<ガンガンのスポーツマンガについて考える(後編)>

2007・4・18

*前編はこちらです。

 さて、前編では、「ここ最近のガンガンのスポーツマンガは、あまりにもありきたりな内容に終始している」ことを主張しました。しかし、最近のガンガン系には、少数ながらも独創的なスポーツマンガの成功作が登場しており、必ずしも凡作ばかりではありません。具体的には、ヤングガンガンの「BAMBOO BLADE」と、ガンガンの「はじめての甲子園」です。このふたつは、スポーツものとしては新鮮な作風で一貫しており、中々に印象深いものとなっています。これらの作品は、ありきたりな内容に終始するガンガンのスポーツマンガとは、ひどく一線を画する内容を持っています。


 まず、ヤングガンガンの「BAMBOO BLADE」。これは、すべてにおいて従来のスポーツマンガとは異なる斬新な要素を採り入れており、新感覚のスポーツマンガとして一世を風靡しています。はっきりいって、「ガンガンのスポーツマンガには足りないものをすべて持っている」と言っても過言ではありません。

 まず、なんといっても、「女子剣道」という異色のモチーフを選んでいることが大きい。剣道もののマンガは過去にかなりあると思いますが、しかし、女子の剣道となると、現実でもさほど人気がない上に、マンガとしても、キャラクターたちが防具に身を固めた地味なビジュアルに終始することが理由なのか、ほとんど見ることはなかったと思います。しかし、このマンガは、あえてそんなマイナーな題材に取り組んだことが、まず光っていました。

 そして、そのキャラクターの設定も、かなり斬新です。このマンガの主人公は、一応は剣道部顧問教諭の石田虎侍(通称「コジロー)」ですが、真の主役と言えるのは無論女子剣道部員たちであり、彼女たちの設定も非常に個性的です。
 その最たるものは、小さな天才剣士・タマちゃんこと、川添珠姫でしょう。とにかく、最初からほとんど誰もかなうものはいないほど、圧倒的に強い。「最初は弱い主人公が成長して勝てるようになる」というスポーツマンガの定番からは、完全に外れたキャラクターです。しかし、実生活での性格には、未だ幼いところも見られ、そちらの方では数々の経験を通しての成長劇が見られます。
 タマちゃん以外のキャラクターでも、最初からある程度以上に強かったり、部活で活躍している選手が、かなり見られます。経験のない初心者のキャラも中にはいますが、全体の中では少数派で、それが主人公のような中心人物を占めているわけではありません。このあたりでも、定番の「主人公成長もの」スポーツマンガとは、一線を画しています。

 そして、なんといっても異色なのはストーリーでしょう。従来の熱血ものスポーツマンガとは全く異なり、軽妙なノリのコメディとギャグを主体にして、脱力感全開でまったりと進むストーリー。これこそが、従来のスポーツマンガとの最大の違いではないでしょうか。「新感覚スポーツコミック」と称される最大の理由がこれでしょう。

 その中心にいるのが、主人公の顧問教諭・コジローです。この万年貧乏教諭は、部活においても非常にいい加減な男で、部員もろくに集めずに適当なノリでやっていました。しかし、この男は、他校の剣道部顧問をしているかつての学生時代の先輩と賭けをして、教え子同士の試合で勝てば「本格江戸前寿司一年間食い放題」という報酬につられ、いきなりはりきって剣道部員たちをけしかけ、部員を集めて練習させようとします。このような、自分の生活と食費と寿司のみしか頭になく、自分勝手な目的に邁進する様がとにかく笑えるのです。このようないい加減なキャラクター、脱力感全開のコメディタッチのストーリーは、従来のスポーツマンガのイメージとは、全く異なっていました。剣道マンガなんだけど、決して熱血ものではない。熱血・青春の要素もあるにはあるが、全体的には決して暑苦しいマンガにはなっておらず、ライト感覚で楽しんで読んでいける。これは、従来のスポーツマンガにはさほど興味のなかった読者層すらも、大いに引きつける要因になりました。

