<夏のあらし!>

2007・4・1

 「夏のあらし!」は、ガンガンWINGで2006年10月号より開始された連載で、同誌が2006年を通じて行った企画である「1年間連続新連載」の中でも、終盤の目玉作品として大々的に開始されました。作者はあの週刊少年マガジンの「School Rumble(スクールランブル)」で非常に有名な小林尽

 元々、最近のガンガンWINGの連載は、ほとんどが雑誌の新人賞受賞者からの生え抜きの新人たちによるもので、このように外部から作家を呼ぶことは稀です。この「1年間連続新連載」も例外ではなく、ほとんどが雑誌からの新人か既存連載作家の起用であり、外部からの作家となると、この小林尽以外では、わずかにきらら系作家のととねみぎがいる程度です(しかもこちらはわずか3回の短期連載で終了)。その点でも、非常に珍しい起用であり、しかも相手が「スクラン」で有名な小林尽ということで、これは意外中の意外とも言える新連載でした。

 そして、雑誌の外からの作家ということで、その作品性にも従来のWINGとは異なる点が多く、本来の誌面の方向性とはやや食い違いが見られます。しかし、さすがに大手週刊誌で活躍中の作家だけあって、その実力には確かなものがあり、作画・内容ともに手堅く高いレベルにまとまった連載となりました。この「1年間連続新連載」、予想以上に期待はずれの企画で、決して成功作は多くなかったのですが、この「夏のあらし!」が事実上最後の成功作品となったと見てよいでしょう。作者が有名な存在ということで、雑誌外のマンガ読者にもかなり知れ渡っており、同誌の連載では知名度や売れ行き、あるいは雑誌内の扱いでも別格的なものが見られます。


・全く卒のない仕事ぶりを見せる。
 さて、この「夏のあらし!」の連載開始当初は、大物作家とはいえ外部からの作家には未知数のものが多く、期待される半面、かなり不安視されるところもありました。しかし、実際に始まった連載は、さすがに週刊誌で人気連載を手がける作家らしく、手堅い実力の感じられるもので、極めて卒のない作品作りをしていました。他のWING連載陣と比べても、その実力の差異は一目瞭然でした。

 このWINGという雑誌、かつてはエニックスでも大物作家と言える人気作家が中心の雑誌でしたが、それらがお家騒動でことごとく抜けて以後は、ほとんどの作家が同誌の新人賞(金の翼賞、天の翼賞)出身者で占められ、そんな若い新人たちによる連載構成が顕著になりました。元々、エニックスの作家は若い人が多いのですが、このWINGではさらにその傾向が顕著です。
 そして、彼ら新人作家たちの作品は、(特に連載初期の頃は)まだまだ完成度が低く未熟さを感じることも多く、よく言えば初々しく瑞々しいと言えますが、悪く言えば「素人くさい」とも言える作風で、そういった作品群が雑誌のイメージともなっていました。

 しかし、この小林尽の「夏のあらし!」は、そういったWINGの連載陣とは一線を画しており、長く週刊連載を手がけるベテランの作家らしい、非常に卒のない仕事ぶりが随所に窺えます。

 まず、絵の描き方に見るべきところがあります。このマンガ、「School Rumble」で見せたようなキャラクターのビジュアルも魅力的ですが、それだけでなく、ひなびた田舎町を描いた背景描写が素晴らしく、作品の中心となる丘の上のコーヒーハウスの外観などは、その田舎らしい素朴な出で立ちにほっとするところがあります。ひなびた高い場所から見下ろした街並みも、すがすがしい開放感に溢れています。これらの作画は、必ずしも細部まで徹底的に描き込まれた絵柄ではなく、むしろ細かい部分は多少略して(手を抜いて)描かれているようなところもあります。しかし、それでもビジュアルの魅力が落ちていると感じるようなことはなく、むしろ「適度に手を抜いて(作画時間を短縮して)うまく描いているな」と思えるもので、このあたりの巧みな仕事ぶりには、実力派作家ならではの卒のなさが感じられるのです。このような仕事ぶりは、WINGの他の作家では見ることができません。

