<鬼切様の箱入娘>

2007・1・26

 「鬼切様の箱入娘」は、少年ガンガンの不定期連載で、2007年3月号から不定期で数カ月に一回程度のペースで連載されています。元々は読み切りとして2006年7月号に掲載され、その後前後編で2カ月に渡るもう一度の読み切りを経て、不定期連載へと昇格してきました。作者は、あの「東京アンダーグラウンド」で有名な有楽彰展で、その連載終了後1年あまりの時を経ての再登場となりました。

 「東京アンダーグラウンド」は、1997年から2005年に連載されたガンガンの一大長期連載作品であり、アニメ化まで達成した人気連載でもあったのですが、中盤以降絵柄が大きく乱れ、終盤の頃は内容的にも芳しくなくなるなど、連載後期で質の低下を招いた感は否定できませんでした。作者自身も苦しんで描いていた感が窺え、ようやく連載を終了させた後は、もうしばらくは執筆を再開するのが難しい状況にあるのではないか・・・と思われました。
 しかし、その後1年あまりの時を経て、この「鬼切様の箱入娘」の読み切りで再登場を果たすことができ、かつての読者の間では安堵の声も聞かれました。ただ、マンガの内容については、かつての「東京アンダーグラウンド」とは大きく雰囲気が異なる作品となっており、かつての読者にとってはやや残念なところがあるかもしれません。特に、「東京アンダーグラウンド」後期以降大きく変わり続けた絵柄は、この「鬼切様の箱入娘」において、さらに大幅な変化を遂げており、まったく印象の異なるビジュアルになったように思われます。

 もっとも、これはこれで作者の成長の跡が感じられる絵にはなっていますし、内容も現代に甦った鬼の娘を中心とする日常ラブコメといった感で中々に読めるものとなっており、決して悪い作品ではありません。ただ、現在のところは不定期連載で掲載ペースがかなり遅いのが気がかりであり、雑誌内でもさほど盛り上がってはいないように思われます。内容面でもやや作画で人を選び、少年誌的な日常ラブコメも設定的にはよく見られるもので、大きなインパクトには欠けるところがあります。そのため、この作品を正式連載化すべきかは難しいところだと思えます。


・大幅に変化した絵柄。
 まず、この作品を見て誰もが感じることは、やはり作者の絵柄の変化でしょう。「東京アンダーグラウンド」で有楽さんを知っていた人(大半のガンガン読者がそうだと思われますが)にとっては、この「鬼切様の箱入娘」の絵は、相当に「変わったな」と思えるのではないでしょうか。「東京アンダーグラウンド」の時代でも、初期と後期の絵では大きな変化があり、まるで別のマンガとも思えるような状態でした。そしてこの「鬼切様の箱入娘」の絵は、一応は「東京アンダーグラウンド」後期の絵の流れを引き継いでいるのかもしれませんが、しかしその変化の幅はさらに激しいものとなっています。

 具体的には、なんというか妙に肉感的な絵になったというか、随分と生々しく大人びたところも感じられる絵になったと思います。 「東京アンダーグラウンド」初期の頃の、シンプルですっきりしたラインの絵で、かわいいキャラクターが見られた頃とは、まったく方向性が異なるように見えます。 その頃に見られた萌え系の絵の特徴はほとんどなくなり、完全に少年マンガ的な絵柄となって、男性キャラクターの力強さや女性キャラクターのエロ・お色気要素が強く出た絵になりました。
 特にそれが感じられるのが、主人公の男の子の父親でしょうか。典型的な肉体派のオヤジキャラクターで、筋肉の描き方に異様に力が入っているのが嫌でも読者の目に飛び込む有り様で(笑)、このマンガの絵柄を象徴するキャラクターになっているようです。一方で、女性キャラクターのエロ・お色気を感じさせる描写も多く、主人公の年上の幼馴染であるゆり姉のエロい躰(乳描写)などに、それが特に表れています。

 このような絵柄は、かつて人気を得た「東京アンダーグラウンド」初期の絵とは大幅に異なるため、その頃からのファンの読者にとっては、大きく好みが割れるかもしれません。しかし、絵そのものはかつてより高いレベルで安定しており、「東京アンダーグラウンド」後期のような乱れも見られなくなりました。それでも掲載初期の頃は、ベタが間に合わなかったのか白いままの原稿が目立っていたのですが、最近はそれもなくなり、ようやく作者の絵がひとつの形に完成されたように思います。


・かつて封じた鬼の娘と現代の子供との交流を描く。
 次に内容についてですが、最初の読み切りの時のストーリーは、主人公の男の子(綾史)が、かつて自分の先祖(耶櫃)が封じた鬼の娘(千沙耶)の封印を偶然解いてしまうという話になっていました。このときは、封印を解かれた千沙耶が、綾史をかつて自分を封印した耶櫃だと思い込んで必死になって抵抗 しようとしますが、優しく接しようとする綾史や彼の両親たちの願いを聞き、最後には現代で生きていくことを決意するという、中々に感動できる話になっていました。

