<ガンガンのスポーツマンガについて考える(前編)>

2007・4・16

*後編はこちらです。

 お家騒動後の路線変更を行ったガンガンの方針で、ひとつ目立つものとして、「スポーツマンガ」というものがあります。ガンガンの編集長や編集者自身「目指すのはメジャーな少年誌」「目指すのは少年ジャンプ」と諸々のインタビューで何回も口にしていますし、そういった方向性を目指すにあたって、「スポーツマンガ」を目指すのは当然かもしれません。しかも、そのインタビューのうちの一回では、「スポーツや料理など一般的なジャンルを増やそうと模索中です」とはっきりと発言していますし、その点からでも、ここ最近のガンガンが、スポーツマンガを定着させようと意図していることは明白でしょう。

 (参照)毎日新聞によるガンガン編集長インタビューログ

 そして、実際にここ数年のガンガンは、何度もスポーツものの読み切りや短期連載を定期的に繰り返しています。
 元々、ガンガンはスポーツマンガが受けない雑誌であり、ほとんど成功作は出ておらず、連載本数自体もさほど多くありません。雑誌創刊初期の頃は、王道的な熱血スポーツマンガが何本も連載されましたが、どれも平凡の域を出ず、早期にことごとく打ち切りとなりました。そして、ガンガンの誌面の方向性が変わった中期以降は、スポーツもの自体がガンガン読者の好みとも合わなくなり、あえて連載されることも少なくなりました。しかし、それがここ最近、お家騒動以降の路線変更で、またスポーツものを採りいれようとしているようなのです。

 元々は、お家騒動以前、路線変更を始めた直後から、このようなスポーツものへの取り組みが始まり、当時は「High球!いんぷれっしょん」という女子バレーもののスポーツマンガが連載されました。しかし、この連載、絵的にも内容的にもあまりにもひどい完成度に終始してしまい、あっけなく短期連載で打ち切り的に終了してしまいます。
 この失敗を後悔したのか、お家騒動後のガンガンは、よりまともな内容のスポーツマンガを載せるようになります。毎号のように載るわけではありませんが、何号かごとに定期的に載るようになり、人気が出れば連載化しようと意図しているようにも見えました。そして、2006年には、これは男子新体操もので「新体操舞技」というスポーツものが短期連載されました。あとは、これはギャグマンガに分類されるべきでしょうが、「はじめての甲子園」が読み切りから本格連載へと昇格しました。これが唯一の正式連載化作品となります。 これらの何回にも渡る読み切り・短期連載の試みを見るに、ガンガンはスポーツものを定着させるという試みを継続しているようです。

 しかし、これらの読み切り・短期連載作品は、必ずしも面白いとは言い切れないのも事実です。それは、これらの作品が、結局のところ(ギャグマンガとしての要素が強い「はじめての甲子園」は例外として)どれひとつとして長期連載化できなかったことからも分かります。果たして、これら「ガンガンのスポーツマンガ」の内容は、実際のところどうなのでしょうか。


・お家騒動後のスポーツマンガ作品を列挙してみる。
 ではまず、実際にお家騒動後のガンガンで、読み切りや短期連載された「スポーツマンガ」をすべて挙げてみることにします。以下に示します。

  • 「私は野球部マネージャー」(読み切り・2002年2月号掲載)
  • 「AIR FREAK」(前後編読み切り・2004年3月号/4月号掲載)
  • 「大洋とサブマリーン」(読み切り・2005年12月号掲載)
  • 「CANNONBOY」(読み切り・2005年12月号掲載)
  • 「はじめての甲子園」(読み切り・2006年1月号掲載、のちに正式連載化・2006年4月号より連載中)
  • 「野球部へ行こう?」(読み切り・2006年1月号掲載)
  • 「新体操舞技」(短期連載・2006年9月号〜12月号掲載)
  • 「あぁ栄冠は君に輝け」(前後編読み切り・2007年5月号/6月号掲載)

 かなり間の空いた時期もありますが、全体的にはひどく定期的に読み切りが掲載されていることが分かります。特に、2005年末期以降が顕著で、どうもこのあたりから本格的にスポーツものを採りいれようと考え始めたようです。

