<マンガ家さんとアシスタントさんと>

2008・3・27

 「マンガ家さんとアシスタントさんと」は、少年ガンガンで2008年3月号から、ヤングガンガンで2008年4号から始まった連載で、スクエニの二誌で同時連載という形式を採っているショートギャグ作品です。どちらも完全に同じ設定のマンガであり、ガンガンの連載は4コママンガ、ヤングガンガンの連載はショートコミックとなっていますが、どちらも内容的には大差なく、良質のギャグマンガに仕上がっています。
 作者はヒロユキ。まんがタイムきららでの連載作品で、アニメ化もされた「ドージンワーク」で有名なマンガ家です。彼が、まさかスクエニのガンガンとヤングガンガンで連載することになるとは、完全な予想外でした。

 元々は、少年ガンガン誌上で内外からマンガ家を集めて行われた4コマの競作企画「特上!GGグランプリ」に作家のひとりとして招かれ、そこで描いた読み切りの4コマ作品が原点になっています。その時のタイトルは「マンガワーク」。このタイトルからも分かるように、作者の代表作である「ドージンワーク」に比較的近いコンセプトを持つ作品となっていて、それも「ドージンワーク」と異なり、こちらはプロのマンガ家の生き様を描いた作品となっていました。そして、これとまったく同時期に、同一のコンセプトを持つショートコミック「マンガ家さんとアシスタントさんと」がヤングガンガンで掲載されました。

 そして、このふたつの読み切りが、読者アンケートでやたら評判が良かったらしく、急遽連載化することが決定します。それも、読み切りの時の形態をそのまま引き継ぎ、ガンガンとヤングガンガンの二誌で同時掲載という珍しい形となりました。連載化するにあたり、タイトルは「マンガ家さんとアシスタントさんと」に一本化されました。個人的には「マンガワーク」の方が簡潔ですっきりとして良いと思ったのですが、やはり「ドージンワーク」とあまりにもかぶりすぎている事を考慮して避けたのでしょうか。この方がヒロユキのマンガだと一目で分かってよいと思うのですが・・・。

 内容的には、普段からエロしか考えてない萌えマンガ家のバカバカしい主張に対して、真面目なアシスタントや担当編集がツッコミを入れるというスタイルで、そのあまりのバカバカしさは一見以上の価値があります。「ドージンワーク」同様、一種のオタクネタマンガとも言えますが、同系のマンガである「正しい国家の創り方。」(REXで連載)に匹敵する面白さがあります。また、単に4コママンガとしても非常によく描けており、きらら系でも最大の人気作家の実力は確かなものがあります。


・いきなり決まった連載。
 前述のように、このマンガの元となったのは、ガンガン・ヤングガンガン両誌で掲載された読み切りであり、「読み切りが好評を得て連載に昇格」という、それだけならばよくあるケースのように見えます。しかし、このマンガの場合、それ以上にいきなり決まった感が強く、まったく予想外の連載決定でした。

 元々、読み切りの掲載時には連載などまったく考えておらず、完全に単発の企画で、「評判が良ければ連載になる可能性もある」ようなマンガではありませんでした。特に、ガンガンの「特上!GGグランプリ」は、スクエニの内外から作家を招聘する企画であり、ガンガンの雰囲気とは異なる作家陣がたくさん見られました。特に、このヒロユキを始めとする「まんがタイムきらら」系雑誌の作家たちは、どれも普段のガンガンでは見られないような作風で、大いに新鮮に楽しませてくれました。ヒロユキ以外の作家では、石見翔子・ざら・真田一輝・現津みかみなどの作家が招聘されています。

 そういった企画での掲載であり、かつ多数の作家の競作ということで、ひとりひとりの作家のページ数も少なく、連載化を前提とした読み切りではないことは明白でした。ところが、どういうわけか、この掲載の直後に、いきなりヒロユキの読み切りの連載化が決まってしまうのです。これは作者本人も大いに驚いたらしく、「読み切りを描いたときはまさか連載になるとは思ってなかった」と自身のブログで記述しています。
 それも、ガンガンの(あるいはヤングガンガンも)読者のアンケートの評判がすこぶる良かったらしく、それを理由にして連載が決定したようです。しかし、このマンガ、どうにも普段のガンガン作品の雰囲気・作風とはかけ離れており、一体どんな読者がこのマンガを面白いと評価したのか、それがあまりにも意外でした。青年誌的とも言える作風なので、ヤングガンガンで評判がいいのなら分かるのですが、まさかガンガンの方でいきなり連載が決まってしまうほどの評判を得るとは・・・。今のガンガン読者の実態はどうなっているのでしょうか。