 このような話は、いわゆる女の子の人外ヒロインが主人公の元にやってくるという、同居ものラブコメに近い設定ではありますが、この話はそれを一回り越えるような良質な話になっていたように思えます。かつての先祖である耶櫃も、鬼斬りの刀に宿る魂として綾史や千沙耶を見守るために登場し、主人公とは一味違った大人の視点で助言を与えるところでも、物語に深みを与えています。主人公やヒロインだけでなく、父親や母親、耶櫃のような年上のキャラクターにも個性が窺えるいい話でした。読み切り最初の話としては、かなりの好印象であり、これがのちに再度の読み切りとして登場し、不定期連載まで達成した契機となったことは間違いないでしょう。

 ただ、前述のように、この読み切りの時には、ベタが間に合わなかったのか真っ白い作画が目立ち、見た目の印象は決してよくありませんでした。この状態、最初の読み切りだけでなく、しばらくの間続くこととなり、作者の「東京アンダーグラウンド」後期からの不調の継続を思わせるには十分でした。また、絵の変化も初期の頃はかなり違和感が強いもので、人によっては抵抗を覚える肉感的なものだったことも、その印象に拍車をかけていました。そのため、最初の印象としては五分五分であり、話は中々良いものの、ビジュアル面ではいまいち抵抗が強かったことを記憶しています。


・良質な日常のラブコメではあるが、不定期連載で雑誌での盛り上がりには乏しい状態か。
 そして、最初の読み切り後に続く話は、完全に綾史らと打ち解けた千沙耶が、現代の日本で子供たちと生き生きと交流を重ねる話となり、かつ綾史を慕うヒロイン以外の女の子も登場することになり、完全に日常系のラブコメになった感があります。これはさほど目新しいタイプの作品ではなさそうで、昨今のガンガンではよく見られる、少年マンガ的なラブコメのひとつとなってしまった感もありました。

 しかし、それでも日常に溶け込んでいく人外の少女を丹念に描いていくスタイルは好感が持てるもので、毎回のエピソードにも生き生きとした面白い話が多いようです。ひとりひとりのキャラクターがよく動き、回を重ねるごとに安定してきた絵にも力があるのがその理由でしょうか。さすがにベテラン作家の作品だけあって、昨今のガンガンの同系作品よりもレベルは高いように感じられます。ペースの遅い不定期連載で、雑誌での盛り上がりには欠け、連載では大きな話題にはなっていないのですが、しかし先日発売されたコミックスにおいては、中々にいい評価を得られたようで、ガンガン外のマンガ読者にも好評だったようです。やはり、少年誌的なラブコメということで、その中でも安定して読める良質な作品だと思われたのでしょう。

 ただ、ガンガンを雑誌で追いかける読者としては、さほどの盛り上がりに欠ける今の状態は、あまり印象は強くなさそうです。ただでさえ数カ月に一回というまれな掲載頻度で、かつ雑誌内ではありがちな少年誌系のラブコメであり、しかも作者のかつての圧倒的人気作品「東京アンダーグラウンド」からはかけ離れてしまった雰囲気や方向性などから、強く熱心にこのマンガを追いかける読者は、さほど多くないのではないでしょうか。読んでみると決して悪くない連載ではあるものの、今の段階ではさほど雑誌のラインナップには貢献していない状態でもあると言えます。


・不定期連載を本連載に格上げするべきか、迷う作品。
 ただ、ここまで長くペースの遅い不定期連載を続けているところを見ると、それには何か理由があるのかもしれません。本連載するまでにはまだ力がないと思われているのかもしれませんし、あるいは、作者の有楽さん個人の事情で、あまり早いペースでは描けないでいるのではないかという推測も出来ます。そのため、いまだに雑誌内で中途半端な状態に置かれていることも事実でしょう。

 内容的にも、確かに中々良質なラブコメ作品になっているようで、コミックス1巻も好評を得たようですが、しかし雑誌の読者にとってはどうか。さほど多くの人気を得られてはいないのが現状ではないでしょうか。そしてこれも、不定期連載から正式な毎号連載へと、中々格上げされない理由になっているのかもしれません。もし、本当に雑誌読者の高い反響があったのなら、すでに本連載化されていてもおかしくはないでしょう。しかしそれはなされず、最初の読み切り掲載ののち、まずは前後編の読み切り掲載、そして次にペースの遅い不定期連載化と、まるで様子を確かめつつ進むかのような展開を採っています。これを見る限りでは、ガンガン編集部にもいまだ連載作品としては不十分との判断があるのかもしれません。

 私的にも、果たしてこれを正式連載にまですべき作品なのか、迷うところがあります。少なくとも、現時点では、かつての「東京アンダーグラウンド」ほどの人気を得られていないことは明白でしょう。内容的にも中々良質とはいえ少年誌的なラブコメで、昨今のガンガンでは似たような作品が多く、インパクトには欠けます。「東京アンダーグラウンド」とも大幅に異なる方向性の作品で、かつての読者が求めたような内容ではありませんし、かといって今の読者に大きく支持されるかも分かりません。かつてとは異なる肉感的な絵柄にも、人を選ぶところがあるように感じられます。このあたりのことから、これを本連載化しても、さほど大きな成功を収めることは難しいようにも思えるのです。

 とはいえ、今のペースの遅い不定期連載を、いつまでも続けても発展性には欠けますし、何とかする必要はあります。本連載化してペースアップすることで、勢いを得て内容がよくなることも考えられますし、一度本連載にしてみるのも悪くないかもしれません。あるいは、最後まで不定期連載として、コミックス数巻程度の発売をもって終了させるのか。難しい状態の作品であると思います。


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