<ひまわり/ひまわり 2nd episode>

2012・6・7

 「ひまわり」は、ガンガンJOKERの創刊号である2009年5月号から開始された連載で、2011年1月号まで続きました。その後、間髪いれずに2011年3月号から、続編である「ひまわり 2nd episode」の連載が開始され、2012年7月号で完結(予定)となっています。このふたつは、作品の舞台や年代が異なるものの、全体でひとつの物語となっており、ここではひとつの作品として同時に扱います。

 作者は、原作がごぉ・たつきち、作画を檜山大輔が担当しています。檜山大輔は、この直前まで、JOKERの前身雑誌であるパワードで「メガロマニア」というオリジナル作品を連載していましたが、そちらの連載を中断する形で、この「ひまわり」の作画を担当することになりました(詳しくは後述)。原作は、「ぶらんくのーと」というサークルから出ていたPCの同人ゲームで、ごぉがシナリオ、たつきちがビジュアルを担当しているようです。檜山さんの絵は、このたつきちさんの絵と比較的近い雰囲気があるようで、そのあたりがこのコミック版の作画担当に抜擢された大きな理由ではないかと考えています。

 最近のスクエニは、あの「ひぐらしのなく頃に」の大きなヒットから、このような同人ゲームのコミカライズをいくつか手がけるようになり、これよりも一足先にパワードで「コープスパーティー BloodCovered」の連載も開始され、その後このJOKERへと移籍、現在でも連載を継続しています。JOKERでは「ひぐらし」の作者の次回作「うみねこのなく頃に」のコミカライズも、雑誌の看板作品として連載されており、こうしたゲームのコミカライズが、同誌のひとつの中核ともなっているようです。

 さて、この「ひまわり」ですが、今より少し近未来の日本を舞台にした、宇宙をひとつのテーマにしたSFストーリーとなっています。また、「ひまわり」というタイトルどおり、夏にはひまわりが咲く南国の穏やかな街が舞台になっているのも印象的です。また、原作のPCゲームのストーリーは、大きく「2050年編」と「2048年編」に分かれており、これがコミック版の「ひまわり」と「ひまわり 2nd episode」に該当しています。この記事では、2050年編の連載を「ひまわり」、2048年編の連載を「2nd episode」と表記して説明しています。


・ガンガンパワードの良作だった「メガロマニア」。
 前述のように、作画担当の檜山さんは、ガンガンパワードで2007年から「メガロマニア」というオリジナルの連載を執筆していました。この「メガロマニア」、近代のアメリカをモデルにした異世界を舞台にしたファンタジーもので、その世界で人間と「亜人」という、人間とは少し異なる種族との間に巻き起こる深刻な差別をテーマにした、極めて重厚な作品に仕上がっていました。

 見た目の絵柄はシンプルかつ中性的で明るい作風で、作中にはコミカルなシーンもときに挿入され、それだけならそんなにシリアスな作品には見えないのですが、しかしその中身は非常にハードなものでした。現実の世界で見られる人種差別をそのままモチーフにしたと思われる、作中の人間の「亜人」に対する差別は、あまりにもむごいもので、しかもそんな差別される亜人の側も、最底辺に落ち込んだ生活の中で、自ら麻薬に手を染めたり、あるいは同種族間でいさかいを起こしてさらに破滅していくという、負の連鎖まで徹底的に描いていました。この重厚なテーマ性を評価する読者も多く、当時のガンガンパワードの連載の中でも、特に一目置かれていたと記憶しています。

 しかし、パワードが休刊することとなる2009年4月号、他の多くの連載が、新雑誌のJOKERへと移籍していく中で、この「メガロマニア」は、第一部完の名目で中断してしまうのです。当時のストーリーは佳境に入り、非常に盛り上がっていた真っ最中の中断で、ここでよりによって「第一部完」はないだろうと思ったものです。そして、新雑誌のJOKERで、この「ひまわり」の連載が始まり、このコミカライズの作画を担当するために、「メガロマニア」を中断したのだと初めて知りました。

 そんなわけで、「メガロマニア」というかつての良作の、非常に残念な中断を経ての「ひまわり」の開始だったわけですが、幸いにもこちらも良作であり、JOKER創刊号からの主要連載のひとつとなりました。檜山さんとしては、自分のオリジナル作品(しかも初連載作品だった)を中断するのは残念で仕方なかったと思いますが、心機一転してこちらの仕事もよくこなしたようです。