・あまりにもバカバカしさ全開・まさにヒロユキのマンガ。
 肝心の内容ですが、とにかく徹底的にバカバカしさを追求したマンガで、これほどひどい(いい意味で)マンガも多くないでしょう。まさに、これまでのヒロユキのマンガそのままであり、あの「ドージンワーク」のプロマンガバージョンと言って言えなくもありません。

 主人公は、某誌で「はじらってカフェラッテ」なる萌えマンガを連載しているマンガ家・愛徒勇気。女性の美人アシスタントの足須沙穂子と共にふたりでマンガを制作しています。しかし、この愛徒勇気、普段からエロいことしか考えていないようなどうしようもない男で、仕事中にもことあるごとにエロ妄想を繰り広げます。そのバカバカしい行動を、担当編集者である音砂みはりに散々突っ込まれることになります。
 ガンガンでの読み切り時の内容では、主人公がなにかにつけてアシスタントにセクハラ的行動を繰り返しまくるという、あまりにも問題のあるマンガで、これがよく読者の評価を得たものだと思います。連載版でも基本的にその要素が受け継がれていますが、むしろより主人公自身がひたすら妄想に浸る要素が強くなり、バカバカしいエロへのこだわりをやたら主張しまくる異様なマンガになってしまいました。

 ヤングガンガン版の連載第1話の冒頭、そこでの主人公のセリフ「おっぱい揉みたい・・・」がいきなりこのマンガのすべてを象徴しています。この言葉を端緒に、あとは「マンガを描く時の参考にする」という名目の元、アシスタントの胸を揉もうとしてひたすら迫り続けることになります。このバカバカしくダメすぎる主人公の行動が、この後も毎回繰り返されることになります。
 特に笑えたのが、ヤングガンガンでの連載第3回で、「パンチラとパンモロはどっちがいいんだ!」と大真面目に主張しまくる話です。主人公がバカバカしいこだわりを全編に渡って主張し続けるその内容は、あまりにも脱力全開のマンガであることは間違いありません。

 なお、ガンガンとヤングガンガンの連載では、一応ガンガンの方が(掲載誌も考慮してか?)ややエロ表現が抑え気味になっているような気がしますが、実際のところほとんど違いはありません。4コマとショートコミックとの作風の違いもほとんどなく、完全に同一のマンガとなっています。


・しかし、純粋にギャグマンガとしても面白い。
 このように、あまりにもバカバカしいエロネタを追求する内容は、あまりにも強烈な印象を残し、読者にとっては抵抗を感じる人もいるかもしれません。しかし、このマンガは、純粋に4コママンガ(あるいはショートコミック)としてもレベルが高く、その点でも評価できる点は見逃せません。

 とにかく、毎回ギャグネタがしっかりしていて、それに対するツッコミも面白く、純粋にそのやりとりを見て大いに笑えます。ネタ1本1本の起承転結がよく出来ており、かつ全体のストーリーもきっちりと毎回まとまっており、このあたりは極めて卒のない制作レベルが感じられます。さすがに「まんがタイムきらら」で長い間看板を務め、アニメ化するほどの人気作品を手がけてきた作家ならでは実力があります。

 スクエニでも、4コマの良作は多く、「WORKING!!」「ちょこっとヒメ」「勤しめ!!仁岡先生」などの人気作品が出ていますが、それらと比べても遜色なく、純粋に作品の完成度を見れば上回っているように思われます。まして、それ以外の4コマ作品、中でもガンガンやパワードで毎回開催される投稿4コマコーナー「GGグランプリ」の投稿作品などと比べれば、そのレベルの違いには雲泥の差があります。4コママンガのよく出来た見本として、スクエニ系作家も大いに見習うところがあるのではないでしょうか。

 内容だけでなく、絵のレベルが安定して高いのもポイントです。スクエニの新人ギャグ作品では、とにかく見るに耐えないほど絵のレベルが低い作品が多く、その点で大いに疑問なのですが、このマンガはさすがにまったく異なります。ヒロユキの作画は、なにかねちっこいところがあり(笑)、人によっては好みが割れるとも思いますが、それでもその安定した作画能力は大いに評価できます。4コママンガながら、背景の描写も綺麗に描かれており、カラーイラストなども申し分ありません。やはり、ギャグマンガでも、絵のレベルの高さは大いに好印象と成り得るのです。


