<仕立屋工房 Artelier Collection>

2006・5・22

 「仕立屋工房 Artelier Collection」は、ガンガンパワードに連載中のマンガのひとつで、同誌の中では比較的珍しいスタンダードな少年マンガとなっています。ガンガンパワードは、新人の読み切り作作品の掲載が中心の雑誌で、この「仕立屋工房」も元々は読み切り作品として、2004年春季号に掲載されました。そして、これが見事に好評を得て、半年後に連載化されてスタートします。作者は日丘円(ひおかえん)。
 その後、ガンガンパワード発の新人作品としては、他の数作品と同時に、初めて単行本化され、今では同誌の連載作品の中でも中心的な作品のひとつとなっています。その内容は極めてオーソドックスで王道的ながら、しかし手堅くまとまった良作という印象があります。

 その後、2009年4月号でガンガンパワードは休刊し、この作品はガンガンへと移籍することになりました。元々極めてオーソドックスな少年マンガ作品であったので、一般向け少年マンガを意識するガンガンへの移籍は極めて妥当だと言えるでしょう。出来れば、最初からこちらで連載してもよかったと思います。


・王道系少年マンガと言っていい内容だが・・・。
 前述の通り、このマンガは、王道と言っていいスタンダードな少年マンガとなっています。明るく元気な熱血少年が主人公で、特殊な力を使ったバトルが売りのひとつで、キャラクター的にも、主人公をサポートするクールなパートナーに素直でかわいい王道的なヒロイン、卑劣な手段満載の悪人と、まさに定番的なものと言えるでしょう。

 しかし、決して王道的でありきたりな要素ばかりではありません。要所要所では独創的な設定やストーリーも垣間見えており、中々に読ませるものとなっています。
 具体的には、なんといっても、主人公が「仕立て屋」すなわち服飾の職人であるという設定が面白い。この世界では、「天選(マスターピース)」と呼ばれる、神の手を持つ至高の職人たちの伝説が伝わっており、実は主人公である少年のマクモも、仕立て屋の天選であることが判明します。そして、その仕立て屋の天選としての特殊能力を駆使して、伝説の仕立てバサミを武器にして、敵を衣装で拘束したり、自分や仲間に着せてパワーアップしたり、あるいは弱い人々に着せて守ったりしながら、バトルを繰り広げて悪人を退治する、というストーリーとなっています。このように、「服飾の職人(衣装デザイナー)」をモチーフにした作風は中々に新鮮であり(似たような設定の作品として、ヤングジャンプコミックスの「CLOTH ROAD」がありますが)、「キャラクターのコスチューム」という見た目で分かりやすい設定を選んだことで、ビジュアル的にも目立つ効果を生んでいます。
 そして、「職人」というモチーフを選んだことで、単なるバトルだけでなく、「衣装を作ることで人を喜ばせる、幸せにする」という、「モノ作りの素晴らしさ」が強調されたストーリーが見られるのもよい点です。バトルによる悪人退治だけでなく、ものを作るという創造の楽しみが見られるのは実に良いことです。

 また、この「衣装作り」という点において、主人公のマクモが意外にも能力が劣っていて、特にファッションセンスではえらく劣っているというギャップが見られるのも面白いところです。このマクモ、バトルにおいては最初のうちからかなりの強さを見せるのですが、肝心の服飾職人としての腕はまだまだで、特にファッションセンスにおいては奇抜な趣味の悪さまで見せるという、極端な二面性があるのがよいところです。最初から万能の主人公ではなく、職人としては発展途上で努力中である。「天選」という英雄的な存在ではあるが、意外にも人並みに努力する一面もある。このあたりが実に庶民的というか、主人公を身近な存在に感じられてよいですね。


・絵柄やキャラクターも好印象。
 そして、マンガの絵に関しても中々にいい仕事をしてますね。
 決して目立つような絵ではなく、むしろ昨今の少年マンガとしては、ライト感覚のありがちな絵柄であり、オリジナリティや見た目のインパクトでは弱いのですが、しかし一方で丁寧な仕上がりで、読みやすい絵になっているのはかなり評価できます。
 最近のガンガンの少年マンガ系作品は、とにかく絵の出来が荒く、画面の汚さ、読みにくさを感じるものがあまりに目立っていました。しかし、この「仕立屋工房」では、そのあたりの仕事ぶりが丁寧で、とにかく読みやすい画面に仕上げようという作者の意識が感じられ、これはかなり好感が持てます。はっきりいって、見た目の印象では、ガンガン本誌の同系作品を上回っています。
 そして、絵柄自体も、ガンガン系に特有の中性的でくせの少ないタイプの絵で、万人に受け入れられるものになっているのも評価が高いところです。このキャッチーな絵柄は、それ自体がスクエニ系マンガの長所であると言えるでしょう。

