<咲-Saki-阿知賀編 episode of side-A>

2012・3・16

 「咲-Saki-阿知賀編 episode of side-A」は、少年ガンガンで2011年9月号より開始された連載で、タイトルからも分かるとおり、ヤングガンガンの人気作品「咲-Saki-」の外伝スピンオフ作品となっています。連載開始以前に、本編のコミックスや「増刊ヤングガンガンビッグ」の誌上において、アニメの新シリーズが制作されることが告知され、その後この「阿知賀編」の連載が始まった後、この外伝を原作としてアニメの制作が行われることが発表されました。このような経緯から、最初からアニメの制作と連動しての連載企画ではなかったかと推測されます。

 作者は、原作は本編と同じく小林立が担当し、作画として新たに五十嵐あぐりを起用しています。五十嵐さんは、ヤングガンガンの人気連載「BAMBOO BLADE」の作画を担当したことで知られており、スクエニでも人気の高い作家のひとりです。そんな彼女が、あの「咲-Saki-」の外伝の作画を行うということで、発表時にはかなりの話題を集め、実際にこのマンガの最大のアピールポイントともなっているようです。

 作品の舞台は、本編が長野県の清澄高校であるのに対して、こちらは奈良県の阿知賀女子学院となっていて、そこの麻雀部のメンバーが奮闘して県予選を突破し、晴れて全国大会に進出し、そこで清澄高校と同じ舞台に立つという流れとなっています。本編と同じ時間軸で進み、本編のキャラクターも要所で登場するというのが、このスピンオフ作品の大きな魅力になっていると言えるでしょう。

 ただ、アニメ制作と連動した連載であるためか、ストーリーの展開が非常に早く、麻雀部の設立のくだりやその後の練習風景、あるいは県予選の描写は、ほんの数ヶ月の連載であっという間に終わってしまい、一気に全国大会へと進んでしまいました。このあたりは、当初からそのあたりをじっくりと描いてきた本編の「咲-Saki-」とは大きく印象が異なります。もしかすると、テレビアニメの方でそのあたりを補完するつもりなのかもしれませんし、個人的にもそれに期待したいと思っています。


・あの五十嵐あぐりが「咲-Saki-」の作画を担当!
 今回のスピンオフで話題となったのは、まずヤングガンガンの人気連載が、今度はガンガンで連載することになったこと。そしてもうひとつ、前述のように、その作画担当に五十嵐あぐりを採用したことでしょう。今回の連載が、五十嵐さんのガンガンでの初めての連載となります。

 五十嵐さんは、元々は90年代のギャグ王で連載していた作家で、その時のペンネームは「曾我あきお」。一時期かなりの人気を博しましたが、比較的短期の連載で終わり、しかも掲載誌のギャグ王もいつしか休刊したこともあって、その後長い間姿を見ることはありませんでした。しかし、それが2004年のヤングガンガン創刊に際して、創刊号から始まった剣道マンガ「BAMBOO BLADE」の作画担当として久しぶりの復活。そのきれいで迫力のある作画で、同作品の完成度に大きく貢献しました。

 長期連載となった「BAMBOO BLADE」の終了後は、しばらくまた次回作の動きはなかったのですが、ここに来て今度はこの「咲-Saki-」のスピンオフ作品の作画担当として抜擢。「咲-Saki-」も「BAMBOO BLADE」もヤングガンガンで屈指の人気作品なので、そのふたつの作者がタッグを組んだというのは、意外にして大変うれしい出来事でもありました。

 今回の作画の特徴ですが、この五十嵐さんの作画は、「咲-Saki-」らしい雰囲気をよく備えていると思います。小林さんと五十嵐さんでは、もちろん絵柄自体は違うのですが、その方向性・雰囲気には近いものがあるように感じられます。時折、雑誌などで小林さんが描いた「阿知賀編」の絵も見られますが、それと並べてみてもあまり違和感がありません。また、「BAMBOO BLADE」でも見られた、集中線を効果的に使った迫力のある作画は、「咲-Saki-」の闘牌(麻雀の対戦)シーンにもよく合っているようです。さらに、この「咲-Saki-阿知賀編」の作画担当決定に際して、五十嵐さんは相当「咲-Saki-」を勉強したらしく、そのおかげで「咲-Saki-」独特の作画、例えば「はいてない」などの作画も完璧にこなしているように思われます(笑)。総じて「咲-Saki-」のスピンオフ作品として申し分のない作画になっていると思います。


・キャラクター・ストーリー・闘牌と、すべてにおいて「咲-Saki-」に匹敵する出来栄え。
 絵柄だけではありません。「咲-Saki-」本編の魅力であるキャラクター・ストーリー・闘牌と、その多くがこの「阿知賀編」でも見ることが出来ます。

 今回の舞台である阿知賀女子学院ですが、当初は麻雀部はありませんでした。しかし、麻雀を愛する生徒有志たちの努力で集まったメンバーたちは、本編同様に個性的なキャラクターとなっていて、その個性づけはいかにも「咲-Saki-」らしいものとなっています。このあたりは、さすがに小林立がこちらも原作を担当しているだけのことはありますね。
 代表となる5人は、前向きで明るい性格でチームのまとめ役・高鴨穏乃(しずの)、しずのに誘われて麻雀部に入ったデジタルの打ち手新子憧(あこ)、しずのの麻雀での幼なじみで、再び麻雀が出来る日を待ちわびていた松実玄(くろ)、松実玄のお姉ちゃんで極端な寒がりの女の子松実宥(ゆう)、玄のクラスメイトで幼少の頃から打ち慣れた実力派・鷺森灼(あらた)。本編の5人と比べると、昔から仲良しだったりのんびりした性格だったりと、よりアットホームで和気あいあいとした部活動の雰囲気を感じます。

