<路線変更後のガンガンの少年マンガについて考える(中編)>

2007・9・4

*前編はこちらです。
*後編はこちらです。
*まとめはこちらです。

<フラッシュ!奇面組>
 これは、路線変更後のガンガンの企画の中でも、最大の悪夢だと言ってもよいでしょう。
 言わずと知れたかつてのジャンプの名作ギャグマンガ「3年奇面組」(もしくは「ハイスクール!奇面組」)のリバイバル作品です。当時は、あの「コミックバンチ」の創刊直後で、多くのジャンプ作品がそこでリバイバルされる中で、この作品だけは、ガンガンで連載されるということで、非常に大きな話題を呼びました。なぜガンガンで連載されることになったのか、それがまず謎です。ガンガンの編集部としては、少年マンガ中心の路線を強化するために、かつての黄金期のジャンプ作品の参入させたのだと思われますが、作者の新沢基栄の方が、なぜ少年ガンガンでの連載を了承したのかは不思議なところです。
 この作品は、前述のお家騒動の真っ最中、2001年10月号から開始されました。このときの新連載ラッシュは、良作がかなり多かったのですが、この作品は決してそうではありませんでした。

 基本的には、かつてのジャンプ連載時と大きくは変わっていない作風なのですが、しかし面白さはさっぱりでした。極めて古いタイプのギャグに終始してしまい、今のギャグマンガに慣れてしまった人には、まったく面白さが感じられませんでした。古くからのファンにだけはかなり評価されたようですが、ガンガンの読者にはさっぱり相手にされませんでした。外部から引っ張ってきた連載で、ガンガンの作風ともさっぱり合っておらず、そのためほとんどの読者にとってまったく興味のない連載でしかありませんでした(似たような連載として「円盤皇女ワるきゅーレ」があります)。
 しかも、どういうわけか連載してまもないうちに、休載しがちになり、月日が経つにつれてさらに掲載がまばらになり、ついにはまともに連載されなくなってしまいました。そして、2005年半ばに掲載されたのを最後に、完全に誌面から姿を消してしまいました。誌面から消えたあとも、編集者によるコラム記事(「奇面組にずっぱまり組」)だけはしつこく続いていましたが、それもあまりにもむなしいものでしかありませんでした。現在も一応連載が続いている扱いなのか、それとも打ち切りになっているのか、それすらもさっぱり分かりません。ガンガン編集部からの告知は一切なく、不誠実な態度ばかりが目立ちます。

 この連載消滅の原因については、どうも作者と編集部の間でいざこざがあり、ついには裁判沙汰にまでなったためと聞いたことがあります。そもそも作品自体がまったく面白くない上に、こんな問題まで起こしてまともな掲載すら出来ないようでは、まったく話になりません。これは、路線変更後ガンガンの最大の過失ではないかと思われます。


<B壱>
 これはよい連載でした。ガンガンの打ち出した少年マンガの中では、かなりの良作だったと言えます。元々は、少し前のマンガ大賞で準大賞を受賞した読み切りだったのですが、お家騒動で多くの作家と作品が抜けた穴埋めとして、急遽連載を開始することになりました。しかし、こんな慌しい経緯で始まった連載であるにもかかわらず、これは作者の個性が存分に出た良作だったのです。作者は新人の大久保篤。連載期間は2001年11月号〜2003年6月号。これもお家騒動時に出た一連の新連載ラッシュの作品のひとつです。

 他のガンガンの少年マンガと違い、絵のレベルが最初から高く、しかも、作者の個性が全面に出た設定と世界観、そしてキャラクターたちの魅力が強く出た、ケレン味たっぷりのエンターテインメント作品として、十分な楽しさを読者に提供してくれました。その上、意外にもシビアで社会的なテーマも感じられる重みがあり、様々な点で読み応えのある作品だったと思います。

 しかし、こともあろうに、このマンガは、編集部の手であっさりと打ち切りになってしまうのです。連載開始から2年も経たないうちにあっさりと終了。最後は誰が見ても明らかに打ち切りと分かる有り様で、不自然なこと極まりありませんでした。「666(サタン)」のような面白くない方の作品を延々と連載させ、良作であるこの「B壱」の方を打ち切ってしまうとは、どうにも編集者の力量を疑わざるを得ませんでした。この時期には、路線変更前からの少年マンガの良作「ドラゴンクエストモンスターズ+」の連載も打ち切っており、このような良作の立て続けの打ち切り決定には、当時の読者から多数の批判の声が聞かれました。

 このマンガが打ち切られた理由はいまだ不明ですが、この打ち切りの直後から、作者の大久保さんが、のちの連載「ソウルイーター」につながる読み切りの執筆を行い始めたため、この「ソウルイーター」の連載のために、「B壱」を打ち切ったのではないかと推測できるところもあります。