 そして、その好感度の高い絵柄で描かれたキャラクターも好印象ですね。
 まず、主人公マクモのパートナーであり、クールで飄々とした少年であるキリク。「熱血系の主人公をサポートするクールなパートナー」というあたり、この手の少年マンガでは定番中の定番とも言えますが、実際には主人公のマクモよりもこちらの方がキャラクターの作りこみが感じられ、個性的な存在となっています。
 女の子(特にヒロイン)がかわいいというのもポイントが高い。萌えキャラとまでは行かないんですが、この好感度の高い絵柄で描かれたキャラクターは中々に魅力的で、素直な性格も定番のヒロイン像を踏襲しており、これまた王道系少年マンガのヒロインとしてよく描けています。ところで、このマンガのヒロインは、連載初回で登場した王女様(フレア姫)かと最初は思っていたんですが、実はその後の第三話に登場する、マクモの幼馴染であるサテンが本当のヒロインっぽいですね。もっとも、個人的には、連載前のキリクが主人公の読み切りで登場した、剣士の女の子である紅家浅緋が一番良かったと思っているんですが・・・再登場はないですか?(おい)


・読み切り版との比較。
 さて、最初に述べたとおり、このマンガは、最初は読み切りとして掲載され、その後好評を得て連載化されました。しかし、この読み切り版と連載版では、かなり設定が大きく変更されており、しかもその変更がいい方向に働いています。

 読み切り版は、連載版よりもさらにバトル系少年マンガの要素が強く、主人公が生物兵器として超越的な力を持っているという設定で、実際にバトルにおいては敵を圧倒し、その性格も連載版より大人びた印象でした。もちろん、服飾職人としての能力をもって敵を倒す、という独特の設定はこちらでも見られるものの、それ以上にバトルものとしての印象が強すぎ、平凡な少年マンガに終わっていた感があります。
 それが、この連載版では設定が大きく変わり、主人公はごく普通の少年となり、生物兵器という設定はなくなりました。性格的にもごく明るい少年となり、なによりも「職人としてはまだ三流」という、親しみを持てる存在に変わったところが大きい。職人としての活動(衣装作り)の要素も重視されるようになり、仕立て屋という設定がより活きてきました。この連載化にあたってのリメイクは正解だったと言えるでしょう。単行本一巻には読み切り版も併載されていますので、実際に比べてみてはどうでしょうか。


・派手さはないが、手堅くまとまった良作。
 このように、この「仕立屋工房」、定番的な少年マンガで派手なインパクトや独創性こそやや劣るものの、その分手堅く各要素が仕上がっており、実にかなりの良作であると言えます。やはり、「職人のモノ作り」にスポットを当てた点が好印象ですね。そして丁寧で読みやすい作画が実によい。これはガンガンの同系マンガに対する最大のアドバンテージでしょう。総じて、昨今のガンガン系少年マンガの中では、かなりの良作に挙げられるのではないでしょうか。

 できれば、このマンガをガンガン本誌で最初から連載してほしかったというのも本音です。というか、なぜガンガンの方で連載を始めなかったのでしょうか。今のガンガンは、メジャー誌を目指すという路線で、一般向けと言える王道系の少年マンガやラブコメを中心に載せ、逆にマニアックで個性的なマンガを露骨に排除する傾向にあります。そして、その排除された作品が、ガンガンの増刊であるこのパワードや、あるいはスクエニ系の他雑誌に掲載されるようになっているのです。
 しかし、この「仕立屋工房」は、オーソドックスな王道系少年マンガで、マニアックなオタク系の要素はまったく感じられません。ガンガンでの連載を避ける理由はどこにもないわけです。なぜこれをガンガンで最初から連載しなかったのか。しかも、このマンガは、同時期にガンガンで連載されている同系の少年マンガよりも優れているように見えました。職人のモノ作りにスポットを当てた独創的な設定と、そして読みやすく丁寧な作画は、現在のガンガンの平凡な連載陣ではあまり見られないものです。むしろ、この「仕立屋工房」の方を、優先的にガンガンで連載するべきだったのではないでしょうか。

 しかし、実際には、このマンガの方が、傍流のガンガンパワードでの連載を余儀なくされ、今ひとつ知名度の点で劣る存在に長い間甘んじることになりました。このあたりの選別の根拠が、今のガンガン編集部の本当によく分からないところなのですが、このために、本来ならば良作である作品の方が、長く不遇な地位に甘んじてしまったのは、少々残念な点であります。
 ただ、そのおかげで、このマンガが、連載本数が少なかったかつてのガンガンパワードで、連載陣の充実に貢献する一品になっていたのは幸いでした。王道系の少年マンガということで、他の個性派揃いのパワード連載陣の中では、逆にこちらも個性が保たれていたのです。派手さこそないものの、手堅く雑誌のラインナップに貢献した優良な作品だったと言えるでしょう。


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