・主人公の失われた過去に迫るストーリーに惹かれる。
 さて、この物語は、主人公の高校生・日向陽一が、墜落したUFOから出てきた少女・アリエスと邂逅するところから始まります。いわゆる、「ボーイ・ミーツ・ガール」的な始まり方をする作品ですが、とりわけ興味を惹かれるのは、主人公の陽一の方の過去に大きな秘密があり、それとアリエスが大きく関係してくることでしょう。

 陽一は、2年前に起こった旅客機の墜落事故に巻き込まれ、両親を失いただ1人生き残り、さらには事故の前の記憶をほとんど失ってしまうという悲惨な出来事を体験しています。今では、高校で所属部活である「宇宙部」部長の銀河(ぎんが)や、2年前の事故の時から友人となった明香(あすか)ら、よき仲間と共に穏やかで楽しい日々を送っていますが、しかし事故の傷が完全に癒えたわけではありません。今でも時に事故の凄惨な現場がフラッシュバックし、さらには事故の前の過去の断片的な記憶を就寝時に垣間見ています。

 しかし、そんな日々は、宇宙部の活動で「ロケット打ち上げ」を行っている最中に、部長の銀河と共にUFO(?)の墜落現場に遭遇したことから一変します。UFOの墜落に、墜落事故のシーンを重ね合わせてしまった陽一は、その中にいる人を助けなければならないと強烈に思い込み、UFOの扉をこじ開け、中で気を失っていた女の子・アリエスを助け出すことになるのです。

 何者かに狙われていたアリエスは、陽一の家でかくまわれるような形で過ごすことになります。あまり物を知らずそしてちょっと不思議な能力を持っている彼女は、陽一を戸惑わせることも多かったのですが、それでも彼はその天然で明るい性格にほだされ、世話をしに来た明香と3人で、楽しい日々を送ることになるのです。さらには、なぜか類まれな計算能力を持っている彼女は、宇宙部のロケット打ち上げにも多大なる貢献を果たし、彼女の作ったプログラムで打ち上げの成功まで現実味を帯びてきます。

 そんな風に盛り上がっていくストーリーが実に心地よいのですが、しかしそのロケットの打ち上げに失敗したことで、一気に雰囲気が消沈してしまいます。アリエスの作ったプログラムは、どこかに欠陥があったのか、それとも・・・。そして、その出来事が、アリエスと陽一の過去の真実へとつながることになるのです。この、終盤で陽一とアリエスの過去のつながりが明かされる展開は、切なくも悲しいながら素晴らしいものがあって、この作品を一気に名作へと押し上げています。最後には、アリエスは迎えに来た人に連れられて宇宙へと(宇宙ステーションへと)帰ってしまうのですが、そんな彼女に向けて、宇宙部のメンバーがかつて失敗したロケットを今度こそ打ち上げる。これこそが第一部のベストシーンだと思います。


・宇宙へのロマンというもうひとつの作品の魅力。
 そんな風に、主人公のアリエスの過去に迫るストーリーが、一番の見所ですが、それと同時にもうひとつ、このマンガには魅力があると思います。それは、なんといっても天文・宇宙へのロマンでしょう。

 連載始めの1話で、夜の屋根に上って夜空を見上げる陽一の姿に、その一端が見て取れます。煌々と照る満月に、かつてそこに到達した人類への思いを馳せ、さらには携帯ごしの明香との会話で、春に見える大三角について情感たっぷりに語る。そこに星と宇宙への限りない憧憬を感じることが出来るでしょう。

 さらに、陽一が所属している学校の部活「宇宙部」は、その名のとおり宇宙までも届くようなロケットの打ち上げを、最大の目標として日々活動しています。それは、ただの高校の部活が目指す目標としては、随分と非現実的なものかもしれないけれども、しかしそれに向けて日々精力的に活動している彼らの姿を見るのは、本当に楽しいものがあります。これは、いわゆる「部活マンガ」としての側面も持っているのです。

 そんな部活の中でも特に目立つのが、「部長」にしてまさに部の中心人物・雨宮銀河。なぜかいつも迷彩服を着て、思わせぶりなセリフを連発する破天荒な人物として描かれていますが、その宇宙を目指す信念に偽りはなく、陽一らを強烈に引っ張っていくムードメーカーの役割を果たしています。
 そんな彼を中心に、ロケットの打ち上げに向けてどんどん盛り上がっていく展開、そこが本当に心地よい。「僕たちは──はるかなる高みを目指していた」「それは──宇宙への挑戦」「人類の──夢──」という陽一のモノローグが、そのすべてを表しています。