 主人公が顧問教諭に設定されていることで、部員生徒だけでなく、そこから一歩引いた教師の視点からも、物語が進んでいくのも面白い。最前線で部活動を行う剣道部員と、それを見守る顧問教諭との視点と、多層的な視点で進んでいく。これが、物語に大きな深みを与えています。というか、そもそも、部活の教諭にスポットが当たるスポーツマンガというのも、かなり珍しいのではないでしょうか。このあたりの独創的な作品作りも評価できるところです。

 そして、最後に、なんといっても絵のうまさ、綺麗さが光ります。とにかく丁寧で綺麗な作画で、キャラクターの魅力が光る上に、全体的な作画レベルもおしなべて高く、実に読みやすく好印象です。これも、ガンガン掲載のスポーツマンガとは大いに異なるところで、見た目の印象からして全く違うのです。キャラクターの萌えレベルも非常に高く、ヤングガンガンの錚々たる萌えラインナップ(笑)の中でも、一・二を争うマンガに成長しています。これもまた、従来のスポーツマンガに対する大きなアドバンテージだと言えるでしょう。

 以上のように、この「BAMBOO BLADE」、女子剣道というマイナーなモチーフ、最初から完成された強さを持つキャラクターたち、脱力感全開でまったりと進むストーリー、スポーツマンガにしては際立つ絵の綺麗さとキャラクターの萌え要素と、あらゆる点で従来作品とは異なっており、まさにオリジナリティあふれる新感覚作品となっています。これだけ目新しい要素に満ちていれば、人目を引いて人気が出るのも当然といったところでしょう。このマンガ、萌え要素が強いために「萌えマンガ」として扱われることもありますが、実際にはそれ以外の要素も高く評価されており、スポーツマンガの好きな人や、剣道の経験者にも広く楽しまれています。この人気は、決して偶然の産物ではなく、個々の斬新な要素を積み重ねた独創的な作品作りに対する、当然の結果だと言えるのです。

 そして、ガンガンのスポーツマンガも、このような良き作品が同じ出版社内にあるのだから、是非それを見習うべきではないでしょうか。はっきりいって、この「BAMBOO BLADE」、ガンガンのスポーツマンガには足りないものをすべて持っています。このようなマンガが、スクエニの中心雑誌であるガンガンではなく、青年誌であるヤングガンガンで登場したことは、「ガンガンよりもヤングガンガンの方が、手堅い雑誌作りで面白いマンガが多い」という、今のスクエニ雑誌の現状をよく表しているのではないでしょうか。


 しかし、そのガンガンにも、ひとつ興味深いスポーツマンガ(と言えるかは微妙ですが)があります。「はじめての甲子園」です。
 このマンガ、ギャグ要素が非常に強く、基本的にはギャグマンガと言ってもいいくらいの作品です。読者の間でも、ギャグマンガとして捉えている人が多数ではないでしょうか。しかし、これを純粋にスポーツものとして考えた場合、他のガンガンのスポーツマンガとは全く異なる、独創的な作品でもあるのです。

 まず、設定からしてあまりにもいい加減でした。ド田舎の学校で、まともな人間の部員が主人公の二屋(にや)くんひとり、あとはふざけた顧問教師のアミ彦と、ボケの王道である校長の3人だけ。さすがにこれではギャグマンガとしてのネタも続かないので、すぐに転校生の新キャラクターがふたり、ヤンキーの五丈原竜と女性豪腕投手の一色緑が入ります。もっとも、これでも部員はたったの三名で、まともな野球マンガにはなっておらず、この時点では完全にギャグマンガでした。

 ひとりひとりのキャラクターもかなり個性的です。主人公の二屋くんは、ギャグではボケキャラながら、野球への取り組みはかなりまじめで、メンバーの中では最もまじめに甲子園を目指しています。このあたりからして、他のガンガンスポーツマンガとは違いますね。素直で人当たりのよい主人公は、ガンガンのスポーツマンガではこの作品くらいでした。

