<ヴァルキリープロファイル2-シルメリア->

2007・2・27

 「ヴァルキリープロファイル2-シルメリア-」は、同名のPS2ゲームのコミック化作品で、ガンガンパワードが新装刊された2006年6月から連載が開始されました。作者は林ふみの。この新装刊時には、これも含めて同時に5つものゲームコミックが連載を開始し、それら大量のゲームコミックが、新装刊で再出発する雑誌の最大の目玉として扱われました。

 しかし、これらのゲームコミックの中で、最も優れていたのは、間違いなくこの「ヴァルキリープロファイル2」であり、他のゲームコミックとは一線を画する実力を、連載開始当時から感じることができました。しかも、他のゲームコミックの多くが、実力不足からかさして成功せず、面白さを感じられない状態が続いており、そんな中でこの「ヴァルキリープロファイル2」と、もうひとつ「ファイナルファンタジー12」のゲームコミックだけが、辛くも成功する形となっています。

 また、ゲームコミック以外でも、新装刊時にオリジナルの新連載が多数打ち出されましたが、これらもまた今ひとつぱっとしなかったため、ますますもってこのふたつの成功作の存在が大きくなったように思われます。他の新連載の多くが、新人たちによる初めての連載作品で、実力不足が否めない作品ばかりだったのに対し、このマンガは、作者である林ふみのがすでにベテランとも言える経歴の実力派作家であり、そんな作家の力が如実に表れた結果となっています。


・林ふみのとは?
 さて、ここではまず、その作者である林ふみのについて説明する必要があるでしょう。彼女は、スクエニでは、旧エニックス時代からかなり長く読み切り・連載を手がけている、ベテランとも言える作家です。しかし、その活躍の舞台が、Gファンタジーとステンシルが中心であり、それがスクエニ(エニックス)でも最もマイナーな雑誌ということで、知らない人も多いと思われるからです。

 林ふみのさんは、1996年に、月刊Gファンタジーで「アンケス─星の名前」という連載作品で商業誌デビューしました。当時のペンネームは匠龍啓(たくみりゅうけい)。これが初連載ながら中々の良作で、以後Gファンタジーやアンソロジー女で読み切り作品を何度も掲載するようになります。
 しかし、長い間次回の連載には恵まれず、はるかのちに新創刊した少女マンガ誌のステンシルでようやく、「マイスターダスト」そして「東京流星(とうきょうスタア)」というふたつの連載を手がけることになります。このふたつ、特に後者はかなりの良作だったのですが、連載途中でステンシルが廃刊していまい、中途で連載中断という不幸に見舞われ、以後スクエニでは見られなくなります。当時のステンシルは、この林ふみのを始め、地味ながらも良作を残す実力派の作家が集まっていたのですが、廃刊で一気に活躍の場を失ってしまいました。これは非常に惜しいことだったと言えます。

 さて、その後の林さんは、すでに当時から並行して執筆していた一迅社と角川書店の雑誌に活躍の場を移し、ゼロサムで「天地の朱」、Asukaで「新世紀エヴァンゲリオン鋼鉄のガールフレンド2nd」の連載を継続します。このうち、後者の「鋼鉄のガールフレンド」は、エヴァ最終話から派生したパラレルストーリーのコミック化作品で、エヴァファンからの評判もよく、これが林ふみのの最も知られた連載となります。

 その一方で、スクエニからは長く遠ざかっていたのですが、2006年のパワード新装刊時に、この「ヴァルキリープロファイル2」のコミック化担当に抜擢され、実に久々のスクエニでの連載となりました。元々実力のある作家だっただけに、この復帰は素直に歓迎できるもので、肝心の作品の出来も、やはり実力通り、期待通りのものでした。



・ゲームとは若干異なる絵柄だが、演出力は光る。
 さて、少女誌であるステンシルやAsukaでも執筆していただけあって、少女マンガ的な絵柄が強い林さんですが、この「ヴァルキリープロファイル2」に関しては、ある程度はその傾向を残しているとはいえ、うまく原作ファンタジーの雰囲気を再現しており、ゲームのイメージはよく出ています。キャラクターなどは、やや女性的な絵柄で、原作ゲームのデザインとは若干異なる部分もありますが、それ以上に演出力が優れており、ゲームの各シーンがうまく描けているため、総じて満足度は高いと言えます。

