<ちょこっとヒメ>

2006・9・29

 「ちょこっとヒメ」は、ガンガンWING2006年1月号より連載を開始した4コママンガで、2006年を通して行われたWINGの大型企画「一年間連続新連載」の第一弾として始まりました。さらには、その「一年間連続新連載」の中でも、これが最大の目玉タイトルとして扱われており、開始当初からのWING編集部の推進ぶりも非常に目立つものがありました。そして、この作品はその期待に見事に応え、今ではWING最大の看板作品となっています。

 作者はカザマアヤミ。彼女は、過去にWINGで「かさぶたさん」「その島のお話。」という良質の読み切りを残しており、さらには、「ちょこっとヒメ」連載開始前に、同作品のプロトタイプとなる読み切り「365日ヒメ!」を執筆し、これらの作品のいずれもが読者に高い人気と評価を得ており、WINGの新人の中でも熱心な読者の間で特に人気の高い存在であり、連載決定時にも多くの期待が寄せられました。そして、実際に始まった連載も非常に良質なものであり、期待の新人が見事に成功する形となったのです。


・掟破りのネコ擬人化萌えマンガ。
 カザマアヤミさんは、デビュー当時から非常にかわいらしい絵が特徴の作家で、この「ちょこっとヒメ」でも、もちろんそのハートフルな絵柄は健在です。しかし、このマンガの場合、「ただの猫(犬)を擬人化して表現する」という、他のマンガがあえてやらなかったようなことを平然とやっている点が驚きです。

   元々、このマンガのプロトタイプとなったのは、連載開始の半年ほど前、WING2005年7月号付録「4コマエディション」において掲載された「365日ヒメ!」と名付けられた4コママンガの読み切りです、これは、しばらく後のガンガンWING9月号で、もう一度WING本誌に掲載されます。この読み切りにおいては、「ねこがひとの姿に見えるメガネを読者がかけている」という設定だったのですが、結局この回りくどい設定は不要だと感じたのか、連載版では完全になくなり、「なんの前置きもなくネコが人(女の子)の姿になったり戻ったりする」思い切ったマンガへと進化してしまいました(笑)。

 そして、ここでもカザマさんのかわいすぎる絵柄が存分に活きていて、猫の姿の時も人の姿の時も本当にかわいい。ネコ娘とかネコミミとかの要素は、これまでも萌えの定番だったわけですが、このマンガはそのあたりの萌えレベルが非常に高い。もはや、これは究極のネコ萌えマンガだと言えるでしょう。

 なお、前述の読み切り版「ヒメ」と言える「365日猫!」ですが、最初の「4コマエディション」掲載分は、「ヒメ」のコミックス1巻に収録されています。しかし、ガンガンWING9月号掲載分は、これのみコミックスに収録されていません。



・猫や犬の行動をコミカルに再現。
 そして、単に絵がかわいいだけではありません。このマンガでは、(現実の)ネコが本当に起こしてしまうような、あるいは人間(特に飼い主)が妄想するようなネコのかわいらしい行動がよく描かれていて、こちらもまたコミカルでかわいらしいのです。

 さらに、このマンガでは、主役格の仔猫・ヒメ以外にも、個性的な仔猫や仔犬たちが登場します。怖がりやだけど好奇心旺盛でいつも元気なヒメ、プライドが高くいつもツンツンしているおすまし猫のしろこ、のんびりぼんやり天然系仔犬のくっきーと、どれも個性的な猫(犬)ばかり。そんな仔猫・仔犬たちの興味溢れる行動や、ほほえましい交流の様子が丹念に描かれているのが、この作品最大の魅力です。猫や犬が好きな方、とりわけ実際に飼っている方に対しては、特に魅力的なマンガではないでしょうか。

 そして、このマンガのもうひとつ特徴的なのは、彼女たちのいずれもが、いわゆる「萌え系美少女」なキャラクターにはなっていないことです。純粋に仔猫(仔犬)、もしくは現実の女の子が取るような性格設定になっていて、いわゆる美少女系作品に登場するようなマニアックなキャラクター設定があまり見られない。絵柄は本当にかわいらしく、それだけ見ればこれも萌えマンガだと言ってもよいのですが、実際の内容は思ったほどオタク向けではなく、より多くの人に受け入れられるであろう懐の広さが見られます。


・女の子的な思考が実に特徴的。
 それがさらに強く出ているのが、このマンガの仔猫、特に主役格のヒメの思考が、純粋に「女の子」(子供)のそれを忠実に再現していることです。とにかく小さな女の子が見せるであろう言動を、ひとつひとつ丹念に映し出しています。実は、これこそがこのマンガで本当にかわいいと感じる場面なのです。小さな子供が見せる、ひたすらに無邪気で、ときにちょっと背伸びした大人びる行動。それがここまで丁寧に描けるというのは、実はすごいことなのです。
 これは、作者が女性であることも大いに関係しています。男性的な思考では、このようなマンガは絶対に描けない。男性的な萌え要素を求めるマンガとは、明らかに一線を画しているマンガなのです。男性向けの美少女萌え作品に見られる要素が、このマンガではまったく感じられない。

 その証拠に、このマンガには、まったくといってよいほどエロ要素がありません。ビジュアル的には、猫同士が舐めあったり、じゃれあったりといったシーンは頻繁に登場し、萌え系4コマによく見られる百合的な描写にも見えるのですが、しかしそこからはエロがほとんど感じられない。このような作品は、他のWINGのゆる萌え系連載にもいくつか見られますが、ここまではっきりとその方向性が強く見られるのは、このマンガだけでしょう。




