<屍姫>

2005・8・26
全面的に改訂・画像追加2007・5・19

 「屍姫」は、少年ガンガンで2005年5月号より始まった連載で、2005年に始まった4つの新連載のうちの一角です。作者は赤人義一(あかひとよしいち)
 この当時のガンガンは、新連載が極端に少なくなっており、しかもその中でもスクエニ系ゲームコミックが半分ほどを占め、オリジナルの新連載はさらに少ない状態に陥っていました。この2005年においても、このオリジナルの新連載は、「屍姫」ともうひとつ「王様の耳はオコノミミ」のわずか2本のみであり、前年の2004年に至っては、なんと「ソウルイーター」1本しかありませんでした。2年間で3本しかオリジナルの新連載がないというのは、一雑誌としては到底信じられない数字です。当時の少年ガンガンは、「鋼の錬金術師」とスクエニ系ゲームコンテンツにかなり偏重した状態となっており、その分驚くほど目新しい要素に乏しかったのです。ほとんど「鋼の錬金術師」の特集ばかりが全面に出ており、それに加えてスクエニ系ゲームのコミックや特集も多く、肝心のマンガの勢いが落ち込んでいることは明白でした。

 しかし、そんな中でも、この「屍姫」は、数少ないオリジナルの新連載として貴重であり、その内容にも光るものがありました。作者の赤人さんは、最初に「MYSIC CONNECTION」という作品でマンガ賞で準大賞を受賞して以来、この「屍姫」と名のつく読み切り作品を幾度となく掲載し(都合3回)、すでにかなりの経験を積んでいる状態でした。しかも、最後の読み切り版「屍姫」は、のちの連載に直接繋がるプロトタイプとなる作品であり、もうその時点できっちりと基本的な設定やストーリー、絵柄などが完成されている状態でした。そのため、連載当初からすでに内容はしっかりしており、安定して読めるだけの力を持っていたのです。連載開始時点で、すでにある程度の成功は確約されていたと見てもよいでしょう。

 そして、スタートダッシュから安定したクオリティを確保できていた「屍姫」は、案の定2005年の新連載では唯一の成功作品となり、のちのガンガンを支える数少ないマンガのひとつとなっています。今のガンガン連載作品が、編集部の意向で一般向けばかりを意識した少年マンガ作品に偏重している中で、「屍姫」は、一応はその範疇には入りながらも、同時にかなりコアでマニアックな読者を引きつける要素を数多く持ち、今のガンガンでは数少ないコアユーザー向けのマンガとなっています。


・屍になっても戦いを強要される、シビアな設定。
 そう、このマンガは、非常にマニア受けする設定が数多く見られます。基本的には「美少女+屍(ゾンビ)+ガンアクション」といった感じの作品で、それだけでも作者のマニアックな趣味が全面に出ていることは明白でしょう。なお、作者の赤人さんは、デビュー作である「MYSIC CONNECTION」からして、すでにこのような「美少女、銃、オカルト」的な要素で満ちており、デビュー作から一貫してこのような作品作りを継続しています。自分の本当に好きなもので連載が出来たことが、この作品の成功理由のひとつに数えられるでしょう。
 また、この作者の場合、明らかにあのPCゲームである「月姫」の影響を強烈に受けていることも明白であり、「屍姫」でも随所にそれらしい影響を強く感じることができます。昨今のガンガンは、「メジャーな少年誌」を目指すという方向性を強く打ち出し、一般向けを意識した少年マンガ的作品が非常に多いのですが、そんな中でこのマンガはかなりの例外だと言えます。

 しかし、このマンガには、そのようなコアユーザー向けの設定だけでなく、かなりシビアな設定も存在しています。
 主人公のマキナは、かつて屍の集団に無残にも殺されますが、しかしとある密教系教団の手によって「屍姫」として復活させられ、教団の手駒として屍を退治する任務を負わされています。屍を一定数(設定では108体)倒せば晴れて天国へと昇れますが、激しい闘いで死んでしまえばそこまで。途中で逃げることも認められていません。

 この場合、主人公には特になにか罪や落ち度はないはずですが、それなのに殺された上につらく激しい闘いを強要されるというのは、ひどく理不尽であり、非人道的な要素すら垣間見られます。最近では、なぜかこのような設定の作品がスクエニ系でいくつか見られるのですが(「ZOMBIE-LOAN」「DAWN〜冷たい手」など)、この「屍姫」はその最たる作品であり、自らが置かれた理不尽な状況に屈せず、徹底的にあがいて生き抜こうという主人公の姿勢には、非常に強い意志が感じられます。
 それと同時に、主人公である「屍姫」には、教団側から「契約僧」というパートナーが付き、共に協力して屍退治に当たります。この屍姫と契約僧は、強い縁で結ばれた一心同体の存在であり、そんなふたりの強固な信頼関係は、見ていて強く感じ入るものがあります。


・「死を想え」という明確なテーマ。
 そして、そのようなシビアな設定に加え、もうひとつ、非常に大きな、しかも分かりやすいテーマがあります。
 それは、「死を考える」ということ。主人公であるマキナは、見た目は普通の人間に見えますが、実際にはすでに死んでいる屍であり、我々生きている人間とは境界を挟んで別の世界にいる存在です。そして、そんな彼女の視点(死んでいる側の世界)から、生きている人間の世界を見ることで、人間の生き方を客観的に見るという面白さ。これは、この「屍姫」だけでなく、上述の作品群にも共通して見られるテーマです。

 そして、もうひとつ、死んでいる屍がすぐ身近にいるということで、「死の世界はすぐそこにある」ということを、改めて考えさせるというテーマが大きい。人間は、普段はそうそう死について考えることはなく、むしろ無意識に避けているところもありますが、しかし、実際には簡単に人は死に、すぐにあちらの世界に行ってしまうことは厳然たる事実で、時にはその事実を真剣に見つめないといけないのです。コミックス一巻冒頭の、

