<恋するみちるお嬢様>

2012・1・20

 「恋するみちるお嬢様」は、少年ガンガンで2012年4月号から開始された連載で、コメディ、もしくはギャグ4コママンガとなっています。もともとは、巻末の新人読み切り競作企画「勝ち抜きGGグランプリ」で掲載されていた作品で、好評を受けて見事勝ち抜き、そのまま晴れて連載まで達成したようです。

 作者は若林稔弥。元は芳文社で活動していた作家のようで、2009年に創刊された新雑誌「コミックギア」で一時期連載していました。しかし、コミックギアはわずか2号で休刊となり、その後芳文社の他の雑誌での活動を見ることもなくなってしまいました。しかし、その後ガンガンで上記の 勝ち抜きGGグランプリに掲載されるようになり、「あれこの作家は・・・」と見つけたときに驚いた記憶があります。そして、こうして他社で再び連載を獲得するまでに至ったのだから、その努力は大いに評価されるべきだと思いました。

 作品の内容ですが、とある良家のお嬢様のみちると、彼の家庭教師である清志郎(榊清志郎)との楽しい掛け合いを描いたラブコメギャグとも言える4コママンガになっています。タイトルどおりみちるは清志郎に恋していて、ことあるごとに彼に気のある言動を取るのですが、しかしクールな性格の清志郎はまったく意に介さず、彼女を毎回のように子ども扱いしてあしらっていく。この清志郎の受け答えが毎回非常に面白く、ここで思わず笑ってしまうマンガになっています。毎回のネタでコンスタントに笑える4コマになっていて、4コママンガとしての質は実に安定した良作だと思いました。

 当初、特にGGグランプリ掲載時には、お嬢様のお屋敷でのふたりでの掛け合いがほとんどだったのですが、連載が進むと学校にも舞台が移り、そちらで新キャラクターが追加されて、さらににぎやかで楽しい作風となっています。最近のガンガンでも貴重なオリジナルの新作として、期待できるのではないかと思っています。


・コミックギアから少年ガンガンへ。
 かつて2009年に創刊された「コミックギア」は、当初から「連載作家全員が毎日仕事場に集まって作業をし、漫画家同士が協力する」という独特の体制で制作され、そのことを大きく打ち出していました。「マンガ誌の作り方、変えてみました。」というキャッチコピーも提示し、編集者と漫画家の共同制作が普通だったマンガ制作に、大きな一石を投じる存在だったと思います。

 しかし、その結果は芳しくなかったようで、わずか2号で休刊となってしまいます。当初からまったく新しいやり方にはやはり風当たりが強かったようで、さらには実際に掲載された連載作品の評価も芳しくありませんでした。全体的に似たような雰囲気、絵柄の作品が並んでいるように見え、雑誌としての多様性が低かったこと、個々の作品も、当時「俺様主人公」と称されたように、抵抗感の強いキャラクターが多く感じられたことが、その理由ではなかったかと思っています。

 そんな中で、若林稔弥さんが連載していたのは「大魔王ザキ!!」という作品で、確かファンタジー世界で、ザキという少年が世界を征服するために旅に出るといった物語だったと思いますが、このザキがかなり自信過剰とも言える(前述の「俺様主人公」)キャラクターで、師匠をあっさり殺そうとするところなどが、やはり読者の評判がよくなかったと記憶しています。絵柄やアクションシーンは安定していて、ストーリーも気になるところはあったのですが、それ以上に抵抗が強い作風だったということでしょうか。

 そして、コミックギアが2号で休刊した後、しばらくして少年ガンガンに登場した若林さんですが、そこで掲載されたこの「恋するみちるお嬢様」は、ザキとは大きく作品の傾向が変わっていて、コミカルなラブコメ・ギャグマンガとなっていました。壮大なファンタジーストーリーから一転してのこの作品を見て、当初は大いに意外に思いましたが、しかしこれが非常によく出来た面白いものだったのです。一度は商業誌に掲載されていた作家が、他社の新人賞に応募して連載獲得を目指すのは、それは本当に大変な努力だったと思いますが、コミックギア時代から目にしていたわたしとしては、こうして努力が実って本当によかったと思っています。


・みちると清志郎の掛け合いがとにかく楽しい!
 そして、この「みちるお嬢様」の面白いところは、なんといってもお嬢様のみちるとその家庭教師・清志郎の掛け合いでしょう。特に連載初期のころは、毎回の4コマのネタが、みちるの清志郎に向けたアプローチと、それに対する清志郎の冷静なツッコミの応酬となっていて、しかもそれが毎回笑えるのです。

 みちるが「狭い部屋でふたりきり どうするんだ」と問いかけると、「ご安心ください 子供に興味はありませんので」と冷静なツッコミで返答し、「バカにするなよ 小さくても胸が・・・!」とみちるが主張すると「そういうところが ガキなんですよ」といやみたっぷりの見下した表情で受け返す。さらに今度は清志郎の方から「それとも 見せたいのですか?」と問いかけ、それに対してみちるが「そんなわけないだろ!」と慌てて言い返すと、「よかった 私も見たくありません」とニコッと笑ってサラリと返答する。この清志郎の徹底的にみちるをあしらうさまが、毎回本当に爆笑するほど面白い。ボケとツッコミの応酬という、ギャグマンガの基本をよく再現していると思います。

