<路線変更後のガンガンの少年マンガについて考える(後編)>

2007・9・2

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<女王騎士物語>
 これは、あまりにもいびつな内容の作品ですね。ガンガンの少年マンガ路線の象徴的な存在で、これほどまでに「王道少年マンガ」を意識した(させられた)作品もないでしょう。しかし、その内容はひどくひねくれており、純粋に少年マンガとして受けているわけではなく(もちろんそれを評価する人もいますが)、それ以上にひどく妙な受け方をしています。もっとも、その受け方を入れても、決して高い人気を得られているわけでもなく、今も続く長期連載でありながら、成功しているとは到底言えない作品となっています。この作品に至って、ついにガンガンのクオリティは致命的なものになってしまった感もありました。作者は下村トモヒロ。連載開始は2003年8月号。

 ある意味では「666(サタン)」や「マテリアル・パズル」以上に王道少年マンガを強く押し出した作品で、これほどまでに編集部に不可解なテコ入れをされた作品もないでしょう。少年ジャンプでも、自分の雑誌の作品を、「王道だ王道少年マンガだ」とここまで押し出すことはないはずです。あるいは、ジャンプの場合、掲載作品が少年マンガであることは分かりきっているので、そこまでやる必要もないのかも。路線変更後のガンガンだからこそ、「今のガンガンは少年マンガ雑誌なんだぞ」と、それを強くアピールしたい編集者の意識ばかりが目立ってしまったのでしょう。

 しかし、肝心のマンガの内容は、そんな編集部の思惑とは微妙にずれた方向に暴走していきます。王道ばかりを露骨に意識させられたその内容は、それ自体はありきたりすぎてまったく新鮮味はないものの、しかしその「バカバカしいお約束ぶり」をマニア読者に一種の「ネタ」として笑われる状態になってしまったのです。しかも、それに加えて、破天荒なノリで進むダッチロールばりの凄まじい展開や、作品の随所に盛り込まれたゲームネタを中心とするパロディネタ、そしてなにげに高いキャラクターの萌え要素と、異様なケレン味に溢れており、そんな作品のいびつな要素を「ネタ」として楽しむマニア読者の注目を浴び、極めて歪んだ楽しみ方をされるに至ります。つまり、少年マンガである以上に、一種の「ネタマンガ」として受けてしまったのです。

 その点において、特にパロディネタや萌え要素の存在において、このマンガは、あの「ハヤテのごとく!」に似たところがあり、実際に「ハヤテ」を比較に出してこのマンガを見る人もいます。しかし、「ハヤテ」とこの「女王騎士物語」が決定的に異なるのは、こちらのマンガは、あくまで読者に「笑われている」に過ぎないという点です。パロディネタを絡めたラブコメディとして完成されている「ハヤテ」に対して、このマンガは、少年マンガとしては王道を意識しすぎてバカバカしさに溢れ、その上で作者の妙な感性が出まくったパロディネタばかりが目立つため、作品自体が「笑いもの」にされているのが現状なのです。毎回毎回「今月の女王騎士はどんなことで笑わせてくれるかな」と、そんなことばかりを読者が期待してしまう。そんな感想サイトやブログを、今まで幾度となく見てきました。

 そんな歪んだ見方しかされてないために、肝心の人気、とりわけコミックスの売り上げはおしなべて低く、前述の「666(サタン)」「マテリアル・パズル」と合わせて、ガンガンでも最下位に近い位置をキープしている状態です。ガンガンの編集者が、いまだにこのマンガに何を求めているのかは知りませんが、ここまで歪んだ楽しみしか提供しておらず、決してまともな人気も得られていない作品を、一体いつまで続けて連載させるのか。ガンガンのも、本当に低レベル化が来るところまで来てしまったようです。


<ソウルイーター>
 このマンガは、これまでの失敗作ばかりのガンガン少年マンガの中では、かなりの良作で、比較的高い人気を得た作品となっています。編集部の方でも、このマンガに対するテコ入れは凄まじいもので、ガンガンでも看板クラスの作品として、あの「鋼の錬金術師」に次ぐ扱いとなっています。「鋼の錬金術師」の後を継ぐガンガンの看板作品にしようとしていることは明白でしょう。連載開始は2004年6月号。作者は、少し前に良作「B壱」を打ち切られた大久保篤で、このマンガの連載のために、「B壱」を打ち切ったのではないかという説もあります。