・しかし、このマンガをガンガンで連載してよいのか。
 ただ、確かに主人公のバカバカしい行動は最高に面白く、4コママンガとしても良質の作品ではあるのですが、果たしてこのマンガはガンガンの誌面に合っているのか、その点では少々疑問点があります。

 元々、読み切りの段階で、普段のガンガンの作風からはまったく外れたゲスト作家による作品であり、それが連載化されるとはまったく思っていませんでした。しかし、これがなぜか読者の評判がやたらよかったらしいのです。
 しかし、このマンガは、明らかにエロネタ満載のマンガで、より高年齢の読者層を対象とし、どちらかと言えば青年誌に載るようなマンガです。その点において、このマンガはヤングガンガンのほうによく合っています。今のヤングガンガンの、男性読者向けのエロと萌えとバイオレンス全開の誌面には、これ以上ないほどよく適合しています(笑)。しかし、ガンガンについてはどうか?

 これはもう、今のガンガンのイメージからは、随分とかけ離れたマンガであることは明白でしょう。今のガンガンの、低年齢向けをひどく意識した少年マンガ作品を見ると、それがよく分かります。しかし、このマンガは明らかに高年齢の男性読者が喜びそうな作風です。それが、なぜガンガンの読者にこれほど評判が良いのか?
 推測ですが、どうも今のガンガンは、必ずしも雑誌が目指す方向性である低年齢読者ばかりが読んでいるわけではなさそうです。むしろ、このような高年齢向けの作品を好む、いわばコア系・マニア系の読者も結構読んでいるのではないか? そうでなければ、読者アンケートで大評判という理由が説明し難い。雑誌の求める少年マンガを愛する子供の読者ばかりではなく、むしろそういった読者が相変わらずついているのではないか? もしそうだとすれば、このマンガをガンガンで連載してもなんら問題ないことになります。


・しかし、これは良質のギャグマンガとして評価できる。
 このように、青年誌的でエロネタの多いバカバカしい内容は、読者によっては好みが割れるかもしれず、ガンガンという雑誌に合っているかどうかでも多少の疑問点はあります。しかし、そのようなちょっとした抵抗を差し引いても、おおむねかなりレベルの高い優れたギャグ4コマ・ショートコミックとなっており、実に優秀な作品ではないかと思われます。あまりにも急に決まってしまった連載経緯から、少々大丈夫なのか不安でもあったのですが、実際にはまったく問題なかったようです。さすがに、きらら系でも看板作家の実力は確かなものがありました。

 このところ、どういうわけかスクエニ系雑誌では、きらら系雑誌との交流がいろいろと盛んなようで(笑)、いろいろな作家が双方の出版社で単発の読み切り掲載を行っています。その中でも、このヒロユキの読み切りとその連載化は、スクエニ側にとっては最大の成功例ではないかと思われます。読み切り掲載を機にいきなり作家を引っ張ってきた形となり、多少強引な感はありましたが、それでも肝心のマンガは優秀な内容に収まっているので問題はないでしょう。

 ただ、ガンガンにしろヤングガンガンにしろ、このマンガが雑誌の中心作品となる可能性は低いように思われます。ガンガンではそもそも誌面の雰囲気からはかけ離れた作風ですし、そうでなくてもページ数の少ない4コママンガであり、雑誌のイメージを飾る連載になることはないでしょう。むしろ、コアな一部の読者に喜ばれる作品になるのではないか。これはヤングガンガンでも基本的には同じであり、やはり「ドージンワーク」からヒロユキを知っているような高年齢のマニア層が読者の中心となりそうです。

 とりわけ、このマンガの「オタクネタマンガ」としての悪ノリの凄まじさは、コアなマニア読者には大いに受けるでしょう。同じくオタクマンガ家の仕事ぶりをネタにしたREXの「正しい国家の創り方。」とためを張るバカバカしさがあります。「正しい国家の創り方。」もかつてとらのあなでフェアが行われましたし、このマンガは「あのヒロユキの新作」ということで、それ以上にマニア系書店では盛り上がるのではないでしょうか。


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