 作品をスポーツの種類で分けてみると、まずとにかく定番の野球ものが多く、「私は野球部マネージャー」「大洋とサブマリーン」「はじめての甲子園」「野球部へ行こう?」「あぁ栄冠は君に輝け」と、これらすべてが野球です。中でも、2000年の第2回新世紀マンガ大賞において、野球マンガで大賞を受賞した「瀬戸蔵造」原作によるマンガが、長らく定期的に登場しており、「私は野球部マネージャー」「大洋とサブマリーン」「あぁ栄冠は君に輝け」の3つがそれに該当します。
 野球以外では、「CANNONBOY」がサッカー、「AIR FREAK」が男子バレーボール。このふたつも、スポーツものとしては定番ジャンルでしょう。唯一、男子新体操ものの「新体操舞技」だけはかなり異色ですが、これにはもしかするとあの「ウォーターボーイズ」の影響があるかもしれません。

 以上のように、スポーツの種類での内訳では、ほとんどが定番の野球やサッカーで、唯一「新体操舞技」が男子新体操ものとして気を吐いたところでしょうか。定番でありきたりと言えるジャンルだけあって、あまり印象に残る読み切りは多くなかったようです。ガンガンの雑誌読者の方でも、これらのマンガのタイトルを聞いて、内容を思い出した人は、あまりいないのではないでしょうか。唯一、これはギャグマンガとしての印象が強い「はじめての甲子園」が記憶に残っている程度でしょうか(連載化したこともありますし)。


・内容も極めて平凡な感は否めない。
 そして、ジャンル自体が定番でありきたりなだけでなく、正直なところ内容も平凡な感は否めない作品が、かなり多くを占めていました。とにかく、「まるでジャンプにでも載っていそうなスポーツもの」といった印象が正直なところで、強くオリジナリティを感じる作品は多くなかったのです。これは、異色の男子新体操ものである「新体操舞技」ですら言えることで、内容的には他のマンガとさして質的な差異は見られませんでした(連載ものだけあって、他の作品よりはレベルは高いように見えますが)。
 具体的にどう平凡なのか列挙してみると、

 まあ、これだけありがちな要素が揃っていれば、当然ながら印象には残らないわけです。個々の作品で、多少異なる部分もありますが(ヒロインとなる女の子が出ないなど)、おおむねすべて同じ流れです。唯一、まったく当てはまらないのが「はじめての甲子園」ですが、これはギャグ主体のマンガなので例外でしょう。


 まず、最近のガンガンのスポーツものは、なんで主人公が揃いも揃ってやたら自己中心的で協調性がないんでしょうか。上で挙げたマンガのほとんどがそうです。「新体操舞技」に至っては、主人公は不良で、ひどく暴力的ですらあります。他の読み切りマンガでも、なぜか主人公はみな「実力はあるが、一人で突っ走るだけで仲間に合わせようとしない」キャラクターがほとんどで、あるいは主人公が「実力はまったくない、一から教わっていく初心者」である場合もありますが、そんな初心者であるにもかかわらず、周りの言うことをまともに聞かないというケースがほとんどです。前述の「新体操舞技」がまさにそうですが、これは不良が新体操を通じて成長していく話なので仕方ないのでしょうか。しかし、なぜこんな主人公ばかりを揃えるのかは疑問です。もっと他に、素直で人当たりの良い主人公というのはいないのでしょうか?(笑) 同じスポーツものでも、いろんなタイプの作品、いろんなタイプの主人公がいていいはずですが・・・。

 そして、次に目立ってしまうのが、かわいい女の子のヒロインが約一名登場すること。「AIR FREAK」だけは例外で、女の子は出ないのですが、それ以外のマンガでは確実に「一人のヒロイン役」が登場しています。しかも、それが大抵の場合、マネージャー。スポーツもののヒロインは、部活のマネージャーと相場が決まっているのでしょうか。あるいは、単純に主人公も好意を抱く学園で人気の美少女とか(「新体操舞技」の場合)。しかし、これはこれでかなりありきたりだと思いますね。「とりあえずヒロイン役のかわいい女の子を一人出しておこう」という、安直な設定作りが顕著に感じられてなりません。