 ヤンキー(不良)の五丈原竜、女性豪腕投手の一色緑のふたりは、スポーツものでは割と定番の範疇に入るキャラクターかもしれませんが、実際にはどちらもギャグ担当としてかなり壊れた一面も見せるため、決してありきたりなイメージのキャラクターにはなっていません。ヤンキーの五丈原くんなどは、中盤以降まじめに野球に取り組もうと努力するシーンもよく見られ、性格的にも意外に悪いキャラではなく、かなり好感が持てます。

 そして、なんといってもふざけた顧問教諭・アミ彦があまりにも凄まじい。「BAMBOO BLADE」のコジローすらはるかに凌ぐいい加減な教師で、野球に対する知識など全く持たず、それどころかオタク趣味を全開で撒き散らすその壊れた性格は、あまりにも印象的でした。

 そして、ストーリーについても、大いに見るべきところがあります。このマンガ、基本的にはギャグ中心で、最初のうちは紛れもなくギャグマンガでした。しかし、これがしばらくして、意外にも本格的に野球をやる描写も入るようになり、スポーツものとしても読めるようになっていくのです。基本的にはギャグ全開で進みつつも、合間合間で真面目な野球への取り組みや、これまた意外にも野球関連の知識まで入るようになり、少しずつですが「甲子園に向けて練習に取り組む」というストーリーの流れが見られるようになったのです。

 このような、ギャグ中心にしながらストーリーも進んでいくという展開は、軽妙なノリのコメディとギャグを主体にして、脱力感全開でまったりと進む「BAMBOO BLADE」のストーリーに近いものすらあります。こういった気軽なノリで楽しむスポーツマンガは、従来とは異なる新鮮な感覚の作品として、ガンガンの成功作では特徴的なものになっていると言えますね。

 そして最後に、絵もかなり好印象です。「BAMBOO BLADE」ほど綺麗でレベルの高い作画ではないのですが、ギャグマンガとして適度にデフォルメが効いたセンスを感じ、仕上がりも丁寧で汚さを感じない好感度の高い作画で、これも他のガンガンのスポーツマンガとは一線を画していました。結局、ガンガンのスポーツマンガで、ビジュアル的にも抵抗なく読めたのは、この作品くらいでした。


 この「はじめての甲子園」、マンガの完成度としてはいまだ微妙なところがあり、ヤングガンガンで一線級の人気作品として定着している「BAMBOO BLADE」ほどの高い人気はまだ見られません。しかし、その独創性にはやはり見るべきところがあり、他のガンガンのスポーツマンガとは全く違うものを感じました。そして、それがガンガンのスポーツマンガで唯一長期連載化を達成した、最大の理由にもなっていると思われるのです。その点を踏まえれば、やはりガンガンのスポーツマンガは、このマンガにも習うべきところが大いにあるのではないでしょうか。


 このように、従来スポーツものが受けなかったガンガン系雑誌でも、ここ最近は、少ないながらもオリジナリティに溢れる意欲作が登場してきています。今までが完全にスポーツもの不在だったことを考えれば、むしろ中々の成果は出ているとも言えるのではないでしょうか。ガンガンも、これ以上さらにスポーツものに力を入れるつもりならば、先行するこれら成功作の作品作りを、大いに参考にして、ありきたりな作品作りはやめるべきでしょう。

 念のために言いますが、わたしは、主人公が自己中心的だったり、美少女マネージャーが登場したり、イケメンのライバルが登場したりするスポーツマンガが、必ずしも悪いとは思いません。そういうスポーツマンガがあってもよいと思います。ただ、ガンガンの場合、どれもこれもそんなスポーツマンガばかりなのが問題なのです。毎回毎回、メジャー誌によく見られるタイプのスポーツマンガ、その定番をなぞるかのような作品作りに終始しています(そして、これはスポーツもの以外の作品作りにもかなり共通しています)。そのような安直な方針は改め、じっくりと個々の要素を煮詰めてオリジナリティを追求するような、地に足の着いた作品作りを期待したいところです。


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