 作画だけでなく、内容面でも手際のよい仕事ぶりが顕著です。毎回毎回一定のページ数でまとまったストーリーを手がけるのに慣れているといった風で、ここでも週刊連載を長く手がける作家の仕事ぶりには、極めて手堅い作品作りが感じられます。


・懐かしさすら感じる正統派ジュブナイル。
 そしてもうひとつ、このマンガが他のWING作品と決定的に異なるのは、極めて一般的な少年少女向け作品、それも今では懐かしさすら感じる定番の少年マンガとなっている 点です。ノスタルジックな世界観・雰囲気、少年少女キャラクターたちの素朴な性格、そしてタイムトリップや超能力(?)というSF的要素を交えたストーリーと、少年マンガというよりは、むしろ「ジュブナイル」という表現がふさわしいようにも思えます。これは、基本的にコアな読者向けの日常癒し系萌え作品が多いWINGでは、かなり例外的な内容で、ここでも外部からの作家による連載だと思わせるものとなっています。

 まず、このマンガは、やはりそのノスタルジックな世界観に見るべきところがあります。のんびりとした雰囲気の田舎町、それも夏休みが舞台で、一応は現代が舞台の物語のはずですが、実際のところあまり現代性を感じさせず、むしろ一昔前の良き時代の郷愁を感じさせるところがあります。そして、その田舎町を描いた背景描写が素晴らしく、夏休みという設定も手伝って、この太陽の照りつける明るくのどかなひと夏の光景には、ひどくいとおしいものがあります。

 そして、そこで活躍するキャラクターたちも、まさに「ボーイ・ミーツ・ガール」のジュブナイル小説に出てくるような、素朴で人当たりのよい性格が感じられ、このあたりでも昨今のひねくれたキャラクターの多い作品たち(笑)とは一線を画するものがあります。主人公の少年・八坂一(やさかはじめ)や、タイトルにもなっているヒロインでミステリアスな少女・あらしの性格にも、特にそれが強く感じられるもので、彼ら純粋な少年少女たちによるひと夏のエピソードが繰り広げられます。

 最後に、タイムトリップや超能力という、この手のジュブナイルでは定番と言えるSF要素が入っているのが決定的です。これは「時をかける少女」「なぞの転校生」「ねらわれた学園」など、かつてのジュブナイル小説では定番中の定番の設定であり、このマンガを読んで、これらの作品を思い出した方も多いことでしょう。これらかつての名作を彷彿とさせる内容を見るに、このマンガは、本来の雑誌の読者層以上に、より高年齢のマンガ読者が楽しめる作品なのかもしれません。


・意外に雑誌のイメージにも合っており、連載ラインナップにうまく定着できた。
 このように、掲載誌のWINGの中ではかなり異なる方向性を持ち、普段とは異なる読者層が想定される本作品ですが、意外にも雑誌のイメージに合っているところもあり、他の連載作品の中に並べても、さほど違和感がないように思えます。

 作者の小林尽さんは、基本的には男性読者寄りの少年マンガ的作風を特徴とする作家です。代表作である「School Rumble」もまさにその典型で、単に美少女キャラクターのみを見れば萌え系のマンガに見えるかもしれませんが、実際にはそれ以上に個性的なキャラクターたちとたたみかけるギャグが面白く、堅実に少年マンガ的な作風を維持しています。
 この「夏のあらし!」も、基本的には全く同じで、本来のWINGの方向性とは異なる少年誌的な作風です。しかし、それと同時に、読者の性別を選ばない中性的な作画や、優れた背景描写で見せる世界観など、割とWING読者にもとっつきやすく好まれる作品になっていると思えるのです。そのため、連載開始当時こそ、果たしてWINGの誌面でうまくいくのか多少の危惧があったのですが、数回ほど連載を重ねた後には、ごく自然に誌面に溶け込んでいったようです。

 それに加えて、作品そのもののレベルが高く、純粋に面白い作品だったことも大きいですね。ここ最近のWINGが、「まほらば」をはじめとする人気作品の多くが終了し、あとを継ぐはずだった「1年間連続新連載」の作品も成功作は少なく、誌面が混乱してクオリティが下がっていたこの時期、芯の通った実力派の連載が一本始まったことで、わずかながら誌面が安定してきたように思います。連続新連載も最終盤に来て、安定して読める作品がひとつ確保できたのは、雑誌読者にとっては大きな幸いでしょう。