・「2nd episode」のエピソードも面白い。
 さらには、原作では2048年編にあたる「2nd episode」も面白い。このエピソードの舞台は、「ひまわり」で最後にアリエスが帰ってしまった宇宙ステーションが舞台で、こちらの方がよりSF色が強くなっています。宇宙が舞台でSFらしい機械の描写がふんだんに見られ、さらには生物学の知識がストーリーの中核になっているなど、そういった作品が好きな人にはより楽しめるかもしれません。

 「ひまわり」では、アリエスの他にもうひとり宇宙からやってきた少女がいました。彼女の名前はアクア。この「2nd episode」では、このアクアが主人公で、さらには「ひまわり」の銀河の父親で、かつて月に到達した人類の英雄とも呼ばれる男・雨宮大吾が、彼女の強力な味方として登場します。
 アクアは、宇宙ステーションを支配する西園寺グループの総帥・明に反発し、自分がここにいることを快しと思わず、何度も脱出を試みています。しかし、それは適わず、しかもそんな時にステーションに侵入者が来たことが報告され、にわかにあわただしくなってきます。その侵入者のひとりが、雨宮大吾。彼もまた明に反発しており、偶然邂逅したアクアと意気投合する形で、共に行動することになるのです。

 この、アクアと大吾というふたりのコンビの行動が、アクティブでとても気持ちいい。同時に宇宙ステーションに侵入していたテロリストたちを、持ち前の機転と能力で一蹴し、大吾にとってはかつての仲間であった明にも迫る。最後にはふたりで今度こそ宇宙ステーションを脱出するのですが・・・。
 個人的には、この大吾の豪快な性格は本当に好きですね。かつて不慮の事故で月の裏側に不時着し、絶望的な状況から生還し、英雄と呼ばれるようになった男なのですが、まさに英雄らしい剛毅でしかし茶目っ気もある性格で、アクアと組んでの活躍ぶりには心踊るものがありました。

 さらには、明とその大吾、そしてかつての研究者仲間であった明香里、この3人の過去のエピソードも見逃せない。かつて行われていた禁断とも言える研究、それがこの「ひまわり」のストーリーの発端となっており、最も重要なエピソードともなっています。


・良作だったと思うが、地味な展開に終始したのは残念。
 このように、「ひまわり」「2nd episode」共に、かなりよく描けた力作だったと思いますが、しかし雑誌での扱いは、他の連載に比べると目立たないものに終始してしまったように見えました。連載開始当初は、雑誌創刊号からの連載であり、しかも人気PCゲームのコミカライズということで、かなり大きな扱いとなっていましたが、次第にその勢いは薄れ、とりわけ「2nd episode」に入ってからは、以前より人気が落ちてしまったように感じられました。この頃から、掲載位置も雑誌の最後のあたりに固定化されてしまい、あまり目立たない存在となってしまったようです。

 理由を考えるに、PCゲームのコミカライズということ以外に、あまり「これ」といった売りに欠けるところはあったかなと思います。檜山さんの絵も、シンプルかつくせのないいい作画で、原作の絵柄に近い雰囲気をよく持っていると思いましたが、しかしこれも読者に強い印象を与えることが出来なかったひとつの理由と言えそうです。原作のPCゲームが、一昔前のゲームで、かつPSPへの移植版の発売も、連載中の早い時期に過ぎてしまったことも、その後の盛り上がりの低さに影響したのではないかと思っています。

 個人的には、こういった宇宙やSFをモチーフにした作品は好きですし、主人公の過去にまつわる謎を秘めたストーリーや、あるいはロケットの打ち上げに向けて盛り上がる展開が気に入っていただけに、ここまで今ひとつ人気が出なかったのは残念に思いました。また、さらにSF色・宇宙色が強くなった「2nd episode」の方で、むしろ人気が落ち込んでしまったのも非常に残念なところでした。

 ただ、それでも、原作のストーリーを余すことなく忠実に再現し、最後まで連載できたのは本当に僥倖だったと思います。JOKER創刊から約3年の連載で完結しましたが、創刊号からの完結作品の中では、打ち切りでもなく最もよくまとまった作品となったのではないでしょうか。次は、作画担当の檜山さんの次回作、とりわけ、「メガロマニア」の再開はあるのか、それも気になるところですね。


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