<路線変更後のガンガンの少年マンガについて考える(前編)>

2007・9・2

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 2001年の「エニックスお家騒動」に前後して始まったガンガンの路線変更で、それまでのガンガンには見られなかった「少年マンガ」的な連載が、数多く見られることになりました。しかし、数多く投入されたそれら新連載の中で、成功したものは決して多くありません。中には、短い連載期間を経て打ち切り的に終了したものも、数多く存在しています。この記事では、そんな少年マンガの数々を、逐一検証してみたいと思います。

 ガンガンで、今に至る路線変更が始まったのは、およそ2000年後期頃からです。この時期に、それまでガンガンを支えていた主要連載のいくつかを他雑誌に移転させ、新たに、それまでとは異なる作風の連載を大量に投入してきます。その第一弾と言えるのが、2001年9月号の「清村くんと杉小路くんと」。これはギャグマンガです。第二弾が、翌10月号から始まった「マジック・マスター」。これは、マジック(手品)を扱った企画もので、少年マンガ的な作風も所持していますが、しかしそもそも一年も前から企画されていたもので、おそらくは路線変更前からの連載予定だったと思われます。そして、第三弾が、翌11月号から開始された「スサノオ」。これこそが、おそらくはガンガンの路線変更で登場した「少年マンガ(的作品)」の端緒だと思われます。


<スサノオ>
 これは、初期のガンガンで「輝竜戦鬼ナーガス」を連載した増田晴彦による新連載で、ガンガンの路線変更を露骨に体現するかのような、あまりにも印象的な作品です。それまでのガンガンとはまったく異なる作風で、賛否両論を巻き起こしました。
 そもそも、初期作家である増田さんをこの時期に起用したのも、「少年マンガ的要素が強かった初期ガンガンの雰囲気を取り戻したい」とする理由からでした。当時は、初期ガンガンの復活を希望する声が一部でとみに高まっており、ガンガンの編集者もそれから影響を受けた可能性が高いと思われます。そんな編集者の中でも、最も強く少年マンガ路線に傾倒したのが、このマンガの担当編集者にして、のちにガンガンの編集長となる松崎武吏(まつざきたけし)です。そして、その松崎武吏のこのマンガに対する入れ込みようは凄まじいもので、マンガ本編以上に編集者によるテコ入れの方が目立つという状態になっていました。

 その最たるものが、雑誌掲載時に挿入された異様なまでに目立つ煽り文(編集者によってマンガに加えられる文章)の数々です。とりわけ新連載時には、通常の煽り文からは考えられないほど巨大でページを埋め尽くす有り様で、肝心のマンガの絵が半ば隠れていて見えないような状態にまで陥っており、これは読者の間で大いに物議を醸しました。煽り文の文句も凄まじいものばかりで、「世界最強神話昇天」と書いて「ごあいどくありがとう」と読ませる等、通例では考えられない凝りようでした。

 肝心のマンガの内容ですが、元々モンスターの作画に定評のある「怪物絵師」と呼ばれた作者だけあって、作者の持ち味である異形のモンスターの造形には文句の付け所がありませんでした。出てくるのは異形のモンスターばかりで、人間のフォルムを持つキャラクターはごく一部しか出てきません。そのマニアックな作風は健在でした。
 しかし、一方で、肝心のストーリーについては、疑問を呈さざるを得ないものでした。日本神話をモチーフにしたストーリーでしたが、当初から方向性が迷走気味で、とりわけ主人公である「スサノオ」が、ただ感情の赴くままに暴れているだけの存在で、著しく感情移入しづらいキャラクターだったことが、最大の問題でした。スサノオのライバルで、陰険な策士であるツクヨミの方が、むしろかっこいいと感じるくらいでした。主人公に感情移入できず、むしろ陰険な悪役の方がかっこいいと感じてしまうというのは、少年マンガとして大いに疑問があると言わざるを得ませんでした。加えて、主人公たちの姿が、どれも異様なモンスターばかりだったのも、感情移入しづらさに拍車をかけていました。さらに、中盤以降は、単なる悪役モンスター退治に終始する展開に突入し、ここでも主人公が感情のままに暴れまくるだけで、まったくもって面白さを感じることができませんでした。

 実際の読者人気もほとんど得られず、終盤には人気取りのためか人間型のキャラクターも何度か登場させますが、その程度で人気が回復できるはずもなく、1年も持たないうちに打ち切りとなってしまいます。ラストは、どうでもいいようなザコキャラとの戦いの最中に連載が打ち切られ、それで「第一部完」となっていましたが、もちろん今に至るまで再開されていません。

 このマンガは、そもそも初期ガンガンから増田さんを起用したこと自体にも問題がありました。露骨に昔のガンガンを取り戻したいという編集者の欲望ばかりが透けて見え、肝心の内容がまったく伴っていませんでした。そのため、編集者の異様なテコ入ればかりが前面に出まくった、いびつな連載になってしまったのです。そして、このような「編集者が少年マンガ作品を露骨にテコ入れしまくる」という現象は、その後のガンガンでもたびたび見られるようになります。その点で、この「スサノオ」こそが、今に至るガンガンの路線変更の端緒にして象徴であることは間違いありません。


