<Red Raven>

2011・10・6

 「Red Raven(レッドレイヴン)」は、少年ガンガンで2010年5月号より開始された連載で、同年に相次いで始まった少年マンガ作品の一角に当たります。この5月号の「Red Raven」を皮切りに、7月号では「スカイブルー」、9月号では「HELL HELL」と、やはりいずれも少年マンガ作品が相次いで始まり、しかも中々の力作揃いで、ガンガンの少年マンガのラインナップが充実してきた感があります。中でも、最初に始まった「Red Raven」は、少年マンガらしい派手さやケレン味はさほどでもないものの、反面じっくりと読ませるストーリーと整った絵柄が特長の、手堅い一作となっています。

 作者は、藤本新太。整った綺麗な絵柄が特徴で、最初は女性作家なのかとも思っていたのですが、ペンネームどおり男性のようです。こういった丁寧な絵を描く男性作家は中々に貴重な存在かもしれません。特に、ガンガンでは、仕上がりが雑で見た目がいまひとつなマンガが目立っていたために、これには大変好感が持てます。

 肝心の内容ですが、近代欧米的な世界を舞台に、街を牛耳るマフィアたちの抗争とそれを取り締まる政府の殺し屋たちの活躍を描く物語となっていて、こちらもガンガンではかなり珍しい設定の作品となっています。ガンガン以外のスクエニ雑誌では、過去にいくつか同系の作品が見られましたが、ガンガンではほぼ初めてではないか。こういった毛色の異なる作品が登場し、連載の幅が出てきたのはよい傾向でしょう。マフィアたちの抗争とそこに宿る愛憎劇、そして政府に雇われたマフィアの粛清人たる主人公たちの活躍、とりわけ「スキャッグス」と呼ばれる特殊能力武器を使ったバトルシーンが、最大の見所となっています。

 今のところ、ガンガンの新連載の中では若干目立たない存在で、最も強く押し出されている「スカイブルー」と比べるとやや注目度は低いようですが、これも決して悪い作品ではありません。手堅い作風でこれからのガンガンの期待できる一作となっていると思います。


・西欧近代を舞台にした新人作品は珍しい。
 上述のように、この「Red Raven」、近代欧米的世界を舞台にしてマフィアやギャングが登場する悪漢ものとも言える作品で、これは映画や小説では定番の娯楽ジャンルとも言えます。しかし、スクエニの昨今の作品、とりわけ新人の作品では、このような作品はかなりの少数派でした。

 ここ数年来の新人の目だった特徴として、「現代日本を舞台にした伝奇もの」が非常に多いことが挙げられます。マンガ賞に際して、選考に当たった編集者が「最近の新人作品はとにかく鬼や妖怪や神を退治するものが多い。それも大抵その鬼はみすぼらしい服装と容姿をしている」とコメントを発したこともあり、まさにそのとおりの現状をよく表してしました。

 これは、今の新人の幅の狭い創作の現状をよく表していて、決していい状態ではないと思いますが、そんな中でも、わずかにこの「Red Raven」のような西洋を舞台にした作品もありました。

 まず、これは新人の読み切りで、現在ガンガンで「屍姫」を連載している赤人義一のデビュー作「MYSTIC CONNECTION」があります。近代アメリカを舞台に、魔術やオカルトが登場するバトルもので、デビュー作ながらかなりの面白さを有していました。その後連載される「屍姫」が、典型的な伝奇ものとなっていただけに、この「MYSTIC CONNECTION」がもし連載化されていたらどうなったのか気になります。
 連載作品では、少し前までガンガンJOKERで連載されていた檜山大輔の「メガロマニア」があります。亜人という人間とは異なる種族が登場するファンタジー作品ではありますが、その舞台はまぎれもなく近代のアメリカをモチーフにしていて、ギャングやマフィアが登場、亜人に対する差別(人種差別)という現実的なテーマを大きく採り上げた社会派の作品となっていました。相当な力作だったのですが、今は他の連載のために中断してしまっているのが残念なところです。
 もうひとつ連載作品で、ヤングガンガンの「JACKALS」があります。韓国作家のキム・ギョンジンの濃い絵柄が印象的なバイオレンスアクションで、売れ線とは言えませんでしたがこれもかなりの力作だったと思います。こちらも南北戦争後のアメリカの犯罪都市を舞台にした、典型的なマフィア・ギャングものとなっていました。

 こうしてみると、少ないながらも、スクエニでもこの手の作品が登場していることが分かります。しかし、全体的に大人向けの印象もあるからか、ガンガンの連載ではこれまで登場してきませんでした。しかし、ここにきて、ようやくこの「Red Raven」が登場。これまでの作品同様、マフィアやギャングたちが登場する点で、ガンガンでも若干高年齢向けと言えますし、それと同時にやはり少年マンガ色も強い一作となっています。


・ケレン味は少なく、じっくりとエピソードを描く手堅い作風。
 さて、この「Red Raven」ですが、やはりマフィアたちが大きくストーリーの中心となっています。しかも、マフィア組織が絶大な力を持ち、政府に変わって国を支配するような世界となっており、政府は存在するものの弱体化著しいという極端な状態。そんな中で、政府が唯一マフィアに対抗する武力として作り出した殺し屋組織「Red Raven(赤い鴉)」に属する殺し屋の少年・アンディが主人公となっています。

