<マテリアル・パズル>

2002・12・2
全面的に改訂・画像追加2006・11・27

 「マテリアル・パズル」は、少年ガンガン2002年2月号より開始された連載です。作者は、元々は「1/Nのゆらぎ」「清村くんと杉小路くんと」等のギャグマンガで人気を博した土塚理弘で、このマンガは、それまでのギャグマンガとは打って変わって、王道バトル系少年マンガ、それも壮大なスケールを企図した王道ファンタジーであり、そのことでまず話題を呼びました。

 この連載が開始された時期は、あの「エニックスお家騒動」で大量の作家が離脱した直後の時期であり、ガンガン編集部が誌面の路線を変更し、王道少年マンガ路線を強く進めようとした真っ最中に当たります。このマンガも、まさにその王道少年マンガ路線を意図した作品のひとつであり、同時期にいくつも同じ路線の新連載が多数組まれました。
 しかし、この作品の場合、作者である土塚理弘側も、強く少年マンガを描くことを望んでおり、つまり編集部と作者、双方の目指す作品の方向性が一致していたことが特徴でした。よって、このマンガは同系のほかのガンガンの連載よりも歩調はしっかりしており、他の連載が成功せずに打ち切りになる中で、少年マンガ好きの読者の人気と評価を集め、長期連載となることに成功します。作者のマンガ作りの力量にもかなりのものがあり、特にストーリーや独特のバトル描写、登場人物の掘り下げに見るべき点が多かったのも、成功の理由でしょう。さらには、毎号必ず2話掲載で、毎月60ページにも及ぶ連載ペースは、月刊誌連載としてはかなり速く、単行本の出版ペースも非常に速いのも魅力と言えます。

 ただ、その一方で、作画面を中心に今ひとつのレベルの作品に留まっている印象もあり、熱心な少年マンガファンの支持を集める一方で、読者全体を通してはさほど大きな人気を得られていない状態も続いています。そのため、今ではガンガンの中でも最後尾の掲載位置に固定化された状態になっています。


・作者の大作ファンタジーへと至る軌跡。
 このマンガは、ファンタジー世界での壮大な設定・世界観・ストーリーを最大の売りとしており、作者自身も「壮大な規模のファンタジーが描きたかった」とコメントしています。元々はギャグマンガで支持を集めた作家だけに、少々意外な側面を見る思いでしたが、これには作者独特の事情があります。

 土塚さんは、デビュー前から、このような数百ページ、数千ページに及ぶ大型ファンタジーが描きたいと思っていたようですが、しかしそのような多量のページが必要な作品は、マンガ賞に投稿できません。そこで、まずマンガ賞に受賞してデビューするために、短いページでも描けるギャグマンガで応募したようです。これが、読み切り版の「清村くんと杉小路くん」です。そして、これが見事に編集部の目に留まって賞を受賞、それを足がかりに雑誌デビューすることに成功します。その後、まず「1/Nのゆらぎ」「清村くんと杉小路くんと」というギャグマンガの連載を続けて実績を得て、その後、ついに自分が本当に描きたかった大型ファンタジーの連載獲得に成功するのです。

 このような紆余曲折な経緯を経ての連載ですから、連載開始当初は、読者にもかなり意外に思われていたようです。「あのギャグマンガの作者がなぜ?」という感じでしょうか。しかし、実際に出た作品は、作者の熱意を全面に感じる非常に力のこもったものであり、「これこそが土塚理弘が本当に描きたかったマンガなのだな」と多くの人が思い知ることになりました。


・ジャンプ系少年マンガへの思い入れを感じる作風。
 そしてもうひとつ、前述のように、このマンガは、王道少年マンガ路線を強く意識した作品でもあります。作者自身も少年マンガを強く望んで描いた側面が強く、それもジャンプ系少年マンガに対する強い思い入れが感じられます。バトルの描写などでは特に顕著で、まさに「ジャンプ的」なバトルシーンとなっており、必殺技や魔法の設定、ネーミングにもそれが強く感じられます。
 さらには、主人公たちがみな明るく前向きな性格で、壮大な運命に立ち向かっていくあたりも、やはり王道を強く意識したところで、ストーリー面でもまさに少年マンガをこれ以上ないほど体現したものとなっています。

