<これが私の御主人様>

2004・7・25
全面的に改訂・画像追加2008・1・14

 「これが私の御主人様」は、ガンガンパワードで2002年秋季号から開始された連載です。元々は、少年ガンガンで2002年2月号に掲載された同名の読み切りが原点であり、ほぼそのままの形で連載化されました。読み切りの掲載先がガンガンなのに、連載先はガンガンの増刊誌であるパワードに変更されたのは、少々意外な展開でしたが、これには大きな理由があります。

 作者は、原作者がまっつー、作画が椿あすですが、このふたりは実の夫婦であり、そのことでも大きな話題となりました。しかし、このふたりの作者のうち、原作者の方が非常に問題のある人物であり、その人となりが作品に大きな影響を与え、極めて歪みの激しい特異な作品となってしまいました。絵を一見するだけならば、オーソドックスな美少女系萌えマンガにも見え、実際にその要素ももちろんあるのですが、それ以上に極めて破天荒で凄まじく、見方によっては悪辣とも言えるネタが作品全体を満たしており、極めて人を選ぶマンガとなっているようです。

 そして、このマンガは、あのエニックスお家騒動直後に読み切りが掲載され、騒動以前とは異なるタイプの作品として以前からの読者に大いに当惑を与えた一方で、新しいタイプの読者を獲得するに至り、その後のガンガン系作品を象徴するマンガのひとつとなった感もあります。今のガンガンのあり方を考えるにおいて、このマンガの作品性は、非常に重要なものであると思われます。


・ガンガン萌えマンガ三連続読み切りの一角だが・・・。
 このマンガは、お家騒動直後にガンガンで掲載された、美少女系萌えマンガの三連続読み切りのひとつに当たります。具体的には、2001年12月号において「悪魔事典」、翌2002年1月号で「ながされて☆藍蘭島」(のちの「ながされて藍蘭島」)、そして 2002年2月号においてこの「これが私の御主人様」と、立て続けに似たようなコンセプトを持つ読み切りが3つも掲載され、当時の読者の間で非常な物議を醸しました。

 なぜ物議を醸したのか。それは、この3つの作品が、これまでの(お家騒動以前の)ガンガンではまるで見られなかった作品だったからに他なりません。これらの作品は、明らかに少年マンガ誌でよく見られる「美少女系のラブコメ」であり、このような露骨に少年読者、男性読者を対象とした作品は、それまでのガンガンでは長らく見られなかったからです。
 そのため、この三連続読み切りは、既存の読者の間で激しい当惑と反発を呼び、そのことで大いに話題を呼ぶことになりました。内容的にも決して芳しくないものが多く、「まずこのようなマンガが連載化されることはないだろう」と大方の読者は思っていたのですが、これが予想を裏切って、三つともすべて連載化されてしまうのです。これは、当時の読者の間では信じられないことだったので、ここでまたもう一回激しい当惑と反発を呼んでしまいます。

 しかし、その一方で、これらの作品は、新しいタイプの読者の支持を集めることにもつながり、これまでにない読者層を呼ぶことになりました。「悪魔事典」だけは、内容的にさほど芳しくなく、最終的には成功しませんでしたが、残りのふたつの作品「ながされて藍蘭島」とこの「これが私の御主人様」は、大きな人気を集め、どちらもアニメ化を達成するまでになりました。

 しかし、一方の「ながされて藍蘭島」が、オーソドックスなラブコメ(エロコメ)作品となっているのに対して、この「これが私の御主人様」の方は、単なるラブコメではなく、むしろ原作者の悪ノリばかりが全面に出た作品と化しており、ひどく人を選ぶ、カルト的な人気を博することになりました。そして、これが、この作品がパワードで連載された理由だと思われます。さすがに、ここまでカルト的な作品は、一般向けの読者を想定するガンガンでは載せることができなかったのでしょう。



・エロメイド服、外道主人公、オタクネタ連発。
 そして、その悪ノリ全開の内容は、作品のあらゆる面に渡っています。
 まず、このマンガの内容を一言で説明すると、「親の遺産を受け継いで一人暮しをしている思春期真っ只中の少年が、世間の目が届かないのをいいことに、広大な屋敷にいたいけな少女を囲って、欲望の赴くままに自分の趣味の世界を作って、奉仕させている」となります。ただ、この説明文自体も少々ネタに走ったもので、実際にはこの文面ほどにはマニアックで淫靡な作品というわけではなく、むしろ、非常に明るいノリのコメディにはなっています。しかし、それでもなお特異な悪ノリには事欠きません。