<ドラゴンクエスト エデンの戦士たち>
 これも、前述の増田さん同様、初期ガンガンからの復活組による新連載です。2001年2月号より連載開始。作者はあの「ロトの紋章」の藤原カムイ。こちらは、増田さんに比べれば堅実な作風で、少年マンガ的要素を忠実に再現する手堅さで確実なクオリティを有し、長期連載に移行します。

 ただ、かつての「ロトの紋章」のような、テンポよく主人公が成長していく爽快感や、迫力満点のバトルシーンなどの娯楽要素には乏しく、かつてほどの高い人気には縁の遠い連載でした。むしろ、非常に地味な連載になってしまったと言ってよい。ストーリーの進みは遅く、むしろ、主人公である少年少女たちの心理的な成長を丹念に描く内容で、少年マンガの主要読者である低年齢層の受けがよいとは言えず、高年齢のマニア読者の方に読まれるような状態でした。そのため、雑誌内でも地味な扱いに終始し、最後には連載場所がガンガンの最後に固定化され、いわば「エデン枠」とも言えるような雑誌内でも別格の扱いとなってしまいました。

 しかし、元々は、これが藤原カムイの本来の作風であるとも考えられます。「ロトの紋章」ばかりが有名になってしまったカムイさんですが、それ以前には、よりマニアックで高年齢向けの作風で通していました。それが、この連載では出てしまったといってよいでしょう。これは、かつての「ロトの紋章」のような大人気の少年マンガを得たいという、編集者の思惑からはかなり外れてしまったのではないでしょうか。読者人気という点では、決して成功したとは言えない作品で、一部の固定ファンを除いては、この連載を積極的に読んでいる読者は、そう多くはありませんでした。ガンガンを支える人気少年マンガを得る、という点では、むしろ失敗だったと言えます。最後は「第一部完」の告知と共に打ち切り的に連載が中断し、今では再開するかどうかも未定の状態です。


<パンツァークライン>
 エニックスでは荒川弘と同時期の新人・神田晶による初連載作品。連載期間は2001年3月〜2002年11月号。
 これも非常に強く少年マンガを意識した作品で、編集部の姿勢が露骨に出た作品のひとつです。内容的には、学園を舞台にした能力バトルもの・・・でしょうか。能力バトルという点では「東京アンダーグラウンド」を彷彿とさせますが、それを比較すると(あるいは比較しないまでも)かなり劣る作品だったことは明白でした。

 まず、絵がいまいちで、肝心のバトルシーンがあまり見映えがしません。なんとなく能力を使ってエフェクトが入って終わるような感じで、凝った戦闘シーンではないですね。アクションのリアリティでもあまり見るべきところがなく、ごく平凡なアクションマンガにとどまっていました。キャラクターの見た目も凡庸で、ビジュアル的な印象はかなり薄かったと思います。神田さんは、正直これ以外の作品でも絵的にはぱっとせず、この作品もそのひとつとなった感があります。
 そして、ストーリーがまた絵以上にぱっとしない。典型的な学園同士のバトルもので、基本的なストーリーが凡庸な上に、時折入るギャグがいまいち雰囲気を壊してしまっています。肝心のバトルシーンまで、ギャグで茶化してしまうシーンが頻発しており、シリアスなバトルの緊張感が台無しになってしまうことが多いのが、もっともいただけませんでした。最後には、ストーリーの伏線の回収がさっぱりで、完全に矛盾だらけで終わってしまい、到底褒められる作品にはなりませんでした。

 それでも連載は一年半以上続き、コミックスも5巻を数えていますが、それだけの連載期間の割には、まったく印象に乏しい作品です。今になって、このマンガのことをはっきりと覚えている人は、もうあまりいないのではないでしょうか。


<High球!いんぷれっしょん>
 これはひどい。と言えるマンガです。女子バレーボールを扱ったスポーツマンガで、連載期間は2001年4月号〜2001年11月号。これが、路線変更で始まった新連載攻勢の最後の作品となります。最後の最後がこれでは、この新連載攻勢も随分とひどい終わり方となったと言えます。作者は新人の真三月司(まみづきつかさ)

