<絶園のテンペスト>

2011・10・13

 「絶園のテンペスト」は、少年ガンガンで2009年8月号より開始された連載で、同誌でも看板クラスの扱いの作品となっています。それでいて、ガンガンの連載作品の中では、異色中の異色作品となっており、原作者の個性が存分に発揮された作品となっています。

 その原作者は、城平京。言わずと知れた「スパイラル」の原作者であり、ガンガンで1999年から同作品の原作を続けてきました。本編と外伝を連載を合わせると、9年に及ぶ仕事となりました。その上で、その「スパイラル」の挿話エピソードとなる小説も積極的に手がけ、さらには、「スパイラル」連載中の2003年から「ヴァンパイア十字界」というファンタジー作品の原作も手がけています。この「絶園のテンペスト」は、その「スパイラル」と「ヴァンパイア十字界」関連の仕事がすべて終了したのちの新作であり、すべてに区切りをつけた上での完全に新しい一作となっています。「スパイラル」と「十字界」が終わったあと、ガンガン・スクエニからは引退するのかとも思っていただけに、この新作発表はうれしい知らせでもありました。

 その内容は、対決ものの要素も全面に取り入れた異色推理「スパイラル」や、現代を舞台に吸血鬼が活躍する「ヴァンパイア十字界」以上に、極めて奇抜な設定のSF的ファンタジーとなっています。近未来の日本を舞台にしているようですが、「絶園の樹」「はじまりの樹」などと呼ばれる謎の生命体が登場し、それを崇め魔法を使う一族も登場、世界中を奇妙にねじくれた巨大な樹(のようなもの)が跋扈し、超能力のような魔法と現実の軍事兵器が激しく衝突するという、なんとも説明しがたい設定・世界観を持つ作品となっています。その上で、キャラクターたちが推理・対決もののごとき高度な駆け引きを繰り広げる。まさにこの原作者ならではの作品と言えるでしょう。

 作画を手がけるのは、彩崎廉。ガンガン生え抜きの新人で、マンガ賞受賞作の時からその画力は抜きん出たものがありました。今回の作画も、存分にその実力を発揮していますが、絵柄的には若干くせが強く、やや少女マンガ的で女性的な絵柄となっていて、「スパイラル」の水野英多の絵と比べると、若干人を選ぶ見た目になっているかもしれません。


・城平京はいまだ健在。
 かつて、「スパイラル」が連載を始めたのは、もうはるか昔、お家騒動以前の1999年。この当時の城平京は、まだ長編小説を1本(「名探偵に薔薇を」)と、いくつかの短編を発表したのみの新人ミステリー作家でした。しかし、そんなほぼ無名の新人作家が原作を手がけた「スパイラル」が大ヒット、その実力を内外に示すことになりました。コミックの原作の仕事はもちろん、当時のガンガンNETで外伝小説を掲載、それとは別に単行本でも別の外伝小説を書き下ろすなど、その活動は顕著で、こちらの作品の評価も高く、本職の小説でもその実力を遺憾なく発揮しています。

 その一方で、2003年になって突然「ヴァンパイア十字界」というファンタジー作品の連載も開始。「スパイラル」は異色の推理作品でしたが、こちらは 現代を舞台にしたファンタジーで、現代にまで生き残った吸血鬼と地球を侵略に来た宇宙人、そして人間たちが駆け引きを繰り広げる異色ぶりを存分に発揮。ガンガンの連載の中でも、とりわけその異彩ぶりが光りました。「スパイラル」にしろ「ヴァンパイア十字界」にしろ、原作者の個性がこれほど強く出たマンガ作品もそう多くはないでしょう。

 しかし、「スパイラル」の連載は2005年に終了、「ヴァンパイア十字界」も2007年には終了。「スパイラル」の外伝だった「スパイラル・アライヴ」も2008年には終了と、長期連載の原作作品を次々に終了させ、ここでガンガンの城平京作品も終わりかと思ったものでした。しかし、それから1年あまりが過ぎた2009年になって、この「絶園のテンペスト」の連載を開始、その健在ぶりをアピールすることになりました。

 本職の小説でも、「スパイラル」の外伝小説以来、オリジナルに限って言えば「名探偵に薔薇を」以来、長い間その作品は途絶えていましたが、2011年になって、実に久々に「虚構推理 鋼人七瀬」という新作を発表。妖怪たちが跋扈する独特の世界で、ネットを駆使して推理(というより虚構)合戦を繰り広げるという、まさに城平節炸裂の快作となっています。マンガ原作でも小説でも、城平京の創作精神はまだまだ旺盛なようです。