 前作「B壱」同様、作者の個性が全面に出た確かな良作で、明らかな駄作ばかりの路線変更後少年マンガの中で、「鋼」以外ではほぼ唯一、まとまった人気を得る作品となっています。やはり、この作者独特のビジュアルや世界観、個性的なキャラクターたちには、確かな魅力があり、今回はテーマ性やメッセージ性こそ少なく感じられるものの、純粋に楽しめるエンターテインメント作品となっています。

 ただ、普通の作品としては及第点ですが、編集部の求める「『鋼』の後を継ぐ看板作品」となるほどの力があるかは、はなはだ疑問です。確かに、ガンガンの表紙を飾ることも多く、雑誌内の掲載順もかなり早い状態が続いていますが、雑誌を支えていけるほどの圧倒的な作品には至っていないように思えるのです。この作品も、「ガンガンの少年マンガ」という、ひとつの枠組みの中で捉えられており、常に失敗ばかりで発展の望み難いこの枠の中で、この作品もこれ以上の発展が出来るかは難しいところです。特に、雑誌外、スクエニ外の読者からは、結局のところ「ガンガンにありがちなタイプの連載のひとつ」として見られているようで、「鋼の錬金術師」ほどの存在感はなさそうです。「鋼」のように、スクエニ外の読者にまで幅広く人気を獲得できる作品になるとは思えません。

 実際の人気も、このところ停滞しています。一回ほどドラマCDが出た程度で、その後の動きはまるで見られません。アニメ化の話もまったく聞かれない状態です。ガンガンの看板であるならば、最低でもアニメ化までは達成すべきだと思われますが、その兆しはない。ジャンプの人気作品が次々とアニメ化されているのとは対照的で、ガンガンは、雑誌内の最も有力な作品ですら、アニメ化できないほどの低値安定状態なのです。


<王様の耳はオコノミミ>
 これも本当に平凡な連載です。ありきたり、平凡としか言いようがないほどの連載で、なぜこのマンガが読者人気で(?)連載できたのかは非常に疑問です。作者は新人の夏海ケイ。連載開始は2005年5月号。
 ジャンルとしては、典型的な料理マンガであり、松崎編集長の「料理マンガをやりたい!」という鶴の一声で連載することが決まったようです。この編集長は、「スポーツや料理など一般的なジャンルを増やしたい」などの発言からも分かるとおり、あまりにも露骨なメジャー化路線を採りたがりますが、この作品もその犠牲者のひとつと言えるでしょう。

 料理の題材に、お好み焼きを採り上げたのは中々目の付け所がよく、新潟というお好み焼きとは縁の薄い田舎を舞台としたのも面白いですが、独創的な部分と言えるのはそれくらいでしょうか。それ以外は、本当に過去の典型的な料理マンガのあり方をなぞっているかのようです。ライバルの料理人と「対決」するという基本スタイル、トーナメント大会に出て決勝まで進むというあまりにもありがちなストーリー、非現実的な必殺技が飛び交う料理シーン(料理に必殺技が必要なのか?)、そして料理を食べた者たちによるオーバーすぎるうまさの表現(過度のリアクション)・・・。などなど、これまでの料理マンガをそのまま模倣するばかりで、まったくもって見るべきところがありません。「ミスター味っ子」や「焼きたて!!ジャぱん」などの料理マンガをなぞるかのような作品に終始しています。

 その上、絵に大した魅力がないのも、作品の平凡さに拍車をかけています。過去の路線変更後少年マンガと同様、雑で仕上がりの汚い作画に終始しており、絵的にも典型的なガンガンの少年マンガ、その失敗作となった感があります。もともと、作者の夏海さんは、絵的にはさほど見映えのする人ではなく、むしろ個性的な設定やストーリーで魅せる作家であったため、このような平凡な設定の料理マンガをやらされては、作者の持ち味が完全に死んでしまったことは明白でした。

 そして、このマンガ、本連載前にまず短期連載が組まれ、そのアンケート結果が良ければ本連載化、という流れだったのですが、その本連載化決定にもかなりの疑問があります。短期連載時からして平凡でつまらない内容で、本当にアンケートで読者の支持を得られたのか、はなはだ疑問なのです。どうも、最初から連載化されることは決まっていたようで、編集部が独断でそれを決めたとしか思えません。路線変更後のガンガンでは、このような「編集部が連載企画を無理矢理押し通す」ような行為がよく見られ、これもまた編集部に対する不信を増大させる結果となっています。


