<メガロマニア>

2008・4・19

 「メガロマニア」は、ガンガンパワードで2007年の7号(6月号に相当)から開始された連載で、比較的新しい連載の多い同誌の中でも、さらに新しい新人による期待作として始まりました。ガンガンパワードは、2006年に新装リニューアルした当時は、ゲームコミックの新連載ばかりでオリジナル作品が物足りない状態になりましたが、しばらく経ってようやくこのような安定したオリジナル作品が出てくるようになりました。作者は新人の檜山大輔で、これが連載デビュー作となります。

 内容的には、ファンタジー世界でのポリス(警察)ストーリーといったところで、主人公と仲間の警官たちが、差別に苦しむ「亜人」と呼ばれる種族を守るために奮闘する、といった話になっています。
 過去にも、このように警察を舞台にしたマンガ作品が、いくつかスクエニでも見られましたが、今回のそれはより現実的なストーリーとなっており、戦争や差別による弊害を強く正面から描いた、社会的なテーマの強い作品になっています。ファンタジーものとはいえ、多くの設定が現実の歴史から取られているようで、比較的リアルな世界での物語となっています。

 その一方で、ここ最近のガンガンが志向する少年マンガ的な作品とも言えますが、よりシビアで高年齢向けとも言えるテーマを扱っていることもあり、ガンガンの他の少年マンガよりも、より地に足の付いた印象を受けます。その分、やや派手なケレン味に欠け地味な感もあり、編集部のかなりの後押しをしても最初はあまり話題にはならなかったようです。
 しかし、連載を重ねるにつれ一歩一歩評価を獲得し、今ではほかのパワードの長期連載を肩を並べる扱いの作品になりました。コミックス1巻も中々の売れ行きを確保したようで、地味ながらも確実な成功作となった感があります。このところのガンガンパワードは、ガンガン本誌よりも優れた作品が多いと感じているのですが、このマンガもまさにそのひとつとなりました。


・現実のアメリカをモチーフにした設定だと分かる。
 前述のとおり、このマンガは、差別に苦しむ亜人を救い守るために奮闘する警官の物語です。
 主人公とその相棒である警官の「カノン」と「バッヘンベル」は、「特務二課」と呼ばれる番所勤務の課に属していますが、他の課(第一課)の刑事や警官たちが、亜人をむしろ差別して守ろうともしない立場を取っているのに対して、より地域に密着した活動を取り、人間に差別される亜人たちをも守ろうと努力しています。

 彼らが活躍する舞台となる街は、一昔前の近代の欧米、特にアメリカのそれをモデルにしており、各種設定にも19世紀アメリカのそれを強く思わせるものが多くなっています。亜人という人外の種族や、主人公たちが持つ特殊な能力など、ファンタジー的な要素もある作品ではありますが、それ以上に現実の世界を思わせる設定とビジュアルになっているのが大きな特徴です。

 特に、亜人たちがかつて(今でも)奴隷として働かされていたり、少し前に起こった「東南戦争」の結果奴隷制度が廃止されたものの、社会の混乱が続いているという設定などは、まさに19世紀半ばのアメリカの歴史そのままがモデルになっています。このマンガを読んだ多くの人が、現実の「南北戦争」「黒人奴隷制度」を直接的にモデルにしていると気づくのではないでしょうか。「亜人=黒人奴隷」と考えると、非常に分かりやすいと思います。

 このような西洋近代が舞台となる設定の話は、スクエニのマンガでは少数派で、総じてあまり見かけません(ヤングガンガンの「JACKALS」くらいでしょうか。)。まして、最近の新人作品ではさらに珍しいもので、このことをまずこのマンガの独創性として評価したいところです。


・ポップな絵柄とは正反対のシビアな内容で見せる。
 そして、単に設定だけのマンガでもなく、内容的にも深く読ませる作品になっています。正面から露骨に差別を描いたシビアなシーンが何度も見られ、中には警官たちが亜人を無慈悲に大量虐殺するような箇所もあります。一見してポップな絵柄なので、ぱっと見ただけではそんなマンガとは思えないのですが、かならずしもかわいらしいだけの作品ではありません。しっかりと過酷なシーンを描いている点がストーリーに重みを与えています。

 また、単に亜人たちが傷つけられ殺されるという暴力的なシーンだけでなく、より過酷な社会的な待遇を描いている点も見逃せません。いまだ亜人たちは社会のほとんどに認められておらず、人間ならば受けて当然の社会的な保護を受けることができないままで、苦しい日々を送る描写が散見されます。
 なかでも特筆すべきは、亜人たちに流通している「麻薬」の存在でしょう。普通の人間ならば、公共の手で麻薬の被害から保護救済されるはずですが、亜人たちは差別されている身なので、彼らがいくら麻薬に溺れても誰も助けようとしません。彼ら自身も、差別される苦しい日々に耐えかねて麻薬の快楽に手を染め、ますます泥沼の陥っていくという、負の悪循環をよく描いています。社会的に差別される苦しい境遇の人々が、つかの間の快楽にはまってますます身を滅ぼしてしまうというのは、現実でもよく見られる極めてリアルな話ではないでしょうか?

