<トライピース>

2008・2・16

 「トライピース」は、少年ガンガン2008年3月号より開始された連載で、同誌が2008年に入ってから打ち出した新連載攻勢のうちのひとつに当たります。同じ新連載攻勢に含まれる作品としては、「ひょっとこスクール」(武凪知)、「清村くんと杉小路くんろ」(土塚理弘)、「マンガ家さんとアシスタントさんと」(ヒロユキ)、「STRAYKEYS(ストレイキーズ)」があり、この中にはベテランの作家による連載も含まれますが、この「トライピース」は純然たるスクエニ発の新人による新連載であり、中でも同じ新人による新連載「STRAYKEYS(ストレイキーズ)」と並んで、王道少年マンガの要素を非常に強く打ち出しています。ガンガンは、このマンガを「ガンガンの大本命」「ガンガン流 王道少年マンガ」と宣伝しており、このマンガを期待の大型新連載として盛り上げたいという意思も感じられます。

 作者は、新人の丸智之で、かつてスクウェア・エニックスマンガ大賞において、「オリーブとデイジー」という作品で特別大賞を受賞しています。その後、新人による読み切り雑誌「フレッシュガンガン」で、この作品の原型となる読み切り「トライピース」を掲載、その作品が認められたのか、晴れてガンガンで連載を獲得することになりました。マンガ賞を受賞してから約1年後の連載デビューで、ガンガン(スクエニ)の新人ではかなり早いタイミングでの連載獲得と言えます。

 マンガ賞受賞作の「オリーブとデイジー」も、その後の読み切り「トライピース」も、異なるものとの共存や、あるいは戦争を無くすといったテーマが正面から打ち出されており、その点に惹かれた読者も多く、あるいは力強い勢いで執筆するような作者の制作姿勢も感じられる作風で、そこでの支持も集めました。反面、技術的にはまだまだ未熟と言える箇所も多く、絵的にも内容的にも稚拙だと思えるところも少なくないように思われます。低年齢向けの少年マンガ路線を打ち出しており、子供向けということで多少は許されるところもあるでしょうが、それを考慮しても少々難に感じられるところも多く、完成度は高くないように思われます。それは、この連載版でも共通しているようで、果たして連載を行うほどのレベルの作品になっているのか、かなりの疑問を感じる作品になっています。


・絵は決してうまいとは言えない。
 まず、なんといっても絵ですね。はっきりいってレベルは低く、かつオリジナリティにも乏しく、あまり見るべきところがありません。
 巻頭カラーでのカラーイラストは、まだそれなりのレベルかもしれませんが、それでも細部でのきめ細かさには劣る絵柄で、あまり映えるところがありません。本編のマンガページでは、これがさらに劣っており、極めておおざっぱで粗雑に思える作画に終始しています。一部では粗雑な描き込みがすぎて読みづらいところも感じます。

 そして、このような作画は、これまでのガンガンの少年マンガに共通する要素であり、「また似たようなマンガが出てきたな」という悪い印象ばかりが目立ってしまいます。これまでも、このような粗雑で平凡な作風のマンガ、昨今の低年齢向け少年誌ではよく見られるような、決してレベルの高くない絵に何度も遭遇しています。なぜ、これほどまでに同じようなタイプの絵が出てきてしまうのか。昨今のガンガンでは、見た目から感じられる作者の個性も非常に弱くなってしまったように思われます。

 加えて、もうひとつの問題は、この作品の絵が、同じガンガンの連載である「ソウルイーター」にかなり似通っていることです。カラーページの描き方、キャラクターの造形、全体的なイメージなどに、ソウルイーターに近いところがかなり見られ、最初に読んだ時には、一瞬ソウルイーターのページなのかと本気で思ったほどです。作者の丸智之さんは、ソウルイーターの大久保篤さんのアシスタントらしいのですが、それにしてもかなりの影響を受けているようです。影響を受けること自体は悪いことではありませんが、今のところ、その影響を超えて自分の個性を出せるまでには至っていないとも感じました。

