<RUN day BURST>

2009・5・16

 「RUN day BURST」は、少年ガンガンで2008年12月号から開始された連載で、同誌では久々となるストレートな「少年マンガ」作品での新連載と言える作品です。少年マンガとは、いわゆる少年向けのバトルやスポーツ、冒険などをテーマにした王道的とも称される作品のことで、最近の(お家騒動以後の)ガンガンがひどく強く志向していた作品であり、特に騒動後の初期の頃は、何本も同じ系統のマンガを企画しては連載してきました。このマンガもまさに典型的な作品で、世界を股にかけたカーレースを扱ったレースマンガと言えるものになっています。

 しかし、今のところ、そんなマンガで成功したものは多くなく、しかもガンガン自体も数年後には若干の路線の修正を行ったようで、この系統ではないマンガも幅広く採り入れるようになり、必ずしもストレートな少年マンガが多くを占めるような雑誌ではなくなっていきました。むしろ、同じ少年マンガ的な作品でもややマニア向けだったり女性向けだったり、あるいはエロや萌えを重視した作品だったり、メディアミックスを重視した企画だったり、あるいはまったく別の系統の作品だったりと様々で、このようなまっすぐに少年マンガを志向した大型連載となると、(パワードから移籍してきた「獣神演武」「仕立屋工房」を除いては)ここ最近では久々の登場かもしれません。

 作者は長田悠幸(おさだゆうこう)で、かなり以前より他社で何度も連載を行ってきた作家です。講談社での連載が多く、中でも2005年に週刊少年マガジンで連載された「トト! the wonderful adventure」は、あの週刊マガジンでの連載と言うことで知名度はかなり高く、このマンガで作者を知っている人もかなり多くいたようで、一部では「あの長田悠幸がガンガンで連載」というような話題にもなったようです。
 作風は昔から極めて王道的で、男らしいキャラクターが奮闘する少年マンガ作品を最も得意とするようです。前述の「トト」もそうですし、この「RUN day BURST」もまったく変わらぬ同じような作風です。最近では古風とも言える作風で、今のガンガンはまだこのようなマンガを志向していたのか・・・と思ってしまいました。

 しかも、外部からこのような作家を引っ張ってきたのも意外でした。今ではガンガン系でデビューを目指す新人でも、王道系の少年マンガを描くものがかなり多数見うけられるため、そちらの作家を起用するのが自然とも思えました。ただ、そちらからもすでに多数の連載や読み切りが出ているので、今度は外からベテランの作家を起用してもいいのでは、という流れになったのかもしれません。

 内容的には、さすがに古風すぎて新鮮味には欠けるところがあり、設定や展開でも(特に初期の頃は)あまりひきつけられるものがありませんでした。しかし、これまで連載を重ねてきたベテラン作家の実力も感じられ、連載を重ねるにつれて少しずつながら次第に面白くなってきたように思えますし、これから期待できるかもしれません。


・どこまでも王道的な少年マンガ。
 それにしても、このマンガは、これまでのガンガンの同系のマンガと比較しても、特に王道を強く意識した内容になっているようです。ガンガンでも、お家騒動以後の比較的初期に打ち出された「マテリアル・パズル」「666(サタン)」「女王騎士物語」らの作品と同じくらい少年マンガを強く志向しており、あるいはこれらのマンガをも上回っているかもしれません。それも、作者の長田悠幸自身が強くこのようなマンガを望んで描いているようで、その点ではまったくこの作者らしい作品となっています。

 主人公にしてメカニックの少年・バレルや、彼をレースに誘うぶっきらぼうで破天荒な謎の男(レーサー)・トリガーの姿にも、それが最も強く表れているようです。バレルは、男らしい生き方にあこがれる少年として、「男なら一番になれ」という父親の言葉を胸に抱いて、大志を持ってこのレースに参加する姿が強調され、あるいはトリガーの方も、破天荒で無遠慮な生き方を標榜するかっこいい生き方を標榜するような男として描かれています。このあたりは、まさにストレートに王道的なキャラクター設定とも言えますし、ガンガンの同系のマンガの中でも特に際立っています。あるいは、ガンガン系以前のはるか昔のマンガの方に近いかもしれません。