 「我々が日常を生きていけるのは、『死』を無意識に忘れていられるからだ だがすぐ思い出す」

という文言が、そのすべてを簡潔に表現しており、それが物語の冒頭でいきなり出てきたことで、のちの作品の方向性がきっちりと定まった感があります。この作品は、基本的にはオカルト要素やガンアクション中心の娯楽作品とみて間違いないでしょうが、しかしこういったテーマを根底に据えていることで、単なる娯楽作品から一歩抜け出した重厚な作品 へと昇華されています。


・「屍」ならではの凄惨なガンアクションが最大の見所。
 しかし、そのようなシビアな設定やテーマだけでなく、やはりオカルト要素満載の美少女ガンアクションといった娯楽要素も、このマンガの中心であり、それもまたこのマンガならではの独創的な要素が見られます。

 まず、なんと言っても、屍を銃で撃ちまくるアクションシーンでしょう。凄まじい再生能力を持ち、銃で撃っても瞬く間に再生していく屍たちを、さらに銃を撃ちまくって徹底的に追い詰めていき、最後には微塵に粉砕する。この爽快感溢れるアクションシーンは、連載版以前からの読み切り版「屍姫」より共通しており、このマンガの最大の見所と言っても過言ではありません。
 そしてもうひとつ、主人公も敵も屍ということで、手足を千切られたり首をばっさり切られたりといった、本来ならば致命的とも言えるような傷を負っても、平然と闘いを続けるという描写も、大いに惹かれるものがあります。この「屍(死体)ならではの、あり得ない身体能力を駆使した凄惨なバトル」こそが、このマンガのアクション最大のオリジナリティと言ってよいでしょう。読み切り版では、首をばっさり切られても平然と立ち上がって闘いを始めるシーンが非常に印象的でしたが、この連載版では、戦闘中に切られた足を強引に串でつなぎ合わせて、再度走り始めるシーンが非常に面白い(面白いと表現するべきかは微妙ですが)。これこそが屍姫ならではの闘いです。

 そして、連載版でさらに加わった内容として、「呪い」なるものを駆使した、呪術的な要素が強く見られるようになりました。いわゆる魔法バトルに近いものがありますが、それを屍(ゾンビ)と絡めることで、極めて不気味かつ背徳的な描写となっており、それもまたこのマンガの持つ独創性のひとつとなっています。


・スクエニは「はいてない」を極めようとしているのか(笑)。
 そして、もうひとつ、作者の趣味が強く出まくった要素として、美少女+セーラー服という組み合わせがあります。これは、読み切り版から一貫して共通している要素で、やたらミニスカと太股を強調しまくったそのアクションは、これまた「屍姫」最大のオリジナリティとも言えます。

 しかも、それだけではありません。明らかに、はいてないを強調しまくったそのアクションは、あからさまに受けを狙っているとも思えるもので、昨今のスクエニ作品では、どういうわけかこのようなものが目立ちます。「ながされて藍蘭島」はもとより(もっともこれはパンチラの方が多いが)、ヤングガンガンの「咲 -saki-」も露骨にそのような作風ですし、それ以外でもなんとなくそんな印象の絵が増えているように見えます。「屍姫」は、そんな作品の中でも最たるものであり、昨今の萌えの流行を露骨に踏襲した作品であると言えます。

 これは、果たして作者の趣味なのか、それとも雑誌編集側からの要請なのか。どうもその両方があるような気がします。まして、最近ガンガンの編集者が、「少年マンガ絵とエロ」などという方針を露骨に発言していることなどからも、このような作風こそがガンガンの目指すひとつの作品なのかもしれません。果たしてそれが正しいかどうかはかなり疑問ではあるのですが、この「屍姫」に関しては、元々の作者のマンガからそのような要素は強く見られているため、作者独自の作風として、ある程度許容して読める作品にはなっているようです。


・昨今のガンガンでは数少ないコアユーザー向け作品。
 このように、硬軟取り混ぜて様々な魅力的な要素が混在するこの作品、オカルト系美少女ガンアクションとしての要素が前面に出ていながら、それにとどまらない深いテーマ性も内包しており、かなりのポテンシャルを持つ実力派連載であることは間違いありません。
 そして、最初のうちは屍退治の単発エピソードが中心だったのが、連載が進むにつれ大きなストーリー展開が見られるようになり、そちらでも面白さを増しています。中にはかなり大きな展開もあり、主人公たちの最大の敵対組織である「大群(おおぜいのけがれ)」たちの内部の動向、主人公マキナの契約僧の新たな後継者への交代、あるいはかつての読み切り版で登場した屍姫や契約僧の本編での登場など、ストーリーの躍動感でもかなり楽しめる連載となってきました。

 そして、現在のガンガンでは、この「屍姫」が、数少ないコアユーザーでも読める作品として、その存在は相変わらず貴重なものとなっています。かつてのお家騒動以前からの、高年齢の読者でも読める作品は、今のガンガンではそう多くありません。その点で、さらに今後の活躍に期待がかかります。現在のところ、まだアニメ化などのメディアミックス展開を果たすには、若干押しが弱いような気がしますが、それでも今のガンガンの中では数少ない期待作であり、そこまで到達できる可能性を秘めていることは間違いないでしょう。

 現在では、前述の「大群(おおぜいのけがれ)」との闘いがストーリーの中心ですが、どうもこの闘いが連載序盤の山場であり、今後もまだまだ連載は続くようです。その点で、まだまだ今後の発展の余地は多いにありますね。


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