<閉ざされたネルガル>

2007・12・15

 「閉ざされたネルガル」は、少年ガンガンで2007年2月号から始まった連載作品で、ショートギャグマンガに当たります。作者はあるまるみ(あるま・るみ)で、後述のようにガンガン生え抜きの新人作家と言える存在です。

 元々、この作品は、少年ガンガンの読者投稿マンガコーナーである「GGグランプリ」の投稿作品で、当時は4コママンガでした。このコーナーは、毎回6人の投稿作品による競作の形をとっており、読者アンケートで上位の者にポイントを与え、一定のポイントを獲得した作家に読み切り掲載権を与えるという仕組みになっています。このコーナーにおいて、「閉ざされたネルガル」は、かなりの好評を博し、毎回アンケートで首位を獲得、そのまま読み切り掲載権を得て、2006年8月号に読み切りが掲載されています。そして、この読み切りも好評だったのか、しばらくのちに連載化が決定されたわけです。読み切りの時点で4コマではないショートストーリーのギャグマンガとなり、それが連載版にも継承されました。しかし、短いページ数でのギャグマンガという形式は変わっておらず、投稿時代からさほど印象は変わらないような気がします。

 ガンガンでは、かつてよりこのような短いページ数でのギャグマンガが一、二本程度掲載されることが多く、中にはそれがかなりの面白さを有し、一定のファン層を獲得したものも少なくありません。最も近い作品を挙げれば、あの「清村くんと杉小路くんと(清杉)」(土塚理弘)があります。お家騒動以前では、「ワルサースルー」(たかなし霧香)という、これもかなり面白いギャグマンガが長く掲載されていました。この「閉ざされたネルガル」も、そのような位置づけの連載だと考えられますが、しかし、上記の作品たちと比較すると、今一歩面白さは弱いかなと思えるところもあり、「清杉」のように特筆するほど面白いギャグマンガにはなっていないように感じられます。そこそこの内容ではあると思いますが、雑誌の核となるほどの力は有していないのではないか。「GGグランプリ」からの久々のデビュー作家ではありますが、今のところそれなりの作品にとどまっているように思えます。


・低迷を続ける「GGグランプリ」。
 また、このマンガの出自である「GGグランプリ」についても、正直面白いとは言いかねるような低レベルのコーナーであり、そこから出たこの「閉ざされたネルガル」 も、さほど高いレベルに達していないのも無理はありません。

 「GGグランプリ」は、はるかお家騒動以前の2000年末期から延々と続いているコーナーで、開始当時のタイトルは「2Pでギャグをやってみないか?」というもので、読者の間でも「2Pギャグ」という略称で呼ばれていました。この名の通り、読者の間から2ページでの4コママンガ(1ページにつき2本なので通例4本)か、あるいは2ページで収まるショートギャグで構成されています。しかし、この「2ページ」という制約が悪い方向に働いているのか、あるいは単に投稿者の側に2ページでまとまったマンガを描く技量が欠けているのか分かりませんが、毎回毎回面白い作品が非常に少ない状態が続いています。絵のレベルが非常に低い作品が多く、肝心のネタも粗悪な一発ネタやキャラネタばかりでほとんど笑えない。そういう作品ばかりなのです。

 そんなコーナーですから、ここから読み切り掲載権を獲得した者は出ても、その読み切りにも面白いものは少なく、そこから連載デビューできた作家はさらに少ないものとなっています。現在も連載を続けているデビュー作家となると、「はじめての甲子園」の火村正紀、「君と僕。」の堀田きいち、このふたり程度しかいません。あるまるみさんは、このふたりに続く久々のデビュー作家ではあるのですが、しかしその作品は、素直に面白いとは言い切れないところもあります。
 そもそも、投稿時代の4コマ版「ネルガル」からして、それほど面白い作品とは思えませんでした。確かに、他の作品に比べれば読めるものはありましたが、それは、他の作品のレベルが著しく低いからという理由が大きく、雑誌での連載ギャグマンガと比べれば、やはりそれほどの力はないと感じました。「投稿作品としてはそこそこ面白い部類だが、連載デビューするまでの力はないかな」という程度の認識だったのです。

 しかし、この作品は、読み切り掲載の後、比較的すんなりのデビューすることが決まってしまいました。なぜ、ガンガン編集部が、このマンガをそこまで評価したのかはよく分かりません(もしかすると、読者アンケートでの結果が良かったのかもしれません)。そして、実際に連載化された作品を見ても、ほぼ連載前に予想した範囲の出来であり、「ギャグ連載としてはいまひとつかな」という位置にとどまっているように思えるのです。


・主人公と暴走キャラとの掛け合いは確かに面白い。
 肝心の内容ですが、「『暗黒魔導士』として恐れられるネルガルという男が、なぜか無実の罪で死刑囚として監獄に収容され、そこで必死に脱獄を試み、日々笑える悪戦苦闘を繰り広げる」というものです。

 凶悪な魔道士ということで、呪文が使えないように口をふさがれているネルガルは、常にフリップのような紙に文字を書いて意思の疎通を図ろうとします。しかし、担当の看守であるサニーは文字を読めず、しかも常にありえない解釈でネルガルの訴えを受け取り、ネルガルを散々苦しめます。この、意思疎通がずれまくった漫才的なやり取りと、それに悩まされるネルガルのリアクションが、かなり面白い。サニーの能天気で空気の読めないハチャメチャな言動は、作品にやたら明るい雰囲気を提供しており、「凶悪な囚人たちがいる監獄」という重苦しいはずの設定とは裏腹に、底抜けに明るい作風のマンガとなっています。