 そして、先日ガンガンで始まった新連載「FULL MOON」(塩沢天人志)も、同じく大久保篤のアシスタントによる初連載であり、こちらはさらにソウルイーターの影響を受けた絵柄になっています。つまり、「ソウルイーター」と「FULL MOON」、そしてこの「トライピース」と、今のガンガンには同じような絵柄の作品が3つもあるということになります。ここまで多く同じようなイメージの作品が誌面に同居するというのは、読者にとっては新鮮味に欠け、必ずしもいいことではないと思うのですが、どうでしょうか。


・内容的にも稚拙さが強く感じられる。
 そして、肝心の内容なのですが、こちらもまだまだ作者の稚拙さが強く出ており、途中で何度も疑問に感じる箇所に行き当たることになりました。作者の作品にかける勢いは感じられますが、作品作りの技術はさほど評価することができません。とにかく、低年齢向けを指向しているからか、展開や設定にあまりにも稚拙に感じられる箇所が散見されます。

 このマンガのストーリーは、「”世界から戦争をなくす”理想に燃える謎の少年ナナが、世界に戦争を巻き起こそうとする帝国・ザイエスに対して反旗を翻し、戦争をなくすために奔走する」といった話だと思われます。「戦争をなくす(反戦)」というテーマ自体は悪くないと思いますが、それを表現するストーリーがあまりにも低年齢向けすぎるのか、ストーリー展開やキャラクターのセリフ回し、設定に不自然に感じられる箇所が多く、高年齢の読者であれば多分に引っ掛かりを感じてしまいます。

 連載第1話だと、ストーリーの中盤において、主人公が敵の中枢に侵入する場面、そこで敵の機械兵たちに追いまくられるシーンがあるのですが、ここでの主人公の行動、及び敵キャラの倒され方が、あまりにも不自然でありえないように思われます。低年齢の読者ならば、これでも面白いと思って喜ぶのでしょうか? いくらなんでも、ちょっとありえないような気もします。それ以外の箇所でも、「超・記憶喪失」なる不可解な設定、帝国の本拠の割にあまりにも甘い警備、主人公が突然女装する展開、「星水」や「神掃」といった言葉で表現される微妙な設定などなど、どうにも受け入れ難いものが多い。低年齢向けとはいえ、それ以上に作者の作品作りの未熟さも感じられる出来になっているようです。元々、読み切りの段階で、決して技術的なレベルの高い作品とは思えないものでしたが、連載版になってもそれは変わらず、むしろさらに稚拙さが目立ってきたように思えるのです。


・テーマは確かに美しいものがあるが・・・。
 作者の丸智之さんについては、マンガ賞受賞作からそのリベラルなテーマに高い賛同を寄せる読者は多く、それに対してはわたしも好感を持っています。すなわち、「異なるものとの共存」「戦争をなくす(反戦)」というテーマで、それを真正面から堂々と主張するまっすぐな作品作り、作者の強い思いには、確かに感じるところもあります。

 しかし、そのテーマを語るストーリー作り、作品作りがここまで稚拙では、それ以上の評価を与えることができません。確かに、このマンガの読み切り版においても、「戦争をなくす」というテーマ自体には、昨今の少年マンガではあまり見られないものを感じ、それだけは好感が持てました。しかし、その「戦争をなくす」ための主人公たちの行動、それがあまりにも低年齢向けの単純な方法論で描かれており、あまりにも非現実的というか、いくら少年マンガとはいえそこに説得力が感じられなかったのです。これでは、それ以上の感動を得ることは出来ず、最後にはかなり冷めた状態で読み終わることになってしまいました。

 これは、連載版の「トライピース」でも、さほど変わっていません。子供向けの要素ばかりが全面に出ているせいか、多くの読者にとって、読んでいて随分と気恥ずかしいものまで感じてしまいます。本当に低年齢の子供の読者ならば楽しめるのでしょうか。ガンガンの読者は、そこまで低年齢ではないはずですし、そもそも高年齢の一般読者が楽しめない作品は、子供でも楽しめないのではないでしょうか。


・なぜここまで早い連載化なのか。
 そう、この作者のマンガは、読み切りの段階でも、あるいはそれ以前のマンガ賞受賞作である「オリーブとデイジー」においても、決して技術的には高いとは言えないものがありました。しかし、それにも拘わらず、ここまで早い段階で連載化が決まってしまったのです。これは、個人的にもかなり意外で、「まだ技術的にはあやふやな作家に、なぜこんなに早く連載を持たせるのか」と、その出来には最初から不安でもありました。そして、その不安はほぼ現実のものとなり、予想と同じか、それ以上に低目安定の出来の作品に終始しています。

