載攻勢の第一弾です。元々、GGグランプリの読み切り時代からそこそこの出来の作品だと思っていたため、新連載のトップバッターに持ってくるには力不足かなとは感じていたのですが、それはほぼ的中してしまったようで、新連載第一弾として打ち出したギャグマンガとしては、やはり不発だったようです。これと同じ号に打ち出されたもうひとつの新連載「清村くんと杉小路くんろ」が、実力派作家・土塚理弘の定番ギャグマンガの再開で、やはり安定した面白さを維持しているのを見ると、やはり力不足が目立ちます。

 その上で、この後に続いて打ち出された新連載の「トライピース」や「ストレイキーズ」あたりも不発で、唯一これは他社の人気ギャグ作家・ヒロユキを起用した「マンガ家さんとアシスタントさんと」がかなりの面白さを見せている以外は、全体を通してどれも成功したとは言い難く、特に新人作品についてはすべていまいちだったと見てよいでしょう。「マンガ家さんとアシスタントさんと」のヒロユキも、土塚理弘同様に実力派のベテラン作家だと言え、結局のところ最初から実力のある作家のみがいい作品を残しただけで、活きのいい新人による良作が出てこなかったことは、正直がっかりしてしまいました。

 そして、この「ひょっとこスクール」ですが、やはりガンガンのギャグマンガに成功作が出なくなったなとつくづく感じます。そもそも、このマンガの出身先である「GGグランプリ」も、決して面白いとは言えない(というか、明らかにつまらない)と言えるコーナーで、そんな中でかろうじて面白いかな、と思えるレベルの作品を連載化したところで、最初からあまり大きな成果は期待できなかったのかもしれません。できれば、連載化で大化けすることを期待してもいたのですが、実際にはむしろ前より不快感が強くなるなど、逆にいまひとつの感が強くなってしまったようにも思いました。

 今後も、この作品が盛り返して大きな人気を得る可能性は高くないでしょう。コミックス1巻も発売されましたが、残念ながらさして大きな反応はないようです。これもまた、最近のガンガンの不発新連載のひとつとなってしまったようで、今後のガンガン連載陣の層の薄さの一角を成す作品となってしまったように思えるのです。


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