<アカメが斬る!>

2011・4・1

 「アカメが斬る!」は、ガンガンJOKERより2010年4月より連載されている作品で、この雑誌のオリジナル作品の中では、比較的オーソドックスなバトルファンタジーとなっています。王道の少年マンガ的作品とも言える要素を持ち、同誌のバトル作品でも、かなりアクの強い異色作となっている「アラクニド」とは対照的な印象を受けます。

 作者は、原作がタカヒロ、作画に田代哲也。作画の田代氏は、かつては週刊少年ジャンプの新人として賞を受賞し、その後は4コマやギャグを主に執筆されてきた方のようです。スクエニでは、この「アカメが斬る!」の作画以外に、ガンガンONLINEで読み切りを残しているようです。彼の作画は、やや荒削りなところがあるものの、しっかりとした筆致で迫力のアクションを描いていて好感が持てます。

 そして、原作担当であるタカヒロさんの方が、より有名な作家となっています。元々は、美少女ゲームのシナリオライターとして高い評価を得た作家で、連載開始時にもそのことをふまえてか、スクエニからも「あのタカヒロがマンガ原作を執筆」ということを大々的に告知していました。わたしとしては、今まで主にゲーム関連の仕事がほとんどだった作家が、いきなりガンガンJOKERでマンガ原作と聞いて、当初はひどく意外に感じたことがあります。元が美少女ゲームのシナリオを手がけた作家ということで、そういった内容のマンガになるのかなとも思ったのですが、実際の中身は決してそんなことはなく、まさにスタンダードなバトルファンタジーとなっていました。しかも、王道ながら確かな面白さを持っていて、かつてよりさらに評価を高めることになりました。

 現在では、ストーリーが進むに連れてさらに盛り上がる展開を迎えており、完全に誌面に定着した感があります。これもまた、ガンガンJOKERが手がけたオリジナルの良作にして、かつ実力派の原作者と作画担当者を組み合わせて成功した一作となりました。この点では、上記の「アラクニド」とも共通していて、最近のJOKERの編集部の巧みな企画能力をうかがえます。


・原作者のタカヒロとは?
 原作者のタカヒロさんは、かつてはきゃんでぃそふとというブランドで美少女ゲームのシナリオを手がけ、彼が担当した「姉、ちゃんとしようよっ!」「つよきす」の2作は大ヒットとなりました。「姉、ちゃんとしようよっ!」は、姉というキャラクター属性にスポットを当てた先駆的なゲームとしてヒットし、そして後者の「つよきす」は、それ以上の大ヒットとなり、こちらは家庭用ゲームにも移植されアニメ化までされました。タイトルどおり登場するヒロインたちが強気なのがその特徴なのですが、それがこの当時から人気を集めるようになった「ツンデレ」キャラと共通するところがあり、ツンデレキャラを扱った作品の代表的存在ともなり、そのことで一気に有名になりました。
 また、単にキャラクターが特徴的なだけでなく、タカヒロの書くシナリオは、ギャグ・コメディシーンが非常に面白く、そのことでも大きな評価を獲得しました。これでシナリオライターとしての評価を不動のものとしたと言ってもよいでしょう。

 その後、今度はみなとそふとという新ブランドを立ち上げ、そこで「君が主で執事が俺で」という作品を企画・発売。こちらも大きな人気を得て、やはりテレビアニメ化されました。さらに第2作である「真剣で私に恋しなさい!」も高い評価を得て、現在こちらもテレビアニメ化が発表されています。総じて成功作を多数輩出した実力派作家だと言えるでしょう。

 タカヒロさんの描くシナリオの特徴としては、前述のようにギャグ・コメディが冴えているほかに、効果的にパロディ要素を投入し、それで笑いを取る作風も顕著です。これは、マンガ原作である「アカメが斬る!」でもよく見られます。特に、時代劇の必殺仕事人シリーズの熱心なファンであるようで、西洋風のファンタジーでありながら、そちらを意識した要素もかなり盛り込まれているようです。