・SFともファンタジーともつかない奇怪な設定。
 さて、「スパイラル」や「十字界」でもトリッキーな設定で読者を楽しませてきた城平さんですが、この「テンペスト」の設定は、その2作をも上回るほど奇妙で奇怪な設定となっており、誰もが一目見て驚くようなものになっています。

 舞台は近未来の地球。それも、「はじまりの樹」「絶園の樹」と呼ばれる巨大な樹(のように見える謎の生命体)が存在し、変わり果てた世界が舞台となっています。
 そして、そのふたつの樹を崇め、この世ならぬ魔法を駆使する鎖部一族という特殊な一族が登場、そこの姫君だという鎖部葉風と、長である鎖部左門のふたりの対立が、物語の大きな軸となっています。

 葉風は、はじまりの樹の強烈な加護を受ける強力な魔法の使い手。一方で、左門は封じられていた絶園の樹を蘇らせようと画策し、葉風を無人の孤島に閉じ込めてしまいます。その絶園の樹の復活の過程において、巨大な「果実」と呼ばれる植物組織の中央に目玉が付いたような巨大な物体が登場、さらに全世界で黒鉄病(くろがねびょう)なる奇病が流行し、全身が金属化して世界の多数の人が死亡している状態です。不気味な「果実」が空を飛び、地には金属化して死んだ人の死体が無数に転がり、そして無数の不気味な黒い蝶が辺り一面に飛来する。その光景は、極めてグロテスクでショッキングな印象を読者に与えます。

 その後、葉風らの活躍によって絶園の樹の復活は阻止されますが、今度ははじまりの樹の方が一斉に復活、全世界を巨大な樹の幹や根が覆ってしまいます。ところが、そのはじまりの樹の不思議な効果で、戦争は無くなり犯罪も激減し、奇妙にも平和が保たれているという状態になり、その中で生き残った人々が一時の平穏な生活を送る世界となります。

 このような、SFともファンタジーともつかない奇怪な設定と世界観の中で、主人公たちが世界の趨勢を巡る駆け引きを繰り広げる。実に奇妙な印象を与える作品となっています。この作品も、一応推理・サスペンスものに該当すると思いますが、ここまで不条理な世界を作り出し、その中で論理に満ちた駆け引きを繰り広げるというのは、いかにも城平京らしい創作と言えるでしょう。
 SFとして見ても、はじまりの樹復活後の一見平和な世界は、いわゆる擬似ユートピア(ディストピア)ものを彷彿とさせる設定で、そちらでもその世界の行く末に興味深いものを感じます。


・不条理な世界で繰り広げられる駆け引きが熱い。
 そして、そんな世界で繰り広げられる駆け引きとは、主人公たちの個人的な目的と、世界を立て直すという大きな目的とがせめぎあったものであり、こんな世界においてなお、個人的な目的を貫こうとする少年たちの生き様が極めて印象的です。

 この物語の主人公は、滝川吉野不破真広というふたりの高校生(このふたりのいずれもが主人公と呼ばれています)。うち、真広の方は、かつて溺愛していた妹を何者かに殺され、「その不条理を正す」ために一心に復讐の道に走ります。性格は生意気なところもあり言葉遣いも乱暴ですが、頭はよく常に論理的に行動する切れ者として描かれています。
 そんな真広の生き方に危ういものを感じ、みかねて同行するのが、最大の友人である吉野。吉野のほうは、一見すると真広に比べればずっと温厚な少年なのですが、内に秘めた能力と思想には侮れないものがあり、いざという時の行動には信じられないほど大胆なものがあります。

 そのふたりを協力者としているのが、前述の鎖部一族の姫君・葉風。彼女は、孤島へと閉じ込められたものの、はじまりの樹の加護による強運をして、島から流した瓶詰めの手紙を通じてふたりと知り合い、「真広の妹を殺した犯人を捜し当てる」という彼らの目的に協力することをひきかえに、自身を孤島から脱出させるべくふたりを奔走させることになります。

 この3人のいずれもが並々ならぬ頭脳と行動力を備えていますが、そんな彼らの前に最大の敵として立ちはだかるのが、鎖部一族の長である左門。本来ならずっと高い実力者であるはずの彼は、しかし真広の、世界の命運よりも妹の復讐を優先し、それに対して微塵のゆるぎもない徹底した態度にてこずります。そして、自身よりもずっと強大な魔法の力を持つ葉風にも、まともにぶつかっては到底適わない。そんな左門は、切り札として「お前は2年前に既に死んでいて、その死体(全身の骨格)もここにある」と言い放ちます。

