<スカイブルー>

2011・9・7

 「スカイブルー」は、少年ガンガンで2010年7月号から開始された連載で、少年ガンガンの主要ジャンルである少年マンガを強く志向した作品となっています。今のガンガンで、「王道」「熱血」「バトル」と言った言葉がそのまま当てはまるマンガと言えばこれでしょう。お家騒動以後のガンガンは、一貫してこのような少年マンガを打ち出し続け、一時期やや新規連載の本数が少なめになった時期もありましたが、ここにきて再びこのような少年マンガが増えてくるようになりました。

 作者は、小林大樹。この作品が初連載となる新人作家で、以前はWINGでも「EVIL OR NOBLE」という読み切りを描いたことがあるようです。それは、ファンタジー世界を舞台にしたバトルマンガで、その激しいバトル展開や、人間に悪魔が取り付いて行動するストーリーなど、のちの「スカイブルー」につながるものを感じさせます。この作品が掲載されたWINGは、まさに休刊される最終号(2009年5月号)でした。

 そのガンガンWINGでの掲載後、まずフレッシュガンガンで読み切り版の「スカイブルー」を掲載したのち、ガンガン本誌でついに連載を開始。読み切りからして、ガンガンに載ってもおかしくないと思える王道バトルものでしたので、これは妥当な掲載先だと言えるでしょう。今度は、作品の舞台が一転して現代となり、主人公の男子高校生の中にある種の精神生命体(作中では「人格を有したエネルギー体」と表現)が宿るという、SFライクな作品となっています。激しい性格の主人公と、クールな相棒とも言える生命体とが一致協力して、人間離れした一種の超能力を駆使して、敵対者である人間と同じくそれに宿る精神生命体と闘っていくという、サイキックバトルマンガの様相を呈しています。超能力バトルの面白さもさることながら、少年マンガらしい熱い心理描写や、人間の常識が通用しない精神生命体との会話・交流の駆け引きなども見逃せません。

 ガンガンも非常に強くこのマンガを推しているようで、コミックス1巻の発売に際しては、「少年ガンガンの次代を担う新人作家初連載!これぞ王道バトル少年漫画!」とのコピーが大きく帯に描かれました。その上で、その期待に応えられるような勢いと面白さを感じる作品へと成長しています。


・少年マンガをさらに打ち出してきた2010年のガンガン。
 少年ガンガンは、2001年にエニックスお家騒動を経て今の体制へと移行して以来、一貫して少年マンガ作品を打ち出し続けており、それが最大のカラーのひとつとなっています。2004年から2006年にかけての一時期、新連載と連載本数自体が大幅に減った時期があり、この時だけはさすがに少年マンガの新連載数も減りましたが、2007年以降再びコンスタントに少年マンガの新作を出してくるようになっています。

 特に、2008年には、「トライピース」(丸智之)と「ストレイキーズ」(柚木タロウ)という新人によるオリジナル新連載がまず2本。さらに、2002年より続く「マテリアル・パズル」の新シリーズである「マテリアル・パズル ゼロクロイツ」(土塚理弘・吉岡公威、のちにガンガンONLINEへと移籍)、マガジンで活躍していたベテラン作家による新連載「RUN day BURST 」(長田悠幸)などを次々と打ち出します。ヤングガンガンで「黒神」を手がけていた韓国作家による「メテオエンブレム」(朴晟佑)なる新連載もありました。

 翌2009年には、ヤングガンガンの人気連載「BAMBOO BLADE」のスピンオフ作品「BAMBOO BLADE B」(土塚理弘&スタジオねこ)、ガンガンパワードより移籍してきた荒川弘作画によるメディアミックス作品「獣神演武」(黄金周・荒川弘)、ボンズによるアニメ作品の先行コミカライズ「HEROMAN」などが登場。この年はメディアミックスやスピンオフ作品が多く、オリジナルの新作が少なめでしたが、翌2010年になって再びオリジナルの少年マンガを複数打ち出してきます。