<マテリアル・パズル>
 これもかなりの良作・・・かもしれません。作者は土塚理弘で、2002年2月号から連載開始。お家騒動の一連の新連載ラッシュが終わり、一息ついてからの連載開始となりました。かつてのジャンプマンガを思わせるような王道を強く意識した少年マンガで、少年マンガのファンには高い評価を集めました。作者は、それまでは「1/Nのゆらぎ」「清村くんと杉小路くんと」などのギャグマンガでの連載を行っていたため、これはかなり意外とも言える新連載でしたが、元々はこういったマンガを描きたかったようで、作者の思い入れが伝わる連載となっています。毎回の連載ページ数が非常に多い点も重要で、月刊誌でありながら極めて速い連載ペースを維持しています。編集部の求める少年マンガと、作者が描きたかった少年マンガ、それが完全に一致したことが、連載の足取りがしっかりしていた理由でしょうか。

 ただ、このマンガの場合、確かに一部に熱狂的なファンを生み出しましたが、読者全体への人気は今ひとつでした。いや、今ひとつどころか、ひどく人気は冷え込んでいったと見てよいでしょう。なぜ多数の読者に受け入れられなかったかと言えば、まず、やはり絵のレベルが決して高くなかった点。見た目で新しい読者を惹きつけられなかった点が大きい。そしてもうひとつ、中盤以降、連載が長期になるにつれて、肝心のストーリーの勢いが衰えてきた点。これも、新規読者を呼べなかった大きな理由となりました。今では、読者全体の人気という点では、ガンガン内でも最も低い状態です。コミックスの売り上げは、「666(サタン)」よりも低いと聞いたことがあります。一部の固定ファンの支持は非常に強いものの、全体的な人気はまったく得られていない状態なのです。

 そして、こういった「一部の固定ファンに支持されている」という特徴は、前述の「ドラゴンクエスト エデンの戦士たち」と共通しています。実際、このふたつの連載は、ガンガンの中で揃って最後尾の掲載位置に固定化され、「エデン」が最後、「マテリアル・パズル」が一つ前という状態が長らく続き、「エデン」の連載が中断した後は、「マテリアル・パズル」が最後の掲載位置に固定化されてしまいました。「読者全体の人気はないが、熱心な固定ファンのために、ガンガンの最後に枠を作って連載を続ける」という、いわば「特別枠」のマンガとなってしまったのです。そのため、一部ファンの評価は高いものの、全体的には決して成功したとは言えないマンガとなっています。


<私の救世主さま>
 このマンガは、美少女系のキャラクターも見られますが、基本的には少年マンガ的な作風の連載でしょう。作者は新人の水無月すう。連載開始は2002年2月号ですが、数年の連載ののちにGファンタジーへと移籍してしまいました。
 このマンガも「マテリアル・パズル」同様に、かなり熱心な固定ファンがついた作品です。個性的な作風に合わせ、美少女系のマニアから少年マンガのファン、そして従来のガンガン読者まで、かなり幅広くファンが存在していました。

 しかし、このマンガの場合、連載が進むにつれてクオリティが崩れてしまったのがいただけません。当初は、普通の少年少女たちの心理面を巧みに捉えたストーリーが好印象だったのですが、舞台が突然異世界に入ってしまい、単なるファンタジー的なバトルを繰り返すマンガになってしまい、オリジナリティの点で大きく見劣りがしてしまいました。繊細だった絵も次第にラフさが目立つものになるなど、絵的にも魅力に欠けてしまった点も大きい。

 そして、このマンガを、Gファンタジーの方へと移籍させた編集部の決定も疑問でした。連載の内容はともかく、特別な理由(掲載誌の廃刊や休刊など)がないのに、作品を安易に雑誌移籍させるべきではないでしょう。これで、当時の熱心な読者の多くが混乱し、移籍先の雑誌までついていくことが出来ず、そのまま熱が冷めて離れてしまう人も見られる結果となり、二度と人気を回復することはできなくなりました。どうも、このマンガも、先の「奇面組」同様、作者と編集部の間でいざこざがあったようですが、これも編集部の力量不足を示す一端の出来事かもしれません。

 路線変更以後のガンガンでは、このような強引な移籍が目立つようになり、特にこの時期には、安易に他の雑誌へと飛ばしてしまうケースが頻繁に見られました。少年マンガ路線でない作品に多く見られ、「妖幻の血」や「ドームチルドレン」などがその代表と言えます。このマンガも、その典型的なケースであり、路線変更後ガンガンであまりによく見られる失敗ケースであると言えます。


<PHANTOM;DEAD OR ALIVE>
 この連載も今ひとつです。初期ガンガンを支えてきたベテラン作家・渡辺道明を起用した軍事・戦闘機ものですが、決してレベルの高い作品ではありませんでいた。連載期間は2002年3月号〜2004年2月号で、最後は完全な打ち切りでした。