 清志郎は、作品紹介では「ドSの家庭教師」とも紹介されていますが、しかし相手を積極的にいじめるような性癖を持っているわけではないと思います。基本的に家庭教師としての職務はまじめそのもので、しかしお嬢様の至らない言動にはツッコミを入れずにはいられない。そういうキャラクターで、決して悪い感じはしません。言動はクールで外見はイケメンで、むしろ非常にかっこいい。一方でみちるお嬢様の方は、まだ子供らしい言動も外見も含めてとてもかわいらしい。このふたりの魅力的なキャラクターが、作品の面白さを確かなものにしていると思います。


・学校が舞台になってさらににぎやかに。
 さらに、連載がある程度進んだ時点で、みちるお嬢様が通う学校が舞台になり、清志郎も同学年の生徒として同じ学校に通い、さらにはみちると仲のよい生徒たちが新キャラクターとして加わったことで、さらににぎやかなマンガになりました。

 主に登場するのは、まずは学園のアイドル的お嬢様でみちるの同級生・一之瀬やよい。いわゆる天然キャラクターで、頭もあまりいいとは言えないところがあり、成績もみちるより悪いようですが、清志郎に対して勉強を教えてほしいとがんばろうとする姿も見られ、天然キャラにありがちな印象の悪いキャラクターにはなっていません。本当の意味でおっとりとしたお嬢様らしい、人のいいキャラクターになっていると思います。
 もうひとり、「狂った狼」などという通り名を名乗る、みちるの同級生の不良(?)生徒・綾祢正親(まさちか)もいい。不良だけど中身は気弱で、空回りの言動からやはり人のよさが感じられるキャラクターになっています。彼は、やよいに恋をしていますが、彼女には怖がられて中々うまく近づけず、毎回のように見せる情けない姿もまたほほえましい存在となっています。

 ところで、この学校が舞台になる展開に関して、ちょっと疑問に思うところがあります。それは、清志郎は、最初からみちるの同級生の設定だったのか?ということ。少なくとも、最初のGGグランプリでの読み切り版では、そのようなシーンはありませんでしたし、連載版でも最初の頃はそのようなシーンはまったくありませんでした。家庭教師の清志郎も、当初はみちるよりも年上の大学生あたりかと思い込んでいましたし、他にもそうだと思っていた人は多いと思います。それゆえに、みちると同じ学校の生徒として登場した時は、みちるも驚いたようですが、読者の方もみちると一緒になって驚くのではないでしょうか?(笑)

 これは、やはり連載の途中で後から付け加わった設定なのかな?と推測されるところもあるのですが、ただそれでも、この学校が舞台になってからのコメディも面白いですし、決して悪い展開ではなかったと思っています。


・スクエニの新作4コマとして期待。ガンガンの貴重なオリジナル新作としても期待したい。
 以上のようにこの「恋するみちるお嬢様」、お嬢様と家庭教師とのボケとツッコミの掛け合いが大変面白い4コママンガとなっています。当初は学校へと舞台が移って新キャラクターが加わり、さらには家庭教師の清志郎が高校の生徒だったりと、初期にはなかった設定も加わってきましたが、これはこれで面白いですし、まったく問題ないと思います。

 また、以前よりスクエニは4コマに良作が多いと定評がありますが、この「みちるお嬢様」が始まった2012年には、ほかにもこれはと思える新作4コマが相次いでおり、ここ数年でも屈指の豊作となっています。その中でも最大の話題となった作品として、ガンガンONLINEの「月刊少女野崎くん」(椿いづみ)がありますし、 ビッグガンガンでもスピンオフ作品の良作「咲日和」があります。ヤングガンガンでも同じく原作付きのスピンオフ「俺の彼女と幼なじみが修羅場すぎる4コマ」が予想以上の良作でしたし、読み切りで掲載を重ねている「よん駒!」と「ゴッホちゃん」も面白い(後者はコミックスまで出ました)。

 そして、この少年ガンガンでも、「恋するみちるお嬢様」と合わせて、「ピース*2」(鳴海けい)という4コマが連載されていて、こちらも大変よく出来た良作となっています。このふたつはコミックス1巻が同時発売され、そのときには盛んにフェアも開かれました。少年ガンガンは、最近はアニメや自社ゲームの原作付きコミックの新連載が多く、逆にオリジナルの新作の本数がちょっと少なくなっているのですが、そんな中でこの4コマ新作は貴重だと思いますね。

 最新の連載では、早乙女さくやという、かつて清志郎の彼女だった(?)という高飛車な新キャラクターが登場し、みちるとの恋のバトルでますます面白くなっています。これからの展開もさらに楽しみなマンガだと思いますね。


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