・バトルアクションものとして純粋に面白い。主人公の成長にも注目。
 上記の通り、原作者のタカヒロさんは、元は美少女ゲームのシナリオライター、その内容もギャグやコメディ、パロディ要素で定評を得ている作家で、今回の連載もそういった要素が盛り込まれるのかなと思っていましたが、実際に連載された作品はそのようなものではなく、スタンダードなファンタジーもの、それもシリアスでシビアな殺しの場面も描かれるバトルアクションものとなっていて、「こんな作品も手がけるんだ」と最初はかなり意外に思いました。しかし、いざ連載を追いかけてみると、王道スタンダードながら随所に切れのある面白さを感じる良作となっており、さすがこういったマンガでも実力を見せてくれるなと感心することになりました。

 タイトルの「アカメ」とは、この物語のヒロインの名前。彼女らが属する反帝国のレジスタンスと、腐敗した帝国を牛耳る悪人たちとの激しい闘いが、この物語の中核を成しています。主人公の少年・タツミは、最初は田舎から帝都に出稼ぎに来た、帝国の実情などは何も知らない若い少年でしたが、レジスタンスに卑劣な悪人の手から命を救われたことがきっかけで仲間に加わり、帝国の腐敗した実態を知って闘いの道へと進むことになります。

 元々が美少女ゲームで数多くの女性キャラクターを描いてきただけあって、アカメたちレジスタンスの女性メンバーたちは、いずれ劣らぬ個性派揃いのつわものとして、魅力的に描かれています。「つよきす」などの過去の作品でも、強気な女性が目立ちましたが、それはこのマンガでも健在。このあたりはタカヒロの作品ならではでしょうか。
 女性だけでなく、男性キャラクターもまたよく描けています。過去の美少女ゲームにおいても、個性的な男性キャラクターで何度も人気を博しており、今作においても決してヒロインだけ、美少女だけの作品にはなっていません。むしろ、レジスタンスのメンバーは、男女のバランスがよく取れているように思えます。

 そして、そんなレジスタンスに加わり、厳しい闘いの道へと進む主人公のタツミの成長ぶりにも見るべきものがあります。最初のうちは、そこそこの腕っ節こそあったものの、まだまだ未熟で何も知らない少年でした。それが、レジスタンスで厳しい修業に励み、危険な任務をこなすことで肉体的に成長を重ね、さらには腐敗した帝国の実情を目の当たりにすることで、今まで知らなかった知識も蓄え精神的にも成長していく。主人公が得る知識と、読者の得る知識がほぼ連動しているため、主人公との一体感を持って読み進めることが出来るのもいいですね。


・敵対者の個性にも注目。
 さらには、主人公たち正義のレジスタンスだけではなく、悪役にあたる帝国側のキャラクターにも面白い者は多い。例えば、帝国の悪役の中でも頂点にいる大臣は、まだ幼い皇帝を意のままに操って、悪事の限りを尽くすまさに悪人なのですが、一方でどこか愛嬌のある描かれ方をしていて、その太った巨漢の姿で時にユーモアを交えて周囲と話すシーンは、どこか笑えるコメディの要素も感じられます。ちょうど、時代劇の「悪代官」のようなイメージで、悪役ではあるがどこか笑えるところも用意されている。タカヒロさんは、時代劇の必殺シリーズの熱心なファンらしいですが、その影響がこのあたりにもよく表れているような気がします。

 大臣以外にも個性的な悪役は多い。主人公たちと直接闘うことになる戦闘者たちは、多くが悪に落ちた理由とその素性がよく語られていますし、レジスタンスのメンバーと因縁を持っていてその掛け合いが楽しめる者も多い。そして、帝国の中でも相当な実力者とされるエスデス将軍は、拷問に楽しみを見い出す残酷な性格と、一見して強面の姿をしていながら、一方でなぜか「恋をしたい」と皇帝と大臣の前で望みを語るなど、どこか妙に人間らしいところもあり、時によって様々な側面を見せる非常に面白いキャラクターになっています。

 また、こうした帝国側の悪役が数多く登場する一方で、帝国には良識派の大臣とそれに属する一派もいて、決して一枚岩というわけではないようです。連載が進むにつれ、そういった者も次第に登場するようになり、物語に厚みが出てきたような気がします。