 そして、そんな麻薬を亜人たちの間に流通させているのが、実は亜人たちで組織されたマフィアであるというのも、またなんともやるせない設定です。亜人たちの間でも、差別に対抗する者たちで一枚板というわけではなく、むしろ差別的な状況を利用して利益のために動いている悪人たちまでいる。このあたりのストーリーでもリアルさを感じさせます。


・絵も手堅くまとまっていて好感が持てる。
 加えて、絵の方面もそつなくまとまっており、なによりもまず丁寧に描かれており、こちらでも好感が持てます。
 内容面では少年マンガ的な要素もあるものの、絵的にはスクエニ系独特の中性的な絵柄を感じさせるもので、男女共に誰にも親しみやすいその絵柄は、ガンガン本誌では最近は見ることができなくなりました。パワードの方の連載は、このようなマンガでもかつてのスクエニ(エニックス)に近い絵柄を持つものが多く、実にありがたいところです。ガンガンとその増刊であるパワードでは、絵柄からして雑誌の方針が異なるのかもしれません。同じくパワードの「仕立屋工房」同様に、同じような少年マンガ系の作品でも、ガンガンのそれよりもイメージが柔らかで親しみやすく、好感が持てます。

 加えて、とにかく仕上がりが丁寧で、読みやすく綺麗な作画になっているのが、なによりも良い。粗雑に感じられる線があまりなく、キャラクターも背景も線がしっかりとまとまっている感があり、画面が非常に綺麗な印象を受けます。作画レベル自体も、新人作品の中では上々で、キャラクターも背景もここまできっちりとまとまった作画を見せる新人は、スクエニでも多くありません。

 そして、キャラクターの作画が、いかにもポップでかわいらしさを感じさせるのもまたよい。ストーリーはひどくシビアなこの作品ですが、この絵柄のおかげで、あまり暗いイメージがしない、とっつきやすいマンガになっています。
 その一方で、一枚絵のカラーイラストにおいては、時に硬質でシャープな作画を見せるのも意外でした。コミックス1巻の表紙はその代表であり、この美麗な表紙絵の印象は非常によく、個人的にもコミックス購入の大きな動機になったほどです。


・女の子に人気が高いという意外な書評。
 そして、このように絵柄が中性的かつポップで可愛らしいためか、このマンガは、意外にも女性読者、それも10代の女性によく読まれている、という書評が毎日新聞の無料冊子「まんたんブロード」及びそのウェブ版である「まんたんウェブ」に掲載されています(ウェブ版はすでにないみたいですが)。
 その書評によると、『少年マンガではあるが、女性の支持が非常に高い作品で、当店でも購入していくのはほとんどが十代の女性』とあり、これは本当に意外で実に驚いてしまいました。女性にとって親しみやすい絵柄であると同時に、少年マンガ的なストーリーが楽しめることも、ジャンプなどで少年マンガに親しんでいる女性読者にはとっつきやすいのでしょうか。

 あるいは、主人公であるカノンが明るく信念の強い女の子であることも、女性読者に人気の理由でしょうか。シビアな状況ではあるものの、主人公である彼女自身は常に明るく、やたらドジな側面を見せたりしながら、肝心なところでは信念を持って行動する力強さも見せる。このあたりの強い女性の生き方には、女性の方で共感を覚える人も多いのではないでしょうか。

 しかし、このような理由を考慮したうえでも、なおも「女性に圧倒的人気」というのは、実に意外な現象だと思いました。掲載元のガンガンパワードが、そこまで女性に読まれているとは思えなかったのですが、実はガンガン本誌同様に、女性読者にもチェックされているのかもしれません。いや、前述の通り、最近は、むしろパワードの方が、女性に親しみやすい中性的な作品が多いように思いますし、個々の作品レベルで見ると、女性人気の高い作品はかなり多そうです。「君と僕。」「仕立屋工房」や「シューピアリア」などは、明らかに女性読者の目立つ作品ですし、この「メガロマニア」も、それに近いイメージの作品だと言えます。

 マンガ批評:「メガロマニア」 居場所求め、戦う異能者 女性に人気、期待の新鋭 (グーグルのキャッシュ)


・パワードの新作の中でも、手堅く安定した良作。
 以上のように、この「メガロマニア」、タイトルからは一見してどんなマンガなのか分からないのですが(笑)、実際のところかなりの良作であり、特に差別を正面から真剣に扱った社会的なテーマには見るべきものがあります。ガンガン本誌の少年マンガに比べると高年齢のコア読者向けの作風とも言えますし、読み応えのあるストーリーが読める良作になっています。
 絵柄についても、最初の頃はいまひとつ地味であまり注目していませんでしたが、それでも極めて丁寧でかわいらしいポップな絵柄は、次第に好感を持って見られるようになりました。そして、コミックス1巻の表紙において、カラーイラストでも特筆すべきものが見られたため、これで一気に作画の好感度も高まりました。改めて作画面での魅力に出会ったような気がします。

 女性読者に人気があるというのも、確かに理解できるところがあります。逆に、男性読者にとっては、派手な展開や萌え、エロ要素などはほとんど見られないため、今ひとつ地味に感じてしまい、手が伸びにくいところがあるのかもしれません。パワードの連載の中でも、ひぐらしや獣神演武、各種ゲームコミックなど看板クラスの作品の影に隠れ、少々知名度が低いところもあり(というか、雑誌自体がマイナーであるパワードの連載は、おしなべて皆知名度が低いのですが)、 コミックス化によってようやく少し知られたかな、という程度に留まっているのが残念です。

 しかし、この作品は、パワードの中でも実に安定して読める手堅い良作になっていると感じます。というか、実はパワードの連載は、看板として扱われている作品よりも、このような雑誌の中堅作品の方が良作が多いような気がするのです。前述の「シューピアリア」や「仕立屋工房」、「君と僕。」や、あるいは4コマの良作「勤しめ!仁岡先生」など、読めるマンガが本当に多い。
 ただ、これらの作品は、いずれも2006年の新装以前から続く長期連載です。一方で新装以後の作品では、ゲームコミックやメディアミックス作品などの派手な企画ばかりで、良作が少なくなってしまったと思うのですが、ここにようやくひとつほど、真に手堅い良作が生まれることになりました。これは、パワードにとっては貴重な新作だと言えるでしょう。


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