<ブレイド三国志>
 これはひどい。と言えるマンガです。おそらくは、編集部の推進する企画マンガで、タイトルからも分かるとおり、三国志をネタにした「三国志マンガ」です。三国志マンガというだけで過去にいくつも例があり、もはや新鮮味は期待できない連載で、なぜこんな企画をやろうとするのか、まずその時点で編集部の意思を疑ったくらいです。前述の「王様の耳はオコノミミ」同様、まずは短期連載で様子を見て、読者アンケートの評価が良ければ本連載化、という企画でした。そして、実際に始まった短期連載は、予想をはるかに超える破天荒で凄まじいツッコミどころ満載の怪作と化しており、そのあまりのひどさには、ほとんどの読者が拒絶反応を示しました。ここ最近のガンガンの企画の中で、最もひどいマンガであったことは間違いありません。

 そして、「こんなひどいマンガなのだから、まずここで打ち切りだろう」と思っていたのですが、なんと、こともあろうに、多くの読者の希望を裏切って、ついに本連載化してしまうのです。もう完全に編集者による出来レースであることは明らかでした。(また、仮にこれが読者アンケートで支持を得られたのだとしても、それでもマンガ読みの目から見てひどい完成度であることは明白なのだから、絶対に本連載化すべきではないとも思えます。)

 肝心の内容ですが、西暦2194年、経済発展を遂げた中国が世界一の大国となった未来世界を舞台で、その時代に蘇った三国志の英雄たちの生まれ変わり(「ブレイド」)たちの戦いを描くという設定で、まずこの設定からして破天荒に過ぎるものがあります。そして、その「ブレイド」関連の設定ばかりが延々と語られ、まったくストーリーが進まないうちに短期連載を終了してしまいました。延々と設定の説明ばかりが繰り返されるばかりで、しかもその設定も矛盾に満ちてツッコミどころ満載で、まったく話にならないレベルの作品でした。

 そして、これだけひどい短期連載が終了後、当初の編集部の予定通り(?)ガンガン系諸雑誌で「外伝」の読み切りが3度にわたって行われ、ガンガン以外の各雑誌でも混乱をもたらします(笑)。そして、これも当初の編集部の思惑通り、約一年後に本連載化して連載再開。再開後の連載も、短期連載時と比べても輪をかけてハチャメチャな内容で、もはや完全にガンガンで「ネタとして笑われるマンガ」と化しています。こんなマンガを平気でごり押しして連載化すること自体、ガンガンの編集者の力量のほどが知れるというものです。これまでの失敗作の数々を見ても明らかですが、ガンガンの編集者には、マンガをまともに評価できる力がないのではないでしょうか。これでは、今後のガンガンの作品作りには到底期待できません。


<鬼切様の箱入娘>
 かつて、「東京アンダーグラウンド」を連載していた有楽彰展によるシリーズ連載。元々は2006年7月号に掲載された読み切りで、のちに好評を受けて(?)不定期で読み切りが載るようになりました。シリーズ連載という扱いになっています。

 有楽さんは、かつての「東京アンダーグラウンド」はガンガンを支える人気作で、特に序盤での完成度は非常に高いものがありましたが、中盤以降作画を中心に大きく質を落とし、最後までそれを回復することはできませんでした。この「鬼切様の箱入娘」も、そんな当時の崩れた完成度を引きずっているかのようで、作画面でかなりの不安があります。最近ではなんとか安定しつつありますが、初期の頃はベタがなくて画面が白かったり、背景がまるで描かれていなかったりと、到底評価し難いものでした。

 しかし、本当に不安なのは、やはり内容、ストーリー面でしょうか。これも少年マンガ的なバトル+ラブコメな話となっており、総じてありきたりでこれといった面白さを感じることができません。かつての連載ではなかった、エロ・お色気的な要素が入っているのも気になるところです、前述の「ブレイド三国志」もそうですが、ここ最近のガンガンでは、このようなエロ要素を露骨に採り入れる作品が目立つようになり、かつての雑誌とは正反対の方向へと突き進んでいるようです。これは、決して歓迎すべきことではないでしょう。

