<私のおウチはHON屋さん>

2011・2・8

 「私のおウチはHON屋さん」は、ガンガンJOKERで2010年2月号から開始された連載で、同誌では創刊からかなり経った時期の後発の作品に当たります。この頃はもうWINGの創刊以来の新連載攻勢も一段落して、雑誌のラインナップが固まっていた時期でもありました。
 中でも「ひぐらし」「うみねこ」を始めとする原作つきコミック、小島あきらや藤原ここあを代表とする旧WINGの人気作家による連載、そして「プラナス・ガール」や「黄昏乙女アムネジア」「ヤンデレ彼女」のような新人作家による成功作品など、これらの作品が誌面の中心となっている中で、その後に特に大きな告知もなく出てきたこの作品は、当初はあまり注目されてなかったと思います。しかし、これもまたJOKERのラインナップをさらに充実させる、極めて優秀な作品だったのです。

 作者は横山知生(よこやまともお)。おそらくはスクエニからの新人作家だと思っていましたが、ウィキぺディアの記述を見ると、どうも小林尽や大久保篤のアシスタントをしていた方のようですね。この連載以外には、わずかにガンガンONLINEで読み切りを残しているのみで、もちろんこの作品が初連載になります。当初は、そのあまりにもかわいらしい絵柄から、女性作家かとも思っていたのですが、どうやらペンネームどおり男性作家のようです。

 作品の内容ですが、小学五年生の女の子・みゆちゃんが、Hな本屋さんの店員となって奮闘するという、なんとも言いがたい設定で、恥ずかしがりながらも店員として頑張る、しかもHな本に詳しいミユちゃんの奮闘ぶりを笑って楽しむマンガになっています。これは、どうやら一部の読者には非常に受けたようで、コミックス1巻が発売直後にいきなり店頭から消えてなくなるという珍事を迎えました。新人作家によるコミックス一巻で、特に大きな話題にはなっていなかったことから、発行部数は控えめだったのかなとも推測しましたが、それを差し引いてもいきなり店頭から完全に姿を消し、その後数カ月の間品薄となったのは、大きすぎる反響だったと言えるでしょう。昔のエニックス時代には、こういった作品もままありましたが、最近では非常に珍しい。新人作家の初連載作品としては、非常に大きな成果を挙げたと言え、今後の連載にも期待が高まります。


・小学生の女の子がHな本屋さんの店員という斬新なコンセプト。
 このマンガが出来たきっかけとなる逸話が、コミックス1巻のカバー裏に掲載されているのですが、そこでの打ち合わせの様子として「女性店員(ここではロリキャラ)のいるエロ本屋が舞台なんてどうだろう」という話が編集者出て、「しかしエロ本屋に幼女って分からない」「いやまて、生まれたから家がエロ本屋ならいいのかな」とふと作者の横山さんが思いついたのがきっかけのようです。

 そんなこんなで生まれてきたこのマンガ、まさにこの打ち合わせどおり、小学5年生の女の子・中沢みゆちゃんが、実家であるHな本屋さん・中沢書店の店員として日々奮闘する話となってしまいました。父親で店長である中沢しげるは、エロ本や自分の店に対する愛着はあるものの、反面かなりいい加減な性格でもあり、娘に店番を任せてよくどこかに出かけてしまいます。そんな父親に代わって、小学生のみゆちゃんが日々お店の切り盛りを懸命にやっていくのです。

 みゆちゃんは、自分のいる店や扱う商品を恥ずかしいと思いつつも、仕事にはいたって真面目で、お客さんの要望に応じてぴったりの本を探してきたり、日々新しい本を順に平積みにしたりポップを作ったりと、かいがいしく働いています。この、恥ずかしさをガマンしつつも日々懸命に働く姿がひどくいとおしいのです。すなわち、このマンガは、「かわいい小学生の女の子に恥ずかしいことをさせて、その恥ずかしがる姿を見て読者が喜ぶ」という、割とどうしようもないコンセプトの作品であることは否定できません(笑)。
 コミックガムという雑誌に、「こえでおしごと!」という女子高生がエロゲーの声優をやることになるマンガが連載されているのですが、これも恥ずかしいセリフを女子高生が恥ずかしがりながらしゃべるところに面白さがあるようで、比較的近いコンセプトと言えるかもしれません。

 そして、このようなコンセプトが一部の読者に大いに受けたのか、コミックス1巻が発売されたのち、いきなり店頭から姿を消す事態となってしまいました。秋葉原のような場所では大々的に扱われていたようで、やはりそういったマニアックな楽しみが、コアな読者に対する大きな訴求力となったようです。


・決してそれだけではない。本屋さんを中心としたほのぼのした交流を描いているところも評価したい。
 しかし、このマンガは、決してこのような要素だけで出来ているわけではありません。Hな本(エロ本)というと、アダルトで人によってははいかがわしいイメージを抱いてしまうかも知れませんが、しかし、このマンガにはそんな雰囲気はまったくありません。扱うものはエロ本とはいえ、ごく普通の小さめの本屋として描かれていて、そこを訪れる人々と、店員であるみゆちゃんとのほのぼのとした交流、それを描いている点を大きく評価したいところです。

 みゆちゃんの小学生のお友達の紀子ちゃん、なぜか本屋にやってきたエロマンガ作家の山田さん、ちょっとしたアクシデントでやってきた清純派アイドルの由香ちゃん、なぜかライバルとして向かいで店を経営し始めた同級生のあさひちゃん、などなど、なぜかいろんな人がこの小さな書店にやってきます。そんな中で、最も親しみやすい訪問者といえば、やはり常連のお客さんたちとの交流でしょう。