 これに対して、思わぬ抵抗を示すのが、温厚な少年のはずの吉野。彼は、左門の主張をはったりを駆使した独自の理論でくつがえし、ついに死んでいるはずの姫君を孤島から生きて脱出させることに成功するのです。この、死体という決定的な証拠を目の前に突きつけられてなお、それをはったりでひっくり返してしまう吉野の駆け引きは素晴らしく、これが物語序盤最高に盛り上がるクライマックスとなっています。


・絵柄についてはやや人を選ぶか。
 このように、設定の奇抜さ・異色さや、独特の駆け引きの面白さなどは、まさに原作者の城平節炸裂といったところで、今回も大変面白いマンガに仕上がっています。そして、その独特の物語を全力で描く作画担当・彩崎廉のレベルの高い絵柄も見逃せません。

 元々、マンガ賞受賞作の「ROLL」においても、その卓越した画力は、他の新人作品を一歩も二歩も上回っていました。今回の「絶園のテンペスト」の作画に起用されたのも、そんな高い画力を評価されての決定だと思われますが、その大役を見事にこなし、独特の世界観を見事に描き切っています。ねじくれた樹々や不気味な果実、一面に舞う黒い蝶の群れ、破壊された街の姿など、その不条理な背景をしっかりとした筆致で描いており、このような特殊極まりない世界を描くには、やはり何よりも高い画力が必要だなと痛感させられます。

 キャラクターについても、その個性を濃い筆致でよく描いていますが、ひとつだけ気になることがあります。それは、全体的にキャラクターの描き方に耽美的で少女マンガ的なところがあり、ひいて言えば女性読者向けの雰囲気が強いのではないかということ。

 これは、デビュー作の時から気になっていたことであり、当初から美形キャラクターが多数登場し、女性好みのする作画だなと思っていました。ガンガンよりもむしろGファンタジーの掲載作品によく見られる作風で、ガンガンの連載としては作画面からしても異色だと思います。
 このこと自体は決して悪くはないものの、ただ読者の好みは割れそうだなとは思いました。あの「スパイラル」の水野英多さんの作画が、中性的でとりわけ初期の頃はかわいらしい作画で幅広い読者の人気を集めたのに対し、この「絶園のテンペスト」の彩崎さんの作画は、幅広い人気を得にくいのではと少しだけ懸念するところがあります。


・今のガンガンでも最大の人気作にして異色作。今後のさらなる展開にも期待できる。
 とはいえ、作画自体は非常なハイレベルなことは疑いなく、かつ城平京ならではの異色の設定・ストーリーも文句なく面白いもので、今回の作品もまた非常に優れた一作となっています。「スパイラル」であれだけのヒットを飛ばした城平さんでしたが、まだまだその実力は健在でした。しかも、今回は以前にも増して奇抜な設定を存分に出してきて、その上でこの完成度は恐れ入ります。

 現在のストーリーでは、葉風と左門との対決は終了し、はじまりの樹が全面的に復活、その動向をみなが注視している状態です。しかも、絶園の樹の力を奮う「絶園の魔法使い」らしき人物も登場、左門や真広が彼を利用しようとする一方で、吉野と葉風が世界を旅してまた別の不審な行動を取ろうとしているようです。ここに来て吉野の不気味な能力がさらにクローズアップされる形となり、さらに予断を許さない展開が見込めそうです。

 そして、今でもガンガンでの扱いはトップクラスで、巻頭カラーやセンターカラーも多い、ガンガンの看板作のひとつとなっています。他の人気作の多くがオーソドックスな少年マンガやラブコメ、ギャグなどの定番ジャンルとなっている中で、このような異色作が雑誌の看板のひとつとなっているのは面白い。作品のオリジナリティという点では突出しており、その意味で今後最も期待できる作品ではないでしょうか。

 とはいえ、この作品が、かつての「スパイラル」のように、アニメ化までしてそちらでも人気を得る作品になるか?というと、今のところはまだ未知数だと思います。確かにそれだけの実力は持っていると思いますが、前述のように作画面でやや人を選ぶところがあり、見た目のくせの強さがメディア展開にとってやや難点となるのではないか。加えて、ここまで奇抜で奇妙な設定も、メディア展開で再現するとなるとかなり難しそうです。今のところは、ガンガンでも屈指の実力派看板作品として、コンスタントに連載を重ねて人気を得る状態が続くのではないでしょうか。


「少年ガンガンの作品」にもどります
トップにもどります