 そして、このマンガも、編集部による強引な企画のごり押しが目立ちます。最初の読み切りの頃から、決して面白いとは言い難いマンガだったのに、その後シリーズ化され、しつこく不定期連載を続けるようになりました。本当に読者の好評を受けてのシリーズ化なのか、はなはだ疑問です。編集部の、このマンガをなんとか本連載化したいという思惑ばかりが透けて見えるような気がします。その点で、これも「王様の耳はオコノミミ」や「ブレイド三国志」と同じ経緯を辿りつつあるマンガであり、このまま本連載化しても、決していい結果にはならないだろうと思えるのです。


<新体操舞技 TUMBLING BOYS>
 これは、路線変更後のガンガンで久々に出たスポーツマンガです。前述のように、路線変更直後に打ち出した「High球!いんぷれっしょん」がひどい作品に終始したあと、しばらくの間スポーツマンガの存在はなりを潜めます。しかし、スポーツマンガの読み切り掲載や、マンガ賞での受賞は続いており、特に松崎編集長が2004年に「スポーツや料理など一般的なジャンルを増やしたい」と発言して以降は、その手の読み切りが数多く載るようになります。それらの作品は、どれも決して出来が良いとは言えず、連載化に結びつくことはなかったのですが、ここにきてついに「短期連載」という形で、スポーツマンガの連載を久々に行います。それが、この「新体操舞技 TUMBLING BOYS」です。
 この短期連載も、これまでの読み切りの延長にあるもので、「これが人気を得られれば本連載化しよう」という意図にあったことは明白でした。しかし、この作品もやはり凡庸な出来に終始し、編集部も他の作品のように強引に連載化させるようなこともなく、そのまま不成功に終わっています。連載期間は2006年9月号〜12月号。作者は新人の宍戸道子

 このマンガに限らず、路線変更後にガンガンが打ち出そうとするスポーツマンガは、どれもこれも一定のパターンを踏むだけの平凡な作品が多く、似たようなマンガばかりで、到底これで成功できるようには見えません。短期連載であるこのマンガもまったくその通りの内容で、またしても同じ轍を踏んでしまっています。具体的にどう平凡なのかというと、

などが挙げられます。

 このマンガの場合、主人公たちが完全に不良であり、暴力的な言動がひどく目立つのが、まず最大の問題でした。これは、ガンガン読者の多くに対して、あまりにも抵抗の強い作風で、これでは到底人気は期待できないな、と考えてしまいました。不良を主役にしたヤンキーマンガというジャンルもありますが、ガンガンでは過去にもほとんど見られないジャンルで、雑誌や出版社の雰囲気にも合っていません。なぜここまで抵抗の強い、読者に受け入れ難いキャラクターにしたのかが分かりません。

 それ以外の要素でも、ヒロインやイケメンのライバルが登場するところは、他の作品とまったく同じ。協調性のない主人公が努力を重ね、最後に成果を出して終わりというストーリーも、過去のスポーツもののあり方をなぞるばかりで、まったく新鮮味はありませんでした。唯一、「男子新体操」という、あまり見られないマイナーなスポーツを採り上げた選択は中々良いと思いましたが、同じくマイナースポーツを採り上げたヒット作映画「ウォーターボーイズ」ほどの面白さはありませんでした。

 そして、絵の印象がよくないのも大きなマイナスです。やはり、他のスポーツマンガ同様、仕上がりが雑で、汚さを感じる作風に終始し、積極的に読みたいと思えるようなマンガにはなっていませんでした。これは、スポーツマンガだけでなく、路線変更後の少年マンガほとんどに共通している点でもあり、かつてのエニックスマンガの大きな特長であった、丁寧で綺麗な作画が完全に失われてしまっています。

 この短期連載の終了後も、ガンガン編集部のスポーツマンガへのこだわりは続いており、2007年には、3か月にわたって読み切りサッカーマンガ「Magnetico」(氷樹一世)が掲載されました。これも、一種の短期連載と見てよいかもしれません。しかし、この作品も、これまでのガンガンスポーツマンガをなぞるようなありきたりな内容に終始し、しかも強引な展開や癖の強いキャラクターの言動など、抵抗を感じる要素も多く、まったくつまらない作品でしかありませんでした。このような作品作りを繰り返すようでは、ガンガンでスポーツマンガが成功することは、これからも決してありえないでしょう。


*最後にまとめ記事があります。こちらです。


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