 各コマごとに、背景も含めて隙間なく描き込んでいるイメージがあり、時に黒のベタの配色も活きており、鮮やかな作画の印象を受けます。雰囲気ある王城や町の描写もよく、原作のファンタジー世界のイメージはよく出ています。
 加えて、登場人物の顔のアップなどのコマも多く、迫力ある心情もよく伝わってきます。時に大ゴマも交えての表現もうまく、全体を通して卒なくまとまっています。このあたりは、さすがにベテランの実力派作家だけあって、このゲームコミックの担当を任せても大成功だったと言えるでしょう。

 また、これはRPGのコミック化作品ではありますが、全体的に重厚な作風で、キャラクターの萌え要素などは控えめになっているのも評価すべきところです。これは、同時期のゲームコミックである「ファイナルファンタジー12」にも言えることですが、これら原作ゲームもそもそもそのような作風が強く、そういった重厚なイメージを重視しているのは良い点でしょう。他のスクエニのRPG系コミックと比較しても、原作の本格的なイメージを守っている点が評価できます。


・やや進みは遅いが、丁寧に構築されたストーリー。
 一方で、ストーリーについても丁寧に構築しています。
 とにかく、原作よりも心情の描写に力が入っている印象です。ひとつひとつのイベントの尺が長く、キャラクターの心理を掘り下げてイベントを描いているので、原作よりも理解度は高いと言えるでしょう。

 原作の大まかなストーリーは、魂の中にヴァルキリー(戦乙女)の精神が同居してしまった王女・アリーシャが、ヴァルキリーを召還しようとする神々の追っ手から逃避行を続け、やがては神々に対抗するための旅を続けるようになる、というもの。弱気な王女の中に強いヴァルキリーの精神が入り込み、二重人格のような状況になっている、というのが、原作のストーリーでも肝でしたが、このコミック版では、このふたりの心理が原作よりも掘り下げてあり、ふたりの掛け合いや思想の違いがよく描かれているのが好印象です。

 ストーリーラインは原作にほとんど忠実ですが、個々のイベントでは多少アレンジが加えられていることもあり、必要の薄いところは省略し、詳細にすべきところはさらに力を入れて描いているなど、このあたりでもうまくコミック化しています。総じて卒のないまとめ方をしており、やはり安心して読むことができます。パワードで同時期に始まったゲームコミックの中でも、最も原作に忠実に描いているようで、このあたりでもやはり他とは一線を画しています。

 ただ、個々のイベントを心理面を中心にかなり掘り下げて描いているので、少々ストーリーの進みが遅いのは気がかりです。ややストーリーの爽快感に欠けるところがあり、さらにパワードが隔月刊であることも相まって、中々先に進んでいかず、この進みの遅さは不安です。今後、ある程度のペースアップは必要かも知れません。


・新装されたパワードの新連載の中で、最も期待できる作品。
 しかし、ストーリーの遅さという瑕疵こそあれ、総じて優れたゲームコミックに仕上がっていることは間違いないところで、昨今のスクエニのゲームコミックの中では、かなり優秀な良作に数えられる作品です。そして、ガンガンパワードの中では、かねてよりの優良連載である「ひぐらしのなく頃に」、同時期に始まったゲームコミックでもうひとつの良作「ファイナルファンタジー12」と並んで、雑誌の連載ラインナップの中でも、最も安定して読める作品となっているようです。
 もっとも、現在のところは雑誌内でも中堅程度の人気で、同誌の「ひぐらしのなく頃に」ほどの爆発的なヒットにはなっていないと思いますが、それでも今の完成度ならば雑誌のラインナップには貢献し続けてくれるのではないか。

 なにしろ、このパワード、新装した時に大量のゲームコミックを始めとする新連載を投入したものの、明らかにぱっとしない作品ばかりで、しかも打ち切りなのか元からの予定なのか、わずか数号の短期間で連載終了する作品まで次々と現れており、決していい成果を挙げているとは言えません。特にゲームコミックの状態は悪く、前述のように、この「ヴァルキリープロファイル2」と「ファイナルファンタジー12」のみが辛うじて成功したといってもよい状況です。
 このような状況ならば、数少ない成功作で連載が軌道に乗った作品として、この「ヴァルキリープロファイル2」の存在は、随分と貴重なものとなっています。新装時のパワードの新連載の中では、やはりこのベテランによる実力派の連載こそが、最も期待できる作品に収まったと言えるでしょう。


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