<キングダムハーツII>

2006・1・13

 「キングダムハーツII」は、同名のPS2ゲームのコミック化作品で、前々作・前作である「キングダムハーツ」「キングダムハーツ チェインオブメモリーズ」に次いでコミック化されました。作者は、そのふたつの作品から引き続いて天野シロが担当しています。

 連載開始は少年ガンガン2006年6月号で、原作ゲームの発売から約半年後に連載が始まった形となります。時期的にはほぼ平均的で妥当なタイミングだと思いますが、最近はゲーム開始直後から、あるいはゲームに先駆けて連載が始まるゲームコミックも多いので、やや遅いと感じた人もいるかもしれません。
 ただ、この連載の直前まで、前作である「チェインオブメモリーズ」の連載を一年間ほど続けており、そのすぐ後に始まったところを見ると、最初から「チェインオブメモリーズ→II」という連載計画があったのではないかと思われます。元々、最初からふたつの作品を続けて連載することが決まっていたのでしょう。

 前々作・前作から引き続いての作家によるコミック化で、しかも、それらの作品の評価も高い実力派の作家によるものだけあって、この「II」のコミックも卒なくまとめられており、かなりの良作に仕上がっていると言えます。今のガンガンでも、看板クラスの作品のひとつであり、「鋼の錬金術師」や「ソウルイーター」と並んで、最も表紙になることが多い作品となっています。
 また、スクウェアとエニックスの合併後に、このような「旧スクウェアゲームのコミック化作品」が目立つようになりましたが、この「キングダムハーツII」は、さすが中心雑誌であるガンガンでの連載だけあって注目度は高く、そのような同系のコミックの中でも代表的な存在となっています。その意味でもガンガンの看板と言えるでしょう。


・一連の「キングダムハーツ」コミック化の流れ。
 この「キングダムハーツII」の前々作にあたる「キングダムハーツ」のコミックは、作者こそ同じ天野シロですが、掲載誌はスクエニ系雑誌ではなく、エンターブレインのゲーム雑誌である「ファミ通PS2」で連載されていました。そして、これがゲーム雑誌での連載にもかかわらず、かなりの良作に仕上がっており、読者の高評価を得ることにも成功します。この「キングダムハーツ」は、原作ゲームの方の評価も高いのですが、コミック版もそれに負けないほどの評価を得たわけです。なお、現在では、このエンターブレインの「キングダムハーツ」のコミック単行本は絶版になっていますが、代わってスクエニから新装版が「FINAL MIX」と銘打たれて出版され始めており、また、スクエニのケータイサイトでも全話が配信されています。

 そして、この「キングダムハーツ」連載終了からしばらく間をおいて、今度はスクエニに場を移し、少年ガンガンにて「キングダムハーツ」の続編である「チェインオブメモリーズ」の連載を開始します。なぜスクエニに場を移したのか。それは、やはりスクウェアとエニックスの合併が最大の理由でしょう。「キングダムハーツ」の原作ゲームは、まだスクウェアとエニックスが合併していない時期に発売されましたが、この「チェインオブメモリーズ」の時には既に合併済み。そうなれば、旧エニックスからのガンガン系雑誌を自社で持っているわけですから、わざわざエンターブレイン等の他社のゲーム雑誌で連載をする必要もなく、そのまま自社に引き込んで連載しようという流れになったのでしょう。
 しかし、このことを知らない一部ガンガン読者の間では、いきなり続編であるチェインオブメモリーズから連載することを不思議に思う人もいたようです。他社であるエンターブレインのゲーム雑誌に、前作のコミックが連載されていたことを知らない人も当然いるわけですから、これはもっともな反応でした。

 そして、おそらくは当初から決まっていた1年間の連載期間を経て「チェインオブメモリーズ」は終了。代わってこの「キングダムハーツII」のコミック化が、前作と同じガンガンで行われる運びとなったわけです。前々作・前作とすでにシリーズのコミック化を直前まで手がけていただけあって、今作の出来も最初から非常に安定しており、しかもそれらから直接的にストーリーが繋がっていることもあって、あまり新連載という感じがしません。


・ゲームの、そしてディズニーのイメージをよく再現し、かつ丁寧な絵柄。
 まず、この天野さんのマンガの最大の長所は、絵が親しみやすく好感が持てることですね。
 そして、キングダムハーツシリーズのコミック化を長く手がけているだけあって、原作ゲーム、及び原作ゲームがモチーフとしている「ディズニー」のキャラクターや世界観を、非常にうまく再現しています。前作以前では、ディズニーの主要キャラクターで、主人公のパートナーである「ドナルド」や「グーフィー」の再現度も高く、もちろんゲームからのキャラクターであるソラやリクなどもよく描けていて(彼らも一応ディズニーキャラクターという扱いですが)、原作の再現度は非常に高いと言えます。今回は、まだゲーム序盤のオープニングということで、彼らはまた登場していないのですが、それでも前作同様の作画は期待できるでしょう。ゲーム原作とはいえ、どうしても作者の個性の方が強く出がちで、ゲームのイメージから離れてしまう作品が多い中で、この天野さんは非常によくやっています。