 わたしは、本屋の店員は、単に事務的に本を売るだけでいいとは思っていません。本屋の店員たるもの、自分の扱う本について詳しくあるべきだと思うのです。そして、そんな詳しい知識を活かして、いい本をピックアップして効果的に陳列したり、ポップを作ったり飾り付けをしたりして、自分の店を盛り上げていく。そういった本屋こそが理想です。お客さんの方も、店員さんが自分の好きな本について詳しい方が絶対に嬉しいですし、そういった本屋に自然と集まるようになります。
 そして、この中沢書店には、みゆちゃんというH本に詳しい熱心な店員さんのおかげで、そういった優れた環境が出来上がっています。しかも、お客さんがオススメの本を訪ねれば、恥ずかしがりながらもきちんと的確にぴったりと合った本を探し出してくれる。そして、お客さんの方でも、そんなみゆちゃんを気づかって時に差し入れまで持ってきたりしてくれる。ここまでうまくやっている書店は、現実にもそう多くはないのではと思います。そういった気のいい本屋さんでの、店員さんとお客さんとの交流を描いている点でも、大きな意義があるのではないでしょうか。


・本屋さんの仕事ぶりについて描いている点が大きな魅力。
 さらには、本屋の店員さんの精力的な仕事ぶり、それそのものを熱心に描いている点が大きいです。基本的にはコメディ作品ではあるのですが、ひとつの小さな書店を舞台とした「書店もの」(というジャンルがあるのかは知りませんが)としても読めるのではないかと思います。
 前述のように、日々オススメの商品を平積みにして話題所のコーナーに置いたり、ポップを作ったり、あるいは売れ筋の商品を大量に入荷したり、あくまでストーリーの中では断片的にではありますが、そういったシーンがよく挿入されます。こういった店員の努力が描かれている点が、とても気に入りました。

 個人的に最も面白かったエピソードは、「ディスプレイコンテスト」というイベントに向けて頑張る話。これは、本屋のオススメコーナーの飾りつけコンテストで、現実のスクエニでも「コミッパ」と題して年2回全国の書店で行っています。このマンガのディスプレイコンテストも、おそらくはそのコミッパあたりをモデルにしているみたいですが、こうしたコーナーの飾りつけは、熱心な書店ならどこでもよくやっています。そして、こうしたディスプレイにこそ、本屋の店員の熱意が最もよく伝わってくるものだと思うのです。そういった催しをテーマにした話が出てきただけでもうれしい。
 実際にこのコンテストでみゆちゃんがやったことは、単にコーナーの飾り付けを行うばかりでなく、オススメ本を紹介する小冊子まで作って盛り上げようとしました。これは本当によく本を知っていないと出来ませんし、さらには小冊子を作る手間を惜しまないと出来ません。たった1冊の小さな冊子でも、自分で作ってみるとそれがいかに大変かよく分かります。さらには、それだけでは都内の大型書店に勝てないと知ったみゆちゃんは、さらに飾りつけを豪華にしてまで頑張り、ついには自分がスク水のPOPに扮して、お客さんからの質問にまで答える「喋る等身大POP」にまで挑戦してしまいます(笑)。ここまでやるとさすがに非現実的ですが、しかしマンガのネタとしては面白いと思いました。何かのイベントの時ならば、こういった催しもありかもしれません。

   と、このように、店員の努力の様子を熱心に伝えるこのマンガ、例えその本屋がエロ本屋であったとしても、いやむしろこういった本屋さんだからこそ、その努力する姿が面白いのではないかと思います。わたしも、いわゆるマニアックなオタク系の店舗でこそ、そういった努力をよく目にしてきたような気がしますし、そういった店のスタッフの努力を、現実でももっと評価すべきだと思っています。


・絵柄もかわいらしく、ほほえましい良作になっている。
 このように、この「私のおウチはHON屋さん」、小学生の女の子がHな本屋さんの店員という、一見してなんとも不可解な設定となっていますが、実際の中身は、本屋さんを舞台にして日々頑張る女の子の姿や、本屋にやってくる気のいい人たちとの交流、そして本屋(書店)の仕事ぶりを丹念に描いた点など、素直に楽しめる穏やかな作風のマンガになっていると思います。確かに、扱う本はエロ本ですし、その中身を説明したセリフも多いのですが、しかし決していかがわしいマンガではないのです。Hな本を扱っているとはいえ、決してエロいマンガでも18禁でもありませんし、むしろ非常にほのぼのした作風に好感が持てます。

 さらには、横山さんの絵柄が、とてもかわいらしいものになっているのも、その印象を増しています。最初に目にした時には、女性の作家さんなのかなと思ったくらいで、こちらでもほとんどエロさを感じない、中性的もしくは少女マンガ的な絵柄になっています。いかにもスクエニらしい絵柄ともいえ、バランスの取れた感じのいいビジュアルになっていると思います。

 実際のところ、このマンガは、「作中でエロ本を扱っている」ことをのぞけば、とてもアットホームでほほえましい作品になっています。あるいは、そんな穏やかな作風の中で、なぜか「エロ本」というアダルトな要素が入っていることで、そこに独特のオリジナリティが生まれているのではないかとも思います。「こんなかわいい絵柄なのに舞台はHな本屋さん」「こんなかわいい小学生の女の子が、エロ本に詳しい凄腕の店員さん」といった、そのギャップが他にはない面白さを生み出しているのではないでしょうか? コミックスがいきなり品切れになるくらい売れ行きが好調だったのも、単に「エロ本」「エロ本屋」という扇情的なネタを扱っているという理由ばかりではなく、それとは対照的な暖かい作風が多くの読者に愛された結果ではないかと、そんな風にわたしは感じています。


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