 このような作風から、この「マテリアル・パズル」は、同系のガンガン連載作品の中でも、特に大きく少年マンガ読者の支持を集めました。もっとも、この当時のガンガンの連載としては、まず「鋼の錬金術師」のみが圧倒的な大評判・大人気を得ており、「マテリアル・パズル」以下の新連載は、その影に隠れて決して存在感は強くはなかったのですが、それでもこのマンガは一部の少年マンガ愛読者の注目を強く集め、非常に熱心な支持層を生み出しました。ガンガンの少年マンガ路線の作品群の中でも、最も強く少年マンガ的な作風を打ち出したマンガだったと言ってよいでしょう。

 彼ら支持層に特に強く評価されたのが、戦闘シーンの描写で、特に必殺技や魔法の独特のネーミングを評価する声がよく聞かれました。「ブラックブラックジャベリンズ」「ホワイトホワイトフレア」などの独特の魔法ネーミングは、その代表です。


・キャラクターの深い掘り下げこそが最大の魅力。
 しかし、そのような少年マンガ的要素も魅力でしょうが、このマンガで最も評価できるポイントは、やはり登場人物の深い掘り下げだと思うのです。
 とにかく、キャラクターひとりひとりのそれぞれに、かなりの分量で掘り下げが為されています。そのキャラクターを作り上げた過去の出来事、それに対する描写がかなり多い。
 まず、主人公たち3人の掘り下げが、それを代表しています。このマンガの主人公は、3人の魔法使い(ティトォ・アクア・プリセラ)ですが、彼らはある過去の忌まわしい出来事で、3人でひとつの体を共有するという運命を背負ってしまい、死ぬたびに体が入れ替わるという数奇な状態に陥っており、その状態から脱却するために日々苦闘しています。この3人の過酷な運命に対する描写が、「マテリアル・パズル」のキャラクター性の深さを体現していると言ってよいでしょう。
 そして、主人公同様に、数多いキャラクターのひとりひとりに対しての掘り下げが丹念に行われています。それも、味方のキャラクターだけでなく、敵キャラクターのひとりひとりにまで、それもかなりの存在感を持つ強敵だけでなく、三下のザコに当たるようなキャラクターまで余すことなく採り上げられています。一見して凶悪そのものの敵でも、それには意外な過去があり、実は深い事情を持っていることも珍しくありません。

 そして、それら深い掘り下げを持つキャラクターたちの中には、どうしても闘いに敗れて死ぬ者も出てきますが、その時の死に様にも見るべきものがあります。最後まで自らの生き様にこだわりながらも死んでいく。最後の退場シーンで最も光り輝くキャラクターも多いのです。


・極めて低い作画レベルを中心に、魅力に欠ける点も多い。
 しかし、上記のような深い内容とは逆に、決して評価できない点も多く、手放しで褒められる作品にはなっていません。実際の人気の点でも目立つところがなく、ガンガンの中でも下位の掲載に落ち着いており、単行本の発行部数、売り上げも芳しくありません。

 最も目に付く問題は、とにかく作画レベルが低すぎることです。大ゴマを多用した勢いのある作画は魅力的ですが、それ以上に細かい描写が全く描けておらず、非常に大雑把で粗雑な作画に終始している感があります。
 最大の問題は、やはりバトルシーンでしょうか。この手の少年マンガで最も重要なシーンとも言える、戦闘シーンの描写があまりにも描けておらず、肝心の必殺技や魔法も非常に大雑把な作画に終始しているところなどは、さすがに落胆してしまいます。勢いのある迫力の構図はよいと思いますが、それ以外に見るべき点がない。
 キャラクターの作画もうまいとは言えません。特に、女性キャラクターの作画レベルが低く、「女の子がまったく描けていない」とも言える状態です(決して誇張ではありません)。キャラクターの内面の掘り下げは良く出来ているのですが、絵から来る外見的な魅力にあまりにも劣っています。
 元々、作者の土塚さんは、ギャグマンガの時代から決して上手い絵とは言えなかったのですが、それでも派手なギャグの勢いはよく描けており、「ギャグマンガならば、この作画でもOK」という風に見られていました。しかし、この「マテリアル・パズル」は、ある程度の作画が要求されるストーリーマンガであり、それでこの作画レベルは少々物足りないものがあります。

