<とある魔術の禁書目録>

2007・8・12

 「とある魔術の禁書目録」は、少年ガンガンで2007年5月号から開始された連載で、同名のライトノベルを原作とする作品となっています。原作は、電撃文庫の中でもかなりの巻数を重ねている人気シリーズであり、コミックス化などのメディアミックス展開もいずれ行われてもおかしくないほどの人気を確保していたため、このコミックス化自体はさほど違和感はありませんでした。しかし、これが、電撃文庫と同じメディアワークスの電撃系雑誌ではなく、スクウェア・エニックスの少年ガンガンでコミックス化されたことは、意外中の意外であり、これには多くの読者からも意外だという声が多数聞かれました。

 そしてもうひとつ、この「とある魔術の禁書目録」と同時に、もうひとつのコミックス化作品「とある科学の超電磁砲(レールガン)」が、こちらは電撃系雑誌の「電撃大王」で連載され、いわゆる同時連載企画となっていたことも、かなり意外でした。同時コミックス化という企画は、さほど珍しくはありませんが、この場合、どちらもメディアワークスの電撃系雑誌でやるというならばともかく、一方がメディアワークスの「電撃大王」、そしてもうひとつがスクウェア・エニックスの「少年ガンガン」と、外部の出版社とその雑誌が企画のひとつに加わっているという点が、あまりにも不可解でした。

 しかも、ふたつのコミックス化作品のうち、この「とある魔術の禁書目録」の方が原作本編のコミックス化であり、一方で「とある科学の超電磁砲(レールガン)」の方は、いわば原作の外伝的な作品であることも、違和感を強くする要因となっています。より重要なはずの本編の方が、外部の出版社であるスクウェア・エニックスの雑誌で連載されているのです。なぜ、外部の一出版社に過ぎないとも言えるスクウェア・エニックスが、原作の出版社であるメディアワークスを差し置くような形で、本編の方のコミックス化を行えることになったのか、それが判然としません。

 作者は、原作はもちろんノベルの作者である鎌池和馬(かまちかずま)、そして作画は、新人である近木野中哉(こぎのちゅうや)が担当しています。ちなみに、もうひとつの連載である「とある科学の超電磁砲(レールガン)」の方の作画は、冬川基(ふゆかわもとい)が担当しており、こちらの作家も新人のようです。


・なぜこの原作をガンガンでコミックス化するのか。
 また、他出版社であることは置いても、この「少年ガンガン」という雑誌において、「とある魔術の禁書目録」のコミックス化を行うという決定自体も不可解でした。どう見ても、ここ最近のガンガンの方針、あるいは誌面のイメージと適合しているとは思えなかったからです。
 ここ最近の少年ガンガンは、お家騒動以来大きく変更された誌面路線を継続しており、かなりの点で「メジャーな少年マンガ雑誌」を指向した雑誌作りをしていることは明らかでした。少年ジャンプを模したかのような、一般向けの少年誌で連載されるような王道バトル系少年マンガや、少年向け、男性向けを強く指向したラブコメ(エロコメ)マンガなど、そういった一般メジャー雑誌を強く意識した作品が、雑誌の中心を占めるようになりました。そんな中で、この「とある魔術の禁書目録」です。これまでの路線とはあまりにも大きな食い違いを感じることは明白でしょう。

 「とある魔術の禁書目録」は、原作は電撃文庫のライトノベルです。ライトノベルは、最近では一般の読者にもかなりの広がりを見せているジャンルではありますが、それでもいまだマニア向けの要素が強く、いわばオタク向けの作品が多数を占めていることも確かでしょう。この「とある魔術の禁書目録」も、かなりその傾向が強い作品で、科学と魔術を元ネタにしたマニアックな設定を徹底的に採り入れた作風を見ても、それは明らかです。そんな原作を、なぜこの「メジャー少年誌指向のガンガン」で連載するのか。当初は、その理由がまったく思いつかず、個人的にはかなり混乱しました。

 あえて慎重に考察してみると、原作の一部に、今のガンガンと適合する作風があるからという理由が考えられます。原作ノベルは、かなり極端な作風で、まるで「王道バトル系少年マンガ+ギャルゲー」(笑)と言えるようなストーリーです。コアでマニアックな設定が多い一方で、ジャンプ系の熱血バトル、熱血主人公を強く意識したかのような王道バリバリの展開も毎回のごとく見られ、それがひとつの売りとなっています。そのあたりが、ガンガンで連載化される最大の理由となったのではないか。