 さらには、そんなサニーの言動にリアクションして取ったネルガルの情けない行動が、なぜか周りの衆人や看守に「異常な凶悪犯の恐るべき行動」だと勘違いされ、恐るべき凶悪殺人者として祭り上げられていく様も、また面白いところがあります。ネルガルは、『暗黒魔導士』という触れ込みとは正反対に、善良で小心者な男であり、戦闘能力は(多分)ほとんどありません。しかし、そんなネルガルへの実態とかけ離れた見立ては回を重ねるごとにどんどんひどくなり、ついには 凄まじい異常者として囚人たちのトップへと祭り上げられてしまい、凶悪な囚人たち全員が平伏するような展開へとエスカレートしていきます。このあたりで、どんどん小心者のネルガルが周囲の勘違い祭りで追い詰められていく展開には、これ単体を見れば確かに面白いところがあります。


・しかし、このギャグはどこかで見たような。
 ただ、少々気がかりなのは、このような「小心者が勘違いされて周囲に祭り上げられる」タイプのギャグマンガ、それもかなりの人気マンガを、これまでに見たことがあることです。それは、あの「デトロイト・メタル・シティ」ですね。

 この「デトロイト・メタル・シティ」は、ヤングアニマルで2005年より連載中の作品で、ネットでの口コミで爆発的にヒットしたマンガです。メタルが嫌いな主人公が、本人の意に反してなぜかデスメタルバンドの凶悪なリーダーとして祭り上げられてしまう、というような内容で、周りに祭り上げられて引くに引けなくなった主人公の悲惨な境遇と、そのバカバカしいリアクションが、なぜかネットで大いに受けまくり、いきなり大ヒット作に祭り上げられてしまうのです。

 そして、この「閉ざされたネルガル」のギャグも、「デトロイト・メタル・シティ」と共通したところがあり、小心者の主人公が勘違いで徹底的に祭り上げられるところなどは、まさにそのままの感があります。その点で、どうにも二番煎じの感が拭いきれません。もし、これが、大きな前例のないギャグだったら、素直に笑える作品になっていたと思うのですが、「デトロイト・メタル・シティ」を少し前に知ってしまった状態では、さすがに新鮮味には欠けるところがあるなと感じます。

 さらには、「デトロイト・メタル・シティ」の方は、主人公が周りの勘違いで引くに引けなくなり、凶悪な言動を嫌々ながらあえて取ってしまうというところに面白さがあるのですが、この「閉ざされたネルガル」の場合、主人公はただ弱りきって暴れるようなリアクションを見せるだけで、ドタバタで終わってしまっているところに、ネタとしての弱さを感じます。また、「デトロイト・メタル・シティ」の方は、昔の青年誌を思わせるようなアクの強い作画で、それが妙に強烈な印象を残すギャグマンガとなっているのに対し、この「閉ざされたネルガル」の作画は、シンプルでさして特徴のないものにとどまっているのも、物足りなさを感じる一因かもしれません。総じて、同じタイプのギャグでも、この「ネルガル」の方は、ちょっとインパクトが弱いなと感じてしまいました。


・悪い作品ではないが、今ひとつの連載にとどまっている。
 上記の通り、この「閉ざされたネルガル」、確かにそこそこ面白いギャグマンガではあり、主人公を中心とする漫才的な掛け合いや、小心者の主人公が祭り上げられる展開には、一定の面白さがあります。決して悪いマンガではないでしょう。

 しかし、その一方で、今ひとつの作品ではないかと思えるところもあり、ガンガンの連載マンガとしては少々弱いのではないかとも感じてしまいます。ギャグネタにも既存の作品に近いものがあって新鮮味に欠けるところがあり、ギャグ自体の爆笑度も少々物足りないものがあります。明るいノリのギャグとキャラクターで、割と気軽に読んで楽しめる作品ではあるのですが、もっとこうガツンとくるギャグのインパクトには乏しい。少なくとも、「清杉」や「ワルサースルー」のようなレベルのマンガではないですし、連載をある程度重ねた今となっても、ガンガン内で大きな注目を集めてはいないようです。読者の方としても、「そこそこ悪くないマンガ」と思っている人は多いでしょうが、特にこのマンガを熱心に追いかけて読んでいる人となると、さすがに多くないのではないでしょうか。

 さらには、そもそも投稿時代の状況からして、連載化するほどの力を持つ作品だったのか疑問の作品でもありました。そして、実際に連載を重ねた今となっても「まあ想像した程度の内容だったかな」というレベルの作品にとどまっている状態で、なぜこのマンガを連載化したのか、やはり編集部の決定には少々疑問が残ります。
 ただ、ひとつ気になることとして、なぜか「このマンガもマニア系女性読者に受けているのでは?」と思える節があります。ネット上を巡っても、意外にもこのマンガを採り上げている女性読者が多い。作画などから受ける印象では、かなり意外にも思えるのですが、実は女性に受けるマンガとして連載しているのでしょうか。「鋼の錬金術師」のヒット以来、ガンガンではこの手の女性読者がかなりの割合を占めていると思われますが、もしかするとこのマンガも「はじめての甲子園」や「ブレイド三国志」のように、女性読者の人気を狙っているところがあるのかもしれません。

 もちろん、そのことが決して悪いわけではありませんが、しかし本来的な作風とはかけ離れた人気のようで、これも気がかりです。やはり、ギャグの面白さ・インパクトをもっと追求すべきではないでしょうか。ガンガンは、かつては「ギャグマンガが面白い雑誌」として知られ、雑誌を支える面白いギャグマンガの連載が常に見られたのですが、このマンガはまだその域には達しておらず、そこそこの連載にとどまっているように感じられます。


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