・やや進みは遅いが、毎回コンスタントに読ませてくれるストーリー。
 とりわけ、肝心のストーリーが面白いというのもありがたいところです。毎回コンスタントに楽しいエピソードが繰り返され、ここでも安定した作品作りが見られます。小林尽の定番連載である「School Rumble」のような賑やかでアップテンポな恋愛コメディからは一変、ノスタルジックで落ち着きのある日常ファンタジーといったエピソードが展開されます。これは、今までにない作者の側面を見ることの出来る内容で、大変に興味深いですね。恋愛要素もあるにはありますが、「スクラン」のように恋愛コメディ中心というわけではなく、日常のちょっとした楽しいイベントや、あるいはちょっと不思議で物悲しいエピソードを毎回丹念に織り上げて見せる様には、物語の多様性が感じられます。個人的には、こちらの作品の方が好みかもしれません。

 ただ、序盤のストーリーについては、毎回毎回個々のキャラクターを丹念に描き、ひとつひとつ足固めをしているようなエピソードが続き、ストーリーの進みはさほど早くありません。特に、単行本1巻においては、主人公である一とヒロインの少女・あらしのエピソードが中心で、ミステリアスなヒロイン・あらしの正体の一端こそ示されますが、主人公の友達でもうひとりの重要人物・上賀茂はまださほど活躍せず、もうひとりのヒロインであるドイツ人の少女・カヤなどは、単行本1巻の終わりになってようやく登場といったところで、本格的に話が進んでいくのは、彼ら主要キャラクターが全員揃う単行本2巻以降ということになります。

 もちろん、1巻における各エピソードも、それはそれで十分楽しめるので問題はありませんが、人によってはやや気だるく感じられるかもしれません。いたずらにストーリーのテンポを求めるような作品ではなく、ノスタルジックな田舎町の描写にのんびりと浸りつつ、各エピソードをじっくりと楽しむスタイルの作品なのだと思います。


・雑誌の中で唯一知名度の高い一般向け作品として、極めて貴重な存在。
 このように、この「夏のあらし!」、実力派の大物作家が存分にその力を発揮しており、極めて堅実な良作に仕上がっています。連載開始当初は、WINGとは方向性の異なる作風には若干の不安もあったのですが、いざふたを開けてみれば、期待通りに卒のない作りが目立つ、安定した良作となっていました。WINGの連載ラインナップに貢献するには十分な作品であり、「1年間連続新連載」の中でも数少ない成功作となりました。結局のところ、この「1年間連続新連載」で成功した作品は、真っ先に始まった「ちょこっとヒメ」、中期に始まった「東京☆イノセント」、そして最終盤の目玉作品であるこの「夏のあらし!」と、この3つしかなかったようです。

 そして、このマンガは、他の成功作と異なり、雑誌外の一般読者にも幅広く読まれている点が大きな特徴です。さすがに「School Rumble」の小林尽だけあって、その知名度は圧倒的で、このマンガのコミックスだけは、普段WING(あるいはスクエニ系)を読まない一般のマンガ読者の間でも、幅広い売り上げを獲得したようです。
 そして、そのような読者たちの評価を見るに、やはり安定して高いものがあり、その面白さは認められたようですね。このように幅広い一般人気を獲得する作品は、今のWINGではあまり見られず、この「夏のあらし!」だけが、雑誌内でも注目度・知名度が突出して高い、別格的な存在となっています。雑誌の中で唯一知名度の高い一般向け作品として、今のWINGではひどく貴重な存在になっているようです。さすがに小林尽の名はあまりにも大きかった、ということでしょうか。

 現在の連載では、主人公たちがタイムトリップで60年前の戦時中へと行き来するようになり、そこで戦争の過酷な体験をし、再び現代へ帰るというシリアスなストーリーへと突入しています。暗い戦争時代の体験や、過ぎ去った過去への郷愁など、より深く読ませる要素が増えてきました。これからの展開にもさらに期待できる連載だと言えるでしょう。


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