 路線変更後のガンガンは、大手少年誌では定番であるスポーツマンガを露骨に採り入れようとしますが、今に至るまでまったく成功していません。そんな作品群の中でも、第一弾と言えるこのマンガの出来は最悪でした。とにかく、絵的にも内容的にもあまりにも低レベル極まりなく、到底読める作品ではありませんでした。
 まず、絵の出来はひどい。キャラクターのデッサンがおざなりで、極端なデフォルメの上に不安定な描線で、ともすれば気持ち悪さを感じてしまうような作画でした。そんな作画で、主人公を始めとする女子バレー部のお色気シーンまで一部にあるのですから、それはもう見るに耐えないものでした。もちろん、肝心のバレーボールのシーンもまったく描けておらず、スポーツマンガとしても到底話にならないレベルでした。
 内容はさらにひどい。とにかく、「肝心のバレーボールがまったく描けていなかった」といってもよいでしょう。バレーボールのルールまで間違っている有り様で、作者がバレーボールをろくに知らないで描いていることまで明白な状態でした。なぜ、扱うスポーツの知識のない人に(それも決してレベルの高くない新人作家に)、スポーツマンガの連載をさせるのでしょうか。実は、これ以後も、「そのスポーツを知らない人にスポーツマンガを描かせる」作品が、ガンガンでは幾度となく登場するのですが、それにしても、ここまでひどいマンガはもうこれっきりでした。

 連載は8カ月で打ち切られますが、最後まで読むに耐えない状態は続き、打ち切りまでが随分と長く感じられました。当時は、あの「エニックスお家騒動」の真っ最中で、混乱の極致にあったガンガンの象徴的存在と言えます。


<鋼の錬金術師>
 これに関しては、もはや説明は不要かもしれません。失敗続きだった路線変更後のガンガン少年マンガの中で、唯一空前の大成功を収めた作品です。この作品だけは大いに評価できますね。作者はもちろん荒川弘。連載開始は2001年8月号。

 当時は、エニックスお家騒動の真っ最中で、そんな中で始まった一連の新連載攻勢の第一弾となります。しかし、混乱の中で始まった割には、この時の新連載はどれも出来が良く、これが路線変更後では数少ない良作ラッシュとなりました。とりわけ、この「鋼の錬金術師」の出来は素晴らしく、以後のガンガンを一手に支えていくことになります。このマンガがなければ、その後のガンガンがどうなっていたのか分かりません。

 このマンガの場合、作者の荒川弘の圧倒的な実力はもちろん、担当編集者の下村裕一氏の力量も大きかったのではないかと考えています。「スサノオ」の松崎さんと違い、原作を覆い隠してしまうような不自然なテコ入れをすることなく、原作の持ち味をそのまま出せるような、適切な範囲でのバックアップを行っていた印象があります。のちのアニメ化・ゲーム化などのメディアミックスの時にも、鋼コンテンツ全体のクオリティに目を配り、よくその質を保持していました。路線変更後のガンガンは、編集者の力量に不信を感じることが多いのですが、下村さんの鋼に対する仕事ぶりだけは、例外的に評価できます。


<666(サタン)>
 このマンガも、「鋼」から始まる一連の新連載攻勢のひとつですが、他の作品の多くが良作揃いの中で、この作品は極めて平凡で、決して面白い連載ではありませんでした。しかも、他の良作が次々と打ち切り、もしくは他誌へと移転させられる中で、この面白くない作品の方の連載が、延々と何年にも渡って続いてしまうわけですから、どうにも納得できませんでした。連載開始は2001年9月号で、現在(2007年)も続いていますが、そこまで続くべき作品とは思えません。

 作者は、岸本聖史で、あのジャンプで「NARUTO」を連載している岸本斉史の双子の弟であることが、当時話題となりました。編集部でもこの点を強く押し出し、あの「NARUTO」の作家の弟の作品ということで、大々的にこの作品のテコ入れを図ります。このことも、この作品が今に至るまで長期連載を続けている大きな理由のひとつだと思われます。しかし、それだけのテコ入れにもかかわらず、作品自体の面白さはいつまで経っても平凡なままでした。

 まず、絵の印象があまりにも良くない。ジャンプ的な作画、とりわけ双子の兄の作画に酷似しており、ありがちでオリジナリティが感じられない作風であることに加え、全体的に粗雑で読みづらい作画で、仕上がりの汚さが目立ちます。路線変更後のガンガン少年マンガでは、このような「仕上がりが汚く、魅力に欠ける」作画のマンガが多くを占めるのですが、そんな作品の代表的な存在となった感があります。
 内容的にもまったく平凡で見るべきところがありません。肝心のバトルの内容が凡庸で、RPGゲームのパズルをそのまま再現したかのようなバカバカしい仕掛けまで見られます。低年齢向けと考えてもこれはいまいちでしょう。ストーリーもひどく底が浅い。キャラクターの心理描写や思想性に深みが感じられず、あまりにもありがちなテーマの作品にとどまっています。

 このような内容では、到底長く続ける連載とは思えないのですが、これがもう6年の長きに渡って続いているのだから、あまりにも不可解です。読者人気もなく、誌面の中でも存在感の乏しい状態で、このマンガが読者の話題にのぼることは多くありません(ほとんどないと言ってもよいでしょう)。路線変更後のガンガンの少年マンガ、その失敗の象徴となった感があります。


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