・田代哲也の作画もいい。
 そして、この優れた原作を再現する田代さんの作画もいいですね。やや荒いところもあって、初期の頃はそれが目立ったのですが、連載が進むに連れて絵の上達が顕著に感じられ、ぐっとイメージは良くなってきました。

 とはいえ、この作画は、JOKERのほかの連載の多くに見られるような、仕上がりの丁寧なきれいなタイプの作画ではなさそうです。やはりかなり荒々しいところがあって、むしろ姉妹誌のガンガンの方の少年マンガと近いものを感じます。ただ、それでも、極端に見づらい、あるいは仕上がりが汚くてイメージが悪いといった点はさほど感じられず、しっかりとした力強い描線で、読みやすい作画を達成しています。ガンガンの方の少年マンガの多くが(特に新人作家の作品が)、残念ながら仕上がりの汚いものが目立つのに対して、こちらは同じタイプの絵柄ながら意外な丁寧さも感じられ、よく描いています。しかも、連載が進むに連れて仕上がりのうまさも飛躍的に向上し、もはや力強さに加えてきれいさまで感じるようになりました。これは同系の作品としても大いに見習うところがあるでしょう。

 特に、肝心のバトルシーンの作画、その迫力のあるシーンが本当によく描けています。このマンガのキャラクターたちは、その多くが「帝具」と呼ばれる絶大な特殊能力を持つ武器を有していて、その派手な能力を使っての激しい大掛かりなバトルこそが魅力です。能力で武器が防具が飛び交い、長大なエフェクトが炸裂するそのシーン、その迫力の作画こそが、このマンガの最大の見せ場であると言えるでしょう。


・シビアな設定の作品ながら、随所に遊び心も感じられる良作。
 以上のように、この「アカメが斬る!」、原作者のタカヒロの作にしては意外なほどにオーソドックスな王道バトルファンタジーでありながら、随所で非凡な面白さを持つ良作となっています。随所で容赦なく死人が出るシビアなバトルが中心で(スクエニの宣伝文句では「ダークアクションファンタジー」とも)、ギャグやコメディのシーンはさほど多くないため、これまでの美少女ゲームのタカヒロ作品を期待していた人にとっては意外で、人によってはやや期待とはそぐわないところもあるかもしれません。しかし、これはこれで十分すぎるほど面白い作品に仕上がっていますし、むしろ原作者の新しい側面を見ることの出来る貴重な作品になったと思います。

 また、決してシビアでバイオレンスバトル全開なだけの作品にはなっていないとも感じます。時にちょっと笑えて読者を和ませるギャグシーンやパロディは健在で、タカヒロ作品が持つ遊び心は、この作品でも健在ではないかと思います。例えば、ある回のギャグシーンでは、主人公がJOKERのほかのマンガの世界に飛ばされるというルーレットが登場し、過激でやばいような作品ばかりがルーレットの面積の多くを占めるという、主人公に対して嫌がらせとしか思えないようなネタが見られました(笑)。これを見るに、タカヒロさんは、単に原作を提供するだけでなく、JOKERの他の作品までちゃんと読んでるんだなと感心してしまいました。こういった他の連載作品のネタまで、積極的に取り入れる遊び心も見逃せないと思います(個人的には、このように他作品のネタを作中で使うことは、決して反則行為ではなく、むしろ雑誌を盛り上げる楽しい行為だと思います。実際、初期のガンガンでは、いくつもの連載作品にそのような遊びが見られました)。

 また、JOKERでは少数派となる少年マンガ的王道作品であることも、この雑誌では大いに存在意義があると思います。同誌には、同じくバトル系作品として「アラクニド」がありますが、こちらは絵も内容もかなりアクが強く人を選びそうなマンガになっているのに対して、「アカメが斬る!」にはそのようなところはなく、誰もが純粋に楽しめるバトルファンタジーとなっています。実力派の原作者に加えて、作画担当者のレベルアップも顕著で、今後もより期待できる作品だと思います。


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