 加えて、「ギャルゲー」とまで言われるような、かわいい萌え系美少女が毎回のごとく多数登場するストーリーも、今のガンガンに必要だと判断したのかもしれません。今のガンガンは、確かに王道系少年マンガは多いのですが、成功作品となると非常に少なく、わずかに「鋼の錬金術師」ばかりが大ヒットしている状態です。その上、むしろ「ながされて藍蘭島」や「スパイラル・アライヴ」「屍姫」のような、マニアックな読者に受ける作品の方が人気がある状態なのです。このような状態では、これ以上一般向け王道マンガばかりをごり押しするだけでは成功は期待できないと考え、「ある程度はマニアックなオタクにも受けそうな作風」を同時に採り入れようと考えたのかもしれません。つまり、雑誌の求める王道少年マンガの路線を満たした上で、同時にマニアックなオタク人気まで期待できる作品ということで、この「とある魔術の禁書目録」に白羽の矢が立った可能性があるのです。


・原作のイメージを踏襲したキャラクターには好感。
 前述の通り、このマンガの作画担当は新人の近木野さんですが、彼は、これ以前にスクエニ系雑誌で(あるいはそれ以外でも)まったく作品が掲載されたことがなく、そのためどんな作家なのかまったく分からず、その実力は未知数でした。そのため、最初のうちはかなり心配してもいたのですが、連載開始前に先駆けて発表されたラフスケッチを見てみると、決して悪いものではなく、うまく原作の作風を再現したバランスの取れた作画が感じられました。そして、実際に始まった連載もほぼその通りの作風を見ることができ、原作つきマンガとしては十分に合格点を与えられるものでした。

 原作は、まずなによりもキャラクターの魅力で持っているような作品でしたが、それはマンガでも共通しており、原作のイメージをかなり忠実に再現したキャラクターの姿には、かなりの好感を持てました。
 まず、主人公である上条 当麻(かみじょうとうま)の描き方が印象的です。原作では、『幻想殺し(イマジンブレイカー)』という独自の能力を持ってはいるものの、それ以上に徹底的な不幸体質のために、毎日ひどい目に遭うごく平凡な少年として描かれていましたが、コミック版では、その不幸ぶりが絵でさらに強調され、しかも不幸を示すエピソードの内容もさらに強化されており、ますますもってそのへっぽこぶりが印象に残る、愛すべき(?)キャラクターとなっています。

 加えて、メインヒロインであるインデックスもよく描けています。純白のだぶだぶの修道服を着る幼いシスターという外見で、その独特の可愛らしい姿がやわらかいタッチで描かれていて、なんともいえないほのぼのさがあります。この絵のせいか、原作よりもゆるくのんびりした雰囲気がよく出ているような気がします。

 そして、なんといっても御坂美琴ですね。原作の数多いヒロインの中でも、最も存在感の強いこの少女は、同時連載の「とある科学の超電磁砲」の主人公でもあるのですが、先行して連載が開始されたこの作品の美琴が極めて良く描かれていたため、こっちの連載の方はどうなのか心配だったのですが、それがやはり良く描かれていて、ほっと一安心しました。この美琴、原作では紛れもなく最大人気を誇るキャラクターで、超ツンデレ系のヒロインとしてやたら萌えるキャラクターだったため、このキャラをいかにうまく描けるかが、このマンガの最大の成否を握っていたと言っても過言ではありません(笑)。その姿、性格がうまく表現されていたのは、何よりも僥倖でありました。


・少年マンガ的熱さに満ちた戦闘シーンも合格。
 加えて、原作でも最大の売りであった、王道少年マンガを踏襲した熱い展開、とりわけバトルシーンの熱い描写も、かなりよく描けており、こちらも十分合格点を与えられるものでした。総じて原作の魅力を忠実に再現した、バランスの良い作品になっていると言えます。

 とりわけ、作中でそんなシーンの先駆けとも言える、最初のバトルの内容(炎の魔術士ステイル=マグヌスとの戦闘シーン)が、実に良いものでした。普段は何ら役に立つ能力も持たない冴えない主人公の上条が、異能の力を打ち消す『幻想殺し(イマジンブレイカー)』の能力をここぞとばかりに使い、本来ならば圧倒的な戦闘能力を持つこの魔術師を圧倒する様は、読んでいてとにかく痛快であり、「主人公に感情移入して熱血する」という、少年マンガならではの快感を味わうことが出来ます。とりわけ、バトルの最後にありったけの力を込めて、魔術師にパンチを食らわすシーンは圧巻であり、この熱血バトルの真骨頂と言えるでしょう。「目の前のクソ野郎を思いっきりぶン殴る」という主人公の言葉にも、大いに熱血できるところです。