 まず、なんといっても、ヒロインたちが着る事になるエロいメイド服に異様な注目が集まりました。これまでも、エロを全面に押し出したメイド服はありましたが、これほどまでにエロかつ萌えを意識した絶妙なデザインは他にはなく、男性読者ばかりか女性読者にまで「かわいい」と注目を集めることになりました。もちろん、これには作画担当である椿あすさんの絵の力も大いに貢献しています。椿あすさんの絵は、悪辣な原作とは打って変わって、普通に「かわいい」と思えるものだったのが、この作品のわずかに幸いな点になっています。

 そして、それ以上に凄まじかったのが、外道オタク主人公という呼び名がふさわしい中林義高の存在でしょう。「ロリコンで制服マニアで、隠し撮りマニアのギャルゲーマニア」というオタクの極致を行く男であり、ヒロインの中学生たちを広大な屋敷に雇い入れて欲望全開の行動を繰り広げます。この中林義高、当初はさすがに外道すぎて読者の嫌われ役に徹するだろうと思われていたのですが、意外にもこのふざけた性格がやたら人気を集め、これまた女性読者にまで好かれるという本当に予想外な展開を迎えます。これは、原作者のまっつーにも予想外の展開だったようです。
 また、この主人公以外にも、性格に問題ありと思われる悪辣なキャラクターが多数登場します。このあたりのキャラクター設定は、明らかに単なるラブコメの域を超えたもので、ふざけた要素ばかりが強く出た異様なノリの作品になってしまいました。

 そして、オタクである主人公が、ことあるごとに自分のオタク趣味をさらけだし、実在のアニメやマンガ、ギャルゲー・エロゲー関係のネタを連発しまくるという内容も、またひどく濃いものがあります。これは、原作者のまっつーが、キャラクターの口を借りて自分の持つオタクネタ・オタク知識をぶちまけるという、あまりにも自己満足的要素が非常に強いもので、これまたこの作品のカルト性を異様に高めています。とりわけ凄まじかったのが、2巻巻末に収録されている「肌色スパッツ」ネタで、「布だからモザイク必要なし」として下半身丸出しの絵を描かせるというこのひどすぎる悪ふざけには、本当に多くの読者が驚嘆しました(あるいはあきれ果てました)。こういったオタクネタを面白がって楽しめる読者には面白いのですが、そうでない読者にとっては、作者による異様なノリばかりが目立つ、ひどく抵抗の強い作品になっていると言えます。


・原作者は2ちゃんねらー。ネットでの暴走ぶりが凄まじかった。
 原作者まっつーの悪ノリは作品内にとどまりません。連載の真っ最中に繰り広げられた、ネットでの活動ぶりも凄まじいものでした。

 この男、マンガ連載初期の極めて早い時期から、ネット上の大手掲示板・2ちゃんねる内で、自分の作品関連のスレッドにたびたび出没し、人を食ったかのような言動で当初から注目を集めます。その後、自作品のサイトを作ってからは、その中での暴走ぶりもさらに際立つようになり、ネットの一部で悪名高い有名人となってしまいます。そのため、この作品もネットの一部で異様な話題を集めてしまい、早くから名物マンガとして悪ノリの対象となってしまいます。

 そもそも、作品の内容からして悪ノリの際立つものである上に、このように作品の外でも原作者の暴走したふるまいのために、さらに異様な注目を集めてしまうという、極めてカルト的な作品と化してしまいました。作品内でも、2ちゃんねる系のネタや用語が平然と登場する有り様で、ここまでよく臆面もなく2ちゃんネタを出すものだと、悪い意味で感心してしまいました。当時、これほどまでに2ちゃんねるに依存した作品は、同系のオタクネタ全開の作品の中でも、ほとんど見られませんでした。まして、これはエニックス(スクエニ)のマンガです。エニックス、ガンガン系の雑誌から、ここまで悪辣な暴走が見られるマンガが登場するとは、まさか誰も思わなかったでしょう。どういう経緯でこの原作者に連載を任せることになったのかよく分かりませんが、編集部もこのような原作者の悪ノリ、暴走を容認していたのでしょうか。

 そして、このようなまっつーの暴走の一方で、作画担当でまっつーの妻である椿あすさんの方は、ごく普通の人だったらしく、まっつーの暴走ぶり、特に2ちゃんねるへの書き込みを相当嫌がっていたようです。そもそもこのマンガ、椿あすさんの絵で描かれる萌え要素で人気を確保しつつ、その裏で原作者のまっつーが自己満足のオタクネタやりたい放題、という感じなのですが、そう考えると、椿あすさんはまさにまっつーの犠牲にされたと言えるでしょう(笑)。