 その2010年の新連載ですが、ここで扱う「スカイブルー」に加えて、「Red Raven」(藤本新太)「HELL HELL」(東ジュン)の2本の作品を立て続けに開始。この2本は、やや女性に好まれるタイプの作風とも思えるもの(美形の少年・青年キャラクターや整った作画)で、「鋼の錬金術師」で女性読者を増やしてきた少年ガンガンの求める作風もある程度感じられます。

 そして、これら全てのここ最近の少年マンガ作品の中で、最も強くガンガン編集部が推しているのが、この「スカイブルー」ではないかと思われます。連載初回から100ページを超えるページ数で大々的に開始、これだけならさほど珍しくありませんが、その後も雑誌内での大きな扱いは続き、さらに大々的な告知と共に初のコミックスが1・2巻同時発売されました。コミックスの同時発売は、人気の下火になったマンガや売れ線でないマンガでも行われてきましたが、このマンガは異なり、大きな期待を込めての大々的な展開となっていました。


・熱血主人公とクールなパートナーの強力タッグが面白い。
 この物語の主人公は、風見天晴(かざみあまはる)という強面の男子高校生。喧嘩の強い不良として恐れられていますが、決して悪い心の持ち主ではなく、極めてまっすぐな性格で、かつ意外にも思慮深い心理も垣間見えます。
 そんな彼の元に現れたのが、「スカイブルー」という名の「カラーズ」という精神生命体。「カラーズ」は、「人間に宿る、人格を有したエネルギー体」といった存在で、期せずして天晴の中に宿ることになります。彼ももうひとりの主人公という位置づけで、その名前が作品のタイトルにもなっています。そして、このカラーズに宿られた天晴は、「色彩能力者(サイキッカー)」と呼ばれる存在となり、対立する他の色彩能力者やカラーズと闘うことになるのです。

 スカイブルーは、人間などを超越した存在のためか、飄々としたつかみどころのない、あるいは超然として自分勝手なところもある性格で、かつ人間の常識をあまり知らず、まっすぐな性格の天晴とはたびたび言い合いをすることになります。しかし、交流を重ねるうちにふたりは徐々に理解し合い、色彩能力者やカラーズとの対決でも、コンビネーションを発揮して闘うようになります。この、まったく性格の異なるふたりの会話・交流・バトルでのコンビネーションがとても面白い。

 まっすぐな性格で、すぐ頭に血が上ってしまう天晴に対し、スカイブルーは、あるときは飄々としつつ、あるいは時に真剣に、彼をじっくりと諭していく。バトルでも的確な状況判断で天晴を導き、勝てない相手には引くように必死で説得する。「熱血主人公をサポートするクールなパートナー」というキャラクターの姿は、この手の少年マンガでは定番中の定番だと思うのですが、このマンガではその魅力を惜しみなく発揮しています。卑劣な性格の敵対者に対しても、怒れる天晴をスカイブルーが抑えつつ、あるいは時に意気投合して抜群のコンビネーションで闘う。これが、まずこのマンガ最大の見所と言えますね。


・常識が通じない相手との会話・交流がこのマンガのもうひとつの肝。
 このような、魅力的な主人公たちによる能力バトルという、少年マンガの王道を地で行くような展開が、まずこのマンガ最大の売りとなっていて、これは編集部によるたびたびの告知・宣伝文句でもよく強調されています(「色彩戦争開幕!色のバトルロイヤルが始まる!」「これぞ王道バトル少年漫画!」)。しかし、わたしは、これに加えてもうひとつ、このマンガには見るべきものがあると思っています。それは、「人外の者」もしくは「人間でも常識が通じない相手」との会話・交流の姿です。