 戦闘シーンの作画も中々堂に入っており、魔術士の持つ炎の能力の凄まじさと、それを間一髪で打ち消す主人公の奮闘ぶりがきっちりと描けていました。このマンガ、全体的な作画レベルはやや微妙なのですが(後述)、作中で最も重要なシーンとも言える、王道バトルシーンがきちんと描けているのは、実にありがたいところです。


・作画のレベルにはかなりの不安が残る。
 しかし、キャラクターの姿や戦闘シーンは比較的良く描けているのはよいとしても、全体的な作画レベルでは、かなり不安が残る出来となっており、これが連載における最大の気がかりとなっています。

 特に、背景の描写がまだまだうまく描けていないところが多く、何も描けていない白い箇所もかなり目立ってしまっています。それ以外でもかなり簡素で物足りない背景が多く、画面が寂しい感じは否めません。これが、このマンガの見た目の印象を大きく落としています。きちんと街並みなどの背景が描けている部分もありますが、それがあくまで一部にとどまっているのが現状です。
 加えて、実はキャラクターの作画もさほどレベルが高くありません。基本的にはその者の姿や性格をよく捉えてはいますが、一方で描線が微妙に不安定でふらふらしたところが散見され、なんとも落ち着かない箇所が少なくありません。メインヒロインであるインデックスにもそれが強く見られるのが残念なところです。

 そして、同時連載である「とある科学の超電磁砲」との比較においても、芳しくありません。「とある科学の超電磁砲」の方の連載は、作画が非常に素晴らしく、キャラクターがしっかりと描けていることに加え、学園都市の雰囲気をよく再現した背景作画のレベルの高さも見るべきものがあります。そんな同時連載の内容と比較すると、どうしてもこちらの「とある魔術の禁書目録」の作画レベルの低さが、さらに目立ってしまうのです。
 もちろん、それでも、この「とある魔術の禁書目録」の作画が極端に悪いというわけではなく、新人の初連載作品ということを考えれば、普通に合格レベルを与えられるだけのクオリティは確保しています。しかし、「同時連載のもうひとつの作品」という、明確な比較材料が存在する状態では、どうしてもその作画レベルの相対的な低さが、余計に目に残ってしまうのです。


・とはいえ、最近のガンガンの新連載ではかなり期待できる。
 しかし、若干作画において不安な部分があるとは言え、それでも原作付きコミックとしての出来はかなり良く、ここ最近のガンガンの新連載陣の中でも、最も期待できる作品なのではないかと思います。

 このところのガンガンは、一時期の極端な新連載と連載本数の少なさからは脱却し、かなりのまとまった数の新連載が投入され、連載本数も常時20本を越えるまでになりました。雑誌の厚さも相当なものがあり、1100ページなどという凄まじい厚さの号も何度か見られます。
 しかし、それだけの連載を確保しているにもかかわらず、必ずしも満足できる作品は多くないようにも思えます。さしてぱっとせず平凡なままの作品や、明らかにつまらないと言える作品も多く、本当に優秀な連載と言えるのは、実は一握りに過ぎないのではないでしょうか。新連載陣にもそれは言えており、最初からさほど期待できないような作品が散見され、中には「ブレイド三国志」のような不可解極まりない作品すら存在しています。

 そんな中で、この「とある魔術の禁書目録」のコミック化作品は、卒なく原作のイメージをよく再現し、かつ肝心のキャラクターや戦闘シーンもよく描けていて、かなり期待できるマンガに仕上がっていると感じます。作画レベルはいまだ不安材料ではありますが、これも連載を数話重ねるにつれて少しずつ向上しており、今後さらなる向上も期待できそうです。連載開始後一貫して雑誌の前の方に掲載される状態も続いており、実際に人気があるのかよい扱いを受けているのも好材料です。ここ最近の新連載では、最も安定したクオリティと人気が確保できるのではないでしょうか。

 そして、この連載が、コアな読者にも安定して注目されそうな作品であることも、期待できる大きな要因です。このところのガンガンが、極端なまでのメジャー一般向け路線で、まったく味気のない平凡な連載が多くを占め続ける昨今、このマンガは、昔ながらのコアな読者にも読める魅力のある作品になっていると思います。原作の「とある魔術の禁書目録」が、非常に高い人気と知名度を有しているのも、もちろんポイントが高い。外部からの読者、原作ファンにも安定した人気と話題が見込めそうで、その点でも今後の展開は明るいような気がします。当初は、他社作品のコミックス化という不可解な企画と、一見して昨今のガンガンの路線とはかけ離れた原作のイメージから、非常に不安視していた連載だったのですが、肝心の連載は決して悪いものではなく、むしろ、今のガンガンの数少ない期待作となっていると言えそうです。


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