 成り行きでふたりに同行することになる婦人警察官・シリンダもまた、少年マンガではよく見られるお色気担当のハプニングキャラクター、あるいはお目付け役のお姉さん的なキャラクターになっています。冒頭第1話でのレース直前に裸になってしまうハプニングなどは、まさに少年マンガそのものといった感じの展開です(人によってはやや抵抗を感じるシーンかもしれません)。
 「世界を股にかけたレース」という舞台設定も、また少年マンガ的です。「タイヤで走るならどんな車でもどんなルートでもOK。地球の反対側のゴールまで500台の個性的な参加車が参加する巨大レース」という設定で、いかにも破天荒な作風を最初から打ち出しています。参加するキャラクターたちもひとくせもふたくせもありそうな男らしいキャラクターが多く、こちらでも同じような雰囲気を漂わせています。

 このような作品ですので、連載が開始された頃は、このマンガに注目する読者は決して多くありませんでした。ガンガンは、少年マンガを志向しているとはいえ、ここまで古風な王道全開の作品を求める読者は多くなく、当初はほとんど話題にものぼりませんでした。わずかに、かつてマガジンで連載していた長田悠幸がガンガンで連載、ということがちらほら会話にのぼる程度で、それ以上の読者の動きは見られなかったと思います。


・トリガーがとっつきづらいキャラクターになっているのも難点。
 さらに、単に印象に残りづらいだけならまだしも、序盤のうちはやや抵抗を感じるような内容になっているのも、注目を集められなかった大きな要因かもしれません。

 具体的には、主人公のバレルをレースに誘うドライバーの男・トリガーの言動でしょう。最初のうちからあまりにも高圧的で破天荒、周りの迷惑を顧みないところがあり、決して初見の印象がよくありません。作中のシリンダのセリフを借りて言えば、「いつもヘラへラ悪態ついてその場限りの薄い会話 カッコつけてんのか照れくさいのか知らないけど 本音の会話もできない人とは友達になれない」ようなキャラクターで、実際にそのような行動がひどく目立ちます。しかも、そのような行動が連載序盤で数話の間長く続き、中々変わろうとしないため、読者の方としてももどかしさがつのります。さすがにここまでとっつきづらいキャラクターがひとりメインキャラクターにいるとなると、それだけで読み進めるにあたってひどく抵抗が強くなります。

 少年マンガとして考えても、ここまで感情移入しづらいキャラクターが、最初から前面に出続けるのは少々考え物でしょう。少しくらいいいところ、柔軟なところが見られれば随分と印象も変わるのですが、開始してしばらくの間は一貫してそのような言動を取り続けるので、読者としても感情移入のしようがありません。

 このようなトリガーの言動は、しばらく連載が進んだあとに次第にその内実も明らかにされ、他のキャラクターと出会うことで変わっていくようにも思えますが、そこまでの時間が長すぎるように思えます。キャラクターの成長の表現がやや遅いというか、典型的なスロースターターの連載とも思えるところがあり、最初からぐいぐいとキャラクターに惹きつけられてはまるような作品とは思えないのが残念なところです。しかも、月刊連載のガンガンでは、そこまで行き着くのに数ヶ月以上の期間を要するため、途中であきらめて読むのをやめる読者もいるのではないかと懸念してしまいます。


・しかし、作者の実力は確かなものがあり、連載を重ねるにつれ面白さが感じられるようになった。
 このように、初見の印象では、古風でありがちすぎる作風で印象に乏しく、かつ抵抗の強いキャラクターも見られるなど、中々序盤からはまることが難しい作品になっており、あまり話題にならなかったのもよくわかります。他のガンガンの同系少年マンガでも、成功した作品は決して多くなかったため、この作品も同じようなものになるのではないかとも思いました。しかし、しばらく連載が進むにつれ、次第に面白さも見られるようになり、それに伴って作者の本来の実力も感じられるようになりました。