 彼が処刑器具と呼ばれる特殊な武器を駆使して、悪辣なマフィアの構成員たちと闘うバトルアクションこそが、この物語の中心ですが、敵対するマフィアたちの動向にもみるべきものがあります。マフィアたしは、確かに世界を非合法的に支配していますが、しかしそこに属する人々が、必ずしもすべて悪いわけではありません。マフィアとはいえ市民から支持を得て、決して悪いとは言えない幹部もいますし、一方で悪辣にひたすら力を求めるものもいる。そんなマフィア組織同士の抗争、あるいは同一の組織内での内部抗争と、それに伴う愛憎劇もまた、物語の大きな見所となっています。少年マンガとはいえ、ケレン味たっぷりのキャラクターや突飛すぎる展開などはほとんど見られず、じっくりとエピソードを描く手堅い作風となっています。登場する人物の多くが、ある程度年をとった成年たちであることも、落ち着いた作風を後押ししています。

 最大の見所であるバトルアクションもそうです。主人公や敵対者たちが操る「スキャッグス」と呼ばれる特殊な武器、その形状からして異様な武器を駆使した独特の闘いを丹念に描いています。特殊な武器という点では、かつてのヤングガンガンの「JACKALS」を彷彿とさせますが、あちらが迫力重視の過激なバトルシーンだったのに対して、こちらの方はよりじっくりと攻防の駆け引きを描いている印象です。

 こういった作風は、同時期に始まった「スカイブルー」とは対照的な印象を受けます。あちらの方が、キレた個性を持つケレン味たっぷりのキャラクターと、超ド派手なバトルシーンが全面に出ているのに対し、こちらは同じ少年マンガでもより落ち着いた作品になっています。派手さには欠けるものの、じっくりと物語を読みたい人に薦められるマンガになっていると思いますね。


・ここまで整った絵柄を描く男性作家は珍しい。
 そしてもうひとつ、このマンガの特長と言えるのは、極めて整った丁寧な絵柄です。これは、同時期の同系の作品の中でも、とりわけ目立ったものとなっています。

 ガンガンのこれまでの少年マンガ作品を見ると、とにかく仕上がりが雑で汚く感じてしまう絵の作品が多く、これが評価を大きく下げる一因となっていました。これは、スクエニのほかの雑誌ではあまり見られないもので、ガンガン以外の雑誌の方が、ずっと丁寧な絵柄の作品が揃っています。ガンガンの編集部としては、こういった絵柄でも少年マンガらしい勢いや迫力があれば合格と考えているのかもしれませんが、個人的にはあまりいい傾向とは思えません。

 しかし、そんな中でこの「Red Raven」の絵は、極めて仕上がりが丁寧で綺麗な絵柄になっています。これについても、「スカイブルー」とは対照的で、あちらの方が少年マンガらしい勢い重視で、かなり荒々しい絵柄になっているのに対して、こちらはキャラクターの造型も背景も緻密によく描けています。同じ少年マンガでも、絵に対するアプローチが大きく異なるのが面白い。

 実は、当初、このような絵を描く作者の藤本さんは、女性ではないかと思っていました。男性キャラクターが美形や美少年揃いで、女性読者に好まれそうな外見をしたものが多かったのも、そう考えた大きな理由です。過去に、こういった少年マンガを描く女性作家を多数見ており、特に昨今の週刊少年ジャンプを始めとするメジャー誌でも、そうした絵の作家が珍しくないために、このマンガも女性の作家だとばかり思っていたのですが、作者は男性だと聞いてかなり驚きました。このような整った絵の少年マンガを描く男性作家はかなり珍しい。これは大変貴重な作家ではないでしょうか。


・若干女性向けのイメージも感じるが、決して悪くない。ガンガン期待の少年マンガの一角。
 そういった絵柄ゆえか、これまでこの「Red Raven」、ある程度女性読者に好まれるマンガなのかなと思っていました。上でも書きましたが、主人公を始め男性キャラクターが美形や美少年揃いで、女性読者に好まれそうな外見をしたものが多いことが、その大きな理由となっています。
 最近、というかもうずっと前から、ガンガンは女性読者を意識しているようです。きっかけは「鋼の錬金術師」の大ヒット、それも女性読者に熱心なファンが多数登場したことで、それ以降女性読者に読まれるマンガを多数打ち出してきているようです。この「Red Raven」や、あるいは同時期の「スカイブルー」「HELL HELL」も、女性読者にかなりの支持を得ているようで(特に「スカイブルー」は既に相当な人気があるそうです)、とりわけ少年マンガにおいてそのような特徴が顕著になっています。

 しかし、そのようなマンガが、決して悪いわけではありません。特に、この「Red Raven」、3つの中でも最も手堅く真面目な作風で、むしろ誰でも受け入れやすい作品になっているのではないでしょうか。マフィアの抗争を扱っているということで、高年齢の大人でも十分に楽しめると思います。かつてのJOKERの「メガロマニア」やヤングガンガンの「JACKAL」のような、青年誌掲載の高年齢向けのニュアンスを持つ作品が、ガンガンでも登場してきた。これは、ガンガンの連載に幅が出てきたという点で、かなりいい傾向ではないかと思います。

 今のところ、ガンガンの最近の少年マンガでは、「スカイブルー」の一押し状態が続いていますが、この「Red Raven」も決して悪い扱いにはなっていません。むしろ随所でかなり推されているとも感じます。お家騒動以後のガンガンの少年マンガは、「鋼の錬金術師」や「ソウルイーター」のような大成功作品がある一方で、中堅以下で外れがかなり多かったように思いますが、ここに来てついに少年マンガの粒が揃ってきたようです。これは期待していいかもしれません。


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