・飼い主の言動、飼い主とネコ(イヌ)との交流。
 そして、さらに魅力的な要素として、猫や犬だけでなく、その飼い主の思考や言動、そして飼い主と猫(犬)との交流がしっかりと描かれている点も見逃せません。飼い主たちもまた個性的で、しかも誰もが親バカ(猫バカ、犬バカ)っぷりを存分に見せてくれます。

 ヒメの飼い主はナベ兄(渡辺)。ヒメの無邪気な行動に手を焼きつつも、ついついその存在が気になってしかたがないという複雑な心境を見せます。
 しろこの飼い主は陽太。陽太は、ナベと異なり、より積極的にしろこを溺愛しているのですが、その溺愛ぶりがひねくれていて、可愛いあまりについつい毎回のごとくいじわるをしてしまうという複雑な行動を見せます。そして、しろこの方も、そんな陽太の行動を激しく嫌がりつつも、心の底では陽太を信頼しています。実際、この陽太としろこの関係はかなり面白く、素直ではないが実は互いに深く相手を思っているという、ストレート「ではない」信頼関係が見られます。
 くっきーの飼い主は、朝生(ともき)と莉夕(りゆ)の双子兄妹。このふたりは、最も親バカぶりが激しい飼い主です。ふたりとも完全にくっきーを溺愛しているのですが、ここで面白いのが、ふたり(とくっきー)が揃ったときの両者の行動の違いです。莉夕の方がストレートにくっきーに対する溺愛ぶりを見せるのに対し、朝生の方は、妹や他人に溺愛ぶりを見られるのが恥ずかしいのか、素直になれない様子でいることが多いのです。この両者の行動のギャップが面白い。

 このように、ヒメたちだけでも十分に面白いこのマンガですが、ここに個性的な飼い主たちとの関係が入ることで、さらに面白くなります。また、実際に猫を飼っている人たちの描写が入ることで、現実に猫を飼っている人たちにとっても、ひどく共感できる話になっています。


・少しずつ世界が広がっていくところがいい。
 以上のように、このマンガは、ヒメたち猫・犬のかわいらしい日常の行動、および個性的な飼い主たちとのやりとりが丹念に描かれている「日常ほのぼの癒し系」の要素の強い作品です。ほとんどが日常のほのぼのとした描写に費やされ、ストーリー性は非常に薄いタイプの作品と言えます。しかし、その中でも僅かながらに、エピソードを重ねるうちに世界が広がっていく描写が見られます。

 ヒメは、渡辺家に貰われたばかりの頃は、極度の怖がりだったこともあって、渡辺家のアパートから一歩も出られませんでした。それが、少しずつ周囲の環境になれていって、好奇心のままにお外の世界に興味を持ち、やがて思い切って遊びに出るようになります。外の世界では、ヒメにとってすべてのものが新鮮で、やがてはしろこやくっきーといった友達も出来て、三人でさらに色々なところへ出かけるようになり、そして飼い主たちとの交流も盛んになっていき、そうしてヒメの世界がどんどん広がってゆくのです。
 その世界の広がりを最も感じられるエピソードが、第13話「はじめてのとおく」です。飼い主たちに連れられて、遠くの草原にお花見に行くという話なのですが、この時に広い空で桜の花びらが一面に舞うシーンが、非常な開放感に溢れていて、実に心地よい。数あるエピソードの中でも、これは屈指の名エピソードであると思います。



・実は万人向けの方向性を持つ良作。
 以上のように、このマンガは、ほのぼのとした癒しに満ちたゆる萌え系4コマとして、大変な良作だと思うのですが、実はもうひとつ長所があります。それは、このマンガがひどく万人向けに出来ていることです。
 こういったほのぼの癒し的な作風をを中心にした「萌え系4コマ作品」は、いまやきらら系雑誌を筆頭に一大ジャンルを成していますが、それらの作品の中には、かなり「オタク・マニア向け」の要素が入っていることが珍しくありません。萌え系のアニメやゲーム、同人誌やメイド喫茶、といったモチーフをネタにしたマンガはかなり多く、そうでなくとも、他の萌え系マンガにほど絵柄、描写が見られることもこれまた多い。
 この方向性を極限まで突き詰めたのが、「らき☆すた」や「ドージンワーク」といった作品だと思うのですが、この「ちょこっとヒメ」という作品は、これらとはまさに対極にあるようなマンガであり、全編を通してオタク的な要素がほとんど見られません。むしろ、純粋に猫や犬のかわいらしさ、飼い主との心暖まる交流が丹念に描かれている点が最大のポイントで、純粋な猫好き・犬好きの読者の間で人気が広がっているのです。逆に、オタク・マニア系読者の間ではさほど大きな話題にはなっていないようで、このあたり、従来の萌え系4コマとは異なる読者層を確保している様子が見られ、これは大変に興味深いところです。

 そして、これはガンガンWINGの誌面とも合っています。ここ数年のWINGは、オタク系の萌え・エロ要素を主体としたマンガとは一線を画する、のんびりした癒し系の描写を中心とした「ゆる萌え」系の作品を最大の特長とする雑誌となっており、その中心としてあの「まほらば」がありました。その「まほらば」なき今、この「ちょこっとヒメ」こそが、その後を継ぐにふさわしい最有力作品となっています。その点において、これは今のWINGの誌面には欠かせない作品であり、昨今の「一年間連続新連載」で得られた最大の成果であったと言えそうです。


・補足──読み切り版「365日猫!」について。
 基本的には連載版と全く同じ作風なのですが、こちらの方がヒメの頭身がかなり高く大人びた印象を受けます。そのためか、なにかこちらの方は微妙にエロいような気がします(笑)。特に、コミックスに収録されていないガンガンWING9月号版においては顕著で、なにか微妙なニュアンスの違いが感じられます。


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