 具体的には、トリガーのライバル的なキャラクターである、ピースメーカーという青年が登場してから、少しずつ作品の空気が変わり始めたような気がします。このピースメーカー、一見して貴族のおぼっちゃん的なキャラクターにも見えるのですが、実は厳しい過去を何度も体験しており、そのために謙虚で実直な性格を持ちあわせ、サポート役の使用人たちとも家族のような結びつきを果たしている優秀なレーサーとして描かれています。
 そして、彼がトリガーとも過去に因縁を持っているキャラクターとなっていて、このふたりがレース途中で邂逅を果たすことで、いままであまりにも破天荒でとりつくしまもなかったトリガーの方も、少しずつその内実、内面が分かってくるような展開を迎えます。このピースメーカーが登場することで、トリガーにも見るべきところが出てきたと言えるでしょう。
 ライバル役のピースメーカーの掘り下げも良く出来ていて、過去に体験した辛い出来事と、それを乗り越えて使用人たちと家族のような結びつきを果たし、このレースに一丸となって望んでいる強い姿勢がよく表現されています。その過去にトリガーも一役絡み、ピースメーカーをかつて一度助けた事情も明かされ、ここでようやくトリガーの方の掘り下げも期待できる内容になってきました。

 このように、ようやく期待できる展開になってきたところで、作者の絵を中心とした実力も、改めて顕著に感じられるようになりました。元々、ベテランだけあって絵のレベルはかなりのものがあり、思い切った構図やキャラクターの造形でありながら、それが崩れることなくアクティブな画面を作り上げています。このあたりのベテランらしい卒のない作画能力は安心して見られるところがあり、ガンガンの同系の新人作品よりも上回っていることは間違いないでしょう。


・今後人気が出て成功するかどうかは未知数だが、期待できると思う。
 このように、最初の印象は決してよくなかったこの「RUN day BURST」ですが、進むにつれて少しずつ面白いと感じられるようになり、作者の実力の片鱗も垣間見えるようになったと思います。他にもレースに参加する個性的なライバルたちも何人か登場し始めているようで、そちらの方もクローズアップされるようになれば、さらなる物語の発展も見込めると思います。少なくとも、当初の印象からは随分と良くなってきましたし、今後も期待できる可能性の方が高くなってきたと思います。

 ただ、さすがにこの手のマンガが、今後大きな人気を得られるかは、微妙なところでしょう。このような連載が、今の時代に大きな注目を集めるとは思えません。このところのガンガンは、以前より執拗にこのような王道少年マンガを求め続けていますが、これは現実を人気を踏まえたものとは思えず、また「昔の少年マンガを今の時代に合わせて、新しい魅力ある作品を作り上げていこう」というような柔軟な企画にも感じられず、ただ単に昔のマンガが好きで忘れられない編集者が、そういったマンガを求め続けているだけのような気がします。
 これは、ガンガンのみならず、昨今創刊された少年マンガ志向の雑誌「少年ブラッド」「少年ファング」「少年ライバル」などにも共通しているように見えます。これらの雑誌のうち、ブラッドとファングはすでに休刊され、講談社の鳴り物入りで始まったライバルも、いまのところ芳しい成果を上げてはいないようです。そしてこのガンガンも、雑誌自体はまだ堅調なようですが、この手の少年マンガ作品では成功したのは一部のみで、不成功に終わっている作品の方が多くを占めています。

 この「RUN day BURST」もまた、そのような作品の一部であることは間違いないところで、やはりこのような企画自体には少々疑念を感じます。しかし、この作品の場合、ベテランの作者の実力には確かなものがあり、スロースタートながら少しずつ面白さが見えてきている状態なので、このままじっくりと連載を重ね、健闘していってほしいと思います。ここ最近のガンガン本誌の少年マンガ系作品の中では、中々に有望さが見える作品なのではないでしょうか。


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