・アキバ人気、メイド喫茶人気に大いに貢献。
 2ちゃんねるだけではありません。このマンガ、連載中盤になんとあのガイナックスの手でアニメ化されるのですが、これが原作の悪ノリはそのままに、かつエロ要素を大幅に強調したような内容で、これまたオタク層に受けまくることになります。ヒロインのメイド姿のフィギュア化も何度もなされ、原作以上に萌え要素でも大人気を得ることになりました。

 しかも、この作品最大の特徴であるエロメイド服が、秋葉原のメイド喫茶、メイドコスプレ界隈に影響を与え、このマンガのメイド服を着るメイド喫茶や、路上でコスプレをするコスプレイヤーが頻繁に登場することになります。一部には、この作品が元でメイド喫茶が大幅に増え、ブームに拍車を掛けたとの見方もなされています。まさに、アキバ人気・メイド喫茶人気に一役買うばかりか、多大な貢献まですることになってしまいました。

 そして、ここでも女性人気が非常に高かったのが目立ちました。エロさを強調したメイド服であるにもかかわらず、そのかわいいデザインから女性の店員やコスプレイヤーにも大人気で、このマンガのメイド服は、もはや「オタク系のエロメイド服」として定番のひとつとなります。このマンガと同時期にコミックビームで連載され、時を同じくしてアニメ化を達成した「エマ」という作品が、比較的真面目な歴史考証を踏まえた現実的なメイドの描写で人気を集めたのとはまったく対照的な存在で、「同じメイドマンガでもここまで違うものなのか・・・」と当時は誰もが思ったことでしょう。

 しかし、それにしても、ここまで異様な発展を遂げた作品は、そう多くはないでしょう。まさか、エニックス(スクエニ)からこのようなマンガが出ようとは思えませんでした。「エマ」の方が極めて真面目な作風なのに、その一方でエニックスの「これが私の御主人様」は、オタク系のエロ・萌えと悪ノリのネタ全開。お家騒動後のガンガンは、一般メジャー志向のゆえか一般人気に迎合したかのような低俗な作品が大きく増加してしまったのですが、このマンガはその最たるものだったと言えるでしょう。

 参考:アキバBlog2005年4月16日の記事


・萌えに加えてオタク独特の悪ノリまで目立つ、極めてマニアックな低俗ぶりを披露した作品。
 以上のように、この「これが私の御主人様」、エロメイド服に代表される激しい萌え要素に加えて、原作者のまっつーによる悪ノリのオタクネタに満ちた怪作と化しており、極めて低俗な作品になっていると言えます。これは、悪ノリを基本的な性質とするオタクの気質にこれ以上無いほど適合したもので、このマンガがオタク文化の発展に大いに貢献してしまったのも、まったくもって当然の結果だったと言えるでしょう。

 その一方で、オタク的な感性を有しない人々にとっては、相当に好みを選ぶ作品となってしまったのも事実です。時を同じくして始まった「ながされて藍蘭島」の方が、オーソドックスなラブコメで比較的広範な人々の人気を得たのに対し、こちらの方は、アニメ化などを契機にかなりの人気を博したものの、総じてマニアックな人気に終始する結果となりました。このふたつの作品は、同時期のガンガンから出た美少女萌え系の作品として、同じように見られることも多いのですが、実際にはその内容、方向性は大きく異なっており、そのことをはっきりと理解する必要があります。どちらも単なる萌え系のラブコメと見て、同列に扱うべきものではないでしょう。

 そして、この作品は、お家騒動後のガンガン、その路線変更を象徴する作品となったことも留意すべき点です。そもそも、ここまで男性向けの萌え要素が強く出た上に、さらに原作者によるオタク的な悪ノリに満ちた作品は、まず騒動以前には見られなかったものです。かつてのエニックスは、いわゆる中性的な作品を基調としており、そして女性の読者も多かったこともあり、ここまでどぎつい要素ばかりの作品を載せることは、まず避けていたはずなのです。それが、お家騒動直後においていきなり、これほどまでにどぎつい作品があっさりと登場してしまった。これは、お家騒動後のガンガンの大きな路線変更を、これ以上ないほど強く体現しているのではないでしょうか。

 現在、この作品は、TVアニメ終了以降急激に勢いを失い、かつ作者たちも他社での活動に大きくシフトしたこともあり、連載が不定期になり、実質的に長らく中断したまま立ち消えになろうとしています。元々、悪ノリのネタ偏重の作風で、勢いを失ってしまえば後が続かないような作品でもありましたし、こういう流れはある程度予測できたかもしれません。また、そんな状況において、あっさりと連載を放棄してしまう原作者のいい加減さもよく出た結果であると言えます。最後まで原作者のいい加減な性質が出た作品だったと言え、確かな面白さもある人気マンガとして一定の評価こそすれ、そのあまりにも原作者の悪辣さが強く出た内容は、素直には喜べない作品であったことも事実でしょう。


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