 日本人の少年が、戦争をしている国のパイロットに拾われて、戦闘機乗りとして成長していくという話なのですが、肝心のストーリーの進み具合が遅く、主人公の少年が中々成長しないこともあって、イライラが募ります。同じことの繰り返しに陥ってしまった感があり、これは、作者の前作「ハーメルンのバイオリン弾き」の後半部分にも共通する欠点です。さらに、作者独特の狂騒的なギャグがいまいちで、話の腰を完全に折ってしまっており、蛇足でしかありませんでした。これも、作者の作者の前作「ハーメルンのバイオリン弾き」の後半部分で見られた欠点です。
 その上、戦闘機ものとしてのリアリティにもかなりの疑問があり、むしろかなり破天荒に過ぎたところがあり、許容し難いような場面まで見られました。元々、作者の渡辺さんは、細かい設定のつじつまを合わせるような作家ではなく、勢いでマンガを描くような作家です。しかし、それはある程度のリアリティが要求される軍事ものには合わなかった。

 総じて、作者の欠点ばかりがことごとくマンガに出ており、多くの読者にとって楽しめるものではありませんでした。この作家も、増田晴彦や藤原カムイと同様、おそらくは編集部の要請で、少年マンガを描くことを求められて招かれたのだと思われますが、こちらもまた失敗したことになります。


<ドラゴンリバイブ>
 これもまた今ひとつの連載です。作者は新人の井田ヒロト。連載期間は2003年7月号から2004年5月号。この2003年中期には、それまで以上に強烈に少年マンガ路線を志向した作品がまとめて打ち出されますが、どれも面白いとは言い難いものばかりで、ここでガンガンのクオリティは致命的に低下した感があります。この連載もまた、1年も経たないうちに打ち切りにされてしまいます。余談ですが、タイトルの似ている他社作品「ドラゴンドライブ」とは関係ありません。

 一応少年マンガの形を採っていますが、かなり妙なノリの作品でした。全編に渡って、登場人物がまるで酒に酔ったかのようなハイテンションなノリで、早口で掛け合いをしながら手足を激しく動かしまくるアクションシーンが最大の特徴です。この妙なノリは、これが低年齢向けの少年マンガとして考えても、あまりにも違和感がありました。

 いや、むしろ、このマンガは、青年寄りのキャラクター造形や心理描写などで、むしろ高年齢向けのストーリーをも有していたため、それがこのノリとの間で、さらにギャップを抱かせる原因となりました。とにかく方向性の掴めない不可解な作品で、多くの読者にとって抵抗が強く、中々受け入れられるものではありませんでした。

 このマンガの場合、編集部が少年マンガを描くことを求めるあまり、作者の個性を殺してしまっている印象があります。元々、高年齢向けの青年誌寄りの作風が特徴の作家に対して、無理に明るいノリの少年マンガを描かせようとしたために、非常に不可解なノリが共存する抵抗の強い作品になってしまった可能性があります。多くの読者にとって魅力的とは言えない作品で、これもガンガン少年マンガに典型的な失敗作になってしまいました。


<グレペリ>
 これも、「ドラゴンリバイブ」と同様な失敗作です。作者は他社の電撃系で主に活躍していたベテラン作家・たくま朋正で、その点で高年齢向けのマニア向けの作品を得意とする作家でした。しかし、このマンガは、それとは正反対の、極端な低年齢向けのコメディ作品となっており、そのギャップには相当なものがあります。連載期間は2003年8月号から2004年6月号で、「ドラゴンリバイブ」と一カ月ずれているだけで、まったく同じ連載経緯を辿って(おそらくは)打ち切りとなっています。

 とにかく、極端なまでに低年齢向けのイメージばかりが目立ちます。一部に「コロコロコミックの連載みたい」とまで言われる状態で、ガンガンの主要読者の年齢層とは著しく外れており、ほとんどの読者には見向きもされませんでした。これほど印象の薄い連載も多くありません。連載期間の短さもあいまって、このマンガをはっきりと覚えている読者がどれだけいるか、はなはだ疑問です。
 内容的にもまったく面白くなく、典型的な宇宙人押しかけ型のコメディで、見るべきところはありませんでした。一部に、作者の本来の持ち味である、SF要素(とりわけ「エヴァ」を彷彿とさせる要素)が散見されましたが、これも低年齢向けの内容からは違和感が募るばかりでした。「ドラゴンリバイブ」以上に多くの読者にとって魅力のない作品で、わざわざ他の出版社から呼ばれたベテランの作家とは思えないほどの、印象の全く残らない連載に終始してしまいました。


*続きは後編記事でどうぞ。こちらです。


「少年ガンガンの作品」にもどります
トップにもどります