 そのギャグが中途でたびたび入ってくる作風も、人によっては抵抗があるかもしれません。個人的には、作者の前作ゆずりのギャグは非常に面白いと思いますし、それがほかの少年マンガにない個性になっていると感じますが、しかしシリアスな少年マンガを望んでいる読者には好まない人もいるでしょう。

 肝心のストーリーの面白さも少々疑問です。実は、連載の序盤から中盤にかけての展開は、文句なく面白いものがあったのですが、中盤以降、連載が長期に入った頃から、かつてほどストーリーに勢いがなくなり、だらだらと低空飛行で続く状態に陥ったように感じます。最近では、「メモリア魔法陣」という、18人のキャラクターたちが変則的なトーナメント方式で繰り広げるバトル大会が長く続きました。通例、このようなバトルの大会は、少年マンガでは一番盛り上がるところといってもいいのですが、このマンガでは、連載がさほど盛り上がったようには感じられず、むしろもうストーリーの勢いのないままで、ひたすら長く続いただけに留まってしまったようです。もう連載に勢いがなくなった感は否めないでしょう。


・コアな少年マンガファン、土塚ファンにとっては魅力的な作品だが・・・。
 そのためか、このころは、かつてほど雑誌内では人気はなく、完全に雑誌内でも最後尾近い掲載順に落ち着いてしまい、完全に一部の熱心なファン向けの連載となってしまったように思います。これと同じように、一部のコアなファンに支持を集めた同系の連載である「ドラゴンクエスト エデンの戦士たち」(藤原カムイ)と並んで、ガンガンの最後を独占する形となってしまいまいした。「エデン」が最後尾で、「マテリアル・パズル」がそのひとつ前、という図式が長く続き、最近になって「エデン」が休載になって後からは、完全にガンガンの最後尾に掲載順が固定化されてしまいました。もはや、ガンガンの最後の特別枠(土塚枠?)に収まった感もあります。単行本の売り上げもかなり落ちているようで、ガンガンの連載の中でもほぼ最下位に近いと聞いたこともあります。

 正直、これは決していい状態とは言えないでしょう。確かに、このマンガの徹底的に王道少年マンガを意識した構成は、少年マンガの愛読者には魅力的であり、非常に熱心なファンがついています。また、ギャグマンガ時代からの土塚さんの熱心なファンもかなりいるようです。(わたし自身も、土塚さんのマンガに対する取り組みは大いに評価していますし、個人的にはかなり好きな作家です。)
 しかし、そのような熱心な少年マンガファン、土塚ファン以外の読者には、そこまで惹きつけられるマンガにはなっていないのではないか。低い作画レベルで、ビジュアル的な訴求力に欠けることに加え、肝心のストーリーも、必ずしも面白さを持続しているとは言い難い。ガンガンの読者で、このマンガを積極的に楽しみにしている人は、もう少ないのではないかと思われます。
 それでも、毎号2話掲載の60ページの連載ペースを維持し続け、単行本も17巻まで出ているマンガを、安易に打ち切ることも得策ではないかもしれません。作者の奮闘ぶりは認めたいですし、ここまで来たら最後まで連載を続けるべきなのでしょうか。特に、少年マンガファンや土塚ファンといったコアで熱心な読者のためだけにも、あえてガンガンの最後尾で、ひっそりと続いていく連載ではないかと思えるのです。


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