 それにしても、なぜここまで早い連載化なのか。そこには、この時期のガンガンにおいて、「なんとか新しい戦力を早期に確保したい」という、ガンガン編集部の焦りのようなものも感じられます。
 2007年のガンガンは、新連載の数こそそれなりに多かったものの、これといったマンガは少なく、全体的に落ち込みが前年以上に感じられる1年でした。しかも、1年の末期になって、これまでの長期連載の多くが終了を迎え、そのために新たな新連載がさらに必要とされる状況になりました。 そこで、ガンガンの編集部は、この2008年の冒頭から、大規模な新連載攻勢を行うことになります。

 しかし、ここにおいてガンガンは、まだ賞を受賞して日の浅い新人を採用することになります。一応、土塚理弘やヒロユキのようなベテラン作家もいますが、それ以外はどれもまだ雑誌に登場してさほど日の経過していない新人作家です。これを見るに、どうもガンガンの編集部は、新しい世代の作家を採用することでガンガンの誌面を刷新し、これまでの沈滞化した誌面をひっくり返そうとしているのではないかと思えるのです。そのために、まずはその世代からの新しい戦力で、新連載を確保したかったのではないか。

 実際に、前年末に終了した連載には、あの「女王騎士物語」が含まれています。これは、他の連載終了作品とは異なり、最後は完全な打ち切りであり、編集部によって意図的に切られたことが明白な終了でした。これを見ても、やはりガンガンの編集部は、これまでの連載の多くをここで終了させ、誌面をリセットしたかったのだと思えます。そして、代わりに新鮮で実力を持つ大型新人を多数投入し、さらには今年アニメ化される「ソウルイーター」を雑誌の中核にもして、今年こそまとまった大きな人気を得ようとしているのではないか?
 しかし、これが本当に成功するとは到底思えないのです。なぜなら、ここで投入される新人の多くは、まだ雑誌に登場して日が浅く、実力的には未熟さが目立つものばかり。ガンガンの推進ぶりとは正反対に、むしろ前年の終了連載よりもさらに質が劣っているように思えるのです。


・このレベルの作品では、成功はまず期待できない。
 加えて、また「王道少年マンガ」を強く打ち出し、それに強くこだわり続けるガンガン編集部の姿勢も、相変わらず疑問です。連載陣を大きく入れ替え刷新しても、基本的な方針が変わっていないのだから、それでこれまでにない人気を得られるとは思えません。もちろん、今回投入される連載陣が、これまでよりも明らかにハイレベルの、誰が見ても凄い作家陣というのなら、それは別でしょう。例えば、荒川弘クラスの新人を大量に投入するとか、そんなことが出来ればもちろん成功出来るに違いありません。

 しかし、実際に投入されるのは、まだまだ実力的に乏しすぎる新人ばかり。このレベルの連載を、大型新連載として打ち出し、ガンガンの次代の中心に据えようというのは、あまりにも無謀ではないでしょうか。実際、これまでの同系の連載と比べても見劣りがしますし、これならば打ち切った「女王騎士物語」の方が、まだまだ良かったように思えます。そして、これまでもそういったガンガン少年マンガは、多くは成功できなかったのだから、今回の「トライピース」ら大型新連載も、ますます成功できる確率は低いように思えるのです。

 そして、このレベルの作品がガンガンを席巻するようになった今、ガンガンの低レベル化はさらに進んできたと見てよいでしょう。ここ最近の新人作品を見ても、かつてに比べて個性に乏しく、ガンガンの求める少年マンガに沿うような作品ばかりで、「これで今度本当にいい新人が出てくるのか」非常に気がかりだったのですが、それがこの2008年の新連載攻勢において、いよいよ現実化してきたように思えます。
 今のガンガンにいい新人作品が出てこないのは、まずガンガンそのものの低レベル化でいい新人が来ないことと、加えて編集部によるメジャー誌路線(王道少年マンガや萌えラブコメ作品)の押し付けが、新人の可能性を奪っていることが原因だと思っています。この「トライピース」は、その双方が共に感じられる、今のガンガン路線を象徴した典型的な作品だと思えるのです。


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