 まず上でも書いたとおり、天晴に宿ったスカイブルーという生命体は、人間とはまったく異なる異種生命体で、人間の常識というものをあまり(ほとんど)持ち合わせていません。そんな彼に対して、宿主である天晴は、その不可解な思考に対してひどく戸惑い、反発を繰り返します。しかし、精神を共有する状態で少しずつ会話を重ねていくうちに、次第にスカイブルーは「人間とはこういうものか」と人間に対する知覚を高めていき、天晴の方も彼の存在を認めるようになる。この「常識が通用しないものとのコミュニケーション」の様子が、非常に面白いと思うのです。

 常識が通用しないのは、スカイブルーだけではありません。他のカラーズたちも同じく人外で、やはりどこか不可解な感性を持つものばかりですし、あるいは人間であるはずの色彩能力者の中にも、明らかに常識の通用しない者が登場します。そんな彼らとの意思疎通の試み、これもバトルと並ぶ大きな見所ではないでしょうか。
 その中でも特筆すべきは、王紅玉(おうこうぎょく)という、天晴の最大のライバルとして立ちはだかる強大な色彩能力者です。彼は、明らかに周囲の人間とは異なる異様な感性・思考を持ち合わせており、弱い者に対しては極端に嗜虐的で、笑いながら人を殺してしまいます。自分の家族ですらみな殺してしまい、その死体を家の中に放置するという異様な行動を取り、そのことを知った天晴は激昂し、それと同時に「この男とはどう考えても理解しあえない」と直感することになります。バトルでも強大すぎる敵としてうちのめされ、瀕死の状態から生還した天晴は、これから先も最大の宿敵として王紅玉と渡り合うことになるでしょう。その邂逅で、果たしてふたりは意思の疎通ができるのか。また、人間でありながら、明らかに人間とは異なる心を持つ王紅玉が、これから先どのような生き方を送るのか。そのあたりにも注目して読んでいくと面白いと思います。


・近年のガンガンの少年マンガでは最も期待できる作品。
 以上のように、この「スカイブルー」、能力バトルという少年マンガの魅力に満ち溢れ、常識から外れたキャラクターたちの間に交わされる会話・交流・コミニュケーションの妙も興味深い、ここ近年のガンガンの少年マンガの中では、最も力のある作品になっていると感じます。それも、連載が進むに連れて、次第に盛り上がりを鮮明に感じるようになり、これは本気で化けてきたなと思えるようになりました。このままガンガンの看板となり、さらなる展開にまで達するかもしれません。
 昨今のスクエニは、作品のアニメ化をひとつの大きな戦略にしていますが、ガンガンの少年マンガに関しては、他のジャンルに比べればアニメ化まで行く作品は少なく、「鋼の錬金術師」「ソウルイーター」(マニア向けだが「屍姫」)程度しかありません。特に、ここ数年はそこまで行くような作品には恵まれないでいます。しかし、このマンガならそこまで行ってもおかしくないでしょう。そして、このようなストレートな王道マンガがガンガンの顔としてアニメ化まで行けば、ガンガンの印象も大いに変わるのではないか。そこまで期待してしまいます。

 唯一ちょっとした欠点は、絵柄が、少年マンガ特有の仕上がりのあまり綺麗でない作画になっていることでしょうか(これに関しては、同時期の「Red Raven」や「HELL HELL」の方に軍配があがります)。しかし、回を追うごとに絵のレベルは上がっていますし、少年マンガらしい迫力の作画が、少々の欠点を覆い隠すようにも働いていて、これも最近では気にならなくなってきました。このビジュアルを維持できればこちらもいけるのではないでしょうか。

 さらに、最近の展開では、以前にも増して主人公・天晴の生き様に惹かれます。どうしようもないほど残虐で強大な敵に対して、「ここは引くことが賢明だ」と諭すスカイブルーの言葉を、理性ではそうだと理解しつつも、しかし、「ここで引くという生き方は俺にはない」と言い放ってなお踏みとどまろうとする。これは本当に心に響くものがありました。いい意味での少年マンガらしさが、作品の質をよく押し上げている。こういった作風を貫けば、これからもさらに期待できそうです。


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