 そして、こちらはさらに目立つのですが、必ずイケメンの強敵ライバルが登場するのはなぜでしょうか。これは、ひょっとすると上記のすべての作品に当てはまってしまうかもしれません(例によって「はじめての甲子園」だけは例外ですが)。なぜここまでイケメンの美形男がたびたび登場し、しかも彼らすべてがスポーツの超実力者であり、主人公のライバルとしての扱いに決まっているのか。ガンガンのスポーツマンガのライバルキャラは、すべてイケメンだと相場は決まっているのでしょうか(笑)。美形でないとダメなのでしょうか。これも理解できません。

 そして、なんといってもありきたりすぎるストーリー。というか、ここまで主要キャラクターが揃いも揃ってありきたりだと、もうストーリーも決まりきったものにしかならないと思うのですが、どうでしょう。大抵の場合、主人公がライバルとの闘いや試練を乗り越え、最終的に実力を向上させるという流れで終わっています。協調性のない主人公が、最後にチームワークの大切さを知るという話もよく見られます。そして、そこに主人公の助言役や活力となる存在として、約一名のヒロインが登場するという流れ。そういったストーリーばかり。多くのスポーツものが、ある程度「主人公の成長」をテーマにしている以上、「最終的に実力を向上させる」というエンディングは仕方ないとしても、そこに至る過程にはもっと捻ったストーリーがあってもよさそうなものです。

 そしてもうひとつ、非常に重要な共通点として、絵が雑な上に平凡という点があります。とにかく、大手雑誌のジャンプあたりでよく見られる少年マンガ的絵柄で、そこに人目を惹く独創性に乏しく、印象に残りません。加えて、絵の完成度自体も高いとは言えず、仕上がりが雑で読みづらい作風に終始しています。総じて、ビジュアル的な魅力に乏しく、これがまたガンガン系スポーツマンガが読者の印象に残りにくい大きな要因となっています。
 キャラクターやストーリーなどの内容面がありきたりなのですから、せめて絵的な外見だけでも、人目を引くレベルの高い絵柄、綺麗な作画、独創性の高い作画があってもよいと思うのですが、残念ながらこちらでも特筆すべき点は見当たりません。「目指すのはメジャーな少年誌」「目指すのは少年ジャンプ」というくらいですから、見た目までそんな雑誌に見られる作品と同じようなものを、律儀に掲載するつもりなのでしょうか?


・このような作品作りでは、まず絶対に成功できない。
 このように、お家騒動後の最近のガンガンで掲載されるスポーツマンガは、総じてジャンプあたりで見られるスポーツマンガの内容をなぞるかのような、極めて平凡な作風に終始しており、そこに成功の目は感じられません。ここまで、ほとんど正式に連載化した作品が出ておらず、唯一異色のギャグ作品である「はじめての甲子園」のみにとどまっているのも、ごく当然の結果だと言えます。

 さらに、ガンガンという雑誌は、昔からスポーツものが苦手でほとんど成功作が出ておらず、誌面の方向性や読者の好みとも合わない状態が長く続いていました。つまり、スポーツものが受けにくい誌面になっていたわけです。そんな逆風の中で、ここまで平凡で他誌でよく見られるようなありきたりな作品作りを進めても、まず人気が出ることはないはずです。逆風をはねのけるかのような、強烈な印象を残す独創性の強い作品こそが必要でしょう。
 しかし、今のガンガンでは、とりあえず「メジャーな少年誌を目指す」という思惑ばかりが先走っているのか、単にそういった雑誌でよく見られるタイプのスポーツマンガ、その内容をなぞるかのような作品作りに終始しています。このような安直な創作を繰り返すようでは、まず成功する作品は出ないでしょう。

 むしろ、これまでのスポーツものとは異色の作品である「はじめての甲子園」や、他誌であるヤングガンガンでの成功作「BAMBOO BLADE」などの方が、はるかに面白い作品作りが出来ているように思います。後編では、このふたつの作品を詳細に採り上げ、ガンガンのこれらスポーツマンガとの相違点を明らかにしていきます。


*続きは後編記事でどうぞ。こちらです。


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