 また、原作ゲームの再現度は別にしても、絵そのものもうまく、かつ丁寧に描かれており、読みやすく親しみやすいもので好印象です。ガンガンの中でも少年マンガ的な絵柄だと思いますが、他のガンガンの少年マンガ作品の絵が、雑で仕上がりが汚く読みづらい絵のものが多いのに対し、この天野さんの絵は、細部まで丁寧で仕上がりが綺麗なのが最大の利点でしょう。そのため、見た目の印象も非常によい。この作品が、何回もガンガンの表紙に採用されるのも、この絵の綺麗さに起因することは間違いないでしょう。


・内容的にも前作よりバランスが取れている。
 そして、肝心の内容も卒なく構成されています。それも、直前まで連載されていた前作(チェインオブメモリーズ)よりもバランスの取れた構成で、こちらの方が好感が持てます。

 「チェインオブメモリーズ」では、唐突に入るギャグがかなり突飛な印象で、シリアスなシーンを半ば壊してしまっていることがかなりありました。個人的に、これはかなり不快で、そのために「チェインオブメモリーズ」の評価はあまり高くないのですが、それがこの「II」では、そこまで唐突なギャグは無くなっており、より控えめに、かつ場面に即して投入されるようになり、バランスの取れた構成になったように思います。天野さんは、元々ギャグの面白さにも定評のある作家なのですが、今作はそのギャグとシリアスなストーリーとのバランスも取れており、完成度は上がったのではないでしょうか。

 作画だけでなく、ストーリー面でも原作を丁寧かつ堅実にコミック化している点も評価に値するでしょう。原作の各シーンをあますことなくうまくコミックに落とし込んでおり、原作ファンの満足度は高いのではないでしょうか。ゲーム原作のコミックとしては、非常に丁寧かつ堅実な作品と言えます。


・卒なく描けているが、やや物足りない感は否定できない。
 ただ、ここまで卒のない仕事ぶりを発揮しているにもかかわらず、今のところやや盛り上がりに欠ける印象もあり、特に原作未プレイの新規読者に対する訴求力が弱いようにも思えます。

 まず、連載当初から、ひどくストーリー展開が遅いように感じられるのは気がかりです。原作では、ゲーム最初のオープニングにおいて、主人公のソラとは異なる「ロクサス」という少年を中心にしたシーンから始まり、彼にまつわる一連のイベントが終了したのち、ついにソラが主役として表に出てきます。コミック版では、このロクサスにまつわるストーリーを丹念に描き、のちの展開に繋がる謎と伏線を多数盛り込んでいるのは評価できるのですが、反面、とにかくストーリーの進みが遅いように思えます。
 今のところ、連載開始から9話めにして、まだこのゲームオープニングにあたるロクサスの話が終わっていません。ゲーム最初のオープニングに9話以上もかけるというのは、いくらなんでも遅すぎではないでしょうか。これでは、ゲーム未プレイの読者をストーリーで引きつけるには弱いでしょう。さらには、ゲームコミックは、あまり長引くとゲームのブームが去ってしまい、連載継続が困難なものとなってしまいがちですが、このペースが続くようだとそれが心配です。

 さらに、少々前々作・前作に依存した設定が多いのも、原作未プレイの読者を引き込むには弱い一因となっているように思えます。これは、原作ゲーム自体が、シリーズの前作・前々作から継続するような設定・ストーリーになっているのも大きな要因なのですが、それがコミック版にまで続いている印象があります。実は、前作の「チェインオブメモリーズ」もそうだったのですが、この「II」もそれに近い印象です。ゲームを知っている人向け、あるいはコミック版の前作を読んでいる人向けの趣きが強いようにも感じられます。
 しかし、このコミック版「キングダムハーツII」は、前々作の「キングダムハーツ」が他社の雑誌で連載された経緯もあって、それを読んでいない読者もかなりいると思われますし、もう少しそういった読者に対する配慮があってもよかったと思います。前作以前の話を知らないとよく分からない設定について、新規読者にも分かりやすく説明する工夫が欲しいところです。


・今後もガンガンの看板のひとつとして、健闘が期待される。
 以上のような要因からか、連載序盤の段階ではやや話題性や盛り上がりに欠けるところがあり、コミックス1巻発売に際しても、さほど大きな話題にはならなかったように思われます。やはり、原作ゲーム未プレイの読者を引きつけるには物足りないところもあるのではないでしょうか。

 しかし、そのようなマイナス面を差し引いても、ガンガン連載作品の中では良質な作品であることは確かで、雑誌の中では常に早い掲載位置をキープし、表紙にもなる数少ない作品であります。今のガンガンでは、表紙になる連載作品は、「鋼の錬金術師」「ソウルイーター」「スパイラル・アライヴ」と、この「キングダムハーツII」の4つしかないのです。その意味でも、今のガンガンを支える数少ない連載作品のひとつであることは間違いありません。
 今後は、これまでのストーリー展開の遅さを是正し、前作以前の設定をうまく消化することが出来れば、課題と言える原作未プレイ読者への人気も上がっていくのではないかと考えます。実力派作者の安定した仕事ぶりが保証できる作品であるわけですし、ガンガンの主要看板のひとつとして、今後さらなる健闘を期待したいところです。


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