 5人の中で、とりわけ闘牌で特徴的な個性を見せるのが、松実玄と松実宥の姉妹でしょうか。玄は、なぜか手にドラがどんどん集まってくる能力を持ち、「阿知賀のドラゴンロード」と呼ばれています。一方で宥は、極端な寒がりからか赤い色の牌を好み、そのためか赤い牌が手に集まってくるという、やはり不思議な能力を持っています。本編でも見られたまさにオカルト的な能力ですが、これこそが「咲-Saki-」の闘牌の最大の魅力でしょう。この「阿知賀編」でも、このような現実離れした能力での麻雀と、純粋にデジタルで現実的なプレイングと、その双方がバランスよく共存して好勝負を展開する持ち味は健在と言えます。

 さらには、本編のキャラクターが要所で登場するのも、「咲-Saki-」の読者としてはうれしいところでしょう。本編の重要人物・原村和の中学生時代の姿や、練習試合で登場する本編の強豪高・龍門渕のメンバーたち、そして全国大会で対戦相手として登場する主人公・宮永咲の勇姿は、本編とは違った姿としてとても興味深いものがありますね。

 このように、このスピンオフである「阿知賀編」でも、さすがに小林立自身が原作を担当しているだけあって、まさに「咲-Saki-」本編そのままの作風が楽しめると見てよさそうです。作画の雰囲気の近さも手伝って、まさにもうひとつの「咲-Saki-」になっていると思います。


・ただ、あまりのストーリー展開の速さだけは気になる。
 このように、基本的には本編の「咲-Saki-」そのままの楽しさが味わえる本作ではありますが、唯一、これはちょっとどうかと感じることがありました。それは、連載開始直後から続いたストーリー展開の異様な速さです。

 学校で麻雀同好会を設立し、練習を重ねて一気に上達を重ね、そして県予選に出て圧倒的な強さで一気に全国大会へと行くのですが、ここまでの展開が恐ろしく早く、ほんの数カ月の連載で全国大会まで行ってしまいました。主人公の麻雀部への入部から県予選へ向けての練習・合宿、そして県予選の熱戦をものすごい時間をかけて描いた本編とは対照的で、まさかここまで早く全国大会まで行ってしまうとは夢にも思いませんでした。

 とりわけ残念だったのが、県予選での最大のライバル高との対戦でしょう。地元での最大のライバルだけあって、麻雀部のメンバーも強豪が揃っていて、よく個性付けされていたと思ったのですが、しかし阿知賀との対戦ではなんの見せ場もなく、あっという間に打ち負かされてしまいます。このあまりにもあっけない扱いは、さすがにちょっとかわいそうに思ってしまいました。
 さらには、これだけ展開が速いだけあって、肝心の麻雀の描写、凝った闘牌のシーンもほとんど見られませんでした。凝った麻雀の描写こそが「咲-Saki-」本編の最大の持ち味だっただけに、こちらでは序盤のうちほとんどそれが見られなかったのは、さすがにちょっと残念に思ってしまいました(本格的な闘牌が見られるのは、その後の全国大会に入ってからになります)。

 展開が速いこと自体は、決して悪いことではありません。むしろ、マンガにおいては、展開が速い方がいいことが多いです。しかし、この「阿知賀編」の序盤の展開は、さすがにちょっとやりすぎでしょう。本編が何巻もかけて行ったことを、わずか1巻で駆け抜けてしまった。やはり本編のように、大会前の練習の光景や、県予選での対戦、それも麻雀の闘牌の姿をもっとじっくりと描いてほしかったところです。


・展開が速いのはアニメとの連動が理由か。アニメでの補完に期待。
 しかし、ここまで展開が速いのには、明らかに思い当たる理由があります。それは、アニメ放映との兼ね合いでしょう。
 最初に書いたとおり、この「咲-Saki-阿知賀編」、連載が始まる前からアニメ化企画が既に進行していたようで、マンガの連載も、アニメの放映に向けてペースを速めていった節があります。マンガの連載が始まったのが少年ガンガンの2011年9月号(8月12日発売)。そして、テレビアニメの放映が始まるのが2012年4月です。連載開始からわずか半年あまりでアニメが始まることになります。

 おそらくは、このアニメの放映に合わせる形で、原作を先に進めておこうという思惑があったのではないでしょうか。アニメの放映中にコミックスの展開に追いつくように、コミックスをずっと先に進めておく。かつての「咲-Saki-」本編のテレビアニメでは、原作の展開とアニメの展開が完全に一致して大いに盛り上がった瞬間がありました。今回も、それと同じような効果を狙っているのだと思います。
 となると、アニメのほうでは、原作ではしょってしまった序盤の展開を、じっくりと描いていくつもりなのかもしれません。こちらでは、序盤の麻雀同好会での練習風景や、県予選での闘牌のシーンを余すことなく見られるのではないか。アニメには、まずその辺りでマンガ版の補完を期待したいと思いますね。

 さらには、このマンガ連載の「咲-Saki-阿知賀編」は、今はもう全国大会に入っているわけですが、ここからはじっくりと描いてほしいと思います。どのくらいの長さの連載を想定しているのか分かりませんが、これだけよく出来たマンガを、アニメとの連動だけであっさりと終わらせてしまうのは惜しい。ヤングガンガンの「咲-Saki-」本編と同等の長期連載になることを希望したいと思います。


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